11-7-3.対抗試合準決勝
文隆はストレートボブはある髪を揺らして闇の拳を創り出す。それは腕に装着される形で現れ、次の瞬間には文隆が猛然と走り出し、これを合図に他の面々も動き出した。
博樹は足下から突き出した蔓に乗って龍人達に向けて突き進む。
クロウリーは発生させた鎌鼬にと闇を融合させて闇の鎌鼬を放つ。
デイジーは溶解液を地を這うようにして龍人達に向けて伸ばす。
4者4様の攻撃方法で一気に攻めてきた。
(えっ?これに対抗するの結構難しくない?)
遼の頭に一瞬不安が過ぎり隣の龍人を見る。…だが、龍人は不安とはかけ離れた表情をしていた。ニヤリと笑い、魔法陣を一気に展開するとパラパラと分解を始めている。やる気満々とはこの事。これこそが龍人と遼の決定的な違いでもある。
(…そうだよね。やるしかないもんね。)
遼は気を取り直して双銃を博樹の蔓と文隆に向け重力弾を発射する。同時に龍人はデイジーの溶解液に向けて冷気を、クロウリーの闇の鎌鼬に対しては魔法障壁を展開した。
重力弾は博樹と文隆の前で広がって重力場を展開する。そこに突っ込んだ蔓は軌道を下に向けて地面に突き刺さってしまう。その衝撃で宙に放り出された博樹は右手から横に蔓を斜め上に伸ばした。蔓は重力場の影響を受けて徐々にその向きを下に変えていく。そして、その傾きが地面と丁度平行になった所で文隆の足がこれを捉えた。文隆は遼の重力場に闇をぶつけ、一瞬重力が弱ったのに合わせて一気に跳躍したのだ。そして、もう一度跳躍するための足場を博樹が提供したことになる。結果、文隆の闇の拳が遼達に迫る。
一方、溶解液を凍らされたデイジーは腹の中で高笑いをしていた。
(ざまぁねぇな!私の属性を知らないからこんな事が出来んだよな。無知って恐ろしいわ。)
凍った溶解液はガキガキと形を変えると氷の針となって龍人達に向けて飛んでいく。
(おぉ!マジか。って事はデイジーは属性【氷】も使えるっぽいな。そうなると…溶解液を凍らせて無力化は不可能か。)
物理壁で溶解液の氷針を防いだ龍人はチラリと上を見て舌打ちをする。
「ちっ。今度はこっちか!」
宙高く飛び上がっていたクロウリーが放ったのは闇の針だ。数を数えることが不可能なレベルの闇針が龍人達を上から襲う。これを魔法壁で対応しようとした龍人に遼が声を掛けてきた。
「龍人!こっちは任せて!文隆をお願い!」
「…ナイス!」
遼は闇針に向けて散弾と拡散弾を連射して相殺していく。そして、龍人は闇の拳を振り下ろす文隆に向けて光をエンチャントした夢幻を切り上げた。闇の拳をと光を帯びた剣がぶつかり、互いに干渉しあって明滅を繰り返す。
「ぐっ…!」
苦しい声を出したのは龍人だ。強大な質量の闇の拳に対して光をエンチャントした剣では属性魔法の質量に差がありすぎる。龍人が押されるのは当然の理と言えよう。
龍人が文隆を迎え撃ったことで、他の相手に対する迎撃の手が止まってしまう。博樹はこのチャンスをしっかりと見極めていた。地面に手を当てて魔力を解放する。すると、リングにヒビが入り龍人と遼の足下に伸びていった。
(え…あの蔓を使う魔法って、属性【地】関係の属性なの!?)
蔓という植物を操ることから、聞いたことはないが植物関係の属性かと予想していた遼は意外に思いながらもステップでひび割れを避ける。
(いや、でも別の属性って可能性もあるかな?どっちにしろ思い込みは危ないかも。)
文隆と刃を交えている龍人は足下にひび割れが到達しても対処をすることが出来ない。遼は龍人の危険を察知して文隆が操る闇の拳に向けて爆裂弾を放った。着弾後の爆発に龍人を巻き込んでしまう可能性があるが、このまま足下のひび割れから何かしらの攻撃を無防備に受けるよりはマシと判断しての行動だ。
博樹が放ったヒビ割れがそれだけで終わる訳が無いのだ。何かしらの攻撃の予備動作と考えるの妥当であると遼は判断していた。
「マズイ…!」
爆裂弾を放った遼はすぐに左方向に銃口を向けて散弾を放った。クロウリーが右手に闇の刃を持ちながら突っ込んできたのだ。
「へっ。かかったな!」
クロウリーは遼が散弾を放つと横に大きく飛び退く。そして、その後ろから現れたのは溶解液の塊だった。散弾が溶解液に食い込むが、突き抜けるばかりで止める事は出来ない。
(魔法壁で受け止めつつ重力場で動きを鈍らせるしかない…!)
