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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
655/994

11-7-8.対抗試合準決勝



キャサリンとリリスがVIPルームから退室してから約30分後。2人がそろそろ部屋の前で待たずに審査室に戻ろうかと考え始めた頃にヘヴィーが部屋から出て来て、部屋の前で待っていた2人を見て驚いた顔をした。


「お主らまだ部屋の前で待っておったんじゃな。てっきり審査室に戻っているものだと思っていたのである。ラルフは良き妻と同僚を持っておるの。…では、私は失礼するのである。」


そう言うとヘヴィーは部屋の中で話されていた内容については全く触れずにスタスタと歩いて行ってしまう。


「げ。お前ら部屋の前でずっと待ってたのか?悪い事しちまったな。ちっと話があるから中に入れるか?」


ヘヴィーの背中を見送る2人に声を掛けたのはラルフだ。


「部屋の中に入るのはいいけど…。何の話をしてたのよ?」


30分という長い時間話していたからには、それなりの内容を話していたと考えているのだろう。ラルフに問いかけるキャサリンは少しだけ警戒をしている節があった。


「ま、それも部屋の中で話すからさ。ヘヴィー校長から話していいって了承も得てるしよ。俺としてはリリスを巻き込みたくは無いんだけど、話すならお前達2人に話すって条件付きでさ。ってな感じだから2人共部屋に入ってくれ。」


「…面倒臭い話の予感しかしないじゃないの。」


「キャサリンさん。行こう?私達にでも出来ることがあるならやらないと。」


「リリスは本当にいい奥さんよね。」


やれやれ。といった感じで頭を振るとキャサリンはVIPルームの中に入っていく。リリスもそれに続くが、部屋に入る途中でラルフに力のこもった眼差しを送り小さく頷く。


(…。本当にリリスは巻き込みたくないんだよなぁ。街立魔法学院の教員だからいつかは知る可能性もあるし、早めに知っていて損はない。けど…。……いや、ここで躊躇ってもしょうがないか。)


ラルフにしては珍しく乗り気ではないのだが、ここで話さないという選択肢がない以上、悩んでいてもしょうがないのもまた事実である。ラルフは小さな溜息をつきながらVIPルームのドアを閉めるのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


街立魔法学院学院長のヘヴィー=グラムはとある部屋の前で足を止めた。


(さて…と、どうやって説明するかじゃの。)


先程ルフトとミラージュから聞いた話を頭の中で反芻しながらヘヴィーは部屋の中に入って行った。

その部屋の中にはモニターが取り付けられ、現在行われている準決勝2試合目の様子を映し出している。そこには物凄い勢いで敵へ迫るスイの姿が映し出されていたが、ヘヴィーの視線は別の方向に向いていた。彼が見ていたのは部屋の中に座る3人の人物だ。


ダーク魔法学院学院長、バーフェンス=ダーク。

シャイン魔法学院学院長、セラフ=シャイン。

行政区最高責任者、レイン=ディメンション。


魔法街が誇る最強の魔導師である魔聖の称号を得た者達だ。3人共視線はモニターに映る準決勝に向けたままだ。


「随分時間が掛かったな。ルフトとミラージュの様子はどうだったんだ?」


部屋に入ってくるヘヴィーに問い掛けたのはレインだ。170cmはある長身にFカップの巨乳を持つレインは椅子に腰掛けて足を組み、腕も組んでいた。スラリとした長い足が強調され、更に胸も強調されている。モデル体型とはまさしくこの事である。


「うむ。思ったよりも事態は深刻なのである。」


「ほう。なにがどう深刻なのか詳しく説明してもらおうか。今回の調査に当たったのは街立魔法学院の魔導師団なのだからな。調査に参加することがなかった俺達に分かりやすく説明して欲しいもんだな。」


バーフェンスが憎まれ口を叩く。中分けで首辺りまでの長さに切りそろえられている髪を掻き上げながら言う姿は、一種のカリスマ性を備えてもいる。


「勿論なのである。先ずは座って良いかの?」


「…ふん。好きにしろ。」


ヘヴィーはバーフェンスの嫌味をサラリと受け流して空いている席に座った。そして、3人の顔を見回すと顎を撫で、口を開いた。


「まず、今回の調査結果を簡潔に説明するのである。結論から言って、サタナスの所属するあの組織…【天地】が再び実験を行っておった。そしてじゃ、実験は新たな段階に入ったと思われるのである。ルフトとミラージュが言うにはキメラ…合成獣に人間の脳を組み合わせた魔造合成獣、別名ヒューマノイドキメラという生物を作り上げていたらしいのじゃ。其奴は其々の動物の頭から別の属性魔法を操っていたそうじゃ。そして1番恐ろしいのが尻尾の代わりに生えていた蛇が吐き出した紫の煙…これが毒だったらしいのである。この毒に侵されたミラージュは命を落とす瀬戸際だったらしいんじゃが、幸いな事にリリス=ローゼスが治癒魔法を行使した事で命は取り留めたのである。」


