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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
672/994

11-9-5.対抗試合決勝戦



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ビルの35階で火乃花が提示した作戦は、囮を使った不意打ちというものだった。

まず、ビルにトラップ魔法陣を仕掛けて相手チームが簡単にビル内を捜索できないようにする。但し時間的に全ての階に魔法陣を設置するのは難しいので、少なくとも最上階と最下階には設置をし、ビルの正面玄関入口に繋がる外の道にも設置をする。こうする事で、トラップが仕掛けられているという思い込みを生ませる事が出来るのだ。

更に相手チームをビルの中央階に集めた所でビルを一気に崩して攻撃し、敵の思考を龍人達のチームの他のメンバーがビルの外に居ると思う様に誘導する。

そして、その敵の「ビルに居たのは囮の1人だけ」という思考の隙を突いて崩れたビルの中から攻撃をして負傷させる。《倒す》ではなく《負傷》なのは、火乃花がそれなりに相手の実力を評価している事の表れでもある。


これが火乃花が考え出した作戦だった。その内容はほぼ完璧。ただし、囮役となる人物の演技力が成功に大きく関わっている位か。また、ビルを崩す方法についても具体的な案はこの段階では浮かんでいなかったのだが、遼のさりげない発案で解決する事となる。


「あのさ、龍人に魔法陣を作ってもらったら、俺が重力魔法で一気にこのビルを崩せると思うよ。」

「それいいわね。ただ、そうなると問題になるのがどうやって魔法陣を完成させるかね。流石に最初から設置してたらバレるし。かと言って、相手が中に入ってくるのを待ってからだと間に合うか微妙よ。」

「あ、龍人君の魔法陣って展開した後に動かせるよね?それを利用して各階にバラバラに設置とか出来ないのかな?そうすれば上から見れば魔法陣の形になるし…。あ、でもそれだと魔法陣の模様自体が繋がってないから難しいかな?」


この奇抜なアイディアを思いついたのはレイラだ。龍人は感心した声をあげる。


「ほぉぉぉ。それ凄いな。バラバラに設置した魔法陣を1つの魔法陣に…か。それなら、魔法陣の模様を上下に伸ばしてビルの上と下に到達地点を作れば、ビルを挟み込むように全く同じ2つの魔法陣が完成するな。…いけるぞ。」

「龍人君。その魔法陣ってビルの何処にいても簡単に模様を上下に伸ばせる?」

「んー、出来るとは思うけど…精度を高めるならビルの中心に近ければ近いほどいいかも。」

「じゃあ決まりね。囮役は龍人君。遼君はビルの外からビル崩壊後に攻撃。私とレイラは1階部分に上手く隠れるわ。龍人君は相手が私とレイラに気付かないように1階に侵入されたらすぐに攻撃を仕掛けて出来るだけ注意を逸らせて。」

「げ。俺か。結構大変な役じゃん。」

「そうね。全ては龍人君次第ね。」

「そーゆープレッシャー禁止!」

「あ、龍人…屋上から相手が侵入する時に、出来れば35階辺りで俺と火乃花がいるように見せかけた攻撃魔法を出せないかな?」

「それは…まぁ出来なくは無いかな?」

「龍人君…。それホント?そんな簡単に私と遼君が居るように見せられる?」

「多分大丈夫だよ。魔法陣に発動の条件付けをすればいいだけだから。例えば…そうだなぁ、隣の魔法陣が発動した10秒後に発動する。みたいな感じかな。そうすれば、連携攻撃っぽくは出来るよ。1つの魔法陣に複数の発動条件付けをすれば、相手が最初に発動させた魔法陣の場所が何処でも大体攻撃を当てるのも可能だと思う。まーパズルみたいになってくるから、出来たとしても35階だけだな。」

「うん。それで十分だよ。」

「いいわね。じゃああと5分で細かい所を決めていきましょ。その後は全速力で準備に掛かるわよ。」

「おうよ。」

「うん。」

「あ、ちょっといい?」


珍しくレイラが口を挟む。


「どうしたの?」

「うん。相手のマリアさんなんだけど…私なりにあの防御を抜く方法を考えてみたんだ。」


そこでレイラが話したのは、結界魔法を中心に使う者だからこそ気付く内容だった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


