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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-5-1.知られざる存在



今更説明するまでも無いかもしれないが、魔法街における中央区の立ち位置はとても重要なものとなっている。南区、東区、北区における通商の中心地として栄え、様々な商人が集うのが中央区だ。

魔法街戦争の終結後、各区間で直接何かをやり取りすることは基本的に行われていない。全て中央区が間に入る形で、各区間の交渉や

物品のやり取りが行われている。


故に、中央区には魔聖と呼ばれる魔法街の最高責任者はいない。魔聖が区のトップに就任しているのは南東北区と行政区だ。これは中央区に魔聖がいた場合、様々な権益を1人占め出来てしまう可能性があるからだ。


こういった背景があるので魔法協会中央区支部の支部長は、言い方は失礼になってしまうが普通に魔法学院を卒業したレベルの一般人が務めている。

飛び抜けた才能を持った魔聖達と対等、もしくはそれ以上に交渉を進める必要がある中央区支部長が一般人である以上、その下で働く者達も優秀な者が重用される傾向にあった。


テング=イームズもその1人である。

彼の出自を知る者は誰もおらず、唯一分かっていることはテングが魔法街以外の星から来た者であるという事のみ。

普通なら怪しまれるのだが、その疑問を吹き飛ばすほどにテングの仕事に関する能力は中央区支部の中でも飛び抜けていたおり、彼の出自に関して問い詰めるものは居なかった。むしろ、憧れの目で見られる程だ。


テングは支部の社員として入社してからほんの数年で重要なクリスタル関連を扱う部署の責任者に抜擢される。


それからの活躍は眼を見張るものがあった。

今まで中途半端であったクリスタルの各区における在庫管理と、入荷数に対する販売数の割合から各区における使用頻度を割り出し、過剰在庫を抱えないように調整。

それによって余ったクリスタルを他の星との交易品として輸出し、その利益は魔法街の財政を過剰レベルに潤わせる程である。


テングの手腕は行政区にも知れていて、エリートが働く行政区の何かしらの庁に引き抜かれると噂される程だ。


そんな魔法街の期待の星と言えるテングはデスクで束になった資料を確認していた。問題がある部分にマーカーを引き、メモ書きを付箋に残して貼り付けていく。

1時間ほどその作業を続けたテングは最後の付箋を貼り付けると息を吐いた。


「ふぅ。これで終わりですね。さて…と。」


デスクの横に置かれた鞄を持つとテングは仕事部屋を出る。長い廊下を歩くと向こうから歩いてくる人々が笑顔で挨拶をしてきた。


「やぁテング君。元気かい?」

「テングさんお疲れ様でした!」

「明日もよろしくなっ!」


それらの声に明るく爽やか、且つ丁寧に返事をしながらテングは魔法協会中央区支部を出る。誰にはなしかけられても嫌そうな顔は全くしない。これもテングが憧れの目で見られる理由の1つでもある。


外は相変わらずの混雑ぶりだった。

すぐ隣に対抗試合会場があるのもその要因の1つだ。中央区支部は毎日ランダムに建物の配置が決定される中央区において、基本的に中央区のど真ん中に固定されているのだが、今回は対抗試合会場を設置する関係上少し横にズレている。


対抗試合会場の側面には大型のスクリーンが設置され、会場内に入れなかった観客が試合の様子を眺めていた。このスクリーンはテングの手腕で潤った財政から、魔法街が機械街より購入したものだ。

テングも周りの人と同様にスクリーンへ目をやると、そこには見覚えのある人物が映っていた。


(…確か高嶺龍人でしたか。魔法陣を分解して再構築するあの技術…。)


試合は龍人達のチームが優勢に進んでいた。相手チームは遼の遠距離攻撃に隙を潰され、火乃花の高威力の魔法の前に次々とダメージを受けていた。


(それにしても…あの再構築する魔法陣を使っていませんね。展開型魔法陣のみですか。まぁそれだけでも十分にレアな能力である事に間違いはないですが。)


