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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
639/994

11-5-8.知られざる存在



その部屋の中には大量の資料が置かれていた。猫と書かれたファイルを開いてみたミラージュは顔をしかめる。猫を対象とした生体実験の結果、それに対する考察等がビッシリと記入されいて、更にその写真も添付されていた。


(こんなの…残虐すぎる。)


そこに載っていたのは、動物を物としてしか見ていないものだった。猫の足の可動域から関節のサイズ、そこを繋ぎあわせるならどの動物が可能な範囲であるか。猫の体はどの程度の衝撃まで耐えられるのか。一定の威力を出すように調節された衝撃波を放つ機械の前に何百匹もの猫が置かれ、吹き飛ばされ、その命を散らしていった事が伺えた。

他にも様々な残虐な実験と、その結果が記されていた。血液の何パーセントを失えば死ぬのか。両目をくり抜いても感覚だけで生きていけるのか。両前脚が無くなった場合どの様に生きていくのか。別の動物の部位を手術で取り付けたらその部位は脳に体の一部として認識されるのか。その際の神経経路に変化はあるのか。


そこに載っている実験に共通しているのが、全ての実験が合成獣を作る事を前提としたものであるという事だ。


ミラージュは湧き上がる怒りを抑えながら別のファイルに手を伸ばす。もしかしたらこんな実験をされているのは猫だけかも知れない。という縋るような期待を込めて。そしてサタナスへの怒りを抑えながら。


何冊か続けて開いてみるが、この部屋にあるファイルはどれも生体実験の結果を記したもののようだった。

つまり、この施設では非道な実験が行われ続けていたことになる。


(ほんと…酷いよね。動物たちのこと、なんて思ってるんだろ。)


ォォン


「ん?」


ふと雄叫びのような声が聞こえる。周りを見渡すが、特に部屋の中に変化は無い。しかし、何かが聞こえたことに間違いはなかった。ミラージュは警戒しつつ部屋の外の様子を伺う。


(何も…ないよね?)


部屋の外はミラージュが入ってきた時と同じ状態が保たれていた。


ォォォン!


再び雄叫びのような声がミラージュの鼓膜を刺激する。但し、今回は声だけではなかった。声と同時に魔力の波のようなものがミラージュを通過していったのだ。


「今のは…なに?」


魔力の波が発生するのは余程の魔力を纏った魔法使い以外にはあり得ない。何故ならば、それは無駄な魔力を体外に放出していることを意味しているのであり、基本的に高威力の上級魔法を使用する余波として発生する類のものだからだ。


(もし今の雄叫びを上げてる動物が魔力の発生源だったら…。物凄い魔力を秘めた獣が居るって事だよね?それって…もしかして魔獣が居るって事?)


ミラージュは魔獣に対して詳しく知っているわけではない。以前、魔導師団の任務で下級の魔獣と戦ったことはあるが、魔力の波を感じる程の力は有していなかった。つまり、最低でも中級以上の魔獣がいる可能性が出てくる。


(あ、でも雄叫びと同時に別の誰かが偶然って事も…。)


ォオォォォ!


再び押し寄せる魔力の波。


(…ないっか。そうすると、この雄叫びを上げてる何かが残りの部屋のどっちかにいるんだよね?私、別にルフトちゃんみたいに強い敵と戦うの好きじゃないんだけどなぁ。)


ミラージュは残りの2つのドアを眺める。正直、どっちのドアにも入らずに地上に戻りたい気持ちで一杯だった。

普通に中央区で良く行く喫茶店に入り、お気に入りのケーキと紅茶を楽しみ、南区に戻って大好きなラルフの所に行く。 そんな気軽な1日を過ごしたいのが本音だ。


(でも、そんな1日を護る為にも今頑張らなきゃ駄目なんだよね。 )


魔導師団に入った時に、ラルフから言われた言葉を思い出したミラージュ。


(…そうだよね。やんなきゃっ!)


