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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-5-3.知られざる存在



ミラージュはクルリと回るとルフトに向けて指をさす。効果音で言えば「ドーン」的な感じだ。


「へへん!どうだルフトちゃん!参ったか!?」


地面げに胸を張って言っている様子からして、一応潜入中である事は完全に忘れてそうである。


「うん、参ったね。これは俺じゃあ看破出来なかったなぁ。」


「にしし。やっぱルフトちゃんは私が居ないとダメダメなんだね!」


因みにルフトはお世辞で言った訳ではない。確かに部屋に入った時に何かおかしい感じはした。しかし、魔法によって偽物の壁が創られていた事に気付くことは出来なかったのだ。ミラージュはその壁の存在を見破ったばかりか、その向こうにあるドアの位置まで見破っていたように見える。流石は魔導師団に選ばれる魔法使いであり、属性【幻】のスペシャリストである。


因みに、ミラージュが破った壁のあった所を調べると床、壁天井と一周するように魔法陣が描かれていた。恐らくこの魔法陣で幻の壁を創っていたのだろう。


実験室の中も一応調べてはみるが、特に不審なものは何も見つからなかった。つまり、この部屋は本来の目的を隠すためのダミーという事になる。

ルフトとミラージュは壁の中央にあるドアを開けて先に進む。


ドアの向こう側は下り階段だった。


(隠されてた割には埃があんまし積もってないね。ってなると、誰かが比較的頻繁に通ってるって事になるかぁ。まぁ、テングって考えるのが普通だよね。そうすると、テングが何者なのかが本当に気になる…か。)


前を進むミラージュは何故か楽しそうにピョンピョン跳ねながら階段を降りている。


その後ろ姿を見ながらルフトの背中には嫌な予感が走っていた。恐らくこの先にあるのはルフト達が追い求める答えがあるのだろう。しかし、その答えを知ってしまう事で、引き返せない領域に足を突っ込んでしまう様な感覚があった。


(まぁ、それが嫌だって言っても、今更引き返すって選択肢は無いんだけどね。)


下り階段が終わる。階段の先にドアは無く、開けた空間が広がっている様だった。ミラージュは既に先にその空間に飛び込んでいた。警戒心が全く感じられない。


ルフトも続いて開けた空間に足を踏み入れる。そこにあったのは…。


「なんだこりゃ…。」


「ルフトちゃん…これ、ヤバイって。」


「ミラージュ、これ…多分魔法協会南区支部の地下で行われていた実験の事、前に話したよね?それと同じ感じがするかも。」


「それって、サタナスが居たってやつだよね?あの変態…まだ魔法街にいたんだっ。」


サタナスの名前を聞いた瞬間にミラージュの目が怒りにメラメラと燃え上がる。


「まぁまぁ、まだサタナスが居るって決まった訳じゃないしさっ。それよりも、この空間どうしようかね。壊しちゃった方がいい気もするけど…。」


そう言うとルフトは再び部屋の中を見回す。そこにはおびただしい数の実験筒が並び、中には動物と思われる生物の「部位」が液体に浸されていた。


「壊すのは後だよ。まだ侵入してるのが見つかってない可能性もあるし、まずはこの地下施設の奥まで行く方が優先だよ。」


先程まで楽しそうにしていたミラージュが急に真面目モードに切り替わっていた。


(ん~サタナスの名前出さないほうがよかったのかなぁ。まぁ、真面目なミラージュは強くて頼りになるんだけどね。…攻撃的になり過ぎるところを除けばね。)


何故か不安要素が増えた気もするが、ミラージュの言っていることは間違っていないし、ルフトとしても賛成だ。ルフトは同意を示すと部屋の奥にチラリと見えたドアに向かって歩き出した。


ドアを開けた先は廊下だった。薄暗い廊下が長く伸びている。廊下は道分かれする事なくまっすぐ続き、突き当たりには古ぼけたドアが1つ。ドアを前にしたルフトはドアの向こう側から聞こえる話し声に気付くと、ミラージュに手で合図をして耳をそばだてた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ふむ。つまり、南区の魔導師団の連中がクリスタルのカラクリに気づきそうという事か。相当巧妙な方法で隠していたと思うんだが、意外に魔法街の連中も頭が回るとという事か。」


「そうですね。正直、僕も驚きました。魔法協会南区支部の担当者が直接来た時も驚きましたが…。あのルフト=レーレという青年、彼は中々に物事を考える力があるみたいですね。そして、どんなに理屈が通っていても鵜呑みにしないあの姿勢は、僕達の活動を円滑に進める点に於いて大きな障害となる可能性が高いと思われます。」


