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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
671/994

11-9-4.対抗試合決勝戦



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「次で17階ね。…それにしても龍人さんはどこに行ったのかしらね。」

「……………。」

「ちょっと、何か言いなさいよ!」


バシッという音を立ててマリアはアクリスの背中を引っ叩いた。その衝撃に電流が走ったみたいにビクッと背中を反らせたアクリスは、すぐに謝罪の言葉を並べ始める。


「えっと…ご、ごめんなさい。ちょっと色々気になった事を考えてて何も聞こえてなかった…。」

「はぁ…。まぁ元から大した期待はしてないからいいわ。それよりも何が気になったのか教えてもらえる?」


アクリスはマリアが自分の話した内容に興味を持った事に驚いて動きを止めそうになるが、ここで止まったらほぼ確実にマリアに怒られると思い、全精神力を総動員して驚きなど無かったかの様に振る舞う。それでも虚取った態度が無くならないのは、虐められた年月が長かったことによってアクリスに染み付いてしまった癖である。悲しきかな。


「え、…っと、今迄通った全ての階に魔法陣の描きかけみたいな模様があったよね?あれがどうしても気になって。」

「確かに気になるけど、あくまでも描きかけよ?そんなの全く何の意味もなさない落書きに過ぎないじゃない。」

「う…そ、そうなんだけど…それが全ての階にあるっていうのが…。だって龍人は魔法陣を展開して使うんだよ?描きかけっていうのはどうも腑に落ちないんだ…。」

「あ…確かにそう言われればそうね。展開出来なかったとしても、彼方此方に描きかけを残せるなら1つくらい完成させられるわね。でも、だとしたら何故あれが残されているのか疑問だわ。…もしかしたら、あれは龍人さんがやったんじゃなくて、元々フィールドが完成した時から描かれていたって事もあり得るんじゃないかしら?」

「え…でも、そ、そんな無意味な事するかな?」

「んー。そうね…。確かに無意味すぎるわね。でも、今この時点でわからない以上、多少の注意は必要だけど…それ以上はどうしようもないわよ。」


「ちょっとミータ!貴方はセクハラが駄目なら視姦ですの!?この変態!」


「あら?あの声はマーガレットさんじゃないかしら?」

「う、うん。いつものマーガレットだね。ミータがまた何かやらかしたのかな?」


17階に到着したマリアとアクリスの居る場所からそう遠くない場所にある階段から降りて来たのは、同じチームのマーガレットとミータだった。マーガレットが怒っている内容からして、ミータが厭らしい視線でも向けたのだろう。普段は威張った雰囲気のマーガレットだが、実際の彼女は中々に純情な乙女だったりもするという事実を知っているマリアは、一先ず場を収めるためにミータを悪者にしてしまおうと決めて2人に近づいて行った。

そして、マリアに気付いたミータが「おっ!」っとばかしにマリアに向かって手を上げた。友達同士がする挨拶のそれである。だが、別に友達って訳でもないし、ミータにそこまで心を許したわけでもないマリアはスルーして口を開く。そもそも、そうやって手を上げたこと自体が、マーガレットに怒られている話題を変えようという考えから出たものに違いないのだ。


「ミータ。またあなたセクハラしたの?いくらなんでも………」

「しっ!」


ミータを一気に言葉責めしようとしたマリアだったが、突然真剣な目をしたマーガレットに言葉を遮られてしまう。何事かとその視線の先を追ったマリアも状況を把握し、すぐに表情を引き締めた。

17階は広いコンサートホールの形になっている。そして、そのステージ上の中央に1人の青年が立っていた。その人物は街立魔法学院1年生の対戦相手であり、マーガレットが密かに想いを寄せる相手である高嶺龍人だ。

上の階で戦った時とは違った堂々とした雰囲気にマーガレットは警戒心を強める。右手に夢幻を持って体の横にだらんと下げた格好は、一見やる気が無いように見えるのだが、龍人の双眸は遠目から見てもやる気に満ち溢れているのが分かる。その姿、様子は対抗試合で巨大な隕石を降らせるという強力な魔法を使った時の龍人を自然と思い出させた。