溶解液を何とか防ぎ、反撃のタイミングを見つけようとした時だった。爆裂弾が文隆の闇の拳に突き刺さって爆発を起こしてよろけさせ、上手く龍人が動けるようになったのと同じタイミングで博樹が作った地面のヒビから細い蔓が大量に伸び、龍人に絡みつき始めた。
「げっ!これは……むぐっ…。」
あっという間に蔓は龍人の全身に巻きつき、人型の蔓が完成してしまった。遼の努力も虚しく龍人は再び行動不能に陥ってしまった事になる。
「ははん。博樹ナイスなんだねぇ!これでまずは1人なんだよぉ。」
文隆は蔓でグルグル巻きにされた龍人に向けて両手を向けると、闇を凝縮し始めた。
(マズイ!!)
遼は文隆の闇魔法攻撃を止めるべく速度を最大限まで強化した貫通弾を撃ち出した。だが、その貫通弾は突如目の前に上から落ちてきたクロウリーによって軌道をそらされてしまう。
「俺たちを舐めてもらっちゃ困るんだよね。そんな簡単に攻撃させるかってーの。」
ナルシストっぽい雰囲気を出しながらクロウリーは両手に闇の刃をを生成すると、外側からクロスを描く様にして遼に斬りつけた。
「ぐっ…!」
遼は魔法壁でその攻撃を防ぐが視界の奥では文隆が闇の凝縮を終えており、後は放つのみとなっていた。タイミングとしては完全にアウトだ。全く動けない状態で攻撃を受ければ大ダメージを受けるのは必至。龍人が戦闘不能に陥るのはほぼ確実と言える状況が作り出されてしまっていた。
文隆が小さく呟く。
「これで、まず1人なんだねぇ!」
「さ、させるか!!」
遼は上に向けて飛旋弾を撃ち文隆を狙うが、そこの軌道に現れたのはデイジーだ。防御壁で飛旋弾を弾く。
「私達はそんなに甘くないんですよ?悪足掻きはみっともないですね。」
(けっ。今更ジタバタすんじゃねぇよ。この状況なら龍人さんを助けるんじゃなくて、目の前にいるクロウリーさんを倒して3対3の状況に持っていくのがベターってもんでしょ。)
口では穏やかに言いつつ、心の中で悪態を吐いたデイジーはここで1つの可能性に思い当たる。
(…まてよ。)
視線をリング上に巡らせたデイジーはその可能性が現実味を帯びていることに気づいた。
「文隆さん!その攻撃、待ってください!」
慌てて文隆に攻撃の中止を呼びかけるが、時既に遅し。文隆は「え?」という疑問の表情を浮かべながら闇を龍人に向けて放っていた。凝縮された闇は唸り音を立てながら龍人に向けて突き進む。
その龍人と文隆の前にそれが現れたのは、偶然では無かった。デイジーが気づいた通りの事態になってしまったのだ。
凝縮された闇の前に現れたのは反射障壁【闇】だ。それは闇を受け止め、クロウリーに向けて反射する。
「よし。そろそろ龍人に文隆の攻撃が当たるだろ。」
遼の魔法壁を闇の刃でジリジリと押し込みながらチラッと振り向いたクロウリーの目の前には…文隆が龍人に放ったはずの闇魔法が迫っていた。
「はぁ!?なんで!?」
闇がクロウリーに直撃する。魔法壁などの防御措置を取っていなかったクロウリーは背中にモロに闇が直撃し、錐揉み回転で吹き飛んで行った。壊れた人形のように地面に落ちるとギリギリと顔を上げる。
「くそっ。なんで俺がこんな目に合わなきゃ…ぐわっ!!」
巨大な火球が倒れたクロウリーに直撃。体力が5%以下に低下したのを感知した腕輪によってクロウリーは転送されていった。
「よし、これで先ずは1人ね。」
クロウリーが消えた場所に降り立ったのは、赤いロングヘアーが特徴で、ぱっちりとした二重瞼、はっきりとした鼻立ち、そして何よりもそのグラマラスな体型からオタクサークル巨乳倶楽部にファンが多数いる霧崎火乃花だった。火乃花は龍人に向けて指をパチンと鳴らす。すると、蔓に巻かれた龍人を包み込む様にして地面から火柱が立ち昇った。その火力に蔓は一気に焼かれて墨と化す。
