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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-4-4.対抗試合予選



テングの部屋を出たルフトとミラージュは、中央区支部で働く他の誰かに聴き取りをする事なく玄関口へ進んだ。てっきり誰かに聴き取りをすると思ってたミラージュはテコテコ歩きながらルフトの背中に声を掛ける。


「あれ?ルフトちゃん?聴き取りしないの?」


ミラージュの問いにルフトは口元に人差し指を当てるーと悪戯っぽくウインクをした。ウインクの意味は分からないが、ここでは話せないという事だけは分かったミラージュは首を傾げながらもルフトについていく。


ルフトは受付のお姉さんに爽やかな笑顔で手を振って出口に進んだ。その後ろで受付のお姉さんがポッと頬を染めていたのを見たものは偶然にも誰もいなかった。こういう爽やかな仕草が、街立魔法学院に大勢のファンがいる理由の1つでもある。


ルフトに続いて中央区支部の建物を出たミラージュはもう1度聞く。


「ねーねー、何で誰にも聴き取りしないの?」


「んっ?ほぼ確実にテングが犯人だからねん。」


カラカラと笑いながら言うルフトに深刻さは全く感じられなかった。


「え?ホント?プライドは高いかなって思ったけど、断定する程だった?」


ハテナマークを浮かべまくるミラージュを見てルフトはニヤッと笑う。


「まずね、中央区を俺達が調べるって言った時に雰囲気が少し変わった事。そして、自分からベラベラとクリスタルについて話した事…しかも、それが俺達が聞いてた情報と全く同じで新しい情報を何も話さなかった事。で、最後に言った『帰り道もお気をつけください』の言葉だね。言外に『襲撃する』って言ってるようなもんだよね。」


「なるほど!ルフトちゃん凄いねっ。私、そーゆー頭使うのさっぱりー。そうすると、この後はどうするの?」


「そうだなぁ…。」


ルフトは中央区支部の建物を見上げる。テングは恐らくかなりのキレ者だ。ここで誤った選択をすると逆に窮地に陥る可能性がある。


(俺がテングなら…。)


「おし、決めたよっ。」


指をパチンと話したルフトはミラージュに耳打ちをする。その言葉を聞いたミラージュの目が驚きに見開かれた。


「私、そんなのやりたくない!」


「だーめ。」


拒否の意思を見せるも、一刀両断。


「うー…。」


よほど嫌なのだろう。目に涙を浮かべるミラージュだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


中央区のど真ん中に設置された試合会場をみた龍人は感嘆の声をあげる。


「マジ…でっけぇ。」


隣に居る火乃花も腕を組んで感心した様子で見上げていた。


「本当に大きいわね…。ここまで大きい必要あるのかしら?」


試合会場は街立魔法学院の敷地1個分程度の大きさを誇っていた。ドーム状になったそれは、圧倒的な存在感を誇っている。

勿論、レイラと遼も口を開けていた。初めて都会に出てきた田舎者。の図である。

そんな正直な感想を抱いて上を見ていた彼らに1人の女性が近づいて来た。


「あら?貴方達、街立魔法学院の皆さんはこの大きさの建物が珍しいのですわね。田舎者みたいで見てて恥ずかしいですわ。」


亜麻色の髪を風に揺らし、腕を組んで片方の口端を少し上げて勝ち誇ったかのような顔をしているのはマーガレット=レルハだ。彼女は勿論、挑発をしたつもりだったのだが…。


「お、マーガレットじゃん! 久しぶり!えっと…プレ対抗試合以来か?」


予想外に龍人が仲良い雰囲気で返してきたので、マーガレットはタジタジしてしまった。


「え、えぇそうね。…対抗試合の優勝は譲りませんのですわ!」


「おー、やる気じゃん。俺たちも十分に特訓はしてきたから、負けるつもりはないぜ?」


「望むところですわ!」


何故か良きライバルみたいな会話になっている龍人とマーガレットの後ろでは、アクリスがミータにコソコソと話し掛ける。


「さっきさ、マーガレット…建物の大きさに驚いてたよね?」


「ホントだよねぁ。それで自分は当たり前ですみたいな態度でいくんだよなぁりホント凄いよね。俺には真似出来ないなぁ。」


ミータは無駄に格好良く額に手を当てると頭を数回振る。イメージは悩める美男子。因みに、ミータは美男子でもなんでもないただのおっさんである。


そして、遼とレイラも2人の様子を眺めていた。


「ねぇ、遼君…龍人くんとマーガレットさんって仲良いよね。」


「そうだね。2人共負けず嫌いっぽいし、プレ対抗試合でも一緒に動いてたみたいだしね。ってレイラ…もしかして妬いてる?」


「えっ?そんな事ないよ…!ただ仲が良いなって思っただけだもん。」


レイラはほんの少しだけ頬を染めて、龍人から視線を逸らす。が、すぐにチラチラと見るあたりは、やはり妬いてはいるのだろう。

レイラの視線の先ではマーガレットがビシィッと龍人に向けて指を突き付けていた。


「勝負ですわ!どちらがチームを強く纏め上げてきたかですわ!いいです事?私達と対戦でぶつかるまでに負けるのは許しませんわ!」


「おう。望むところだ!いい勝負しような。」


ニカっと笑う龍人を見て一瞬硬直するマーガレットだが、すぐにクルッと後ろを向くと待っていたマリア、アクリス、ミータに声を掛けた。その頬がほんのり赤くなっているのには誰も気付いていない。


