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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-8-11.決勝戦直前



何も無い空間があった。魔法街やその他の星々があるのとは別次元。其処に或るのは闇のみ。いや、何も無いのだから闇すら無いのかもしれない。

そんな場所に1つの小さな光が突如として生まれる。ポツンと浮く其れは次第に輝きを増していき、ある一定の強さにまで光り輝くと、同じような光点が次々と生まれ始めた。其れ等の光点は縦に伸び、光の柱を形作る。

瞬く間に何も無い空間は数多の光の柱が等間隔にどこまでも並んでいる空間に変貌していた。変化は止まらない。光の柱を起点として空間全体に光が広がり、次の瞬間には陰影が刻まれ始める。それらが広がっていくにつれて、その空間が《大都市》を形成しつつあるのが分かる。

高層ビルに幾重にも重なる立体道路。地下の鉄道へ続く階段。ビル群の中心には一際大きな高層ビルが鎮座していた。そしてこの《大都市》は中心のビルから一定の距離の所で空間が途切れていた。中心のビルから端まで2kmの正円…そこから先には最初と同じ何も無い空間が広がっている。

大都市はただビルが建っているだけに留まらない。大きな建造物が出来た後には小さな物が生まれ始めていた。車、バス、電車、飛行機…。大都市が大都市として機能する為に必要な交通機関が現れた。ただし、その交通機関は全て無人。あくまでも其れが存在している事が重要なのである。全ての交通機関は一定のルールに則って動き続けていた。


《大都市》が完成したのを確認したラルフはモニターから目を離すと、横にいるヘヴィーを見る。


「これで完成ですね。…それにしても、街立魔法学院の教員校舎訓練室で使ってるフィールド生成魔法装置は本当に凄いわ。」


「ほっほっほっ。じゃが、作れるのは無機質に限定されるからの。木や草花も生成は出来るが、あくまでもそう言った形をした無機質に過ぎん。模造品という訳じゃな。それがこの装置の限界なのである。」


「ま、そうなんですけど。そもそもなんでこんな凄い装置が街立魔法学院にあるんですかね?」


「じゃが、他の学院に無くて街立にあるというのはアドバンテージなのである。本来であれば隠し通したいのであるが、こればっかしは既知の事実なのであるからの。まぁ、こういった時に駆り出される代わりに街立に置いておく事を許されているのを考えれば御の字なのである。」


「まー確かにそうっすね。」


(今、ヘヴィー学院長…何でフィールド生成魔法装置が街立にあるのかって話題を逸らしたな。)


ヘヴィー話題を逸らした理由は気になるが、生憎今は決勝戦の準備で忙しいのもまた事実。ラルフはこれから決勝戦にあたっての注意事項を伝えに行かなければならないのだ。


(ま…その内聞き出せばいいかね。)


「じゃ、ヘヴィー学院長。俺は試合前の注意事項について話してきます。フィールドの安定化とかの最終調整は任せました。」


「分かったのである。ここまで来れば私1人でも楽勝なのである。呉々もセクハラ発言はせんようにな。」


「ははっ。流石に俺でもセクハラ発言をする場は選びますよ。」


(セクハラ発言をしている自覚はあるんじゃな…。)


ラルフが部屋から出て行くと、ヘヴィーはフィールド生成魔法装置と呼ばれたそれを見る。それは弁当箱くらいの大きさの箱で、中央にボタンが1つ備え付けられていた。このボタンを押すと仮想デスクトップが出現し、そこでフィールドの環境設定などを行うことが出来るのだ。


「これを本当の意味で使う日が来ない事を祈るばかりじゃな。」


そう小さく呟く瞳には憂慮の感情がちらりと過る。ヘヴィーはその考えを振り払うと、決勝戦の会場を安定化させる作業に取り掛かり始めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「じゃ、試合はそんな感じだ。残り30分…しっかり作戦立てるんだぞー。」