椅子に座ったサタナスが偉そうに言うのに対して、丁寧な口調で答えたのはテングだ。ルフトとミラージュが中央区支部を訪れて、計画の進行をより一層早める必要を感じたテングは、サタナスにその報告をするために直接「この場所」を訪れたのだ。


だが、そのテングの心配は杞憂に終わりそうだった。

サタナスは自身の後ろ、部屋の中央に鎮座する巨大な実験筒に視線を送ると、身動きの取れない獲物を前に猛獣が浮かべる様な、ネチっこく陰湿な笑みを浮かべた。


「ふふふ。まぁそこまで心配する必要はないだろう。ここ魔法街ですべき実験は既に最終段階に入っている。」


その言葉を受けてテングも実験筒に目をやる。サタナスがここ中央区支部の地下で行っていた実験と並行して行っていた、南区支部の実験内容については聞いただけだが、これで魔法街での工作が落ち着くと考えると…少しだけホッとした気持ちにもなるというものだ。


サタナスは立ち上がると白衣のポケットに入れていた両手をだし、実験筒に向けて両手を広げた。


「南区で行った魔法を使う動物…魔造獣。そしてロジェスがその身を使って完成させた魔造人獣。そして、この中央区で同時に進めてた合成獣。さらにその進化系である合成人獣!魔法街は本当に実験を進めさせてくれた!これらの実験の集大成が魔造合成人獣だ!ふふふふふふふふふふふふ…。僕の目的にまたひとつ近づく。世界の理を崩すのも時間の問題だ!」


ゴポゴポゴポゴポ


サタナスの狂気めいた自身に溢れた声に呼応するかの様に実験筒の中に居る【其れ】が身じろぎした。


(はは。この人は本当にイカれてる。)


テングは表情を崩す事はしない。例え仲間内であったとしても、この男に弱みを握られる事は、弱みを握られるキッカケを与える事だけはしてはならないのだ。

サタナスは喜びに満ち溢れた表情で話しを続けていた。


「いいか?テング。良く見るがいい。ここに合成人獣は完成している。後は魔瘴クリスタルを使うだけだ。人間の身体では魔瘴クリスタルに耐えられず、理性が崩壊してしまった。しかしだ、もし、もし、この合成獣の身体が魔瘴に馴染みやすいのだとすれば!こいつは獣の身体能力を持った、人の知性を有する魔法を扱う生物として誕生する!そして、この実験が成功すれば人間の新たなる可能性が開けるのだ!」


サタナスの話す内容は狂気のひと言に尽きるものだった。人間という枠組みを超えた人間を、人間の手によって造り出す。これが意味することの大きさ、そしてこれが成功してしまう事の恐ろしさは考えずとも分かるだろう。


ブー!ブー!ブー!


いきなり警報の様な音が部屋の中に響き渡る。サタナスは両手を下ろすとゆらりとドアを睨み付けた。


「ふむ。どうやら泥棒猫が入り込んだらしいな。…テング、先程言っていた奴らじゃないのかな?」


警報が鳴る前までの興奮した様子は完全に消え失せていた。その切り替えの早さには気味の悪さすら感じる程だ。


「そうでしょうか?尾行には極力気を付けてここまで来たつもりなんですが。…それに、地上の工場内にあるカムフラージュは簡単に破られるものではありません。」


「…そうか。まぁいい。実際に見て確認すれば良いのだからな。今この地下施設にいる戦闘要員はテング、お前のみだ。直ちに侵入者を始末してこい。」


「…分かりました。」


テングは表情を変えずにドアに向かって歩き出す。


「おっと、言い忘れていた。」


サタナスの言葉にテングは足を止め、振り返る。


「何でしょうか?」


テングの視線の先ではサタナスが不敵な笑みを浮かべていた。まるで勝利を確信しているかのよう。


「これから行う最終実験に30分程の時間が掛かる。必ずその時間は稼ぐんだ。」


「はい。分かりました。」


テングはサタナスに向けて軽くお辞儀をすると部屋を出て行った。


「ふむ。魔導師団が乗り込んできたとは厄介なことになったものだ。まぁテングが対応すれば大丈夫か。あいつの能力は特殊だからな…。ふふふふふ。さて、実験を始めるとするか!」


サタナスは実験筒から伸びたコードが接続されているパソコンに向かい、キーボードを軽快に叩き始めた。




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