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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-9-6.対抗試合決勝戦



火乃花が取った行動は単純なものだ。右手で放っていた火焔放射を維持しつつ左手では凝縮していた魔力を焔に変換、更にもう1発の火焔放射を《維持しない》魔力使い切りの方式で発射した。

この攻撃によってマーガレットは単純に火炎放射がもう1つ増えたと認識し、赤いレーザーを発動したまま赤い風を出現させる。

マーガレットの赤い風に火乃花の火焔放射が抉るようにして直撃し、焔が直進することで発生する前方への風圧で風を散らそうとする。当然、この直撃で赤い風は揺らぎ、高温の熱波がマーガレットの肌をチリチリと焼く。


「まだまだですわ!」


赤い風が破られる危険性があると判断したマーガレットは、2発目の火焔放射に向けて火渦をぶつける。

マーガレットが3つ同時に魔法を使ったのを確認した火乃花は口元を僅かに笑みの形へ崩した。これこそが2発目の火焔放射を放った狙いなのだ。同じ質の魔法が来ると思わせ、魔力消費の激しい魔法を使わせる作戦…マーガレットが辛そうな顔をしていたことから、魔力総量が特別多い訳ではないのと、使う魔法の魔力消費量が大きいのだろうと判断し、魔力切れを狙っているのだ。

2発目の火焔放射は火渦と数秒間は力を均衡させていたが、あくまでも《維持しない》…つまり、発動時に注ぎ込んだ魔力が切れたら自動的に消滅する魔法の為、段々と弱体化していき火渦と赤い風によって霧散させられる。と、これは火乃花の視点。

マーガレットの視点では赤い風と火の渦で火焔放射を打ち破れたという認識になる。つまり、まだ残っている1発目の火焔放射に対して赤い風をぶつければ、ほぼ確実に火焔放射を吹き飛ばして火乃花に攻撃できると判断する。


(いけますの。 これで一気に攻めるしかないですわ!)


マーガレットは赤い風をもう1度出して火乃花が未だ放ち続ける火焔放射に向けて飛ばす。これで火焔放射を突き破り、火乃花に攻撃できるはずである。あくまでもマーガレットの視点では…である。


火乃花はマーガレットが赤い風を再び出したのを確認すると、次の魔法を発動する。火焔放射の制御を右手から左手に移し、右手には焔鞭剣を精製。更に火焔放射の出力を一気に3段階引き上げ、《持続型》から維持しない…つまり《非持続型》に変更する。 威力が膨れ上がった火焔放射は光の柱と赤い風の2つの攻撃魔法に対してほぼ互角の威力を誇っていた。そして、ここで火乃花の仕掛けが発動する。火焔放射は残った魔力を一気に膨張させ爆発したのだ。

高熱の爆発はマーガレットの攻撃魔法を巻き込み、更にその規模を拡大させる。


(いけるわ。このまま突っ切る!)


火乃花は魔法壁に属性を付加。魔法壁【焔】を前面に展開して爆発に向けて飛び込んだ。


一方、マーガレットは火乃花の火焔放射に対して力負けをして事に衝撃を受けていた。


(そんな馬鹿な…ですわ。私の攻撃魔法2つよりも火乃花が使う火焔放射一発の方が強いという訳ですの?私の使う融合魔法はそれだけで攻撃力が何倍にも上がっていますのに…。彼女の属性はたしか極属性【焔】でしたわね。極属性でしかも属性変化もしているその強さ…生半可じゃないのですわ。)


高熱の爆発から一度離れようとマーガレットが後方にステップした時、爆発の中にチラリと何かの影が見える。


「まさか…!?」


慌てて魔法壁を展開をした直後、爆発を突き抜けて火乃花が飛び出してきた。火乃花の右手に握られているのは焔鞭剣。その剣は既に振り被られており、マーガレットが体勢を整える前に振りおろされた。焔鞭剣はその名の通り焔で作られた小さめの刃が幾つも連なって剣の形になっている武器だ。各刃は中心を通る1本の焔のワイヤーで繋がっていて、刃同士の連結が解除される事で鞭のように伸び、撓って相手に攻撃する事が出来る。

そして、当然この場面でも火乃花の焔鞭剣は鞭となってマーガレットが前面に張った魔法壁を上から迂回し、マーガレットに襲い掛かった。


(避け切れないのですわ…!)


属性【光】で剣を生成し焔鞭剣を弾こうとするが、極属性【焔】で作られた剣との武器自体の質の差は歴然。2つの武器が接触している時間はほんの1秒も無かった。光剣はすぐに砕かれ、焔鞭剣の切っ先がマーガレットの服を斬り裂いた。切り口が発火するが、マーガレットは咄嗟に発火点の内側を風魔法で斬り裂いて服がこれ以上燃えるのを防ぐ。


「まだよ!」


服の発火に気を取られている隙に、火乃花は魔法壁を外側から回り込んでマーガレットの横に移動していた。鞭のように伸びた焔鞭剣が火乃花の手元に戻っていき、再び剣の形になる。

そして、火乃花はその剣を真っすぐマーガレットに向けて突きだした。

通常であれば回避や何かしらの魔法で対応が出来るであろうタイミング。だが、服に気を取られるという失態を犯したマーガレットは火乃花の動きに気が付くのが完全に遅れてしまっていた。


(これは…私の負けですわね。)