夢幻から噴き出す炎がマリアに襲いかかる。高熱の炎は全方位から標的を焼き尽くさんと灼熱の手を伸ばしていく。


「ふん。甘いわ!」


対するマリアの行動は単純だ。全方位からの攻撃に備えた魔法障壁の防御障壁の2重障壁で防ぎ、反撃として魔法壁を龍人に向けて放つのみ。

魔法壁自体の飛翔速度はそう早くない為、龍人は簡単に避ける事に成功し、着地した龍人は額の汗を拭う。先程からこんな感じの攻防が延々と続いているのだ。

  どんなに攻撃を仕掛けてもマリアの結界に防がれてしまう。何よりも厄介なのが、マリアの周りには常に魔法障壁と防御障壁が張られているらしいという点か。マリアの隙を突いた攻撃をしても、障壁を突き破る威力の魔法を使わない限りほぼダメージが通らないのだ。

攻撃が通らないのはマリアも同じと言えた。龍人が簡単に接近を許さない以上、防御壁や魔法壁を飛ばすという方法で攻撃をするしかなく、その攻撃方法はマリアの魔力をじわじわと消費させていた。

互いに早く相手を倒したい状況…とも取れるだろう。だが、2人とも焦った様子は見られない。


(こりゃぁあれだな。レイラが言ってた方法を試してみるか。)

(こうなったらそろそろ本気で行くしかないわね。)


龍人は夢幻の剣先に魔法陣を直列展開し水の弾丸をマリアに向けて撃つ。強力に圧縮された水弾は弾頭は丸く、高速回転を掛ける事で打撃力を向上させてある。そして、目で視認するのがギリギリ可能な速度でマリアの顔を目掛けて突き進む。

対するマリアは水弾を防御障壁で難なく防ぐと、無詠唱魔法で身体能力を更に向上させて龍人の横に回り込もうとするが、受け止めたはずの水弾から迸った電撃がマリアが常時発動している魔法障壁を強かに打った事で近寄るのを一旦中止し、龍人から距離を取る。


「…何、今の。」


マリアは今まで属性【鉄壁】という防御力に特化した属性のおかげで殆ど攻撃を受けたことはない。もちろん、その為には相手の攻撃の性質を瞬時に見極める観察力が必要で、マリアはその為に常に鍛錬を積んできた。

だが、今の電撃には全く気付くことが出来なかったのだ。


(どのタイミングで電撃を放ったのかしら?魔法陣を発動させた形跡もないし…。)


この疑問は再び放たれた水弾を防ぐ事で解決する。水弾は防御障壁に行く手を阻まれて弾け飛ぶが、激突地点から電撃が防御障壁を突き抜けてマリアの魔法障壁に当たる。


「…複合魔法ね。」


小さく呟いたマリアの額を一筋の汗が垂れる。連続する魔法の使用で疲れてきているのもあるが、もちろんそれだけではない。龍人が複合魔法を使えると分かった以上、全ての攻撃を防げるという前提が覆されたのだ。

今までのマリアの防ぎ接近し攻撃するという戦い方は、あくまでも攻撃を防げるという自身の元に成り立っていた。だが、これ以降同じ戦い方をするには最低でも魔法壁と防御壁の2重展開をする必要がある。そして、その戦い方は魔力消費量が今までよりも増える事を意味していた。


(私の魔力総量はそこまで多い訳じゃないわ。攻めきれなければ…。)


「うしっ!まだまだ行くぞ!」


雷を纏う夢幻を構えた龍人は次の攻撃を仕掛けるべく、力強く地面を蹴った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


(龍人は上手く戦ってるみたいだね、…うわっ!)


周りのガラスが振動したかと思うと一斉に砕け散り、窓際で下の様子をちょっとだけ観察していた遼は慌てて頭を引っ込める。

今遼が居るのは崩壊したビルの隣のビルだ。ここから狙撃をする予定だったのだが、遼の居場所に気づいたミータが猛攻を仕掛けてきている。

ミータの使う属性【音】は遼の想像を遥かに越えていた。音の発生源を操作する等の小細工に使うものだと解釈していたのだが、そんな生易しいものでは無かったのだ。音を集め、増幅させることで放つ衝撃波の威力は凄まじい。音の衝撃波はほぼ不可視である為、避けることも難しいのだ。

そして何よりも遼を苦しめているのが、属性【音】の特殊性だ。防御壁で防ぐ事は当然不可能で、かといって魔法壁で防ぐのもあまり効果がない。正確に言えば威力を半減できる程度だ。

言い換えれば威力を半減させる事しか出来ないのだ。これの意味するところは非常に大きい。ミータが操る音魔法は防ぎ切る事が出来ないのだ。言ってしまえば防御不可の攻撃である。

