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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-8-9.集合



火乃花は中央区の通りを余所見しながら、のんびり歩いていた。クリスマスという事で、何処の店も可愛い商品を置いているのだ。火乃花も極属性の家系に生まれたエリート教育を施されたとはいえ、普通の女の子と同じ感性を持っている事に変わりはない。皆が可愛いと思う物は火乃花も可愛いと思うのである。歩いていてついつい目がいろんな方向に行ってしまうのだ。

そうやってプチウインドウショッピングを楽しみながら試合会場前に到着した火乃花は、入り口付近を中心とした人の輪が出来ている事に気付いた。


(何かしら?誰か喧嘩でもしてるのかしら?)


気になった火乃花が人の隙間から何とか見たのは、龍人とマーガレットが互いにニヤリと笑いながら向き合っている姿だった。


(…何やってるのかしら。早く中に入って作戦でも練ったほうが良くない?)


火乃花は龍人を引き連れてさっさと中に入ろうと、人の輪を押し分けながら中心部分へと進んでいく。そして、人の輪を抜けた所で複数のフラッシュがいきなり火乃花に向かって焚かれ、眩しさに火乃花は顔の前に手を翳して動きを止める。少し離れたところではカメラに向かってリポーターと思わしき人が興奮気味に話している。


「さぁ!見てください!高嶺龍人君とマーガレット=レルハさんの所に霧崎火乃花さんも合流しました!こうして、こうして少しずつ各チームのメンバーが集まってくるのでしょうか!?さぁさぁさぁ盛り上がってきましたね!」


完全にメディアの餌食になっていると感じた火乃花が、焔でもぶちかまして追い払おうかと考えていると、カメラやビデオカメラが待ち構える試合会場入口前の半円に新たな人物が入り込んできた。


「ん?もしかして僕の事を待ってたの?こんなにカメラが設置あるなんて緊張しちゃうって。」


そんな事を言いながらカメラのレンズに向かって手を伸ばしてカッコつけるミータ。


「すいません。ちょっと通してもらっていいですか?…え、これって何かしてるの?」


謙虚な姿勢で人の輪を抜け、その先の光景を見ただけで雰囲気に押され気味のレイラ。


「通りますよ?全く、なんでこんなに混んでるのかしら。……なんか面倒臭そうな場面に来ちゃったみたいね。」


不機嫌そうに人の輪を抜けて中の状況を確認するなり、更に不機嫌そうな顔をするマリア。


「うぅ。ごめんなさい。と、通して下さい。………………。」


かなりの低姿勢、且つ小さい声で押され揉まれながらやっとの事で入口前に着くなり、目の前に起きている状況が良く分からなくてフリーズするアクリス。


続々と決勝戦に参加する選手が集まって来たことで、輪を作る人々とメディア関係者のテンションが否応なく上がっていく。リポーター達はカメラのレンズが唾で汚れるんじゃね?的な勢いで早口で話しまくっていた。


そんな感じで盛り上がる人の輪を少し離れた所から眺めているのは遼だ。隣には先程出会った女性…あなたと私の萌え心のメイド、ネネが立っていた。ネネは体の前で腕を組んで盛り上がる人々を眺めている。心なしか楽しそうに見えるのは、きっと気のせいでは無いだろう。


「ふふ。対抗試合の決勝が盛り上がるのは毎回の事だけど、今年はいつも以上に盛り上がってるわね。」


「そうなんですか?」


「そうよ。もしかしてなんで盛り上がってるのか分からないの?」


「う…。龍人の魔法陣が注目されてるって事ですか?」


ネネはジト目で遼を見ると正面を見て肺に溜まっている息をゆっくり吐いた。


「まぁまぁ正解ね。私と同じ店で働いてるんだから、これくらいの事は予想できるようになってくれないと困るんだけどねぇ。いい?今回の決勝のメンバーはいつに無く豪華なのよ。行政区の長官の娘が1人に、執行部役員の娘が1人。そして、これ以上新しい魔法の種類は見つからないと考えていた学者達を驚愕させた構築型魔法陣を操る龍人ちゃん。誰でも知ってる情報だけでもこれだけの材料があるわね。他にもマリアちゃんとかミータちゃんも注目されるだけの実力を秘めているわ。それはもちろん遼ちゃん、あなたもよ。」


「え?俺は注目される程強くないよ。いつも大して活躍出来てないし。」


「あらそうかしら?属性【引力】だなんていう、ただでさえ珍しい属性【重】の上位属性を所持してるのに?」


遼の動きがピタリと止まる。属性【引力】の話は誰にも話していないはずなのだ。それまでは属性【重】だと公言していたのだから、ネネが知っていたとしてもその属性であるはずだ。


