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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-5-6.知られざる存在



ルフトの右手を中心に全身を虚脱感が襲う。同様にミラージュも右足を中心にして虚脱感に襲われていた。


「なんだ?」


「なにこれっ?」


体力か減っていく感覚では無い。この感覚は高難度の魔法を行使する際に魔力が吸い取られていくそれと酷似していた。

それを引き起こしていると考えられるのは、ルフトの右手に付着してる青い炎と、いつの間にかミラージュの右足に付着していた青い炎だ。テングの日本刀で輝く青い炎と呼応するかのように2人に付着する炎も輝きを放っていた。


「ふふふ。流石は魔導師団に選ばれるだけのことはありますね。まだ、倒れませんか。」


「何なんだこの魔法?」


「そんな簡単に手の内を明かす訳ないじゃないですか。とは言っても、感覚的に気付いているのではないですか?そうであるならそれが正解ですよ。」


(って事は、魔力を吸収してるってなるよね。そんな魔法…聞いたことないよ。)


「ルフトちゃん、このままだとやられちゃうよっ。一気に決めるしかないって!」


ミラージュが焦った声を出す。それもそのはず。こうしている間にも物凄い勢いで魔力が吸い取られているのだ。魔力が枯渇して動けなくなるのも時間の問題と言える。


(多分この魔法は融合魔法なはず。そうすると、炎と何かの…それこそ魔力を吸収する2つの属性を融合させた結果で青い炎になってるんだよね。…それなら!)


ルフトは魔力の干渉領域を周囲に広げ、空気の操作を開始する。対象空間に設定するのはルフトの右手とミラージュの右足だ。その対象空間とその周囲30cmの酸素、窒素、水素に干渉し、酸素を空間内から除去、更にその他の空気を構成する物質を除去していき真空を作り上げた。


炎は酸素が無いところに存在することは出来ない。それを証明するかのように青い炎は小さくなり、消え去った。

テングは眉を上げて意外感を示す。


「へぇ。まさか僕の炎を無効化するなんてね。詳しい方法は分かりませんが…ルフトさんは先程から風魔法を多用していますね。つまり、風よりも上位の属性…そうですね、空気辺りでも使えるんですかね。そうなると空気を動かして真空状態を作り上げたという所でしょうか。」


完璧な推察にルフトは奥歯を噛みしめる。1度見ただけで使った魔法の仕組みをある程度理解されるというのは、イコール同じ魔法を使っても対処されてしまう可能性が非常に高いという事。目の前に立つテング=イームズが只の魔法協会中央区支部職員ではないことを改めて思い知らされる気持ちだった。同時に今の自分では叶わないのではないかという思いも胸の奥に浮かび上がってくる。テングの使う魔法は得体が知れず、今の所分かっているのは「青い炎を操る」「その炎が付着した部分から魔力が吸われる」といった漠然としたものだ。このまま闇雲に戦うのが得策ではないのは明らかだ。


次の動きを決めかねるルフトに気付いたのか、テングが日本刀を真上に向かって掲げる。


「さて、そろそろ決着といきましょうか。いつまでもあなた達と遊んでいるわけにはいきませんので。」


日本刀の刀身から一直線に青い炎が伸びる。それは一見、刀身が異常に長い日本刀にも見えた。


「いきますよ?」


テングの攻撃予告にルフトとミラージュは身構える。下手に攻撃魔法で応対した場合、突き抜かれて痛手を負う可能性が高い以上…ここは防御以外の選択肢が無いのだ。


青く伸びた刀身がフッと揺らめいたと思うと急激に巨大化する。次の瞬間には青い炎で創られた巨大な日本刀が聳え立っていた。そして、テングは体を捻る事で腕が引っ張られる力を利用して横薙ぎに一閃する。炎の刀身が迫る。


これに対してミラージュはすぐに魔法壁と防御壁を最大強化状態で多重展開する。魔法障壁や物理障壁にしなかったのは、多重展開できる数が減ってしまうからだ。多くの数を展開し相手の攻撃速度を衝突の衝撃で遅らせることで、反撃のきっかけや攻撃性質を見極める所まで考えての選択だ。


一方、ルフトは魔法障壁と防御障壁をそれぞれ3重展開していた。ミラージュが選択した防御壁の多重展開に比べて強度は勝るものの、耐えきれない攻撃を受けた場合にその攻撃がルフト自身に到達するまでの時間僅かにミラージュよりも早い。だが、敢えてこの防御方法を選択したのには訳があった。