「待たせたのですわ。行きましょう。絶対に勝ちますわよ。」


マリアは相変わらず冷静な表情で頷き、ミータとアクリスはやる気に燃えるマーガレットの気迫に慄きながら頷く。

そして、シャイン魔法学院の4人は先に試合会場の中に入っていった。


その後ろ姿を見ていた龍人に火乃花が声を掛けた。


「龍人君、なんであそこまでシャイン魔法学院のマーガレットにライバル視されてるの?」


振り向いた龍人は困ったように頭を掻く。


「それがさ、全然思い当たる節がないんだよね。もしあるとしたら、構築型魔法陣を見せたから?とかは思ったけどね。ま、いいライバルが現れたって事にしよ。」


楽しそうにそう返した龍人はいつに無くワクワクしていた。今まで堂々とライバルの様な宣言をされた事がない龍人にとって、マーガレットという存在の出現はとても刺激的であった。

まぁ、マーガレットが単なる魔法の実力の対抗心だけでライバルの様に宣言をしている訳では無いのが、誤解を生みそうだが…。


そんなマーガレットは建物に入りながら1つの決心をしていた。


(私は私の気持ちに正面からぶつかりますわ。けれど、けれど、それは彼が私よりも強かった場合ですわ。この…この対抗試合でもしも私が負けたらなら…。)


決意を胸に秘めたマーガレットは受付へ進む。


明るくライバルの登場を喜ぶ龍人に対して、火乃花はイマイチ喜びきる事が出来ない。確かに強い相手が現れるのは良い刺激になる。

しかし、火乃花の眼から見てマーガレットがライバル宣言をしたのは実力勝負の他にも何かしらの意味がある様に見えたのだ。


(戦った結果、厄介な事にならないといいんだけどね。龍人君って基本的に何かしらの事件に巻き込まれる事が多いから…ちょっと心配ね。)


色々と心配事があるが、今ここで悩んでいても何かが変わる訳ではない。とりあえず受付に進もうと火乃花が声を掛けようとした所で、新たな龍人の知り合いが現れる。


「高嶺じゃんかぁ。久しぶりだねぇ。」


片手を挙げながら近づいて来るのは浅野文隆だ。横には森博樹、クロウリー=ラムフィズ、デイジー=フィリップスが並んでいる。


「おー、流石対抗試合だなー。文隆に博樹じゃん。えっと、横にいるのは…。」


「あ、紹介したこと無かったね。」


博樹は横を見ると紹介を始める。


「こっちの黒髪パーマがクロウリー=ラムフィズ。で、もう1人の紫色の髪の彼女がデイジー=フィリップスだよ。2人とも僕たちのチームメンバーなんだ。」


「おい!黒髪パーマって雑過ぎでしょ!」


「こんにちは。デイジー=フィリップスです。今日の対抗試合でぶつかる事があったら宜しくお願いしますぅ。」


博樹に突っ込んだクロウリーはデイジーが丁寧に挨拶をしたのをギョッとして見ると、慌てて自己紹介を始めた。


「えっと…クロウリー=ラムフィズです。よろしく。」


「よろしく!俺は高嶺龍人だ。んで、隣に居るのが…。」


と、ざっくりと自己紹介タイムが始まった。


自己紹介が終わると、文隆がレイラを見て不思議そうな顔をする。


「クリストファーって…なんか不思議な雰囲気を纏ってるねぇ。相当強いでしょ?」


「え?そんな…私、全然ダメダメで皆の足引っ張っちゃう位だよ?」


「んー?そうなのかなぁ?俺にはそんな風には感じないんだけどなぁ。そもそも、霧崎と藤崎も強そうな雰囲気バリバリだよぉ?そのメンバーと同じチームなんだから弱いはず無いと思うんだけどなぁ。」


「ちょっと文隆さん。人の実力についてあれこれ言うのは失礼ですよ?」


レイラに対して食い下がり続ける文隆をデイジーが注意した。


「え?あぁそうだよねぇ。ごめんねクリストファー。単純に疑問に思っただけなんだよぉ。」


「あ、う、うん。気にしないでいいよ。」


レイラはぎこちない笑みを文隆に返した後にデイジーに向かって軽く頭を下げる。話を区切ってくれたお礼だ。

デイジーは「うちの文隆さんがごめんね」みたいな顔を一瞬だけすると、文隆の腕を掴んで歩き出した。


「はい。行きますよ。試合の受付時間そろそろ終わっちゃいますから。」


「あ、分かったよぉ~。じゃ、またねぇー。」


文隆はズルズル引っ張られながら手を振って遠ざかっていく。

博樹は「あらら」とそれを見ると龍人に向かって笑顔を向ける。


「高嶺、絶対に僕達は負けないよ。じゃ、また後でね!」


そう言うと、腕をブンブン振りながら受付に向かっていった。因みに、クロウリーは面倒臭そうに頭を軽く下げて歩き出している。


「あの文隆って人…要注意だね。」


ダーク魔法学院の4人が建物に入って見えなくなった所で遼が呟いた。火乃花が頷く。


「そうね。あそこ迄他人に対して食い下がれるのは並大抵の神経じゃないわ。試合で当たったら嫌らしい手を使ってきそうね。」


「私…なんか怖いな。包んで壊されそうな感じがしたよ。」


レイラはそう言うとブルッと体を震わせる。


「ま、そこまで考えてもしゃーないっしょ。俺達は俺達の戦いをしっかりやろう。」


龍人はそう言うとグッと伸びをする。緊張感の無いその感じに火乃花が小さく笑みをこぼす。


「ふふ。確かにそうね。私達は全力で目の前の相手を倒すだけよね。」


「そうそう。先ずは今をしっかりしないと。ま、勿論用心も大事だけどね。よし、行きますか!」


龍人の掛け声で3人は頷くと対抗試合会場の入り口に設置された受付に向かって歩き出した。


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