「マリア、アクリス、ミータ…龍人は多分本気で掛かってきますわ。彼が本気で戦うと、それまでとは動きが一気に変わりますの。注意をするのですわ。」

「分かったわ。」

「ま、俺に掛かれば一捻りだけどねっ。」

「う、お、俺、自信ないけど…なんとか頑張るよ。」


三者三様の返事に軽く頷くとマーガレットは先頭に立ち、ゆっくりと龍人に向けて歩み寄っていく。残りの3人は少し距離を距離を開けて追従する。ここ怖じ気付いた様子を見せるのは相手を精神的に優位に立たせかねない。龍人が何をしてくるのか全く予想が出来ないが、マーガレットは敢えて挑発的な言葉を選択した。


「龍人!1人で待ってるなんて、相当な自信ですわね。私達4人を相手に本当に1人で勝てると思っているのですか?」


マーガレットの強気な発言。それを聞いた龍人はダランと下げていた夢幻をクイっと持ち上げる。反射的にマーガレット達は攻撃に備えて構えるが、夢幻はそのまま龍人の肩にポンと乗せられただけだった。


「よ!まぁ、正直1人でお前らに勝てる気はしないかな。マリアの結界を攻撃に使う魔法とかマジで意味分かんないしな。今の所攻略法

が全然思いつかないしね。」

「あら。それでは何故1人で待っていたのですか?他の仲間も連れてくれば良かったとも思いますが。」

「ま、こっちにも色々あってね。ほぼ押し付けられる形でこうなってんだよね。だから、俺1人で相手をする事になる…筈だったんだけどさ。まぁあれだよね。時間をどれだけ稼げるかって勝負では既に俺達の勝ちって訳だ。」

「…何を言って?」


マーガレットが解せないという顔で見る先で龍人は夢幻を床に突き立てると、通信機器みたいなものを取り出すと少し大きめの声をだす。


「ってな訳だ。火乃花、遼、一気にやっちゃってくれ。」


次の瞬間、ホールを光が包み込んだ。いいや、正確には光の線が上下から伸びてきたという方が正しいか。


「これは…!?」

「あ、これって…も、もしかしたら下の階にあった魔法陣の描きかけのじゃない?」

「お、ご名答!アクリス…だったっけ?良く見てるじゃん。描きかけの魔法陣の断片から上下に光が伸びて、それらが1つの魔法陣の形を成すとしたら、…どうなるかは分かるよな?」


龍人の言葉に合わせるように光の線は、ただの光から魔力を帯びた光へと変わる。つまり、それが意味しているのは…龍人の言葉通りに魔法陣のの完成だ。

そして、龍人がニヤリと笑うのに合わせてビル全体に強力な重力の負荷が掛かり、その力はビルの対荷重を一気に越え、ビルは一瞬でオモチャのように上から下へ轟音を立てて押しつぶされるように崩れていった。


砂煙が舞い上がり、砕けたアスファルトの破片がパラパラと降り注ぐ崩壊地点に、まず姿を見せたのは…。


スタっと、崩れたビルの瓦礫の上に降り立ったのは龍人だ。警戒しつつ周りを見渡す。これだけのビルが壊れたというのに、周りの建物などの建造物への影響は殆ど無い。言うなら崩れたビルの破片が多少の傷を付けている程度である。


「流石は擬似的ではあるけど空間魔法陣ってトコだな。」


龍人が使った魔法陣はビルの最上階と最下階に魔法陣の光の到達点を作り、各階に施した描きかけに見せかけた魔法陣の光を上下に伸ばす事で、同時に同じ魔法陣を2つ完成させるというものだ。その魔法陣を上下でビルを挟み込むように完成させることで、その間に挟まれた空間を擬似的な魔法陣の効果空間に設定し、その空間にのみ強力な加重を掛けたのだ。

