11-7-6.対抗試合準決勝
博樹の周りには地面から大量の蔓が生えており、蔓同士がねじれるようにして絡み合い巨大な蔓と化していた。いや、もはやそれは蔓というサイズを超えている。例えるならそう…巨大な幹と表現する方が正しいか。それ程の太さになるまで絡み合った極太蔓は唸り音を立てながら振り下ろされる。
「レイラ!」
「うん!」
遼の声に合わせてレイラが防御障壁を展開して巨大な蔓を受け止める。
ピシィ
「え…遼君、すぐに破られちゃうかも。」
レイラの言葉通り、蔓を受け止めた防御障壁の一面にヒビが広がり始めていた。巨大な質量に加え、高速で振り下ろされたことでレイラの予想を超えた威力が発揮されたのだ。本来、レイラが全力で防御障壁を張れば博樹の蔓に押し負けることはない。だが、それにはそれ相応の魔力を消費するため、博樹の蔓にそれ程の威力は無いと無意識に判断したレイラが、これまた無意識に魔力をセーブしてしまった事が原因に挙げられる。
そして、問題はこの無意識という点にある。通常であれば防げるはずのものを防げなかった場合、相手の魔法の力が想像より強いと判断基準を修正することになる。例えその原因が自身が無意識に魔力をセーブしていたとしてもだ。言い換えるならば、無意識に魔力をセーブしたからこそ、そう思い込んでしまうのだ。
通常、結界の類は魔力を更に注ぎ込むことで修復や強化を行う事が出来る。だが、レイラは博樹の使う巨大蔓の威力が防御障壁では防ぎ切れないくらいに途轍もなく大きいと「勘違い」し、1度後ろに引くことを選択してしまった。
ここで強気に防御障壁を強化していれば…と、レイラはすぐに後悔をする事になる。
博樹の蔓は防御障壁を破壊すると絡み合っていた蔓同士を解く様にして遼とレイラに向かって伸びたのだ。一瞬の抵抗も虚しく、蔓がに巻き付かれた2人は身動きが取れなくなってしまう。
145cmのレイラの身体が蔓に締め付けられていく。背が小さい割には良い体をしているレイラのボディラインが蔓によって分かりやすく浮き上がっている。
「へぇ。レイラって意外に胸あるんじゃない?」
「うんうん。…って仲間がピンチなのに見てる場所おかしくねっか??」
火乃花のコメントに思わず頷いてしまった龍人は慌ててツッコミを入れるが、そんなツッコミ程度では火乃花を誤魔化せるわけが無かった。
「龍人君しっかり見てるじゃない。流石は恋する男なだけあるわね。」
「いやいや!恋するとか関係無く男なら見ちゃうでしょ…って違ぁう!」
「ふふっ。まぁもう少し様子を見ましょ。私の知ってるレイラならこれ位簡単に切り抜けるわよ。」
「…くっそ、完全にやられたわ。はぁ…。ま、じゃあ俺も静かに見てるわ。」
火乃花に上手くやられて悔しい龍人だったが、その感情の行き場もないので大人しく観戦することにしたのだった。
そんな呑気な会話が繰り広げられる横で、遼とレイラは必死に戦っている。
「レイラ…大丈夫!?」
「う、うん。ごめんね。私が油断しちゃったから…。」
「気にしなくていいよ。とにかくこの状況を切り抜けよう。」
「うん!」
蔓が更に締め付けを強くしてくる中で、遼は僅かに動く手首を巻きついている蔓の根本に向け、斬撃弾を放った。見た目は普通の弾丸だが、直撃すると斬撃効果を発生させる魔弾だ。同じ箇所に連続で当てる事で一気に蔓を切断する。
遼が蔓から解放されたのとほぼ同じタイミングでレイラは自身の周りに小規模な無属性衝撃波を放ち、絡みつく蔓を引き千切った。
「…僕の蔓を簡単に抜けるんだね。これはヤバイかも知れないね。」
そう呟いた博樹の額には薄っすらと汗が滲んでいた。今の蔓攻撃は博樹が使える魔法の中でもかなりの高レベルに属する魔法なのだ。巨大な蔓を作るために必要な大量の蔓を発生させるのには、それなりの魔力を消費する。その攻撃を防がれたという事実は少なからずとも博樹のメンタルにダメージを与えていた。
蔓から解放された遼が取った行動は静止だった。勿論、ただ静止をしている訳では無い。普段余り使わない魔弾形成に挑戦しているのだ。威力は確実に高いが形成するのが難しく、更に魔力消費量も高い。だが、相手に直撃した時のダメージは恐らく遼が使える魔弾の中で1番を誇るであろう魔弾だ。
「レイラ、少しだけ耐えてもらっていい?」
「うん、任せて!」
遼は本格的に魔弾形成に入る前に牽制の意味を込めて、弾速が非常にゆっくりな拡散弾を数発放った。一般的にあり得ない速度で飛ぶ弾の為、相手の警戒を生ませる事が出来るはずなのだ。そして、遼の予想通りに動き出そうとしていた博樹は警戒して足を止めていた。その間に全力で魔弾の形成を進める遼。拡散弾が博樹の手間で弾け通常の弾丸から散弾へと変化すると、博樹は自身の前に植物を出現させて散弾を防ぐ。そして、植物はうねる様に動くと魔弾を体内に吸収し、蕾から遼達に向けて吸収した魔弾を吐き出した。
(あの植物、攻撃を吸収するんだ。…となると、この魔弾が吸収される前に突き抜けられるかが勝負だね。あと、1発だと駄目だ。せめて3発から4発は撃たないと…!)