豪華な部屋に設置されたモニターに映っていたラルフが消えると、マーガレットは険しい顔をしていた。


「これは…難しいですわね。」


「そうね。今まで戦った事が無いフィールドになるのは確実よね。」


隣に座るマリアも難しい顔をして頷く。

試合開始40分前の13:20に部屋のモニターがいきなり点き、ラルフが試合に関する詳細を説明していったのだ。

基本的なルールは予選と変わらず、選手は体力が5%以下になったら強制転送される腕輪を装着する。そして、試合開始と同時に試合会場のフィールドに転送される手筈となっている。ここまでは予選とほぼ同じ。だが、違う点が転送されるフィールドだ。予選では平面のリング上で戦っていたのだが、決勝戦では直径4kmの正円の中に設置された《大都市》で戦うことになるらしいのだ。対抗試合の予選が始まる前に確かにラルフは決勝は別のフィールドと言っていたが、《大都市》というのは完全に予想外だった。


「これは困ったですの。森林とか、砂漠とか、そういう自然系のフィールドだと思っていたので、こういうフィールドで戦う時の動き方は余り考えていませんの。…これでは今から立てられる作戦も限られてしまいますの。後はその場その場で判断するしかないですわね…。」


「あ、で、でも…それは街立も同じ条件だよね。」


オズオズと意見を出したアクリスの肩をミータがポンポンと叩く。振り向くと「なぁにいってんのさ?」みたいに呆れた顔のミータが首を横に振っていた。


「いいかい?もしかしたら街立は授業で《大都市》に酷似したフィールドでチーム戦をしてるかも知れないんだよね。もぉ~それ位分からないかなっ?なんたって、あいつらを指導してるのはラルフ=ローゼスだよ?僕達と街立が同じ条件だって考えるのは只の気休めにしかなんないんだよ?分かるかなぁ?」


「う…ご、ごめんなさい。」


アクリスは自分の考え方がまだまだ甘ちゃんだった事を思い知り、シュンと落ち込んでしまう。


「ミータ。そこまで言う事は無いのですわ。確かに同じ条件である可能性は低いかも知れないですが、そこは向こう側も同じ様に考えている筈ですわ。…なら、こちらは出来る限りの全力でぶつかるだけですの。変な探り合いこそ無意味ですの。」


「ふふ。今回の試合…楽しそうね。小細工無しの全力勝負。私、そう言うの好きだわ。」


マリアは右手に持っていたワイングラスを口元に持っていき、傾ける。試合前なのにワイン?という突っ込みは今更誰もしなかった。何故なら、それがマリアの日常であるからだ。コクンと喉が動きワインが喉元を通り過ぎていく。グラスを口から離し、クルクルと中身の液体を回すマリアは格好の餌食を見つけた肉食獣のような笑み浮かべていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


コツン。コツン。コツン。軽快…に近い足音を響かせながら試合会場に設けられたVIPルームの中を歩き回る男がいた。


「ふむ。今回の決勝戦のステージは面白そうだな。まさか《大都市》という魔法街には余り縁がないステージにするとはね。」


そう言って顎に手を当ててモニターを眺めるのはサタナス=フェアズーフだ。興味が尽きないという顔をしながら、椅子に座る男に声をかける。


「どう思うかねラーバル。今回のこのステージ…いや、街立魔法学院的に言うならフィールドか。に、《大都市》を設定してきたのには何か意味があるんだろうかね?」


声を掛けられた男は、中分けにした髪を掻き上げると傍に立ったサタナスを見上げた。前髪が一番長く、後ろにいくにつれて少しずつ短くなっていく髪がサラッと流れる。その口元はクイっと上がり、馬鹿にしたような表情を作り上げていた。


「ふっふっふ。サタナスクンにも分からないか事があるんだな。このフィールドはあの星に酷似しているとは思わないか?」


「ふむ。あの星…。正直、僕には心当たりが幾つかあるんだが。それでも断定出来るというのだから相当な自信があるんだろうね。勿体振らないで教えてもらおうか…ラーバル。僕は無駄な時間が嫌いなんでね。」


