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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-4-3.対抗試合予選



ルフトとミラージュは茶柱が立った高級そうな日本茶を口にする。

部屋に入った2人は程よい固さを保ちつつもフワッと包み込むようなソファーに案内され、テング=イームズが淹れたお茶を勧められた。無下に断るわけにもいかず、日本茶を飲む流れに至っている。


その日本茶は今まで飲んだ事が無いレベルのものだった。口に入れた瞬間に緑茶の芳香な香りが広がり、舌の上を包み込むようにして喉へと進んでいく。喉から下に落ちる時の喉越しはとても滑らかで、鼻に抜ける香りはとても心地よい。嚥下した後に口の中に残る香り、味、そのどちらもフワッと口の中が包み込まれている感覚を与えていた。

茶葉から出る甘みと渋みのバランスは甘みが少し強めではあるが、その中にほのかに感じる渋みがしっかりと芯がある味を演出している。


想像以上の美味しさに驚いたミラージュが茶碗の中を見つめていると、テングは小さい笑い声を漏らす。


「ふふ。そんなに美味しかったですか?」


「あ、え、えっと…。はい。凄く美味しいね。」


ミラージュはタメ語で話してしまっているが、テングにそれを気にする素振りは無い。むしろ、お茶を美味しいと言われて嬉しそうだ。


「良かったです。この茶葉はちょっとした一級品なんです。南区が誇る魔導師団の方が来ると聞いて、封を開けてみたのですが…気に入って頂けたようで何よりです。」


ほっとした様子を見せるテング。丁寧な雰囲気のせいか、少し芝居掛かっているようにも見える。


(なんか…テングのペースになってるような。)


あくまでもルフト達は追求しに来た側なのだ。相手のペースに乗せられるわけにはいかない。ルフトは敬語で話す予定だったが、それを止めていつも通りの話し方でいく事にした。相手のペースを崩す事が出来れば…と思っての判断だ。


「本当に美味しいお茶だねっ。そろそろ本題に入ってもいいかな?」


「ええ。いいですよ。私に答えられることなら何でも。」


「じゃあお言葉に甘えて…。」


爽やかな雰囲気で敵対する意思を見せないように気を付けながら、ルフトはテングに話を聞くに至るまでの流れを説明する。調査をしている名目は「南区流通課の男がクリスタルの横領をしてるのではないか?その裏付けの為の関係各者への聴き取り」だ。


「まず、南区支部でクリスタルの納品数に関する詐称が発覚したんだ。そんでね、色々調べた結果…クリスタルの販売在庫管理を一手に担ってる男がテングの所に納品数が足りないって文句を言ったって聞いたんだ。こういうのは推測で動いてもしょうがないから、直接話を聞きに来たんだ。」


「成る程…。」


テングは少し考える素振りを見せると、向かいに座る2人に向けて頭を下げた。


「それは、申し訳ないことをしました。その件については、実際に南区支部流通課の担当者が直接来ました。ただ、一方的に僕が不正をしてるって言われてしまいまして…。見た目はそんなに激しそうな方には見えなかったんですが…。その後、中央区行政課の人に電話をしてどういう事実関係があるのかを確認したのですが、あまり明確な答えはもらえませんでして。そこで僕も少しムカッとしてしまいまして、あそこまで一方的に言われたら今後の付き合い方を考えなければならないというのと、そうなれば南区にとって不幸な事になりますよ。…と言ってしまいました。感情的になってしまったんです。話をややこしくしてしまって本当に申し訳ないです。」


話し終わるとテングは再び頭を下げる。まさかの謝罪にミラージュは慌ててしまう。


「い、いいって!それが私達の仕事だもんねっ!」


追求しようと思っていた事をほとんど先に話されてしまった形だ。先手を打たれたのか、それとも単純に真実を話してもらったのか…。ミラージュはチラチラとルフトの顔を見ている。「どうするのこの状況?」という合図だろう。ルフトは頭を下げるテングを見ながら考察する。


(確かに今テングが話した内容は俺たちが南区支部で聞いた話とズレている部分が全くない。…ただ、なんていうか数センチズレさせて話してる気がするね。よし、そこを揺さぶってみるかな!)


