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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-5-9.知られざる存在



サタナスの横に立つ【其れ】は異形の存在である。ひと言で表すなら合成獣…キメラだ。但し、ついさっき現れたキメラ達とは違う部分があった。先程のキメラは各部位ごとに違う動物が充てがわれていた。今目の前にいるのは3種類の動物を組み合わせていた。まず、体の基本…後ろ足から頭まではカンガルーが使われている。そして、その首元からはライオンの頭と前足が生えたかのようにくっ付いている。つまり、カンガルーとライオンの頭の2つがあるのだ。思考回路がどうなっているのかと疑問に思うところだが、どちらの頭も動いていることから、2つの思考回路が上手く組み合わさっているのだろうか。そして、尻尾の代わりには蛇が生えており、チロチロと舌を出している。

カンガルー、ライオン、蛇。この3体が合成されたキメラは、ついさっきまでグッタリと倒れていた事を微塵も感じさせないほど強烈な圧力を発していた。


サタナスがキメラに話し掛ける。


「さて、気分はどうかな?いや…その前に聞くことがあったか。僕の言っていることが分かるかな?分かるなら話して欲しいのだが。」


その言葉を聞いたミラージュは眉間に皺を寄せた。サタナスのしている事が気違いじみていたからだ。そもそもキメラ…いや、動物が人と「会話」をする筈がないのだ。百歩譲って意思の疎通は出来るとしよう。だが、「話す」筈がない。

そんなミラージュの考えを読み取ったのか、サタナスは横目でミラージュを見ると小馬鹿にした顔をする。


「何か問題でもあるのかな?君は僕の実験を理解してないだろう?」


「………。」


ミラージュは言葉を発さない。サタナスが「意味もなく気違いな事をする訳がない」という事を思い出したのだ。つまり、気違いに見える行動に意味が存在するのだ。そこから導き出されるのは…。


(あのキメラが話すってこと?)


ミラージュの疑問はすぐに解決されることとなる。キメラのライオンの頭がサタナスを見上げると口を開いたのだ。


「ご…れば…どう…だ?」


サタナスの顔に狂気の笑みが再び張り付く。


「くくくくくく。これこそが僕の求めていたもの。さぁ、何を言いたい?もっとしっかりと話してみろ!」


「ご…ごればどうなっでいるんだぁ…。」


「ふむ。今の状況が知りたいのかな?」


「おじぇろぉ!おじえろお!」


この遣り取りにミラージュは言葉を発することが出来ない。動物が人の言葉を操るという事実に思考回路が付いていけないのだ。

サタナスはそんなミラージュの事を気にする素振りすらしない。むしろミラージュに背を向けてキメラと向き合っていた。


「くくく。君は自分の名前を覚えているかな?正確に言えば今の体になる前の名前だが。」


「おでのなばえ?」


「そうだ。」


「…おでのなばえなんだ?…おじえろぉ!」


「ふむ。意識は保っているが記臆の欠如が見られるか。それに知能も低下しているな。…ふむ。この程度ならアレの濃度を調節すれば可能性はあるか。…しかし、濃度が下がればそれ相応の…。」


「ぐるるるる。おではだれだぁ!」


「…五月蝿いな。まぁ良い。まずはこいつの実力を確かめるとしようか。」


そう言うとサタナスはミラージュの方に振り向いた。その双眸は獲物を見つけた猛獣のような光が輝いている。


「さて、ミラージュ。君にはこの実験体がどれだけの力を秘めているのかを確認するために、戦ってもらおうか。」


「なんで私がそんな事しなきゃいけないんだし!やーだもんっ。」


「ふふふ。それは無理な話だ。こいつの相手をしなければ、地上に集まっている対抗試合の観客達が犠牲になるぞ?それでもいいなら良いがな。」


「…卑怯。」


「なんとでも言うがいい。僕は僕の目的を達成する為ならば、どんな手段も厭わないと決めているのだよ。」


「その前にそこにいる【其れ】が何なのか教えてくれても良いんじゃないの?」


駄目元で聞いてみると、サタナスは意外にもミラージュの要望にすんなりと応じた。


「まぁ良いだろう。折角実験に参加してもらうのだからな。こいつがどれだけ素晴らしい存在なのかを教えてやろう。」


サタナスは隣で唸りながら控える【其れ】の頭に手を乗せる。


「グルルルルル。」


【其れ】は不快そうに頭を動かすが、サタナスは気にする事なく悠然とした態度で語り出した。


「この生物は僕が生み出したキメラ…合成獣だ。元々は沢山の動物の体を繋ぎわせていたのだが、ある程度数を絞った方が個体の能力を発揮しやすい事が分かったんだよ。だからこの3つ…ライオン、カンガルー、蛇を合成した。そしてだ、南区で実験させてもらった魔法を使う動物…魔造獣だ。これを組み合わせる事で魔造合成獣を完成させた。まぁ、だが問題があったのだよ。中々に攻撃的な奴らしか生み出せなくてな。アレでは私達の手に負えなかった訳だ。そこで私が目をつけたのは人間の脳だ。生物達の中で優秀な人間の脳なら動物の中に突っ込んでもある程度の知能を発揮できるのでは…と思った。そして、数多くの犠牲の元に完成したのがこいつだ。人の身だと理性を失ってしまうアレを使っても、合成獣の身だと理性が残っている!これは快挙なんだよ。そう、快挙だ!あとは魔法を使って並みの戦いをする事が出来れば文句なし。という事だ。」


サタナスの話を聞いていたミラージュは、その内容に思わず杖を強く握りしめる。


「つまり、合成獣の中に人間の脳を入れたってこと!?それって人殺しだよ!」


怒りのこもった目で睨み付けるミラージュに対してサタナスは涼しい顔を崩さない。


「何を言っているんだね?こいつはここで生きているじゃないか。元々は誰にも必要とされないゴミみたいな人間だったんだ。ここで僕の実験の役に立てて本望だろう。」


「そんなの…そんなの勝手すぎる!」


サタナスは顎に手を当てて考え込む仕草を取る。


「…ふむ。どうやら僕の崇高な考えを理解してもらうのは難しいらしいな。そろそろお喋りはお仕舞いにしようか。おい、あいつを喰え。そうすればお前が誰だか思い出せるぞ。行け、僕の初の魔造合成人獣…ヒューマノイドキメラよ!」


「グルルルルル。おで、おまえをぐっで思いだず!」


【其れ】…サタナスにヒューマノイドキメラと呼ばれた生き物は涎を撒き散らしながらミラージュに突進を開始する。全身から溢れ出る魔力の圧力が離れた距離に居るミラージュに押しかかる。


(これは…避けられないよね。戦いたくないけど…。でも、ここでこのままにしておく方が可哀想だよね。私…頑張るよっ!)


ミラージュは握り締めていた杖へ一気に魔力を送ると、初っ端から全力で魔法をぶちかます。


「一気にいくよっ!」


星型の光が流星群となってヒューマノイドキメラを迎え撃った。


「くくく。そうだ。僕の為に踊り狂うがいい。くくくくく…。」


低く笑うサタナスをギャラリーとして、ミラージュとヒューマノイドキメラの死闘が始まる。


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