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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-7-7.対抗試合準決勝



審査室では街立魔法学院、ダーク魔法学院、シャイン魔法学院の教員達がザワザワと話し込んでいる。ついさっき終わった準決勝1試合目について話し込んでいるのだ。何せプレ対抗試合で注目を浴びた高嶺龍人が、対抗試合で初めて構築型魔法陣を使ったのだ。それなりに思う所があるのが普通である。そんな教員達の様子を部屋の端で眺めているキャサリンも街立魔法学院の生徒達の戦いぶりを思い出していた。


(龍人、火乃花、遼、レイラの相手はダーク魔法学院で1番手のチームだったはず。それを相手にほぼ完勝するなんて…。まるで【あの子達】の時みたいね。)


キャサリンが【あの子達】の時を思い出している時だった。ズゥゥゥンという深い地響きが審査室を…いや、中央区を揺らした。


「今の揺れは…?」


同じく異変を察知した他の教職員達も周りを見回している。試合会場には特に大きな異変も無い。しかし、何もなかったと言うにしては大き過ぎる地響きだった。中央区の何処かで誰かが喧嘩でもしたのか。はたまた何処かでテロでも起きたのか。

審査室に一種の緊張感が走る中、試合会場には次の準決勝進出者が魔法陣から出ていた。どうやら司会者には準決勝を進めるように指示が出ているらしく、両チームの紹介が始まっている。


1つのチームは街立魔法学院所属のルーチェ=ブラウニー、サーシャ=メルファ、スイ=ヒョウ、バルク=フィレイア。

もう1つのチームはシャイン魔法学院所属のマーガレット=レルハ、マリア=ヘルベルト、ミータ=ムール、アクリス=テンフィムス。


両チームは緊張感を漂わせる雰囲気で対峙していた。


司会者の試合開始のアナウンスが流れ始める。


審査室の教員達は揺れの原因が分からず戸惑った顔をしているが、視線は自然と会場の方に向けられつつあった。

丁度試合が始まるのと同じタイミングで1人の係員が審査室に飛び込んで来る。


「た、た、大変です!誰か!誰か!」


突然入ってきて騒ぎ始めた係員に審査室は再びざわめき始める。動揺…というよりも入り口でテンパっている係員に奇異の目を向ける人の方が多いか。


係員は審査室がそういう雰囲気になっている事すら気付かない。


「誰か…!治癒魔法を使える人は!?急がないと!」


この言葉で漸く怪我人が居るであろう事を理解したキャサリンは係員に近付いて声を掛けた。但し、優しくではなく厳し目の声で。彼の雰囲気からして一刻を争う事態である可能性も高い。話を的確に引き出す必要があった。


「どうしたの?治癒魔法って事は、誰か怪我でもしたのかしら?」


「は、はい!ルフト=レーレさんとミラージュ=スターさんが…!」


「ルフトとミラージュ?」


キャサリンは係員から出た名前に眉根を寄せた。相当の実力者である2人が大怪我をする状況というのはほぼ考えられない。となると、2人が誰かと喧嘩でもして大怪我を負わせてしまったのか。


(ミラージュなら感情的になって魔法をぶっ放す事もあり得るわね。)


「あの2人が誰を怪我させちゃったのかしら?」


「ちちち違うんです!2人が重症なんです!とくにミラージュさんは一刻を争う容体で!!」


シン…と診察室が静まった後、教師達は一斉に動き出す。1番に動き出したのはリリス=ローゼスだった。リリスは係員に詰め寄ると肩に手を置いた。


「係員さん。案内して!私が看るわ。」


「は、はい!!」


リリスと係員が走り出すと、キャサリンや何名かの教員も彼等を追って走り出した。




リリス達が係員に連れられてやって来たのは、試合会場のロビーを通った先にあるVIPルームの1つだ。

部屋を開けて中に入ったリリスは目に入った光景に思わず絶句してしまう。


そこにはボロボロの服で左腕から血を垂らすルフト。そして、横たわっているソファから腕をダランと垂らして一切の未動きをしないミラージュだった。恐らく意識も手放してしまっている。


「大変…!すぐに治療するね!」


リリスは2人に駆け寄ると治癒魔法を発動した。


少し遅れてVIPルームに到着したキャサリン達が見たのは、治癒魔法で治療に当たっているリリスの姿だった。全員がルフトとミラージュの怪我を見て絶句する。


(ルフトとミラージュがここまでの怪我を負うなんて…。何があったのかしら。………それにしてもリリスの治癒魔法は凄いわね。流石は「癒しの天使」の異名を持つだけあるわ。)


