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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
635/994

11-5-4.知られざる存在



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ドアに耳を付けて部屋の中の話し声を盗み聞いていたルフトはミラージュの方を向くと肩を竦めた。


「えっ?ルフトちゃんどーゆー事?」


肩を竦めた理由がイマイチ理解仕切れなかったミラージュは眉を顰めて小声でルフトに問い掛ける。


「いや、それがさ…ちゃんと聞き取れない上に、聞こえてくる単語が意味不明なんだよね。」


「んー?意味不明って例えば?」


「クリスタルが精神の侵食だとか、性質の変異による変化とか。なんかの実験っぽいのは分かるんだけど。」


「むむー。こんな分かりにくい難しそうなのは私はパスっ!乗り込んじゃう?」


「乗り込んじゃうのが良いと思うんだけど、下手すると警報とかなっちゃいそうじゃない?」


「にししっ。大丈夫!私達なら楽勝だよっ。」


ガチャリ


とミラージュと話すルフトの後ろでドアが開いた。そこから顔を覗かせたのは科学者の格好をした険しい顔の男だった。


「げっ。」


「ん?君達は何処の所属だ?」


「えっと、俺逹は…見習いで…。」


「おぉそうか。じゃあこちらにいらっしゃい。」


険しい顔の科学者科学者はルフトとミラージュを中に招き入れる。明らかに嘘っぽい嘘が受け入れられたことに不審感を感じながらも、ルフトとミラージュは言われるがままに部屋の中に入った。このまま見習いとして潜入ができるのなら、情報収集もし易いというものだ。


部屋の中はコンピューターで様々な演算が行われていたり、実験結果をまとめたと思われる紙を見ながら複数人の科学者が議論をしていたりと、実験現場らしい感じになっていた。


険しい顔をした科学者はルフト達を椅子に座らせると腕を組んで2人を見下ろした。


「改めて問おう。君達の所属は?そして、見習いは何を見習うのかな?」


「はい。動物の部位変換による挙動のシミュレーションを手伝うように言われてます。」


ルフトはさも当然の様にスラスラと答える。椅子に案内されるまでに必死に考えたのだ。

それを聞いた険しい顔の科学者はニンマリと笑う。


「成る程な。それはありがたい。」


そう言うと、白衣のポケットから何かの端末らしきものを取り出し、カチリとボタンを押した。


ブー!ブー!ブー!


途端に部屋の中に警報が鳴り響く。

それに合わせて周りの科学者たちはテキパキと資料を集め、パソコンの電源を落とすなどの作業を開始していた。

警報が鳴り響く中、獰猛な顔をした科学者は低い声を出す。


「我々の実験にそんなもの存在しない。つまらん小鼠共め。実験素材の力を試す機会だ。せいぜい足掻いてくたばるがいい。」


その言葉を合図にけたたましく鳴る警報の中にもう一つの音が混じった。ゴゴゴゴゴという、低い地響きのような音だ。


(何の音だ?)


ルフトとミラージュが警戒する中、実験関連の資料を片付け終わった研究者や科学者達は続々と部屋から出て行こうとしていた。気づけばルフト達を案内した科学者も足早に立ち去ろうとしている。


「おい待て!逃がさないぞ!」


ここまで盛大に警報が鳴っていれば、目立たないようにとか、静かにとか、そんな潜入的な概念は完全に捨て去るのが正解といえよう。

ルフトは圧縮した空気球を科学者達が逃げ出そうとしている入り口に向けて放つ。


ゴゴゴゴゴゴォォオン!!


と、大音量を出しながら床の一部分がが急にせり上がる。その床はルフトの放った空気球を防ぎ、科学者達と分断するようにして天井まで伸び、ドォンと重い音を立てて天井に突き刺さった。そして、部屋を分断した、床から現れたその壁が中央からゆっくりと地響きを立てて開き始めた。


