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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
652/994

11-7-5.対抗試合準決勝


四方から放たれる闇の圧力から防ぎ切るのが困難だと判断した龍人は、転移魔法陣を展開しての回避を選択する。

龍人が消えた空間で激突した4つの闇は互いに反発しあって漆黒の爆発を引き起こした。


「うわー…。あれ喰らったら即負けだろ。」


文隆から距離を取る位置に転移した龍人はその爆発を見て冷や汗を垂らす。

龍人が威力を倍加させた光槍は龍人が転移をした瞬間に合わせて闇盾を突き破っていた。転移によって視界から離れた隙に突き破っていたため、文隆が安全圏に移動していたのを確認するのが遅れ、光槍は観客席の下を大きく抉るにとどまっていた。


(いや…もしかしたら闇盾が破られる前に、俺の転移に合わせて解除したのかもな。そうすれば一瞬コントロール下を外れた光槍から逃れるのは簡単だし。強い魔法ほど方向の制御が難しいっていうウィークポイントを上手く突かれた…ってとこか?)


どちらにせよ攻撃を避けられたという事実は互いに変わりがない。龍人も文隆も相手の次の動きを待ち、膠着状態へと状況は変化する。


ここで龍人の視界に火乃花が戦っている様子が映った。デイジーの放つ溶解液を焔鞭剣で斬ったり、焔球で相殺したりしている。


(あれって複合魔法を使ったら簡単に切り抜けられんのに。俺だったら…。…………ん?俺だったら?)


自分の思考に何か引っ掛かりを感じた龍人が見ている先で、火乃花は焔鞭剣の先から強力そうな焔の弾丸を放ってデイジーを倒していた。チームメイトの勝利を確認しながら龍人は自身の思考に感じた違和感の正体を探っていく。


(俺だったら…複合魔法でアレを切り抜けて、何回かフェイクを入れつつ…倒すよな。……なるほど。確かにそれが俺の戦い方だわ。って事はだ……ははぁん。)


火乃花と目があった龍人はニヤリと笑う。その笑みを疑問に思ったのか火乃花は不思議そうな顔をしていたが、最早そんなのは関係なかった。

龍人は夢幻を1度仕舞うと、文隆に向けて失踪を開始した。


文隆は両手に闇の塊を生成して迎撃態勢を整えている。その両手の闇からは強力な魔力を感じるが、龍人は負ける気が全くしなかった。


本来の得意とするスタイルを忘れて…というよりも、無意識に違うスタイルで戦っていた事に気付いた龍人はワクワクした気持ちで一杯だった。果たして今本気で戦ったらどうなるのか。自分に対する興味が湧き出てくるのだ。本来のスタイルを忘れていたのは確かに悔しい。だが、それよりも本来のスタイルで戦える楽しみの方が遥かに大きかった。


「いっくぜ!!」


龍人は熱の塊を水で覆った球を発射する。それは文隆の少し手前で中の熱が一気に膨張し、周りの水を蒸発させて大量の水蒸気を発生させた。これによって文隆の視界が一時的に遮られた。

文隆はすぐに龍人が居るであろう方向に闇を放つが、そんな当てずっぽうの攻撃が当たる訳がない。龍人は冷気を水蒸気に向けて一気に放射、水蒸気が空気中で凍り、ダイヤモンドダストとなる。キラキラと光る極小の氷は幻想的な雰囲気を作り出していた。


(よし!)


龍人はダイヤモンドダストに向けて極細の光属性レーザーを連射する。そして、ダイヤモンドダストによって乱反射したレーザーが無作為に辺りを走り巡り、文隆に襲い掛かった。龍人はその様子を見ながら右手の先に魔法陣を直列で展開していく。今の攻撃で文隆を倒せるとは微塵も思っていなかった。その程度には思える実力者だと文隆のことを評価していた。

そして、その評価通りレーザーが荒れ狂う領域の内側から闇が漏れ出はじめ、次の瞬間にはダイヤモンドダストごと文隆の周りにあるものが闇によって吹き飛ばされていた。


「ふぅ…。本当に高嶺は強いんだねぇ。あんな魔法の使い方を出来る人が同じ1年生に居るとは思わなかったよ。複合魔法に擬似的な複合魔法を取り入れてくるなんてね。しかもそれが本命の攻撃の為の布石だなんて。…いや、今君が展開している魔法陣こそが本命なのかなぁ?本当に侮れないよぉ。だから、俺も全力でいくよぉ?」


