3-2-3.爆発
全員が魔力の渦に同調し始めて数分後、踏ん張って魔力の流れに干渉を続けた甲斐あって、魔力の渦の勢いが少しずつ弱くなってきた。
各々が疲労の表情を浮かべながらも、互いの顔を見やり笑みをこぼす。この場には特段強力な力を持った魔法使いは居ないが、それでも全員が協力した事でこの非常事態を乗り切れそうだった。彼らの中にはほんの少し仲間意識が芽生え始めていた。
このまま鎮静化出来るかと思ったのだが…現実は甘くなかった。
魔力の渦の中心にあった魔力蓄積機の核であるクリスタルが強大な圧力に耐えきれず砕けたのだ。
クリスタルが砕けた事によって、その中に溜まっていた魔力が一気に解放され、魔力蓄積機から一気に吹き出す。
魔法の渦はその魔力を取り込み、力を増し、更に巨大化を始めた。
もはや渦の領域を越え、竜巻と変わらない勢いまで達している。
『みんな、諦めないで!同調を一回やめて、結界を強化するのよ!』
リリスの必死な声が頭へと届く。
だが、ここまで必死に耐えてきた魔法使い達の中に力尽きる者が出始めてしまう。むしろ、たったの1度ではあるが同調して魔力の渦を沈静化させる所まで辿り着けただけで奇跡に近いのだ。
(くそっ、まだ爆発が起きてから10分も経ってない。魔法学院からの応援が到着するには後5分は掛かると思った方がいい。それまで保つのか…?)
龍人の不安通り、何人かが膝を付き始める。その人達の分もフォローしようと、まだ魔力が残っている魔法使い達は更に結界へ送る魔力を増やす。しかし、結界の強度が少しずつ下がっていき、反比例する様に魔力の渦は力を増していく。
そして、遂に魔力の結界自体の耐久力は限界を迎え、亀裂が入り始めた。その亀裂の一つが事もあろうか、リリスのすぐ隣に出来てしまう。
亀裂は広っていき結界が部分的に砕け始める。砕けた結界の穴から生じる強力な吸引力は近くにいるリリスへ当然の如く魔の手を伸ばした。そして、吸引力に捕らわれたリリスの足が浮いた。
「リリス先生!」
バルクがそれに気づき、リリスの手を掴もうとするが、その手は虚しくも空を切る。
「あ…。」
小さな声を漏らしたリリスは、バルクへと手を伸ばしながら魔力の渦へと吸い込まれていき、姿を消した。
「う、うわぁぁぁ!」
バルクが叫ぶ。同時に、結界は中心的役割を担っていたリリスがいなくなった事により、その力を失って完全に砕け散った。