「なんだってんだ!これじゃあ科学者達に完全に逃げられちまうっ。」


「ルフトちゃん…。これはちょっと嫌な予感なんだよ!」


壁が開いた中から出てきたのは…この世の生物としてあり得ない姿をした生き物逹だった。

ライオンの頭に熊の前足、馬の尻尾に牛の後脚、セイウチのような牙を生やし、蛇のような爬虫類の目を持っている。

他にも、様々な動物のパーツが組み合わさったとしか思えない動物が唸り声を上げていた。その数、合計で5体。

ルフトは一瞬目を丸くするも、すぐに戦闘態勢を取る。


「ミラージュ…これ、多分キメラ…ってやつだと思う。空想上の生物だと思ってたけど、こいつら実験で造り出しやがったんだ。」


「キメラって…あーゆー動物のこと?」


キメラが分からないのかミラージュはキョトンとしている。こんな場面でもイマイチ緊張感の欠けるミラージュはある意味大物と言えるだろう。頭が痛い半分、頼もしくも思いながらルフトは説明をする。


「キメラってのは、簡単に言うと複数の動物のパーツを合わせて、1つの動物にした生き物だ。この地上に存在する動物の1番優秀なパーツを組み合わせることで最強の生物を造る事が出来るっていう、いかれた科学者が唱えた説なんだけど…まさか本当に実現してるなんてねっ。」


「それって…そんなのって…生き物を冒涜してるよっ!!」


「ホントだよ。恐らくこの実験もサタナスがやったはずだ。…許せないね。」


サタナスの名前が出た瞬間にミラージュの纏う雰囲気が変質する。例えるならば、怒れる天使だろうか。


「ルフトちゃん…。私、こうやって造られたあの5体のキメラ…。可哀想すぎるっ。こんなまま生きていることが可哀想だよね。手…出さないで!」


そこまで言うとミラージュは杖を取り出し、魔力を一気に爆発させる。

それに呼応するかのようにして5体のキメラは一斉にミラージュに向けて走り出していた。


「すぐに、すぐに終わらせてあげるっ!」


ミラージュの持つ杖の先端にある薄紫の星型の宝石が強い光を放つ。そして、その宝石が走り寄るキメラ達に向けられた。


キィィィン


という音と同時に星型の光が大量に出現、流星群の様にキメラ達を飲み込んだ。圧倒的な光量により部屋の中が白に染まる。星型の光は次々とキメラを貫くだけではなく、最終的にキメラ達を包み込むようにして集まり、圧縮された大規模の爆発を引き起こす。


(相変わらず本気を出したミラージュはすごいねっ。)


爆発が引き起こした風に飛ばされないように踏ん張りながら、ルフトはミラージュの魔法に心の中で賞賛を送っていた。

ミラージュの使う魔法は属性【光】が主体だ。更に、その中でも強力な光魔法を星型をメインとして使う。彼女が使う魔法の破壊力は恐らく魔導師団の中でも指折に数えられるレベルの筈だ。


爆発の光が収まると、そこには【何も】残っていなかった。文字通り【何も】だ。そこにキメラ…合成獣が存在していた証拠すらも残らないほどに綺麗さっぱり消え去っていた。残酷と思うものもいるかも知れない。だが、それこそがキメラとして生み出されてしまった動物達へのミラージュなりの優しさなのだろう。

全てが消え去った爆発地点をみるミラージュの目には悲しみが宿っているようにも見えた。


パチパチパチ


突然拍手が部屋の中に響く。


「だれっ!?」


ミラージュが拍手が聞こえた方向に杖を向けると、そこにはテング=イームズが微笑を浮かべた無表情のような顔で立っていた。


「…やっぱりテングちゃんはこの組織の一員だったんだねっ。」


怒気を含んだ声でミラージュがテングに声を掛ける。一方のテングは平然とした態度だ。


「えぇ。今更隠す必要もありません。それにしても…僕に気付かせずに尾行するなんて、魔導師団を甘く見ていたかも知れませんね。僕の放った刺客も撃退してるみたいですし。」


「刺客?さっきのキメラちゃん達のこと?」


「……?…………なるほど。使えない奴らです。」


テングの右手が光ると一振りの日本刀が現れる。その切っ先をルフトに向けたテングの表情からは微笑が消え、相手の命を奪う事を厭わない冷たい底が見えない眼をしていた。薄く開かれた口から低い声が発せられる。


「全ては僕の責任ですね。ならば自分自身でケリを付けるしかない。君達にはここで死んでもらいます。」


テングは日本刀の切っ先を向けたまま走り出した。


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