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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-8-6.アクリスの朝



アクリス=テンフィムス。シャイン魔法学院の1年生で、マーガレットと同じチームに所属する魔法使いだ。

彼の生い立ちは至って普通である。両親は普通の魔導師で、住んでいる家も普通で、外見も普通。彼の人生において《特別》という文字は全く関わりの無いものだった。

強いて言うのであれば、継承属性【火】と先天的属性が一致した事で属性【炎】を持って生まれたのが特別か。更に言えば属性【炎】がお気に入りで使い続けていた結果、気付けば属性【爆】に属性変化をしていた…という位だ。

普通に考えればそれだけでも《特別》と評するに価するのだが、アクリスは自分の事をそんな風に評価していなかった。

昔から誰かと戦って勝ったことは殆ど無かった。どんなに上位の属性を持っていた所で、それを操るだけの才能が無ければ宝の持ち腐れなのだ。それを幼い頃からアクリスは嫌という程思い知ってきた。


他の一般的な人々より優れた力を持つ者は、少なからずとも羨望や妬みの対象となる。優れた力を持つ者は強い。だからこそ、その物を羨ましく思う人々は《思う》だけに留まる。時にはそれが捻じ曲がり狂気を振るう結果に繋がるが、その点に関しては置いておこう。

では、優れた力を持つ者が一般的な人々と比べて弱かったらどうかるのか。その者は妬みや嫉妬といった負の感情をぶつける好対象になってしまう。子供が使う言葉で言えば《イジメ》である。そして、その《イジメ》を受けてきたのがアクリスだ。属性【爆】という魔法使いとして自信を持てるはずの能力は、逆に彼から自信を喪失させていったのだ。

そんな幼少期を過ごしたアクリスは常にウジウジした性格に育ってしまう。だが、それでも彼の中の何かが変わる事を願って両親はアクリスに魔法学院への入学を勧めたのだった。嫌々ながらも「親の言うことだから」という至ってマイナス思考なままシャイン魔法学院に入学申請を出す。そして、もう1つの継承属性【光】のお陰で苦労なく入学が認められたのだ。

神に関連する解釈が出来る者しか入れないシャイン魔法学院に入学したアクリスは…変わらなかった。そもそも属性とは生まれつき持っているもの…それのお陰で入学出来たとしても、彼自身が認められた事にはならないからだ。そして、その属性を持っているから強い訳ではないと言う事はアクリス自身が誰よりも理解していた。むしろ、より不貞腐れたと言っても良かっただろう。


そんな低い志しか持たず、やる気もなく、ウジウジしているアクリスは…クラスの誰からも認められる事も無ければ、誰かを認めようともしなかった。孤独。その孤独こそがアクリスがアクリスであると唯一認識出来るものだった。学院生活なんてそんな感じのまま…ずっと過ぎ去っていく。そう思っていた。…あの人と出会うまでは。

その人はクラスで目立っていた。何もしなくても雰囲気で目立っていたし、口を開けば自信満々で何もかも上から目線で話す。だが、その中にも優しさが時折見えることからクラスの誰からも慕われるお嬢様だった。言ってみればアクリスと対照的な存在だ。アクリスはその天真爛漫な振る舞いをするお嬢様を疎ましく思いつつも、時折羨望の眼差しを送っていた。そのお嬢様の名前をマーガレット=レルハという。

ある日、チーム戦の授業でアクリスとマーガレットは同じチームを組む事になる。それが今の4人組…マーガレット、マリア、ミータ、アクリスだ。アクリス以外の3人はシャイン魔法学院1年生の中でも注目を浴びる人達で、最初同じチームになった時にアクリスの頭に浮かんだのは《足手纏いになって疎ましく思われる》だった。そして、その予想通りアクリスはマーガレットの作戦通りに動く事が出来ず、それが原因となってマーガレット達のチームは負けてしまう。誰の目から見てもアクリスが邪魔者である事は変わらなかった。

試合が終わり、落ち込んで座っているアクリスの元にマーガレットが近寄ってきた。きっと、「もう2度とあなたと同じチームを組むのはごめんですわ!本当に何もできないのですわね。何が属性【爆】なのです?立派なのは肩書きだけで、それ以外はちゃんちゃらちゃんですわ!」みたいな感じで怒られ、貶され、蔑まれるんだとアクリスはビクビクしながら構えていた。

マーガレットはアクリスの前にドンっと仁王立ちをするといつも通りの感じで口を開く。


(あぁ、これで俺の学院での生活も最底辺が決定なんだ…。)


そう身構えるアクリス。マーガレットは予想通りの言葉を吐き始める。


「アクリス=テンフィムス!あなた、属性【爆】を使いこなせていないですわ。全く駄目ですの。だけど…使いこなせれば私よりちょっと弱いくらいまでは強くなれますの。確か…あなたは格闘技をしているのですわよね?」


