表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
647/994

11-6-5.対抗試合予選~龍人と火乃花〜



今ここに居るメンバーは、それぞれ龍人の秘密を知っている。だが、知っている内容はあまり被っていなかったりもする。遼とは時々話をしているが、それでも遼が全てを知っているわけではない。


話すのは簡単だ。だが、話す事で危険に巻き込む可能性があることを龍人は恐れる。恐れるからこそ、龍人は1つの質問を投げかけた。


「あのさ、俺が今置かれてる状況って多分普通ではないんだ。そんでさ、それを知る事で巻き込まれる可能性は十分に高いと思う。俺の為にそうなっても…いいか?嫌なら話すのは難しいと思うんだ。」


「私はいいよ。龍人君にはいつも助けられてばっかだし。私が龍人君を助けない理由は無いもん。」


ニッコリと笑ったレイラの言葉は龍人の胸の奥にスーっと染み込んでいく。

続けて遼が口を開く。


「俺もそれ位の覚悟はあるよ。そもそも森林街で起きた事件が俺達の始まりだよね。アレは龍人だけの問題じゃないしさ。今更何かを隠されても困るのが正直な感想だよ。」


遼は微笑んだりせずに只ひたすらに真面目な表情で龍人に想いを伝えた。親友の素直な気持ちは龍人にとって何よりも嬉しいものだった。

残るは火乃花だ。火乃花は顎に指を当てて真剣に龍人を見つめている。何かを考えているのだろう。全員が静かに火乃花の言葉を待つ。たっぷり5分程沈黙した後に火乃花はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。それは、火乃花が今まで言わなかった本当の気持ちが伝わるものだった。


「私ね、街立魔法学院に入るまでは1つの目的…強くなる事、自分の為に強くなる事だけを考えてたの。私の家って、極属性家系じゃない?弱ければそれ相応の相手と結婚させられることになってるのよ。私は自由に生きたかったの。だから、強くなるしかなかった。でもね、私は龍人君、遼君、レイラと出会って変わったんだ。もちろん他の上位クラスのメンバーとの出会いも同じよ。私はね、私が大事だと思う人達を護ることが出来る位に強くなりたいの。…そう思ったのは、夏合宿で龍人君が刺されたのがキッカケよ。あの時、本当に絶望が私を襲ったわ。今まで感じた事がない程の恐怖だった。それまでは気づいてなかったの。仲間っていう存在が私の心の中に居て、それを大事に思っている自分がいる事を。私は…同じような思いはしたく無いわ。そして、仲間に対する私の気持ちも無下にしたくない。龍人君…こんな事言うの恥ずかしいけど、あなたは私の大事な仲間、友達よ。その龍人君が危ない目に遭うのを黙って見ているつもりは無いわ。そして、何も知らずに全てが終わってるのも嫌。私達を仲間だと思ってるなら、話すべきよ。…いえ、話して欲しいわ。」


真っ直ぐ龍人を見つめる火乃花の眼はどこまでも透き通っていた。その瞳を受けた龍人は心を決める。仲間と共に立ち向かう事に。そして、助け合っていくことを。


「火乃花、遼、レイラ…ありがとな。これから話す事は他の誰にも言わないでくれ。」


3人は龍人の言葉に頷く。それを確認した龍人は語り始めた。


森林街でレフナンティが滅ぼされ、その主犯の名がセフ=スロイである事。

夏合宿の最終日に龍人と火乃花が戦った所に現れた男…その男がレフナンティを滅ぼしたセフだった事。セフが「里の力」というものを探していること。だが、その力が何なのかは未だに不明である事。

魔獣事件でサタナス=フェアズーフにレイラが捕らえられ、助けた事。その前後でクリスタルの盗難事件があり、それらを裏で操っていた女がユウコ=シャッテンという事。そして、その女はレイラが囚われていた施設に居た事。そして、ユウコとセフが一緒にいた事。

禁区で知った思念体の謎。


龍人は魔法街に来るきっかけとなった事件から、魔法街で体験してきたことを余す事なく全てを話していった。

龍人の長い話が終わった後、遼、レイラ、火乃花は驚きや納得が混じったなんとも言えない表情をしていた。火乃花が考え込むようにしながら口を開く。


「今の話を纏めると魔法街で動物を使った実験をしてるのが…サタナス=フェアズーフ、セフ=スロイ、ユウコ=シャッテンが所属する何かしらの組織って事よね。そして、その実験にはきっとクリスタルが必要で、実験から魔法を操る動物か生み出されて、更にロジェスって男も実験の影響であんな姿になった…かしら。」