文隆の全身から闇が迸る。闇は凝縮していき、凝縮された状態でサイズがどんどん膨れ上がっていく。


「おれの全魔力を込めた闇砲だよぉ。小賢しい真似はしないで、分かりやすい単純勝負といこうじゃないか。」


「…いいねぇ。そういうの好きだぜ。力勝負…受けて立つ!」


龍人は半身の体勢で文隆に向けて右手を持ち上げる。その手の先には直列展開された魔法陣が連なり、筒の形を作っていた。その魔法陣の一部が分解構築を開始する。ほんの数秒でそれは収まり、魔法陣が光り輝き始めた。


龍人と文隆の視線が交錯し、2人の間の空間は時が止まったかのように静かになる。そして、2人は同時に魔法を発動した。


文隆が放つのは極太の闇レーザー。


そして、龍人が放ったのも極太の闇レーザーだった。


(さっき魔法陣を分解構築していたのは…俺と同じ闇属性の魔法に変えるためなんだろうねぇ。やるじゃないか高嶺!)


同じ属性で攻撃してくるということは馬鹿にされていると捉えることも出来る。だが、文隆はそう捉えない。何故なら、単純勝負と持ちかけたのは文隆自身だからだ。龍人はその文隆の言葉を受け、属性の相性という言い訳が出来ない同じ属性を「選んでくれた」のだ。


2つの闇レーザーがぶつかる。


威力は…ほぼ互角。敢えて言うならやや文隆が優勢。


(もし高嶺が光属性の魔法を使ってたら一気に貫かれてたかも知れないねぇ。)


属性の相性関係において光属性は闇属性にたいして有利な関係にある。攻撃力が同じ数値の光魔法と闇魔法が衝突した場合、光魔法が相性によって闇魔法を打ち破るのだ。今、同じ威力で鬩ぎ合う闇の極太レーザーだが、龍人が光のレーザーを選んでいれば…文隆は今この時点で負けていただろう。


だが、この属性の相性はあくまでも指標の1つに過ぎない事を忘れてはいけない。属性魔法に込める魔力量によっては不利属性の属性魔法が耐えきる事もあり得るのだ。全てはその場で相手がどれだけの魔法を放ってくるか。そして、その魔法に対する魔法に込められた魔力の量がどうなのか。これらの要素が合わさる事で天秤の傾きが変わるのだ。


水を蒸発する焔もある。

焔に燃やされない蔓もある。

光にかき消されない闇もある。

闇に呑み込まれる光もある。


全ての魔法は相性関係の中にあるが、相性関係の枠を超える事も容易いのだ。


しかし、それはあくまでも一般論。今この状況において違う属性の魔法がぶつかっていたとしたら、恐らく後で言い訳のネタとして使われるのだろう。


くどいようだが、龍人は「敢えて」文隆と同じ闇属性を選んだ。この世の中に、全ての属性を操れる魔法使いは数えるほどしか存在しない。殆どの魔法使いは、親から受け継いだ2つの継承属性と生まれながらに授かった先天的属性の3つの属性を使っていく。いや、その3つの属性しか使う事が出来ない。限られた枠の中で最大限に能力を発揮していく方法を其々が模索していくのだ。

龍人はその殆どの魔法使いではなく、限られた魔法使いの方に属している。それは、どの魔法使いと戦っても有利に勝負を進められるという事でもある。だからこそ、龍人は男と男の対等な勝負の時には逃げない。自分を上に置かない。相手と対等な立場に立って勝負をするのだ。まぁ、強いて言えば龍人自身が負けず嫌いな性格をしているのも少なからずとも影響はしているのだが。


龍人がそういった考えのもとで闇属性を選んだ事を何となく察していた文隆は、闇のレーザーに魔力を込めながら小さく笑った。


(高嶺…面白いねぇ。真っ直ぐだねぇ。…だからこそ、負けられないねぇ!)


グンっと文隆が放つ闇レーザーの威力が上がり、龍人の右手がミシミシと悲鳴をあげ始める。


(ぐっ…。一気に出力を上げてきやがった。このままだと押し切られるぞ。今この場面で他の属性魔法を使うのはあり得ないし…。そんなら全力でこっちも出力強化をするしかないか!)