「…ヘヴィー、毒ってのはマジか?そんな魔法が存在すんだったら、テロが簡単に起きっぞ?」


セラフがそう言って眉を顰めるのは最もである。魔法街において属性【毒】という魔法は長い歴史の中で発見されていない。そして、この属性は数多くの魔法使いが所有する事を望んだ属性の1つでもある。何故、魔法使い達は属性【毒】を望むのか。それは…相手と戦う事なく殺害が出来ると「推測」されているからである。食べる物、飲み物などの飲食物に混ぜるだけで相手を殺すことができたとしたら…そんな考えから、特に裏稼業を生業とする者達が求めていた。

だが結果として、現在に至るまで発見はされていない。毒を使うならそういった成分を持つ物を調合して毒薬を作成する必要があるのだ。

こういった事情がある故に、ヒューマノイドキメラが毒を操ったという情報を見逃す事が出来ないのだ。ともすれば、一晩で魔法街の1つの区が全滅する可能性すらもはらんでいるのだから。


ヘヴィーはセラフに対して真剣味を帯びた表情でゆっくり頷く。


「マジなのである。ただ、私は魔法に見せかけた何かではないかと予想しておるがの。ルフト達に毒の魔法と信じ込ませる状況を作り、それを知った我々魔聖が主導で魔法街が警戒態勢に入る。これこそが奴らの狙いではないかと思うのである。」


身を乗り出していたセラフは小難しい顔をして体を椅子の背もたれにバンっと倒した。豊満バディ(決してデブではない)が衝撃でその存在を主張するが、この部屋にはそれを気にする者は居なかった。気にしない…ではなく気にしたくない…気にできない…かも知れないが。


「あのよー、あーだこーだ邪推すんのは構わねぇ。だが、そんな根拠もない想像で動いちまったら…それこそ奴等の思うツボなんじゃねーか?私は魔法街として動くのは反対だね。ま、其々の学院が魔導師団とかを使ってなんかするのは知ったこっちゃねーが。」


「セラフ…それはシャイン魔法学院は独自に調査をする。と言ってるつもりか?…ふん。気に入らないな。抜け駆けでもして功績を独り占めでもするつもりか?」


憎まれ口を叩いてくるバーフェンスにセラフはブチ切れる。


「はぁ?舐めてんじゃねーぞオカッパ!功績が欲しくて裏で色々やってんのはダーク魔法学院だろ?」


「おい…俺のどこがオカッパだ。」


「ははぁん。じゃー中分け後ろオカッパだな。気持ち悪い髪型しやがって。清楚な見た目になってからモノを言えってんだよ。」


「ほぅ…喧嘩を売っていると見た。今すぐこの場から消し去ってやろうか?」


「出来るもんならしてみろ後ろだけオカッパ!」


バーフェンスの怒気がオカッパの言葉に反応して一気に膨れ上がる。


一触即発の状況。これを止めたのはレインだった。


「お前達…今はそんな下らない言い合いをしている場合なのか?」


グンっとレインから強力なプレッシャーが放たれ、喧嘩腰だったセラフとバーフェンスは気圧されたように口を噤んでしまう。


「…全く。私達が仲違いをする事こそが天地の目的かも知れないのだぞ?魔法街戦争が何で起きたのか忘れたのか?そして、あの戦争でどれだけの人達が犠牲になったのかも。」


レインの言葉は重く、その場にいる全員の心に深く突き刺さる。


「…レイン悪かったよ。私も少し熱くなりすぎたみてぇだな。」


「…ふん。」


セラフは素直に謝り、バーフェンスはそっぽを向いて黙り込む。そしてレインも何故か気まずそうに黙り込んでしまう。

ヘヴィーはこのタイミングで脱線していた話を元に戻すべく口を開いた。


「話を本題に戻すぞい。まだ事の顛末を話しておらんからの。ミラージュが毒に倒れた後、怒ったルフトはヒューマノイドキメラを倒す寸前まで追い詰めたらしいんじゃ。そこでサタナスが【何か】をすると、ヒューマノイドキメラが魔力を暴走させて自縛したという訳じゃ。ルフトはその爆発からミラージュを守りながら逃げて怪我をしたみたいじゃな。」