杖を持つ手に力が入る。これから現れるであろう【何か】と戦う事を決意したミラージュは今出た部屋の左側にある部屋に向かう。魔力の波が飛んできた方向を考えれば、この部屋にその元凶となる【何か】がいるのに間違いが無かった。

ドアの前に立ったミラージュは息を吸い、薄く長く吐いて集中力を高めると…ドアノブに手をかけた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


コポコポ


ゴポゴポゴポゴポ


グルルルルルルルルル


ギリ


ギリギリ


部屋の中には実験筒から発する音が響き渡っていた。そして、実験筒の前に立ち、狂気の視線を送り続けているのはサタナス=フェアズーフだ。己の実験結果を腕を組み、笑いをこらえながら眺めていた。


実験筒の中に居る【其れ】の身体が波打つ。体に接続されたチューブから光が流れるたびに雄叫びを発する。


グルルルオオォォ!


「ふむ。思った以上の出来になりそうだな。さて、あとは【アレ】を埋め込んでどうなるかだな。予想ではこの体なら自我が保てる筈だが。」


サタナスは実験筒の前に設置されたコントロールパネルに近づくと操作を始める。


カタカタカタカタカタカタカタカタ


【其れ】の唸り声にキーボードを叩く音が混じり、異様な雰囲気をより演出する。


「よし。では、私の野望を叶える第1歩を踏み出すとしようじゃないか。」


サタナスはニンマリと笑うとキーボードのEnterを軽快に叩いた。


ブー!ブー!ブー!


警音が鳴り響く。

【其れ】の体から伸びるチューブの1つから灰色のクリスタルが流れていく。ゆっくりと、だが着実に【其れ】に近づき、身体の中に消えていった。

それと同時に実験筒の中にいる【其れ】は動きを止めた。微かに身体を震わせ、今までより一層大きく体を震わせると絶叫を放つ。


グルギャアアアアグオオオオオオオ!!


同時に魔力の波が【其れ】の体を中心に広がり、実験筒に亀裂が入った。


「ふむ。案外拒否反応が強いな。これは…失敗か?」


【其れ】がどれだけ強い魔力の波を放とうとも、全く動じる事無く観察していたサタナスは後ろで聞こえた別の音に振り向くと、意外そうに眉を上げ、口の端を持ち上げた。


「ふむ。テングは何をしているのか。それにしても思わぬ客とは本当に思わぬタイミングで現れるものだな。ようこそ。ミラージュ=スター。」


テングの視線の先には憤怒と表現出来るほどの表情をしたミラージュが立っていた。怒りの中に驚きの表情をも織り交ぜ、実験筒を凝視している。

その視線の先で【其れ】は身をよじり、口から大音量の咆哮を放った。


グルルルオオォォ!!!!


咆哮は衝撃波となり、内側から実験筒を破壊する。中に満たされたいた液体が外に溢れ、解放された【其れ】は床に降り立つ。そして、数歩歩いたかと思うと急に力を失って横に倒れてしまった。


「…なんなのこれ?」


「ふふふふ。これこそが僕が目指していたものを実現するための第1歩なのだよ。この世界にとって世紀の実験結果がここにあるのに、君は何とも思わないのか?なぁ、ミラージュよ。」


ミラージュにはサタナスの言葉を理解することができない。【其れ】は明らかに弱っていて、ピクピクと体が時々痙攣する程度の動きしか見せない。それの何処が成功なのか。そして、【其れ】の何処が世紀の実験結果なのか。状況を正確に理解するには情報が少なすぎた。

ただ、分かっていることが1つだけある。


(あのサタナスが生半可な実験をする訳ないよね。…なら、私はその実験を全部ぶち壊すよ!)


ミラージュはサタナスの問いかけに反応せずに、部屋の中を全て壊そうと魔力を溜める。だが、それを見たサタナスは余裕の表情でミラージュに向けて手の平を向ける。


「おいおい。待ちたまえ。この倒れた状態が実験結果の最終段階だと思っているのかね?ならば、違うと断言しよう。これからが見せ場なのだよ!」


サタナスの声に呼応するかのように、【其れ】の体を黒い光が包み始めた。そして、【其れ】はもう1度激しく体をビクンと痙攣させると、ゆっくり立ち上がった。


「くくくくく!はははははははは!見よ!ここに、ここに世紀の実験が成功した!僕の目指す世界は近いぞ!はは!はははは!」


両手を広げるサタナスの狂気じみた笑いが部屋に響き渡る。

ここに、1つの理を外れた生物が誕生した。


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