魔弾形成が進むにつれて双銃が輝き始める。それだけの魔力を注ぎ込んでいる証拠だ。
博樹が撃ち返した魔弾を防いだレイラは双銃を握って魔弾形成に集中する遼を心配そうに見る。普段の遼からは魔弾を形成するのにここまで時間が掛かるのは想像出来ないのだ。
「遼君…大丈夫?」
額からひと筋の汗を垂らした遼はフッと身体から力を抜くと、レイラの方を向いて微笑んだ。
「お待たせ。予定より多めに魔弾形成をしたから時間が掛かっちゃった。ありがとね。」
「…良かったぁ。相手の森博樹君、全然攻撃してこないね。気をつけた方がいいかも。」
「そうだね。どっちにしろ俺の魔力はこの攻撃ですっからかんになりそうだし、最後の勝負になりそうだね。」
「私も出来る限り頑張るね。ただ、博樹君が使う属性がよく分からなくて遮断壁も反射障壁も使えないんだ。ごめんね。」
「大丈夫。レイラに頼みたいことは1個だけなんだ。」
そう言うと遼はレイラに耳打ちをした。それを聞いたレイラはやる気に満ちた目でしっかりと頷いた。
「じゃ、行くよ?」
「うん、任せて!」
やる気満々のレイラをみて微笑んだ遼は博樹に向けて1発の魔弾を発射した。
それに合わせて博樹も動き出す。魔弾に対しては吸収してカウンターをすべく、先程と同じ植物を出して防御にあたる。同時に地を這うようにして蔓を伸ばし、本命の攻撃である地中を進む蔓による攻撃をカモフラージュする。
だが、博樹は読み誤っていた。遼が放った弾丸…螺旋弾の威力を。螺旋弾は高速で螺旋回転の軌道を取りながら真っ直ぐ突き進み、博樹の出した植物にぶつかると螺旋状の衝撃波を放った。植物は螺旋弾を吸収する前に衝撃波によって弾き飛ばされてしまう。
(え…嘘!?)
博樹は慌てて魔法壁を前面に張った。そこに着弾するのは後続の螺旋弾だ。1発の威力はかなり重く、魔法壁がギシギシと悲鳴を上げている。
一方、博樹の放ったカモフラージュの蔓はレイラの防御障壁によって阻まれ、地面から突き出して攻撃する予定だった蔓もレイラが足元に張っていた防御壁によって防がれてしまっている。
要するに、博樹の攻撃は全く通じていなかった。
(このままじゃ確実に負けちゃうよね…!でもどうすれば…。)
そうこう考えている内に、更にもう1発の螺旋弾が魔法壁に直撃…博樹の魔法壁はパリィンという小気味良い音を立てて砕け散ってしまった。更にもう1発飛んでくる銃弾に対して博樹は右に身を捻って回避を試みる。螺旋弾は着弾時の威力が大きいが、弾速はそれ程速くない。螺旋軌道から離れてしまえば問題はない…との判断だった。
しかし、今まさに飛んできている魔弾はそもそもに置いて螺旋弾では無い。螺旋弾と同じ軌道を描くようにして放たれた重力場を形成する重力弾だ。魔弾形成で螺旋弾を作る時に難しいのは螺旋軌道ではなく、着弾時に螺旋状の衝撃波を放つようにする事だ。因みに、螺旋回転で飛んで行くのは単に螺旋の衝撃波を放つ様に魔弾形成した副作用である。そこの読みの甘さが、博樹の上に広がった重力場によって動きを封じる重力となって襲い掛かる。
「ぐっ…!」
重力場は博樹の上にあるが、今回使った重力場をは重力の起点が違う。重力場を起点としてそこに向けて重力を発生させるのではなく、この星にある重力を重力場の範囲内に於いて倍増させているのだ。
動けなくなった博樹が顔を上げると、額に冷たい感触。それは遼の持つ銃口だった。
完全なる王手の状況に博樹はぐったりと頭を垂れると呟いた。
「僕達の負けだよ。降参です。」
こうして対抗試合準決勝1試合目は幕を閉じた。