キャサリン達が見る前でルフトの傷はみるみる塞がっていく。だが、キャサリンが感心したのはその点においてでは無い。リリスはルフトに治癒魔法を掛けつつ、ミラージュには治癒魔法と分析魔法を掛けているのだ。複数の魔法を同時使用する事で治癒に掛かる時間を短縮し、分析魔法で状態を詳しく分析するので間違った治癒をする事もない。魔法街戦争においてはこの技術で多くの負傷者を救ったのだ。故に付いた渾名が「癒しの天使」という訳だ。リリスの柔らかい笑顔に惚れるファンが多く、笑顔に癒されるという意味合いが少なからずともこの異名に含まれているのも多少なりとも否めないが。


15分程度の時間を掛けて治癒魔法を行使し続けると、リリスは魔法を止めて息を吐いた。


「治療は済んだのかしら?」


ルフトとミラージュの見た目は既に無傷の状態になっているが、あくまでも外見上の話だ。外からは分からない怪我というものもある。だが、キャサリンのそんな心配をよそにリリスはにっこり微笑んだ。その天使スマイルにキャサリンの後ろにいる数人の男がドキッとしたのはもちろん秘密だ。


「うん。もう大丈夫だと思うよ。本当に危ない状態だったから、久々に本気出しちゃった。」


「そこまで…。この2人がそんな状態になる事自体が信じられないわ。」


「そうだね。ただ…気になる点が1つだけ…。」


「おい、ここから?ルフトとミラージュがいんのは。」


キャサリンの後ろからラルフの声がする。いつものふざけた感じではなく、真面目な時の声質にキャサリンは「何かある」と感じ取っる。恐らくラルフなら何かしらの事情を把握しているのだろう。


「ラルフ。あの子達は何の任務に行ってたの?」


「お、キャサリンか。俺も何の任務に行ってたのか知らないんだよ。普通だったら学院生の魔導師団が何の任務に行ってるかの情報は全部入ってくるんだけどよ。」


ラルフすら知らない内容の任務。一体どれだけ危険な任務についていたのだろうか。

VIPルームの入口に集まる教師陣や野次馬を掻き分けて部屋に入ったラルフはリリスを見て表情を幾分か和らげた。


「リリスか。…じゃあルフトとミラージュは大丈夫か。」


「ラルフ…。一応大丈夫よ。ただね…。」


リリスは何かを言おうとするが、入口付近にひしめく野次馬達を見て口を噤む。それを見たラルフが野次馬をどかそうと入口の方を向く。するとまたもや聞きなれた声が野次馬の向こうから聞こえたのだった。


「ほいほい。どいてもらえんかのう?私もそこまで暇ではないのである。はいはい。通して欲しいのである。」


場違いスレスレの呑気な声の主はヘヴィー=グラムだ。短髪の白髪を撫でながら部屋に入ってきたヘヴィーは部屋をさっと見回すと状況をすぐに理解する。


「ふむふむ。そういう事かの。では、まずは人払いをする必要があるでの。」


そう言うとヘヴィーは入口付近にいる野次馬に声を掛けた。


「お主ら…入口から離れてくれるかの?これは魔聖としての命令なのである。こんな所でこの肩書きを使うのは些か気が引けるんじゃが、まあしょうがないでの。」


魔聖の言葉が出た瞬間に野次馬達は不満そうな顔をしながらもすぐに入口付近から離れていった。満足そうに頷いたヘヴィーは部屋のドアを閉めるとリリスを見る。


「ではリリスよ。念には念をじゃ。この部屋に防音の結界を張れるかの?」


「あ、はい。分かりました。」


リリスが結界を張ると、ヘヴィーはラルフとキャサリンの顔を見て神妙な面持ちで頷く。


「さて…と、まずはリリス。この2人を治療して不自然に思った事はあるかの?」


「あ…はい。ルフト君は普通に外傷だけだったんですけど、ミラージュさんは外傷に加えて身体中に毒が回ってました。」


「…毒!?」


ラルフは予想外の言葉に思わず耳を疑い、聞き返してしまう。


「おかしいな…。毒を操る魔法なんてあったか?」


「ラルフよ。少し落ち着くのである。毒を与えるのが魔法とは限らないのじゃ。戦いの手段も魔法が全てでは無いのである。魔導師団として活躍するお主なら分かるじゃろ?それにじゃ、私達が知らない属性の魔法がまだまだ存在する可能性も十分にあるのである。」