通常の空間魔法陣というものは、立体型魔法陣を一定の空間を覆うように書き上げる事で、もしくは複数の魔法陣を瞬間的に連結させる事で一定の空間を立体型魔法陣の中に設定する事で空間内に何かしらの魔法効果を発生させる。

それに対して今回の魔法陣はあくまでも《擬似的》空間魔法を発動させるものに過ぎない。一定空間を覆うのでは無く、挟み込むという手法は下手をすれば魔法の制御が上手くいかずに暴走する危険性もあった。だが、魔法陣を完成させるのが龍人、発動させて制御を担当するのを重力魔法の制御に長けた遼にする事で、そのリスクを極力減らしたのが成功に繋がったのだろう。


 少しすると、瓦礫の一部が盛り上がり弾け飛んだ。そこから出てきたのはマリアの結界に守られたシャイン魔法学院メンバーだった。流石は属性【鉄壁】を操るマリア。全員が無傷の状態で空間魔法の攻撃を乗り切っていた。結界を解除したマリアはフンッと鼻を鳴らす。


「姑息な真似をしてくれるわね。全員を集めて不意打ちみたいな手段で一気に倒そうとか…。正面からぶつかって戦おうとか思わないのかしら?」

「…それはマリアが理想にしている戦い方だろ。勝負はあくまでも勝負。勝った方が正解なんだって。それに、正面から正々堂々と戦わせたかったら予選と同じリングで戦わせるだろ。地形に合わせてどう戦うのかってのが重要だから今回のこのフィールドな訳っしょ?それを正面から戦わないのを姑息って言うのは詭弁だろ。」

「…………。」


 龍人が言っている事は間違いではない。この大都市というフィールドは正面から堂々と戦うのが多少ばかり難しい。少し離れるとビル等の建物がすぐそにあるのだ。隠れないで戦うのは、意図的にそしなければならない。そして、その環境で敢えて姿を隠さずに戦うのは利口とは言い難い。


「マリア。龍人が言っている事の方が正しいのですわ。私たちは龍人が罠を張っているのに気付きませんでしたの。それに気付けなかった私達が弱いという事なのですわ。」

「…じゃぁ、マーガレットは姑息な手段を使う事を許容するの?」

「許容はしませんわ。ただし、姑息かどうかの尺度は個人によって違いますの。その基準を見誤ったのが今回の結果…とも言えますの。」

「…分かったわ。なら、その姑息な手段を使えないように、逃がさずに全力で倒すわ。」

「お、やっとやる気になったみたいだな。よしっ!じゃぁ、俺達も全力で行くぜ?」


チュン


 龍人の言葉に合わせるようにマリアの足元が弾ける。


「…!遼さんの狙撃!?」


 これを切っ掛けとしてシャイン魔法学院の4人は散開する。その中でマリアだけは龍人に向けて一直線に進んでいた。彼女が両手を覆う様に展開するのは防御障壁。狙うのは勿論…龍人をぶん殴る事のみだ。

 龍人は接近するマリアに対して距離を取る…事はしなかった。不敵に笑うと夢幻を構え、マリアに向かって地を蹴る。


(マリアの攻撃は基本的に結界魔法を攻撃に転用してる。って事はだ、他の属性魔法は使えない可能性が高い。なら、手数で一気に責めるしかない!)


 夢幻の周りに魔法陣を並列展開し、防御障壁で軽減されにくい電気を纏わせると、マリアに斬りかかった。連続で繰り出す斬撃をマリアは手の物理障壁で的確に弾いていく。斬撃によって発生する電気の衝撃波は防御障壁を貫通してマリアへ少なからずともダメージを与えている…様にも見えた。


(くそっ。魔法壁でも体の周りに常時展開してんのか!?)