「案外短気なんだな。この私に分からなくて、サタナスクンに分からないというのが意外で面白い。ふっふっふ。私が行政区魔商庁長官時代に培った経験はまだまだ役に立つみたいだね。」


「ふむ。どうやら君はこの僕を怒らせたいらしいね。」


一向に話を進めようとしないラーバルに対してイライラが募り始めたサタナスは、腕からゼリー状の触手を出してラーバルの首元に巻き付けた。ちょっと力を籠められればすぐに首をへし折られるであろう状況に、それでもラーバルは人を小馬鹿にした様な表情を崩さない。


「おっと。これは勿体振りすぎたかな?話すからこの気持ち悪い触手をどかしてくれ。これじゃぁ話したくても話せないな。」


「ふん。余裕顏で話している癖によく言うな。まぁいい。さっさと話してもらおうか。」


サタナスが大人しく触手を引っ込めると、ラーバルは襟元を正しながらモニターに映る決勝戦試合会場を見つめた。


「このフィールドがモデルにしているのは確実に機械街だな。高層ビルが立ち並ぶ星は他にもあるが、立体交差点、何重にも重なる道路、そして地下通路。ここまで発展した交通網があるのは機械街以外にはあり得ない。それにだ、魔法街と交流があるのは街圏内の星のみ。他の圏にまで範囲を広げれば同じ様な交通機関を持つ星もあるが…。何かを想定して作られたフィールドと仮定するなら、機械街以外にはあり得ないだろう。」


パンパンパン


サタナスが手を叩く音が部屋の中に響く。


「ご明察。さすがは元長官だな。君の推測する通りだと思うよ。では、何故機械街をモデルに今回のフィールドを作ったのか。が本題になるわけだが…。まぁ今はそこまで考えなくてもいいだろう。どこまで考えたとしても憶測の域を出ない。それに…これに関しては孰れ分かる事だろうしね。」


「…ふん。この私を試したという事か。どうせ大したことない推理でもしたら切り捨てるつもりだったんだろう?それに、既に君の中では機械街をモデルにしたとしたら…の仮定でどういう答えが導き出されるかも分かっているんだろう?」


「ふむ。そんな怖い事を考えていると思われているとは心外だな。僕は君を大事な仲間だと思っているよ?それに、答えが分かっているなら君に問いかけたりはしないよ。まぁ、少なくとも君よりは正解に近い推測はできてると思うけどね。どっちにしろ、推測に過ぎないのだから、今ここで言い合うのは時間の無駄だ。」


「ふんっ。本当に喰えない男だよ君は。サタナス…私は君の事を不必要な人間は容赦無く切り捨てる、素晴らしく冷酷な人物であるとプラスの評価しているんだよ。その私を試すなど…馬鹿にしているとしか思えないな。そもそもだ、この試合会場のVIPルームだって、この私が手を回したから使う事が出来ているんだぞ?感謝くらいしてもらいたいものだな。」


そう。魔法協会南区支部の事件で姿を消したラーバルは魔法街で指名手配されていて、本来であればこの様な魔法街主催イベントのVIPルームで寛げるはずがないのだ。だが、現にこうしてラーバルとサタナスはここにいる。それが意味するのは、魔法街から彼が離れたとしても、ラーバルの息がかかった者が魔法街に居るという事だ。そしてそのラーバルがサタナスの所属する天地と共に行動しているという事は、天地の息が掛かった者が魔法街の内部に潜んでいることとなる。これが意味する事は非常に大きいと言えるだろう。

ラーバルは人差し指で前髪を横に流していく。


「1つ質問したいんだがいいかな?敢えて今回、この魔法街主催のイベントである対抗試合のVIPルームに潜入するという危険を冒す程の価値が決勝戦にはあるのかね?とても私にはそうは思えないのだが。あくまでも学生の試合だぞ?」