負ける事は悔しい。だが、この段階でどうする事も出来ない以上、素直に負けを認めるしか無かった。目を瞑り、火乃花の切っ先を甘んじて受け入れるマーガレット。

…。…。…。だが、どれだけ待っても火乃花の焔鞭剣がマーガレットを突き刺す事は無かった。

何が起きたのか?訝しみながらゆっくり目を開けると、マーガレットの目の前に展開されていたのは5角形を組み合わせた形の結界…つまり障壁が展開されて火乃花の焔鞭剣を受け止めていた。恐らく防御障壁だろう。

では、この防御障壁を展開してマーガレットを守ったのは誰なのか。 その答えはすぐに出ることとなる。


「マーガレット。そろそろ全力で戦わない?これ以上抑えて戦ったら…確実に押し切られて負けるわよ。」


そう言って隣に着地したのはマリアだ。 彼女は外見上無傷だが、魔力を消耗しているのか顔色が優れない。


「…そうですわね。街立魔法学院のメンバーあは思った以上に強いですわ。恐らく本気で戦って五分五分といった所ですの。 」

「分かっているわ。龍人さんは予想以上ね。相当強力な魔法を使っているのは見ていたから、もしかしたら…とは思っていたけど、 やっぱり複合魔法を使ってきたわ。結界魔法の弱点を的確に突いてくる辺りも侮れないわね。」

「当然ですわ。龍人は強いのですから。」

「…ふふ。」

「何を笑っているのですの?」

「秘密よ。」

「…後でじっくり聞きますわよ?」

「あとでね。」

「絶対に忘れないですからね。では、いきましょうか。私たちの本気を見せますわよ。」


マーガレットは空に向けて光弾を撃った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


アクリスの拳がレイラに向けて真っすぐ突きだされる。拳が纏うのは圧倒的な火力を秘めた熱の塊。この拳が触れたものは爆発によって焼かれ、吹き飛ばされる。そして、同じ事がレイラにも起きる…筈だった。

レイラが拳を受け止めるべく展開したのは防御壁と反射障壁【火】だ。拳を受け止めるのは防御壁、そして拳が纏う熱の塊を受けて跳ね返すのが反射障壁【火】 だ。アクリスが操るのは属性【爆】なので、反射障壁【火】では完全に反射し切る事が出来ない。だが、もちろんそれも織り込み済みで、レイラは内側に魔法壁を展開して反射障壁が破られた時に備えていた。

そして案の定、アクリスの爆発を半分程度跳ね返したところで反射障壁は砕け散り、残りの爆発エネルギーが魔法障壁を焼き尽くさんと猛威を揮う。だが、反射障壁によって半減されていた爆発が魔法障壁を破る事は出来なかった。

そして、その反射障壁が跳ね返した爆発をモロに喰らってしまったアクリスは吹き飛んで地面をゴロゴロと転がる。


(う…、つ、強いなぁ。攻撃魔法を使えないと思ってたけど、反射障壁を上手く使ってくるとは思わなかったよ。マリアみたいに力技の戦い方じゃないから、余計に戦いにくいかも。)


マリアは防御壁や魔法壁をそのまま相手にぶつける戦法を取る事が多い。故に、相手の攻撃を利用する手法を取る事はほとんど無かった。

それに対してレイラは相手の攻撃を巧みに利用する戦い方だ。攻撃をしなければダメージを受けることは無いが、倒すには攻撃をするしか無い。その為、自身の攻撃の反射に対して上手く対処をしながら攻撃をしなけれぼならないのだ。ある意味でマリアよりも戦いにくいと感じるアクリスの感想は決して間違いではない。

直線的な戦い方では相手に動きを読まれてしまうのは当然。ここから分かるように、マリアの戦い方にはまだまだ進化の余地があるとも言えるのだ。アクリスはその事に気付いていながらも本人に伝える事は出来ていなかった。何故なら「マリアがなんか怖いから」である。

さて、アクリスは先程から何度もレイラに向けて攻撃を仕掛けているが、未だに直撃させることに成功していない。それには大きな原因が1つあった。試合が始まる前の作戦会議でマーガレットからある提案があったのだ。

その作戦内容は単純だがかなりの危険を伴う内容で、アクリスとしては反対したかったのだが、結局押し切られてしまったのだ。その作戦が「7割位の力で戦って相手チームの実力を見極める。」というものだった。

これは、今後も戦う事があるかも知れない街立魔法学院メンバーの実力をしっかりと把握しておきたいという、マーガレット個人の我儘の要素がかなり強い。もし、マーガレット達が街立メンバーよりも強かった場合、最初から全力で戦ってしまうと街立メンバーの実力が分からずに勝ってしまう可能性もあったのだ。もしかしたら一気に押し切られて負けてしまう可能性もあった。だが、それでもマーガレットは実力分析をする事を優先にしたのだ。

こんな経緯があってアクリスは全力を出さずに戦う事を余儀無くされていた。


(このままじゃ攻めきることが出来ないね…。)


レイラはレイラで特に攻めてくる事もない。つまり、アクリスが動かない限りこの場の戦局が変わる事もあり得ないのだ。


(ん?あれは…。)


レイラの後方、アクリスの正面の地上から光の球が真っ直ぐ空に向けて伸び、弾けて空で輝く。


(…きた!)


今の光は恐らくマーガレットが放ったもの。つまり、これから全力で戦うという合図である。

アクリスは今まで全力で戦う事が出来なかったフラストレーションを両手に圧縮した超高熱に込め、レイラに向けて走り出した。



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