まず、青い炎が魔力を吸収するという点。先程ルフトとミラージュの攻撃を受けても平然と立っていた事を考えると、恐らく攻撃魔法を吸収したのだろう。そして、それならば今迫りつつある青い炎の刀身が魔法壁と防御壁のの魔力を吸い取る事も考えられた。だからこその耐久力が高い魔法障壁と物理障壁だ。

まだ疑問点はある。今まで天狗が使っていた青い炎には不自然な程に熱量を感じなかったのだが、今回は刀身が伸びた時からチリチリと焦がすような熱がルフトの肌に届いていたのだ。今回の攻撃が純粋に炎としての攻撃なのか、それとも魔力を吸い取る炎としての攻撃なのか、はたまたその両方を兼ね備えた攻撃なのか。全てにおいて相手の攻撃が持つ特性が不明瞭過ぎたのた。


(この攻撃を喰らって…俺たち2人共立っていられれば…まだチャンスがあるはず!攻撃をするって事は、自分の使う魔法の特性を曝け出すって事だ。強力な攻撃を放ってきた以上、これを凌げれば少しは特性を掴めるはず…!)


青い炎の刀身がルフトとミラージュの防御壁、魔法壁に激突する。テングの攻撃はいとも簡単に魔法壁らを破壊し、ルフトとミラージュを吹き飛ばした。


「ぐぁっ…!」


テングは壁に叩きつけられ、


「きゃっ!」


ミラージュは床の上を転がる。

テングは日本刀を肩に乗せるとやれやれといって感じで呟く。


「この程度…ですかね。魔導師団と聞いて期待をしていたんですが…。まぁ所々でさすがと思う事もありましたが、それでもまだまだ甘い。生きるか死ぬか。その精神が全くありませんね。」


「なに…を…!」


痛む全身に鞭打って立ち上がったルフト。諦める気は全くないが、勝てるという感覚も全くなかった。


(さっきの攻撃…吸収を使ったのかすらも分からなかった。俺の障壁とミラージュの多重壁が触れた瞬間にガラスみたいに砕け散るなんて…。そんなに高威力には見えなかったけど、そうじゃないと説明がつかない…!)


この時点でルフトはまだ気付いていなかった。生きるか死ぬか。その場面で相手の攻撃を受けて特性を見るなどというのは甘えた選択肢だった事を。防御に徹すると決めた時点で心が負けていたのだ。


「まだ立ち上がってきますか。」


テングは呆れたような感心したような声を出すと、日本刀を収めようとする。


「…?なんだ。俺たちの相手は出来ないってか?へへっ。負けるのが怖いのかなっ?」


ルフトのあからさまな挑発にテングの動きが止まる。


「…。ついさっきまで僕にやられっぱなしだった割には強気ですね。」


「へへっ。もちろん!負ける訳にはいかないんだよね!」


ルフトは確かに心で負けていた。だが。それは先程までの事だ。「強い相手と戦いたい」その思いで魔導師団に入る事を決意したルフトが、今の状況で燃えないはずが無かった。

床に転がっていたミラージュも立ち上がると、闘志を秘めた眼でテングを睨み付ける。ルフトは横目でミラージュを見ると、声を掛ける。


「ミラージュ、テングが出てきた部屋に先に行っててくれ。俺、こいつを倒してから行くよ。」


ミラージュはルフトの顔を見る。テングを真っ直ぐ見つめるルフトの横顔は、何の迷いも無いスッキリとした表情をしていた。


(今のルフトちゃんなら誰にも負けなさそうだねっ。)


「分かった!じゃあ、先に行って実験関係のものを全部壊しておくね!にししっ。ルフトちゃんやる事なくなっちゃうんだもんね。」


そう言うとミラージュはテクテクとドアに向かって歩き出した。


「何を呑気なことを言ってるんですか。僕がその扉を通すと思っているんですか?」


テングが日本刀から通常の炎を出して攻撃しようとするが、ルフトから飛んできた風の弾丸がそれを阻んだ。当たりはしなかったものの、足下に着弾したそれは硬い材質で出来たはずの床に大きな穴を開ける。


「……。ついさっきと全然違いますね。そうですか…。それなら、さっさとルフトさん…君を倒すしか無いですね、」


テングはミラージュがドアを開けて先に進むのを止めずにルフトと向き合う。迷いがないルフトの攻撃は威力もさることながら、そこから感じるルフトの気合も全く違うものだった。


(たかが魔導師団。なんて思いそうになっていましたが、されど魔導師団…みたいですね。気を抜いたらやられる可能性もあると考えておかなければ痛い目を見そうです。ふふ、面白いじゃないですか。)


「行くぜっ!」


短く叫ぶとルフトは力強く床を蹴った。



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