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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
674/994

11-9-7.対抗試合決勝戦



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


遼の放つ爆裂弾を辛うじて避けてビルの陰に隠れたミータは、光のレーザーを遼がいるであろう場所に向けて放つ。高速で伸びたレーザーは着弾と同時に小規模の爆発を起こすがイマイチ手応えは無い。そして、レーザーを放った所とは違う方向から曲線を描くようにして飛旋弾がミータが隠れている場所に襲いかかる。


(うひゃーまただよ!)


ミータは魔法壁で魔弾を受け止めつつ別の場所に素早く移動をする。ついさっき同じ様な状況で貫通重力弾が隠れていた場所をピンポイントに突き抜けていったのだ。さっきは運良く避ける事が出来たが、同じ攻撃をされたら避けきれるか分からない為、危険予測をして先に場所を移動したのだ。

そして、予想通りにミータが先程までいた場所を貫通重力弾が突き抜けていった。


(どうしよっかな。マーガレットが本気出すなって言ってたし、そうなると属性【音】で出来る攻撃は連続した振動を与える程度なんだよねっ。音の衝撃波で一気に攻撃したいって…!)


遼が潜んでいるであろう方向を建物の陰から覗き見たミータは、目的とは別の物を目にする。


(おーやっぱりそうなるよねっ。じゃ、僕が本気を出して一気に形勢逆転しちゃうんだから。)


ミータが見たのは垂直に空へ登る光の球だ。…そう、マーガレットによる「本気で戦う」という合図。この合図が来たからには、魔法の出し惜しみをする必要はない。全力で相手を倒しにいくのみである。

ミータは音を凝縮、そして一気に前方へ解放する。耳を劈く音と共に衝撃波が発生し、荒れ狂いながらその道中にある建物を片っ端から抉り取っていく。

属性【音】はその性質から衝撃波を攻撃の主とする事が出来る。この優位性がわかるだろうか。

無詠唱魔法で自身の魔力を純粋に攻撃手段に変える無属性衝撃波。属性魔法による属性衝撃波。このどちらの衝撃波も発生させるのに大量の魔力を消費する。

そして、その上位版が無属性衝撃波に属性付加をした魔法…波動だ。

無属性衝撃波は自身の魔力のみを媒体とした衝撃波による攻撃。

属性衝撃波は属性魔法をそのまま衝撃波とする攻撃。属性効果によるダメージがメインとなる。

波動は無属性衝撃波に属性を付加するため、無属性衝撃波のダメージと属性衝撃波による属性追加ダメージを与えることが出来る。

故に、波動は高難易度の攻撃手段であり、高威力の切り札として使われる。


ミータの操る属性【音】による衝撃波は波動とほぼ同じ効果をもたらす事が出来る。音を衝撃波として放つと衝撃波自体が音を含むからだ。通常、属性【火】で火属性衝撃波を放った場合、あくまでも火を《衝撃波の様に放つ》のである。つまり、属性効果を与えるだけであって衝撃波としてのダメージを与える事は出来ないのだ。

もう少し掘り下げてみよう。属性【音】による音属性衝撃波と波動【音】の違いは何か。

音属性衝撃波は衝撃波を発生させた音と、衝撃波が同時に相手を襲う魔法。

波動【音】は無属性衝撃波に属性【音】の効果が付加されるため、衝撃波自体に音属性が付与されているのだ。

2つの攻撃と1つの攻撃。これが大きな違いである。2つの方が強いのではないか?そんな事はない。2つの攻撃はあくまで足し算。1つの攻撃は掛け算である。

これらから分かるように、ミータの操る属性【音】による衝撃波は半分位は波動に似た攻撃である。それを波動を放つのよりもずっと少ない魔力で放つ事が出来るのだ。その脅威は言わずもがなであろう。


ミータの放った衝撃波は爆音を響かせながら、遼がいる場所のすぐ横を破壊しながら通り過ぎていった。


(うわ…。危なかった。って…。)


急に視界が揺れる。衝撃波と共に飛んできた爆音で三半規管が揺さぶられたのだ。平衡感覚が怪しくなり、地面に手をついた遼は何かが近づいてくる気配を察知する。

その正体は恐らく先程と同じ衝撃波だ。揺れる意識を意志の力で繋ぎ止め、遼は魔法壁を多重展開した。襲い来る衝撃波の強力な圧力、そして爆音。

衝撃波を防ぐのはいつも通り。だが問題は音である。魔法壁や防御壁は音を防ぐことは殆ど出来ないのだ。防ぐのであれば反射障壁や遮断壁、もしくは魔法壁【音】なのだが…もちろん遼にそれらの結界を使う事は出来ない。よって、爆音によって更に頭を揺さぶられてしまう。