龍人は右手の先に展開にしている魔法陣に向けて分解された魔法陣の素体を飛ばしていく。それらは元ある魔法陣の筒を1サイズ大きくする形で構築していく。そして、最後のワンピースがはまる。

文隆の放つレーザーの威力は凄まじく、龍人の展開する魔法陣にはすでに数本のヒビが入り始めている。恐らくこの強化した魔法陣で押し勝つことが出来なければ負けるのは龍人だろう。これ以上耐えて魔法陣を更に強化する時間も殆どないと言える。


(だけど、このままじゃまだ勝てるか分かんねぇよな。耐えらる時間ギリギリで出来る事は………あ、あるじゃん。)


龍人は魔法陣の素体を更に飛ばし、小さな修正を加えた。


「よし…行くぞ!!」


ひと回り大きくなった部分の魔法陣が光り輝く。龍人が放つ闇レーザーが一瞬震え、威力を一気に向上させた。


「やる…ねぇ!」


再び均衡状態となった2つの闇レーザーの接点から制御下を離れた闇が周りのリング上を破壊し始める。だれから見ても互角、このまま魔力が尽きた方が負ける。と観客達の殆どは予想していた。


しかし、違う予想をする者も当然いた。その1人がラルフだ。モニター室から審査室に来ていたラルフは隣に座るキャサリンに声を掛ける。その声はなんとなく楽しそうであった。


「キャサリン、龍人と浅野文隆の勝負…どっちが勝つと思う?」


「何よ急に。普通に見てどっちが魔力を先に切らすかでしょ。そればっかしは分からないわよ。」


「なるほどな。キャサリンはそう読むか。よしっ。じゃぁ俺はそろそろ次の試合のアナウンスがあるからモニター室に戻るわ。」


「あら、自分の生徒達の試合を最後まで見ないの?」


「あぁ…もう結果は見えてんだよな。」


そう言うとラルフは手をヒラヒラさせながら審査室から出て行った。

キャサリンはラルフの背中を無言で見送ると、何か見落としていた点が無かったか思い出してみる。そして、ある点にすぐに思い当たった。


(まさか…そういう事かしら?そうだとしたら…本当に凄いわね。)


キャサリンの見つめる先で画面にアップで映し出されている龍人の口端が持ち上がった。


文隆の放つ闇魔法は途轍もなく威力が高く、龍人の魔法陣にはヒビがどんどん増えていた。このままいけば、魔力切れをする前に魔法陣が砕け散って龍人が負けてしまう。だが、龍人には確信があった。「勝てる」という確信が。そして、その根拠となる闇レーザーを放っている魔法陣で未発動の部分を発動させた。


すると、龍人の魔法陣から放たれている極太の闇レーザーが魔法陣側の根元から少しずつ回転を始めた。それは文隆の闇レーザーとの接点まで伸びていき、レーザーの先端は面から鋭く尖った点へと変化する。


この変化によって勝負は一気に終わりを見せた。先端の鋭化と高速回転が加わった事で龍人の闇レーザーの貫通力が爆発的に上がり、文隆のレーザーを中心から拡散させながら突き進んだのだ。


(参ったねぇ。まさかここでもう一手打たれるとは思わなかったんだねぇ…。)


確実に魔法の技術の部分で負けた事をさとった文隆は目を瞑り、甘んじて龍人の攻撃を受けた。文隆の体力は龍人の闇レーザーを受けた瞬間に一気に5%以下まで削られ、それを感知したリングによって転送されていく。文隆のいた空間を突き抜けたレーザーは観客席に届く前に発生源の魔法陣自体が砕け散った事で、霧散して消え去ったのだった。


「危っぶね。マジでギリギリだったわ。」


文隆相手の力勝負で勝利を収めた龍人は力が抜けてストンと座り込んでしまう。すると、すぐそばに火乃花が歩いて来た。その顔は満足そうに笑っていた。


「龍人君お疲れ様。」


「おう。サンキュ。あとは…遼とレイラだな。」


「そうね。でも、もう勝負が付きそうよ?」


火乃花の言葉で龍人が視線を送ると、遼、レイラと森博樹の勝負はクライマックスを迎えようとしていた。







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