遼が頷く。


「そうなるね。あとはレイラを監禁した理由が不明かな。それと、レイラから魔力を吸ったっていうサタナスの魔法…なのかな?も、気になるね。」


「あ…それなんだけど、クリスタルって魔力の結晶体だよね?それなら私の魔力を吸い取ってクリスタルを作ってたんじゃないかな?」


レイラの意見に遼は首を捻る。


「それは無いんじゃないかな?龍人の話だとユウコって女の人が組織的に集めてたみたいだし、人1人の魔力から作れるクリスタルの数なんてたかが知れてるよ。何かは分からないけど、別の目的があるはずだよ。魔法を使う動物関係の実験に関わるんだと思うけど…。」


「そっか…。」


レイラなりに考えた意見だったのだが、遼に否定されてシュンと落ち込んでしまう。


(あれ?俺、何か間違った?)


冷や汗をかき始める遼を見て火乃花は心の中でため息をつく。


(全く…。完全に否定する話し方をするからじゃない。案外遼君って鈍いっていうかなんて言うか…。)


このままだと部屋の空気が変な事になりそうだと感じた火乃花は助け舟を出す事にする。


「とにかくサタナスの目的は分からないんだから、ここで色々推測してもしょうがないわ。それよりも龍人君。」


「ん?俺?」


火乃花にいきなり名前を呼ばれた龍人は「なんのこっちゃ?」という感じで火乃花を見る。


「これからは1人で突っ走らないでね。私達を頼る事。」


「ん。ありがとな。」


龍人は心の中で話して良かったと感じていた。自分にこれから何が降り掛かってくるのかは分からない。だが、その時に頼ることが出来る仲間が居るというのは心強いの一言に尽きる。


(やっぱり俺はもっと強くならなきゃ駄目だ。何かが起きた時にそばにいる仲間を守れるくらい強くならないと。そうじゃなきゃ駄目なんだ。)


龍人の脳裏にはレフナンティを護る為にセフに立ち向かい、散っていった護衛団達の姿が浮かんでいた。同じ事を繰り返してはいけない。繰り返させるわけにはいかない。

龍人はもっと強くなる事を、仲間を守る為に強くなる事を固く心の中に誓ったのだった。


今までは自分がいつか大きな何かに巻き込まれるという予感から、それを乗り越えるために強くなろうとしていた龍人。その強くなろうとする目的は、仲間として守りたい人達がいる事を認識した事で「大切な仲間」を守る為にという目的が変化していた。


それは、強くなるには必要不可欠な在り方の1つで。だが、その在り方は強くなる自分自身を置く位置が中心から外れることも意味する。この龍人の決意は、仲間に何かあった時に自分自身を犠牲にしてでも守るという選択をする可能性も含んでいる。それが正解なのか、不正解なのか、それとも…そのどちらでもないのか。

龍人はこの段階でそこまで深く考えてはいなかった。遼、火乃花、レイラという大切な仲間がいる事に感謝をする気持ちで一杯だった。だが、それでいいのだろう。まだこれから先に何が起きるのかは誰にも分からないのだから。


火乃花は龍人の方を見てコホンと咳払いをする。


「えっと、ちゃんと言ってなかったけど、構築型魔法陣を使うかどうかは龍人君の判断でいいと思うわ。確かに全力を出して戦うからこそ今の自分を越えるヒントを見つけることが出来る可能性もあるしね。その…色々とごめんなさい。」


そう言うと火乃花は龍人に向かって頭を下げた。


「お、おう。ありがと。ってそんな頭を下げて謝らなくて良いって!」


普段は比較的プライドが高めな火乃花が頭を下げるという異例の事態に龍人は逆に焦ってしまう。


「あ、そう?じゃぁもう謝らないわね。」


火乃花はすぐに頭を上げると意地悪な笑みを浮かべる。


「なんか上手くやられた気がすんな。」


「ふふっ。冗談よ。じゃ、これからもよろしくね。」


そう言うと火乃花は龍人に向けて右手を差し出した。龍人はにっこりと笑みを浮かべると、ガッシリと火乃花の手を握ったのだった。ここに龍人と火乃花のわだかまりは完全に溶けた。後は…対抗試合で優勝するのみである。


「はいはいは~い。通達すんぞ。」


モニターにラルフが現れる。


「今準々決勝の4試合が全て終了した。30分後に本日最後の準決勝を行うぞ。万端の準備をして試合に臨むようにな。」


ラルフがそう告げるとモニターはプツンと切れる。


「いよいよね。じゃぁ…基本的な戦い方と、その他の応用パターンの動き方をもう一回確認しましょ。」


火乃花の主導で準決勝に向けてのミーティングが始まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