「あっっっっっちぃ!」
蔓から解放された龍人は涙目になりながら火乃花を睨みつけた。
「おい火乃花!少しは助け方ってもんがあんだろうが!マジであっちいぞ!」
「な~に言ってるのよ。カッコつけて2人で勝つみたいな事を言っておきながら、あんたが1番最初に倒されそうになってたじゃないのよ。私とレイラが助けに入らなかったら負けてたでしょ?」
「いやいやいや!今のは蔓に巻かれて動けないふりをして、相手に1撃必殺レベルの攻撃を放たせて、その隙を狙って転送魔法で後ろに転送してばっちし倒す作戦だったんですけど!おかげで攻撃するタイミング逃したじゃん。」
「…もしかして、遼君のあの焦った攻撃も全部演技?」
火乃花にジロッと睨まれた遼は慌てて顔の前で両手を振った。
「いや、俺は普通に龍人が倒されそうだと思ってたから、演技でもなんでもないよ。」
その言葉を聞いた火乃花は軽くため息を吐いた。
「つまり、この会場にいる全員を騙してたってわけね。ほんと頭が回るわね。」
「え。騙してたとか言い方酷くない?俺、結構真面目にやってたんだけど。」
龍人がブスっとする横にレイラが近寄ってくる。
「龍人君、私は龍人君がまだ戦えるって分かってたよ。でも、火乃花さんが行くわよって動いちゃって…。ごめんね。」
シュンと項垂れるレイラ。それを見た龍人は焦る。
「いやいや!レイラは悪くないよ。皆に予め言わないで動いた俺と、最後まで我慢が出来ずに動いちゃった火乃花が悪いんだ。気にすんなって!反射障壁で守ってくれて助かったのは事実だしさ。」
そんな風にレイラに言葉をかける龍人に火乃花がカツカツと近寄っていく。
「ちょっと?何で私も悪者になってるのよ。大体こうなったのはあんたの責任でしょーが。それに、予め言うも何も…どうせ蔓に巻かれた時に思いついたんでしょ。」
「思い付いたのはそのタイミングだけどさ、俺は任せろって言ったじゃん。それを信じないで動いたのはさぁ…。」
「あのー。そろそろ試合再開しないのかなぁ?」
ヒートあっぷしつつある龍人と火乃花にのんびりした声で割り込んだのは文隆だ。その文隆に対して龍人と火乃花はすくみあがりそうな視線をジロリと送る。
「火乃花。俺はあの浅野文隆を倒すわ。さっっきのままじゃ悔しくて寝れねぇ。」
「あらそう。じゃぁ私はあそこにいるお淑やかぶってる女…デイジー=フィリップスだったかしら?を倒すわ。あーゆータイプの女って嫌いなのよね。」
「じゃぁどっちが先に倒すか勝負な。」
「いいわよ。」
そう言うと龍人とレイラはクルッと背中を向けて戦闘態勢に移行する。
「えーと、じゃぁ俺はレイラと森博樹を倒そうかな。レイラ、それでいい?」
「あ、うん。いいよ。じゃぁ私達も頑張ろうね。」
「あーと、うん。そうだね。頑張ろうね。」
そうして龍人と文隆、火乃花とデイジー、遼&レイラと博樹の構図が完成する。ついさっきまで言い合いをしていたとは思えない雰囲気の変わり方にダーク魔法学院の3人は気を引き締める。
(これは…本気で行かないと簡単に負けそうなんだねぇ。)
文隆は龍人の動きを全身の感覚をフル動員して観察し、動きに備える。
(私がお淑やかぶってるだって?…今まで私がどれだけ苦労して猫かぶってきたと思ってんだ。それをぶっ潰そうとしやがって!あの巨乳女なんかズタボロにしてやるわ。)
デイジーは溶解液で火乃花を恥ずかしい姿にしてやろうと心に固く誓う。
(え?なんでぼくだけ2対1になってるんだろ?)
自然と不利な構図に巻き込まれた博樹は下唇を突き出して真剣にテンパり始めていた。
7人は互いに対峙した後、同時に動き出した。