サタナスは眼鏡をクイッと上げると横目でラーバルの顔を見る。


「まだまだラーバルは見る目がないな。いいか?今回の決勝戦に出る高嶺龍人、霧崎火乃花、藤崎遼、ルーチェ=ブラウニーは魔法協会南区支部の地下でロジェスの実験結果の相手になった者達だ。つまり、僕達天地の存在に…例え名前を知らなくても、そう言った活動をしている組織があると確信を持たないまでも気づいている面々なのだよ。そんな彼らの実力を把握しておくことは、後々彼らが敵対した時に非常に重要になる訳だ。そして、高嶺龍人はセフが里の因子を持つ者の可能性が高いとしてマークしている人物だ。彼がロジェスと戦った時に見せた黒い靄…これの正体が里の因子によるものなら、いずれ僕の、いや、僕達《天地》にとって必要な人材なるだろう?それを見極めるのも目的の1つ。そして、これは僕が個人的に気にしているだけなんだが、レイラ=クリストファー…彼女はとても素晴らしいサンプルになり得るんだよ。」


レイラの名前を聞いたラーバルは手元の資料を捲り、レイラの詳細が事細かに記入された紙を眺める。


「…?この女のどこが素晴らしいサンプルなんだ?特筆すべき点は極属性【癒】くらいじゃないか?あとは…親が事故死か。まぁこれに関しては大した事ではないか。至って普通の学院生ではないかな?」


「そう思うのが普通だが…違う。僕が彼女を拘束して魔力を吸い取った時…因みに魔力を吸い取った理由は、従来と別の方法で魔造獣を作れる可能性を探っていたのだが。それでだ、その時に彼女から吸い取る事が出来た魔力の量が途轍もなく多かった。あそこ迄の魔力保有量を誇るという事は、何かしらの特異体質を持っている可能性があると推測出来る。そうでなければあの魔力保有量は説明が付かない。僕の予想ではレイラ=クリストファーの魔力保有量は魔聖達に匹敵すると睨んでいる。」


「ほう…。そこ迄か。」


「そう。だからこそ、彼らが全力で戦うであろう対抗試合決勝戦を見たかったんだよ。」


「なるほどな。それは確かに楽しみじゃないか。」


「そう言う事だ。では、そろそろ時間だ。我々の利益になる人物がいるのか楽しみながら観察させてもらおうじゃないか。」


サタナスはそう言うと軽やかにソファーに腰掛け、脚を組む。モニターを見つめる顔を横から見たラーバルは心の中で吐き捨てる。


(はっ。本当にこのいかれ科学者は考えていることが分からん。こんな小さな星以外にも優先すべき事はあると思うのだが…。まぁいい。私は私の利益のためにのみ動かせてもらう。その為なら、この横にいる男だって喰らい尽くしてやるさ。)


そうしてラーバルも視線をモニターに向ける。時刻は13:55…試合開始まであと5分を切っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


対抗試合会場…別のVIPルームではネネが優雅にカクテルを飲みながら寛いでいた。部屋に居るのは彼女1人。ラルフに用意してもらった特等席である。


(ふふ。私の得た情報が間違いなければ、この場所の何処かに奴ら…天地の人間が潜んでいるはず。直接接触するつもりはないけど、この試合を見て彼らが何を考えて行動するかの推測は立てられるはずね。魔法街を好きにさせるのは、この星に住む私にとって不利益にしかならないから…妨害させてもらおうかしら。まずは、今日の決勝戦でどれだけの価値を見出せるか…ね。期待してるわよ坊や達。)


ネネはコクンの喉を通るカクテルの感触を楽しみ、通り過ぎた後にアルコールが喉を焼く感触も楽しむ。優雅な雰囲気を楽しんでいるように見えたが、ネネの瞳は全く楽しんでいなかった。むしろ、優雅な雰囲気をぶち壊す位に真面目な、鋭い眼をしていた。

彼女が見るものは…思う事は…果たしてその先に何があるのだろうか。ネネは静かに、だが全てを見逃すまいとこの場所に居るのだ。



様々な人物が様々な思惑で見守る中、魔法学院1年生対抗試合決勝戦が始まろうとしていた。



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