遼はこの攻撃を必死に避けながらミータへ魔弾で反撃をしていた。

だが、ミータも決勝戦に駒を進めるチームの一員。言い方は悪いが魔弾程度で倒れる男ではない。ほとんどの攻撃を魔法壁で塞がれてしまっていた。


(これ…どうしたらいいんだろ?属性【引力】で一気に攻撃したら…。いや、それじゃあ倒しきれるか分からないし…。)


ピシ ピシ ピシ


近くでヒビが入る音が聞こえる。そろそら今いる場所も音の衝撃波にたえるのも限界なのだろう。すぐに別の場所に移動して遠距離から…と考えた遼が立ち上がろうとすると、足を支えるものが消えた。

床が崩れ、天井、壁、周りにあるものが一気に崩れ落ちたのだ。


「えっ?マジ?」


遼はいきなりの現象に呆気にとられ、なす術もなく落ちていく。


崩れたビルの下敷きになる寸前でなんとか脱出した遼の近くにミータが悠然とした態度で現れた。


「ふふん。どう?僕の属性【音】の真骨頂は。音の微細な振動を絶え間なく与える事で、物体の結合を崩壊させたんだよね。も~これって結構疲れるんだよね。何度も出来ないから、見れた事を感謝するんだよ!」

「感謝って…。ま、そう言うならそうしておくけど…。」

「素直だねぇ。僕はこの試合で大活躍してモテるって決めてるんだ。40近いおじさんだけど、心はまだまだピュアなんだからねっ!」

「お…う、うん。」


いきなりのピュア発言についていけない遼は取り敢えず頷いておく。

激しい戦いの中のちょっとした会話による休息の時間…なんて事になるはずもなかった。

空から炎の矢が雨のように降り注いだのだ。勿論犯人は火乃花だ。仲間に炎の矢が飛んでいったのなら多少は気にするのが普通だが、火乃花はそうしなかった。…いや、そうする余裕が無かった。


火乃花の戦う相手はマーガレット=レルハ。謀らずとも行政区高官の娘同士が戦ったのは偶然か必然か。2人ともナイスバディな為、見ている男の観客は激しいバトルに激しい揺れと色々な意味で楽しく観戦していた。マーガレットの方がモデル体型、火乃花はそれに比べるとややポチャか。


(なんなの…!?マーガレット…想像以上に強いわ。それにあの魔法は?)


マーガレットから放たれた魔法は、例えるなら…赤い風だ。且つそれが光魔法と同じ速度で飛んでくるのだ。更に赤い風自体に発火効果がある。

火乃花は焔刃を飛ばして相殺を狙ったのだが、ことごとく弾かれてしまっていた。

問題はマーガレットが使っている魔法の属性である。発火効果がある事を考えると、属性魔法のベースとなっているのは【火】だ。しかし、使い方自体がとても属性【火】の枠組みを超えてしまっていた。極属性【焔】の火乃花ですら火を薄く鋭くし、更に風のように操るというのはかなり難易度が高い。極属性の火乃花に取って難易度が高いものを、極属性でもない魔法使いが軽々と使いこなせるわけがない。

となると、物凄い鍛錬を積んだのか、はたまた何かしらのカラクリがある筈なのだ。


火乃花は赤い風をギリギリで避けると両手に魔力を凝縮し、火焔放射を放つ。圧倒的な熱量を誇る焔の柱を前にしてマーガレットは余裕の表情を崩さない。右手が光ったと思うと、赤く光るレーザーが火焔放射に向けて放たれた。


(また…!)


2つの魔法は正面からぶつかり合い、相手の存在を消し去ろうとエネルギーを消費していく。魔法同士の接点から魔力が拡散していき、周囲にあるものが次々を発火する。それだけ2つの魔法が秘める熱量が凄いのだろう。

火乃花はマーガレットと自分の攻撃が互角の威力という事実に衝撃を受けていた。


(なんでなの?火をベースにしてる魔法同士の力勝負で、私の魔法がそんなに簡単に破られるはず無いのに…。それでも互角っていうのは納得できないわ。)


火乃花は2つの魔法が激しくぶつかり合う向こうで真剣な目…というよりも、やや辛そうな表情をしているマーガレットを見て1つの可能性に思い当たる。


(思ったよりも魔力消費が激しいのかしら?でも、この程度で魔力消費が激しいとなると…あれかしら?そうなると…この魔法は火が主じゃなくて光を主にしてるって事になるわね。さっきの赤い風も…風がベースね。風にしては速度が異常に早かったのを考えると、火と光かしら。………それなら納得がいくわね。思った以上に強いじゃないのマーガレット=レルハ。)


相手の魔法の正体の予測がほぼ付いた所で、火乃花は勝負を決めるべく更なる攻撃に移った。た


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