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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
643/994

11-6-1.対抗試合予選~龍人と火乃花~



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


対抗試合の控え室に戻ってきた龍人、火乃花、遼、レイラの表情は決して明るいものでは無かった。かと言って、予選で負けたわけではない。むしろ、余裕の圧勝と評する事が出来よう。

彼らが表情を曇らせていたのには別の理由があった。それは、龍人と火乃花の喧嘩だ。


予選は順調に勝ち進んでいて、次の試合に勝利すれば準決勝へ勝ち進むことが出来る。そして先程余裕の圧勝と言ったが、あくまでも他者から見た感想では…だ。


では、実際に戦っていた龍人達4人の感想はというと…「戦いにくかった」の一言に尽きると言えよう。

まず、普段は阿吽の呼吸で連携を組む龍人と火乃花がほぼ互いに干渉をしない状況が生まれていた。これによって、龍人と遼、火乃花とレイラの2組に分かれて敵チームと戦う構図になっていたのだ。通常の戦法として、決して間違ったものでは無い。だが、彼らの本来のスタイルとはかけ離れているのだ。


龍人と火乃花が近中距離主体で戦い、遼がサポートする形で遠距離から攻撃に参加。回復や防御でレイラがサポートに回ることで、龍人と火乃花が攻撃主体で魔法を使う事が出来るという4人での連携プレーが本来のスタイルだ。


それとは違う2人1組で戦うことで負ける事は無いとしても、1番戦いやすい状態を知っているからこそ…全員の心に少しずつフラストレーションが溜まりつつあった。


4人はそれぞれの椅子に座る。そして、訪れる沈黙。最初の予選以来、控室の雰囲気はずっとこのままだ。


沈黙に耐え切れなくなった遼が龍人に声を掛ける。


「ねぇ龍人、何でそんなに意固地になってるの?そろそろ仲直りしても…。」


龍人は横目で遼を見るが、腕を組んだまま目を閉じてしまう。話すつもりはないという意志の表れだろう。

それならば…と、遼は火乃花の方を向いた。


「火乃花もだよ。龍人が構築型魔法陣を使うかどうかにこだわり過ぎてると思わない?」


「…なによ。今日の試合は構築型魔法陣が無くても何とかなってるでしょ?それなら無闇矢鱈に使うものじゃないわ。人に見せれば見せる程、有効な対抗策が練られる確率が高まるのよ。それは龍人君にとって不利益になるのは間違いないわ。」


明らかに喧嘩腰な火乃花の態度にレイラはオロオロと火乃花と龍人の顔を見比べる。すると、龍人が閉じていた目をゆっくりと開いた。


「何言ってんだ?今日の試合、俺が構築型魔法陣を使ってればもっとスムーズに動けていた筈の所が多々あったぞ?そーゆー状況を制限した手持ちの駒で何とか乗り切るって意味あんのか?出来ることを全て最大限に活用しようと努力するからこそ、新たな発見もあるし、更に出来る事を増やす機会に巡り合うんだと俺は思う。まぁ、本当に使う必要が無ければ使わなくていいと思うけど、その逆はおかしいと思うな。」


火乃花は口を真一文字に結んで龍人を睨む。


「なによ偉そうに。あなた…夏合宿で自分がどんな目に遭ったのか覚えて無いの?あの男は龍人君が何かの力を持っているかを探っていたわ。私にはそれが何かは分からないけど、もし、その力を龍人君が持っているんだとしたら…それは構築型魔法陣に関係がある可能性が高いと思うわ。そんな状況で大勢の前でその力を使うなんて危なすぎると思わないの?」


龍人は動かずに火乃花を見つめる。遼とレイラからは静かに怒っているように見ているかも知れないが、龍人は驚きを隠すので精一杯だった。


(もしかして火乃花…俺の事を心配してくれてんのか?確かに夏合宿の時は死にそうになったけど、そもそも俺が狙われてただけ…いや、あれか。俺を助けに入った火乃花が刺されそうになった時に、俺が助けに入って刺されたんだっけ。…まだその時のことを気にしてんのか。)


龍人の中でのわだかまりが氷解していく。火乃花が構築型魔法陣にやけに拘る理由も全てが解決した。後は仲直りするだけ…だったのだが…。


龍人が何も言わないことをマイナスに解釈した火乃花が我慢の限界に達する。


「ちょっと、何か言いなさいよ?私が龍人君を心配する事すら邪魔って言いたいの?馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」


バンっ!


テーブルに両手を叩きつけて立ち上がった火乃花は口をワナワナと震わせ、次に出てくる何かの言葉を唇を噛み締めて抑え込んでいた。


「ちょっと落ち着いて!そんな熱くなっても何も解決しないって…」


火乃花を止めようとした遼だったが、ギロリと鋭い視線を火乃花に向けられると言葉は尻すぼみに小さくなっていった。レイラは口元に両手を当てて「ビックリした」のポーズでフリーズ中。もはやこの状況を変えるには龍人が何かを言うしか無かった。


「あのさ…。」


「いやー!楽しいねぇ!対抗試合はこーやって盛り上がるからいいんだよな。さてと

次の試合はこちら!じゃっじゃーん!街立魔法学院所属のこいつらと、ダーク魔法学院で優勝候補と目されるこいつらだ!さ、控室から早く出てこーい!」


やけに明るい声の主はモニターに映っているラルフだ。

完全に空気を読まないタイミングに、龍人も火乃花も呆気に取られてモニターに映るラルフを見る。


「ん?街立魔法学院の奴らが出てこないな。おーい。早くしろー。」


控室の中を微妙な空気が流れる。龍人が火乃花に何かを言おうとしていた事を全員が感じていたのだ。そして、それによって今のギスギスした状況が改善されるであろう事も。


「…よし。じゃあ試合に行くか。」


龍人は場の雰囲気を切り替えるようにそう言うと立ち上がり、何かを言いたそうな目をしている火乃花を見る。


「火乃花。俺には俺の信念がある。だから妥協は出来ない。だけど…火乃花が言いたい事は分かったつもりだ。」


そう言った龍斗は火乃花の返事を待たずして魔法陣に乗って転送されていった。


「火乃花さん…多分、龍人君は火乃花さんの気持ち…分かってくれてると思うな。だから、変に意地張らないでね。」


「なっ…!意地って…。」


心外そうな目を向ける火乃花にニッコリ微笑むとレイラも魔法陣に乗った。


「私って…頑固かしら?」


ブスッとしながら言う火乃花を見て遼はやっと気付く。火乃花が本気で龍人を心配している事に。


「火乃花。頑固かもしれないけど、俺はその頑固さは無くしちゃダメだと思うよ。」


龍人と火乃花の距離が離れてしまったと思っていた遼は、実は距離が近づいたからこその喧嘩だという事に気付き嬉しくなっていた。


「じゃ、行こう。まずは準決勝に駒を進めないとね。」


「え?まだ全然解決してないわ…って、行っちゃった。」


火乃花は自分1人だけ置いていかれている感に首を捻る。補足するが物理的に置いてかれているのは当然として、龍人との喧嘩が何故かほぼ終わりの様相を見せ始めているのだ。当の火乃花以外の3人の中では。


(…どういう事かしら。まだ何も解決してないわよね?私は龍人君が構築型魔法陣を使う事に反対のままだし。良くわかんないわね…一先ずは試合に出るしかないかしら。)


釈然としない気持ちを抱えながら火乃花は魔法陣に足を乗せた。



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