「えぇ。まぁそうなんですが。それでも魔法じゃないとして、その手段を使う奴が魔法街にいること自体が…。それに、魔法だとしても何故そんな奴が魔法街にっていう問題もありますね。」


「待て待て。詳しい話は本人に聞くのである。どうやら目覚めたみたいじゃしの。」


ヘヴィーの言葉通り、ルフトが薄っすらと目を開けていた。そしてソファーに横たわるミラージュもゆっくりと身体を起こそうとしている。


「あれ?ここどこ?」


周りをキョロキョロ見回すルフトは自分がどこに居るのか把握していないようだ。


「ここは対抗試合会場のロビー奥に設置されたVIPルームよ。ミラージュを必死に抱えて飛び込んできたあなたを係員が案内してくれたらしいわ。覚えてないの?」


部屋に来る途中に別の係員にルフトが来た時の状況を確認していたキャサリンが眼鏡を上げながら答えると、ルフトは苦笑いをした。


「はは…。必死すぎて全然覚えて無いっすね。」


「本当に心配したんだよ?2人共危ない状態だったんだからね。」


咎めるような雰囲気で言ったのはリリスだ。これにはミラージュが答える。ついさっきまで倒れていたとは思えないハイテンションで。


「リリスちゃん!それにラルフちゃんも!みーんな私のために集まってくれたんだねっ。いやぁ人気者は困っちゃうんだよ。」


「お、おいおい。さっきまでやばかったんだろ?だったらもう少し大人しくしてた方が良いんじゃないのか?」


「そんな事出来ないんだよっ!だって久々にラルフちゃんが近くにいるんだもんー。あ、リリスちゃん、別に浮気とか不倫相手になるつもりはないから安心してねっ!


「ふふ。分かってるから大丈夫だよ。」


ハイテンションで騒ぎ出したミラージュを前にしても優しい微笑みを崩さないリリスを見てキャサリンは感心してしまう。


(さすがはラルフの妻ってとこかしら。まぁ、ラルフと結婚してそうなったのか、元々そう言う性格の持ち主かは分からないけど…。)


もはや誰にも止められないテンションでラルフにじゃれつき始めたミラージュを他人事の気分で(実際問題として他人事であることに間違いは無いのだが。)眺めていたキャサリンは先ほどからヘヴィーとルフトがやけに静かな事に気付いた。

ルフトは口は笑っているが、目は真剣で何かについて考えていることを窺わせる。そしてヘヴィーは腕を組んでずっと静止したままだ。そのヘヴィーが口を開く。


「ラルフよ。そろそろ本題に入りたいのであるが、いいかの?」


「うぉいミラージュ!お前はどこを触ってんだ!」


「別にいいじゃんかー!」


「あ、ヘヴィー学院長、こいつをひっぺがすから待ってて下さい。」


「…全く、しょうがないでの。」


そう言うとヘヴィーは杖を取り出して一振りした。すると、ミラージュは魔法にかかった様にふわっと浮くとソファーに向かって移動していく。


「えっ!?ちょっとヘヴィーちゃん!私の至福の時間を奪うだなんてーーーー!」


騒ぐミラージュをフル無視してヘヴィーは申し訳なさそうに顎を掻きながらキャサリンとリリスを見る。


「悪いんじゃが、2人は席を外してもらえるかの。お主らが知ってはいけない話が出て来る可能性もあるんじゃ。」


学院長であるヘヴィーに言われてしまっては、従う他ない。キャサリンとリリスは目線を合わせて頷くとドアに向けて歩き出した。そして振り返る事なくドアを開き外に出る。ドアを閉める瞬間にチラッと部屋の中を盗み見ると、何やら深刻そうな雰囲気が漂っていた…と思ったのは気のせいかどうか。


部屋の外にはまだ野次馬達が集まっていたが、キャサリンが首を横に振ったのを見てある程度の事態(自分達には知り得ない問題が関わっていること)を理解したのだろう。肩を竦めたりしながら野次馬達は其々の居るべき場所に戻って行く。


ふぅ。と息を吐いてかはキャサリンは横に立つリリスを見た。


「さて…と、私達はどうしようかしら?」


それに対してリリスは困った様に首を傾げるのだった。



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