もう少し見ていたい気もするが、生憎テングはそれ程暇ではなかった。テングはチラリと周りを見回すと歩き出した。


中央街では対抗試合に合わせて各魔法学院のグッズなどが陳列されている。各魔法学院の建物がプリントされたクリアファイルや、魔法学院のミニチュアが水の入った丸いガラスに入っていて、降ると白い雪が舞う置物などなど。


テングは対抗試合の会場から遠ざかるようにして中央区の外側に向けて歩いて行く。


30分程歩いた頃だろうか。目当ての建物が見えてくる。ひと言で表すと工場…である。この工場はテングが中央区支部の上司に掛け合って機械街から仕入れた技術を形にするために作られた。今現在はモニターを製品化するために開発が進められている。

今でもテレビはあるのだが、あくまでもブラウン管程度の技術しか有していない。テングが目指すのは更に上の技術…液晶テレビの技術だ。この技術を実用化、さらに大量生産する仕組み作りをしていく事で、魔法街の生活レベルが跳ね上がるとテングは確信していた。


工場の入り口で中央区支部社員証を見せると、受付の男はビシッと背筋を伸ばした。


「お、お疲れ様です!」


「お疲れ様です。今日もお勤めご苦労様です。」


「はっ!今日も…研究室のご利用でいいでしょうか?」


「そうですね。少しばかし使わせてもらおうかなと思って伺いました。大丈夫ですか?」


「はいっ!勿論です!」


「ありがとうございます。それでは。」


「行ってらっしゃいませ!」


緊張した様子の男を見て口元を緩めるとテングは軽く頭を下げて工場の中に入っていく。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「この工場みたいだねっ。潜入先が工場だなんてシチュエーションはピッタシだねん。」


建物の陰からテングの様子を伺っていたルフトが楽しそうに笑う。一方、隣にいるミラージュは頬っぺたを膨らませて如何にも不機嫌ですという顔をしていた。


「私…潜入やだ!」


「そんな事いっても、普通にいっても中に入れてくれないも思うよ?それで入れなかったら相手を警戒させちゃうよね。」


「むー…。だからって私が苦手な潜入を選ばなくてもいいじゃんかー!」


「んー、俺には他の方法が思いつかなかったんだよねー。それにミラージュも他に方法は無いって納得したじゃん。」


「うぅ…。」


ミラージュがここまで潜入を嫌がるのには訳がある。ミラージュが扱う魔法は基本的に目立つ魔法が多く、潜入に向いていないのだ。その為、今までの潜入系の任務で見つからなかったことはなく、毎回潜入先との総力戦になって大破壊をする結果になっているのだ。


そんなミラージュの事情を知っているルフトは、それでも爽やかに笑う。


「ま、ばれた時はそん時に考えよっ?ミラージュは光魔法を使わないで、幻魔法でサポートに徹してくれれば大丈夫だと思うよん。」


(うー、その見てるだけとかが出来ないんだよー。私、外道な事とかしてるの見ると許せなくなっちゃうだもん。で、気付いたら毎回見つかってるんだよ。…でも、やんなきゃだよね。)


ここで言い合って、行きたくないと駄々をこねていてもどうにもならないのはミラージュも理解していた。そして、理解しているからこそ首を縦に振るしかなかった。


「分かったよっ!じゃあルフトちゃん約束して。私が我慢できなくなる前に相手を倒すって。」


ルフトは動きを止めてミラージュの目をじっと見つめる。恐らく過去のミラージュの行動を思い返しているのだろう。


「…確かに俺が直ぐに悪い事を止めないとだねっ。任せとけって!」


ルフトが作った一瞬の間にやや不安を感じるが、ここで引き返すわけにはいかない。ミラージュは半ベソみたいな顔をしながらもしっかりと頷く。


そして、ルフトとミラージュは工場の受付に向かって歩き出した。



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