「…なんで、俺の属性の事を知ってるんですか?」


「あら?さっき言ってなかったかしら?」


「いや、言ってないですよ。」


「ふふ…。情報屋としての私を甘く見ちゃダメよ。」


ネネは遼が思わずドキッとしてしまうようなエロティックな笑みを浮かべると、組んでいた腕を解いて遼の背中を押す。


「じゃ、今日の試合頑張ってね。私は普通に見学させてもらうから。」


クイっと押された遼は数歩前に出るが、ネネに聞きたい事があったのを思い出して振り返った。


「あの、前に言ってた…アレ?」


振り返った後ろにネネの姿は無かった。周りを見渡すが近くに居る気配は無い。…というか、試合会場入口付近の混雑のせいで近くに居るのかすら分からなかった。


(…上手く逃げられた気がするなぁ。)


思わぬタイミングで1人になった遼はネネを探すのを早々に諦めて目の前の人の輪を眺める。この密集した人々の間を抜けて行くのは中々に骨が折れそうである。


「上から行こうかな。」


遼は無詠唱魔法の対象を自分に指定。対象物を遠隔移動する要領で自身の体を浮遊させると、試合会場の入り口に向けて移動を開始した。因みに、その行為がとても目立つという事に何故か遼は気付いていなかった。




無詠唱魔法による飛行魔法で試合会場の方へ飛ぶ遼を建物の影から見ながら、ネネは小さく笑いを漏らす。


「何が面白いんだ?これから遼がメディアに殺到されるって思って楽しんでんのか?」


非難っぽい雰囲気を出しながらそう声を掛けたのは、横に立つラルフだ。


「そんな訳無いじゃない。私の想像を超えた成長を見せてくれるのが嬉しいのよ。龍人ちゃんばっかり目立ってるけど、遼ちゃんもかなり面倒臭い事情を抱えてるわよ。それ位はラルフちゃんも分かってるんでしょ?」


「…?いや、俺は遼のことについては、ほぼなんも知らないぞ?キタルが何かの本を見ながら遼の事を呟いてるのは何度か見た事あるけど。詳しい内容は知らないしな。ってか、ネネは遼の事について色々知ってんのか?」


「当たり前よ。私は姿を隠さない情報屋よ?それ相応のリスクを冒しても普通に生活する事が出来るだけの情報網は持ってるわ。」


「…ほんっと侮れない女。」


「あら。そんな事言ってると…もう膝枕してあげないわよ?」


ネネはそう言うとラルフの顎を人差し指でツーっとなぞる。ラルフがその感触にゾクゾクと肌を粟立たせていると、顔を寄せたネネが耳元で小さく囁いた。


「それより…約束覚えてるわよね?」


「…なんだよ。もう少しプチエロの至福な時間を楽しませてくれてもいいのによ。」


ラルフは残念そうに肩をすくめながら、物をしまうのに使っている次元の穴に手を突っ込んで1枚の紙を取り出すとネネに手渡す。それを受け取ったネネは表と裏をしっかりと確認すると満足そうに頷いた。


「ふふ。確かに受け取ったわ。対抗試合決勝のチケットはプレミアがついてて手に入れるのが大変なのよ。お陰で無駄な労力とお金をかけないで済んだわ。このお礼は今度…ね?」


「あったぼうよ。主催側の俺でも手に入れるのがひと苦労だったんだからな。これで無償とか言われたら俺の理性のタガは一気に外れんぞ?」


「そうしたら無抵抗で襲われてあげるわ。た、だ、し。私の身体に溺れたら…そう簡単には抜け出せないわよ?」


ネネは体の前に両手を伸ばすと、豊かに膨らんだ胸を寄せ、張りのあるヒップを突き出すポーズを取った。スタイルが抜群のネネからラルフへ一気にフェロモンが漂い始める。その妖艶さに目を奪われたラルフは思わず唾をゴクンと飲み込む。気を抜いてしまったら本当に手を出してしまいそうだ。だが、ここは公衆の面前。そして、忘れてはいけない事がある。あくまでもラルフは妻帯者だ。いくら親しいとは言え、ネネに手を出す訳にはいかなかった。


「案外守るところは守るのね。…ちょっと本気で誘ってみたんだけど、私もまだまだね。じゃ、私は会場に行くわ。また店に来てねー。」


ラルフに興味をなくしたのか、ネネはチケットをヒラヒラ振りながら歩き出したのだった。その後ろ姿を見ながらラルフはネネへの評価を少しだけ改めていた。


(あいつ…本当に底が知れねぇな。遼が抱えてる事情ね…。森林街がセフに襲われた事と関係あんのか?これについてもその内調べとかないと危ねぇのかな?俺も変な情報を握られないように注意しとかねぇとだな。)


ラルフはネネが姿を人混みに紛れさせた方向を眺めると、試合会場の審査室に転移魔法で戻って行った。



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