途中からアクリスの予想と違う方向に話が進み始めた事で、戸惑いながらもアクリスはマーガレットの問いに答える。


「え…う、うん。俺、昔から趣味で…。誰かに習った訳じゃないからアレだけど、自己流で格闘技みたいに鍛えてるんだ。」


「それですわ。属性【爆】の特徴は瞬間的な攻撃力の高さにあるのですわ。さっきの戦い方を見ていると、貴方は距離が離れれば離れる程、魔法操作、魔法維持、魔法発動のどれをとってもド下手ですの。けれどですわ、その苦手な所ではなく、近距離…近接戦闘を主体に魔法の使い方を考えれば貴方は魔法を使うことに対する苦手意識が消えるはずですの。如何に距離が離れた相手に精度の高い魔法をぶつけるかでは無く、距離が離れた相手に如何に接近して近距離魔法を…いえ、打撃を主体とした、打撃魔法を当てるかを考えるのです。そうすれば、強くなれますの。」


自信満々にマーガレットが言う内容は、今まで悩みに悩んだアクリスが思いつかなかった手法であり、もし、それが出来れば強くなれそうだと思えるものだった。


「で、でも…俺そんなに強くないし、前にも何度か接近戦を仕掛けようとは思ったんだけど、逃げられて追い掛けての連続で…。結局、追い掛けている内に魔法を当てられ続けて負けちゃったんだ。だから…せっかく言ってくれたのは嬉しいんだけど、俺には無理だよ。」


仁王立ちのままアクリスの話を聞いていたマーガレットはダンっと足を踏み鳴らす。


「あまーい!甘いのですわ!心を強く持たなければ強くなれないのですわ!と、に、か、く!私が強くなれると言ったんですから強くなれるのですわ!…決めましたの。何が何でもアクリス…貴方の性格を叩き直して強くして見せるのですわ!」


そう宣言したマーガレットはパッと踵を返すと、1年生担任のホーリー=ラブラドルの下へ近寄って行った。そのまま2人は10分程度何かを話し合う。最後にホーリーがニヤリとドス黒い笑みを浮かべた所で、マーガレットは再びアクリスの所に帰って来る。そして、その場にいるミータ、マリア、アクリスを順番に指差し始めた。


「ミータ、マリア、アクリス!あなた達3人は今後私とチームを組んでもらいますわ。許可は得ていますので、一切の反論も認めませんわ。私は、このメンバーで魔法学院1年生対抗試合で優勝する事に決めたのですわ!」


バンっと突き付けられる決定にミータとマリアはやれやれといった感じで肩を竦めたり、頭を横に振ったりしていた。だが、アクリスはこの決定を信じることができなかった。マーガレットにとって不利益となる決定だとしか思えなかったからだ。そのアクリスの顔を見たマーガレットがムッとした顔で睨む。


「アクリス…何か文句でもあるのですか?私と組めるのは光栄な事だと思いますのよ?」


「え…だ、だって、俺…弱いし、足を引っ張ることしか出来ないし…。」


「ほーっほっほっほっほっ!」


突然マーガレットが高らかに笑い始め、驚いたアクリスは口を閉ざしてしまう。一頻り笑った後のマーガレットは不敵な笑みを浮かべていた。


「甘いのですわ。私は、私の持ち得る全ての知識を使って貴方を強くしますの。今とかどうでも良いのですわ!」


ビシィッと指をアクリスの顔に向けたマーガレット。アクリスにはもう反論する事は出来なかった。もしかしたら…という淡い期待が心の奥底に芽生え始めたのがこの瞬間だったのだ。




中央区の対抗試合会場の近くでオレンジジュースを飲みながら、そんなマーガレットとの出会いを思い出していたアクリスは空を見上げる。今日は雲1つない晴天だ。青空には朝の月の様に、他の星の姿が薄っすらと浮かび上がっていた。


(こんな大きな世界から見たら俺なんて…ほんとちっぽけだ。だけど…。)


アクリスの脳裏にマーガレットとの地獄の鬼特訓が蘇る。泣きそうにもなったし…いや、泣いたし、弱音も吐いたし、途轍もなく怒られもした。だが、マーガレットはそんなアクリスを見捨てる事はなかった。アクリスにはそれが嬉しかった。


(だけど、俺が今までやってきた努力は本物だよね。きっと今日もマーガレットの作戦通りには動けないと思うけど…でも、俺…頑張るよ。)


青空の下で決意を固めるアクリスの顔は晴れ晴れとしていた。


「よ、よし!」


ちょっと恥ずかしかったが、声を出して気合を入れたアクリスは元気に立ち上がると試合会場に向けて歩き出した。仲間の…チームメイトの待つ場所に向けて。



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