「ぐっ…。」


隠れていたビルが破壊された事で居場所がバレてしまった遼。次の攻撃を避ける為にもすぐに移動をしなければならないのだか、平衡感覚を失った現状では動くことが出来ない。そして、ミータも動けないからといって復活するまで待つ義理も理由も無かった。

ここで遼をカッコよく倒せば本当のファンが出来るかも。なんて思ったミータはオーバーキルを狙った高威力の衝撃波を小分けにして連射した。1つの巨大な衝撃波よりも着弾範囲が広くなる事、そして着弾のタイミングを個々にずらす事で防御が難しくなる。平衡感覚を失って動けない遼に対してやり過ぎ感は否めないが、それでも確実性という点では優秀な攻撃である。

音の衝撃波は無慈悲に遼に直撃した。

爆発でもしたかのように地面が砕け、砂埃が舞い上がる。


(よしっ!これで遼くんは倒した!)


髪をかきあげてカッコよくガッツポーズを取るミータをモニターが大きく映し出す。殆どの観客は「いい歳をしたおじさんが何をカッコつけてるんだし」なんて思っているのかゲンナリした顔をしているが、目をときめかせている女性がいるのもまた事実。人の好みは人によりけりという訳だ。


さて、音の衝撃波の着弾点に遼の姿は綺麗さっぱり無くなっていたのだが、腕輪によって転送された…つまり、ミータに倒された訳ではない。少なくともミータは倒したと信じているが。


少し離れた場所…今回のフィールドで1番高いビルの上で仰向けに倒れているのは遼だった。そして、やっと平衡感覚が戻り始めて起き上がろうとしているすぐ横に立つのは龍人である。

マリアがマーガレットを助けに行ったのを追いかけた龍人だったが、遼がピンチなのを察知して転移魔法陣を駆使して助けに入ったのだ。結果として遼を助ける事は出来たが、火乃花が2対1で戦う事になってしまっている。のんびりしている時間はほぼ無いと言える。


「遼、どうだ?動けそうか?」

「ん…何とかね。あのミータが使う属性【音】だけど、かなり驚異的だよ。今まで攻撃以外にしか使ってなかったから分からなかったけど、攻撃に使うと波動の一歩手前位の威力があるかも。」

「マジか。波動って…。どうやって防ぐんだ?」

「あれは防ぐんじゃなくて避けるだと思うよ。魔法壁とか防御壁だと衝撃波は防げるけど、音を殆ど防げないから…。俺みたいに爆音にやられて動けなくなっちゃうかも。」

「…シャイン魔法学院の奴らやるなぁ。思った以上に強いわ。こりゃぁ何か強力な魔法で一気に倒したいな。」

「強力な魔法…あ、そう言えばキタル先生に教えてもらったのがあるかも。」

「へぇ…どんなんだ?」

「えっと……。」


遼から強力な魔法とやらの詳細を聞いた龍人は顰めっ面をして固まっていた。キタルの考え出した魔法は、確かに成功すればかなりの威力が出る事は間違いがない。ただし、生成するのが難しだけでなく、制御が超が沢山付いてしまうレベルで難しいものだった。

普段から緻密な魔法制御で魔弾を使っている遼なら…とは思うが、この場面で使うには不確定要素が強く、失敗した時の被害がかなりのものと予想される。


「龍人。今の状況だと俺達押されてるよね?博打みたいになっちゃうけど、俺成功させるから時間稼ぎ頼める?」

「……。」


龍人は無言で遼の目を見つめる。遼の瞳には不安の影は無く、成功させるという思いが詰まった純粋な透き通った目をしていた。友達…いや、親友がこんな目をしているのだ。信じるのが友としての務めだろう。少なくとも、龍人はそう判断した。


「分かった。じゃ、期待してっぞ。」

「うん。任せて。」


遼の力強い返事に龍人はニヤッと笑うとビルの屋上から飛び降りる。向かう先はアクリス相手に苦戦をしているレイラを背後から襲おうとしているミータだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


遼はレヴィアタンとルシファーを真っ直ぐ体の前に構える。双銃に流れ込んでいく魔力は双銃の持つ属性を媒体として重力球へと変化していく。重力球は密度を増していき、重力球が重力球自身に加重をする事で、密度を更に高めていく。

これだけでもかなりの高威力。だが、ここからが本番だ。

重力球の周りに6枚の引力場を設置。引力場同士の位置を重力球の上下左右前奥に均等に配置する事で、引力場の偏りによる重力球の乱れを防ぐ。そして、この状態で重力球と引力場の力を可能な限り高めていくのだ。