ヘヴィーは3人が静かに聞いているのを確認すると話を続ける。


「今回、天地に与する新たな人物も判明しておる。魔法協会中央区支部に勤めるテング=イームズという男じゃ。」


「なに!?」


テングの名前を聞いた瞬間にレインが激しく反応する。


「知っておるのか?」


「知ってるも何も優秀な人材の1人だ。確か年明けから魔商庁に異動する筈だな。…そんな奴が天地の手先だったのか。これはちょっとショックだな。」


「そうだったのであるか。このまま魔商庁に異動させるのは危険じゃないかの?」


「ふん。逆だな。むしろ魔商庁に異動させた方がいいだろう。どうせ中央区支部の何も出来ない奴らの目を掻い潜って不正を働いてたんだろ?それならエリートが集まる魔商庁の方が不正はしにくい筈だ。飼殺すのが一番だ。」


ヘヴィーとバーフェンスが正反対の意見を言った事でレインは益々悩んでしまう。


「…困ったな。どちらもメリットとデメリットの比率が殆ど同じ位だな。」


テングが魔商庁に移動した場合、今の職場である魔法協会中央区支部よりも不正を働きにくくなり、結果としてその点のみで考えれば天地にとって有益なことはない。更に敵の駒を手元に置いておくことで、その駒の動きによって敵方の動きを察知することが出来る可能性がある。これらが魔商庁にテングを置いておく主なメリットだ。

デメリットは、行政区魔商庁という魔法街の中心部に潜り込まれることで、こちらの動きを読まれる可能性も十分にある事だ。更に、魔商庁が乗っ取られることなどがあれば…最悪の結果が容易に想像できる。


対する追放の場合、魔法街から追い出すこととなるため敵方に情報が流れる事はない。但し、天地の手先と分かっている人間を野放しにするのはそれなりにリスクが伴ってくるのだ。魔法街の情報が他の星に流れてしまったり、他の星がテングによって崩壊の危機を迎える可能性もあり得る。例えば、魔法街から追い出したテングが辿り着いた先の星を崩壊に導いたとしよう。そのテングが魔法街から来たと分かった場合…テングが魔法街の手先として誤認される可能性は十分にあり得る話なのだ。


その誤認が招くのは星と星での戦争…星間戦争だ。星間戦争が起きてしまったとしたら、それは天地にとって格好の材料となる。それを利用して更なる星間戦争が引き起こされ、星間戦争から圏間戦争へと発展する可能性もあるのだ。


(それだけのリスクを冒してテングを追放する必要があるのか?これは単純に魔法街規模で考えていい話ではないかも知れないな。だだ、テングだけが天地の手先とは限らない。更に言ってしまえば、他の星にも天地の手先が潜り込んでいると考えるべきだろう。それならば…。)


考え込むレインにセラフが声を掛ける。


「おい。一応言っとくが、私はどっちでといいぞ。どちらを選んでテングの野郎が変な真似をしたらぶっ殺しに行けばいいだけだかんな。」


何かあれば後始末はしてやる。と解釈もできるセラフの頼もしい言葉にレインは意を決する。


「私の勝手な判断で決めるのは心苦しいが…ヘヴィーすまん。テングは魔商庁に異動をさせて動きを制限させる。信頼出来るものを監視に付ければ、中央区支部でやっていたほど自由には出来ないだろう。逸材とは言え、魔商庁に入れば新人だ。そこでデカイ口を叩くことはテングが中央区支部で作り上げたイメージ像の常識的に考えにくい。」


「そうか…。分かったのである。何かあれば私達も動くのである。そうじゃよなバーフェンス?」


「ふん。当たり前だ。俺は魔聖だ。その辺りの常識は弁えている。」


ヘヴィーに続いてバーフェンスが賛同の意を示した事で、この話題については結論が出た事となる。ヘヴィーは報告の終了を告げる。


「上手くまとまったようであるの。私からの報告は以上なのである。」


ウオオオオォオォ


準決勝2試合目の様子を映していたモニターから歓声が響く。


「やっと終わったか。まぁボチボチの試合だったな。」


セラフの言葉通り勝敗が決していた。シャイン魔法学院の勝利という形で。



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