 電気の衝撃波は確実にマリアに当たっているのだが、一向に効いている様子が見られなかった。 龍人の水平斬りを身を屈めて避けたマリアはバックステップで後方に跳びながら両手に展開させていた防御障壁を龍人の頭目掛けて撃ちだした。


「…ちっ!」


 防御障壁は物理系の攻撃を防ぐ結界だ。となると、その属性は物理系に属する事となる。では、防御障壁による攻撃を防ぐには…勿論、防御障壁か防御壁を使うしかない。

 龍人は咄嗟に防御壁でマリアが撃った防御障壁を防ぐが、 防御壁と防御障壁の強度の差は歴然。あっという間に砕かれてしまう。横に跳んで回避を試みた龍人のわき腹を掠るようにしてマリアの攻撃が通過していく。焼けるような痛みがわき腹から広がるが、それを気にする余裕はなかった。回避したポイントにマーガレットが火矢を撃ちこんできたのだ。

 とんぼ返りの要領でさらに回避距離を稼いだ龍人は崩れたビルの中央部分へ移動していく。そして、そこで待っていたのは身を低くして突っ込んでくるアクリスだった。右の拳は真っ赤に発光している。


(マズイ…!これじゃぁ避けらんねぇ!)


 体勢的にもう1度回避につなげるのは難しく、次の魔法陣を展開して発動するにも時間が無い。龍人はなんとか間に合わせようと防御壁と魔法壁を展開しようとするが、すでにアクリスの拳が眼前に迫っていた。

 直撃…かと思った時、瓦礫の中から焔の渦が立ち昇りアクリスを呑み込んだ。


「え!?う、うわ!」


 予想外の攻撃に何の防御も取ることが出来なかったアクリスは焼かれ、吹き飛ばされていく。


「アクリス!…きゃっ!」


 叫ぶマーガレットも横からの衝撃に吹き飛んでしまう。吹き飛んだ先に居たミータはマーガレットを受け止めると苦々しい顔をした。


「騙し打ちなんて…やるね。」

「まぁな。この為に今まで1人で戦ってたんだから、上手くいってくれなきゃ困るってんだ。ま、さっきのアクリスの攻撃は本気で焦ったけどな。」

「何言ってるのよ。ほぼ作戦通りじゃない。」


 そう言って崩れたビルの瓦礫の中から出てきたのは火乃花とレイラだ。不機嫌そうに服の汚れを払う火乃花は龍人をキッと睨みつける。横にいるレイラはそんな火乃花をみて苦笑いをしていた。


「龍人君、流石にあの重力魔法の威力強すぎない?本気で焦ったわよ。」

「え、あの魔法の発動準備をしたのは俺だけど、発動から威力の調整までは全部遼の担当だぞ?」

「まさかの遼君?…全く、うちのチームの男どもはもう少し手加減ってものを知らないのかしら。レイラが咄嗟に障壁から遮断壁に切り替えなかったら、私とレイラも相当なダメージを受けてたわよ。色々やった小細工が無駄になるとこだったわ。」

「いや、だからそれは遼に言ってくれって。俺も転移魔法でビルの屋上に出たつもりが、見事に瓦礫になっちゃっててびっくりしたんだよ。」

「で、その遼君は?」

「ん~多分その辺りのビル陰にいると思うよ。」

「完全に狙撃に専念してるわけね。…って。危ないじゃない!」


 火乃花は右に向けて焔の弾丸を放つ。それはミータが飛ばした光の弾丸と衝突して相殺した。


「そろそろ話は終わりにしてくれないかなっ?不意打ちばっかで結構頭にきてるんだよね。」

「そうね。ここまで相手の作戦に見事にはまったのは初めてだわ。まさか、崩れたビルの中にいるなんてね。」

「お、俺もこんなに悔しいのは初めてだよ。」

「そうですわね。でも…これで隠れている遼を除いて7人が揃いましたの。ここからは、正真正銘の全力勝負ですわ。」


「ふふ。いいじゃない。完全に不意打ちで攻撃したつもりだったんだけど、そこまで効いてないみたいだし。それなら正面から倒すのみよ。」

「そうだね。私も頑張るよ!」

「よしっ。じゃあ小細工なしで行きますか。その方がどっちが強いか分かりやすいしな。」


街立魔法学院の3人、シャイン魔法学院の4人は構えを取り同時に地を蹴った。



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