(う…やっぱり制御が難しいや。ちょっとでも引力場の位置がズレたら直ぐに力の均衡が崩れて重力球が暴発しちゃうよ。)


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


試合会場の審査室で事の成り行きを見守っていたキタルがクツクツと笑いを漏らし始めた。


「ヒッヒッヒッヒッヒッ…。やっと使うのか。この僕がわざわざ考えてあげたあの魔法を。使わなかったら本気で溶かしに行くつもりだったけど、命拾いしたね藤崎遼…。ヒヒヒヒヒ…。」


他学院の教師達が気味の悪い目で見るが、そんな事を気にする性格ではないキタルはニマニマと怪しい笑みを浮かべながら、必死に重力球と引力場の制御を行う遼が映るモニターを眺めるのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


さて、決勝戦のフィールドは何とも言えない状況になりつつあった。

龍人が助けに入った事でレイラと龍人対アクリスとミータ。火乃花対マーガレットとマリア。と、いう感じになっていたのだ。

ミータの音魔法による衝撃波とアクリスの近接爆発格闘攻撃の隙を突いて火乃花を助けに行く余裕が…龍人とレイラには無かった。レイラは音の衝撃波を防ぐので手一杯、龍人はアクリスの格闘術が思った以上に巧みで中々距離を取ることが出来ないのだ。

そして、火乃花も同じ状況にあると言えた。マリアが展開する防御壁に回避先を阻まれ、そこにマーガレットの赤い風やら赤い光やらが飛んでくる。何か攻撃してもマーガレットに当たる前にマリアに防がれる。そして、そこに再び打ち込まれるマーガレットの魔法。

このまま防戦一方で行けば、負けるのは目に見えていた。

マーガレットの攻撃を喰らって横に吹っ飛んだ火乃花は口の中の血を横に吐き捨てる。


(マズイわね…。流石に耐え切れないわ)


その時だった。火乃花の制服の内ポケットが光り輝く。それは、試合前に龍人から渡されたものだった。


(このタイミングで?…信じるしかないわね!)


火乃花は内ポケットから紙を取り出すと魔力を注ぎ込む。すると、紙に描かれていた魔法陣が発動して火乃花を飲み込んだ。いや、正確に表現しよう。火乃花を転送した。

火乃花が転送されるのとほぼ同時に龍人とレイラも同じ紙を使って転送魔法を発動させていた。

彼らが転送されたのは遼がいる1番高いビルの屋上だ。其処には途轍も無いエネルギーを発する重力球が双銃の先に佇んでおり、それを制御する遼が真剣な…本当に真剣な顔で立っていた。3人が到着したのを見ると遼はレイラに声を掛ける。


「レイラ、龍人と火乃花とレイラの3人を守るように遮断壁【重】と遮断壁【引力】を展開できる?多分それ位やんないとマズイかも。」

「あ…うん。分かった。」


レイラは遼の言葉通りに遮断壁【重】と遮断壁【引力】を展開する。上位属性の遮断壁を展開するのにはそれ相応の魔力を消費するはずなのだが、平然とした顔でそれをこなすレイラの魔力総量は恐ろしいものがある。

そんなに威力が高いのかと思った龍人は聞いてみようとしたが、遼が先に言葉を発する。


「じゃ、いくよ。そろそろ保たないから。」


これを聞いた龍人は遼が限界ギリギリである事を察知し、集中力を乱さないように無言で頷くにとどめる。


一方、シャイン魔法学院の4人は突然相手が消えてしまったので、警戒しつつ周りを見渡していた。


「どこにも居ないですわね。」

「そうね。でもそんな遠くには行ってない気がするわ。何と無くだけど。」

「大丈夫!僕が遼くんは倒したから残りは3人だよ。もぉ~僕の活躍っぷりは最高だよねっ。落ち着いて行こう。」

「あ、あのさ、なんかあっちからすごい魔力が…。」


アクリスの指し示す方向。そこは決勝戦フィールドで1番高いビルが聳え立っていた。そして、確かにアクリスの言うように強力な魔力の振動がここにまで伝わってきている。彼我の距離は500メートルはあるだろう。それだけの距離があって、この魔力。油断は出来ない。


「何か来るわね…皆、私の後ろに来て。」


マリアは彼女が使える最大の防御魔法を展開する。


「反射遮断壁【全】よ。」


4人を包むように5角形を繋ぎ合わせた形の結界が展開される。


そして


フィールドで1番高いビルの屋上から、対抗試合で使われた中で1番威力の高い魔法が放たれた。




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