先ずは話の中で不審な部分が出てこないか探ってみる事にする。


「分かりました。ただ、そうなると中央区支部では南区支部へ納品したクリスタルの数を誤魔化していないって事だよね?」


「えぇ。そうなりますね。全てを取り仕切っているのは私ですが、キチンと申請頂いた数を納品していますよ。」


「その証拠ってありますか?」


「勿論です。この僕が根拠も無く言う事はありませんよ。」


そういうとテングは立ち上がり、これまた高級そうなデスクに向かう。またミラージュがチラリと視線を送ってくる。今度は「どうしよう」という視線ではない。ミラージュの視線の意味に気付いているルフトはテングにバレないようにウインクを返した。


(やっぱり今の丁寧な対応は猫被ってるねっ。よし。)


テングは引き出しを開けると1枚の紙を取り出し、ルフトとミラージュの前に差し出した。


「これがその調査資料です。私が納品した数と南区支部から要請があった数の一覧表です。そして、中間業者がそれを運んだ証明書です。これを見ればわかるとおり、南区に運搬されるまでは確実に申請数と同じ数があります。ただ、不思議な事に南区の倉庫に納品された所で数が減っているんです。」


調査書にはテングが言う通りのデータが記されていた。再びテングのペースになりつつある事を感じたルフトは口を開く。


「つまり、南区内で何かしらの不正が行われている可能性が高いって事だねっ。なるほどね~。俺たち見事にあいつに騙されたのかっ!」


「まぁ…流通課の彼が関与をしているならそうなりますね。ただ、彼が僕を疑ってわざわざ中央区まで来た事、そしてその彼の証言を信じて魔導師団のあなた達が来た事を考えると中間業者が何かしらの操作をしている可能性もあるかも知れませんね。」


「え?なんで中間業者なの?」


ミラージュが首を傾げる。その様子を可愛らしく思ったのか、テングは微笑みながら説明を続ける。


「クリスタルを運搬する中間業者と、南区の倉庫管理担当者が繋がっていれば可能なんです。南区へ納品の段階では運搬業者は注文通りの納品書しか持っていません。しかし、倉庫管理担当者がその納品書を偽造していれば、南区支部には申請数より少ない納品書が、中央区には申請通りの発送書が残るんです。僕はこの線が妥当だと考えて、今現在さらに詳しい調査をしているところです。」


「はへー。凄いねっ!テングちゃん仕事バリバリ派だね!」


「ありがとうございます。ふふ。ミラージュさんは可愛らしい方ですね。」


可愛いと言われてミラージュがはポッと頬を染める。横に座るルフトは至って冷静だ。


「なるほど…。じゃあその調査結果が分かったら教えてもらってもいいかな?俺達だけだと中々そこまで調べらんないんだ。」


「分かりました。それでは調査に進展があった場合はお伝えしますね。」


余裕の表情で受け答えをするテングに対してルフトは獲物を狙うように口の端を吊り上げる。


「一応、不正をしていたのが中央区って可能性もあると思うんで、俺達はそっちの線も調べてみるんで。」


テングの眉がピクリと反応する。


「…先程も言いましたが、中央区は何も不正はしてないですよ?」


「もちろんそれは信じたいんだけどねっ。でも、中央区と南区の意見が食い違っている以上、どちらか片方を過信する訳にはいかないよね?だから俺達はどっちも調べるよ。別に本当に不正をしてないなら困らないよねっ。」


「…それは、そうですね。分かりました。ご自由にお調べください。私の方でも、もう1度中央区支部の関係者で怪しい動きをしている者がいないか調べてみますね。」


「うん。よろしくっ。」


ルフトの明からさまな挑発にテングは全く動じる事なく穏やかに返事をしたのだった。


(え?え?つまり…テングちゃんは無実なの?)


ミラージュはルフトとテングの顔を交互に眺めるが、テングは部屋に入った時と変わらない表情で、ルフトはニッコリしてはいるが眼が全く笑っていなかった。


(やばい…良くわかんないよ。ここはルフトちゃんに任せて黙ってようかな。)


邪魔をしてはいけないと感じたミラージュは黙りを決め込む。

すると、横に座っていたルフトが立ち上がった。


「じゃ、よろしくねっ。俺達はちっと別の課にいる人とかに話を聞いて帰るんで。」


「分かりました。わざわざご足労いただいたのに、大した情報を提供できなくて申し訳ないです。」


「いいっすよ気にしないで。南区も十分に怪しいことが分かっただけでも進歩だしねっ。」


「はは。そう言っていただけると私も救われます。それでは…帰り道もお気をつけ下さい。」


「ありがとねー!」


そんなやり取りをするとルフトは部屋のドアに向かって歩き出した。


「あれ?もう終わり?ちょっと待ってよー!」


慌てて後を追いかけるミラージュは思いついたかのように止まると、クルッとテングの方を向くとペコッとお辞儀をした。


「あの、ありがとうございました!」


「いえ、どうもご丁寧にありがとうございます。」


ミラージュはテングの顔を見ると「ニシシ」と笑って部屋から出て行った。

テングはルフト達が出て行ったドアを少しの間眺めてから小さく息を吐く。


「ふぅ。南区の魔導師団だというから気を張っていたんですが…思ったよりも突っ込んできませんでしたね。」


高級緑茶を啜ったテングは1枚の紙を取り出す。そこには様々なグラフが印刷されていた。


ニィ


と、テングの口が歪む。


「行きは良い良い帰りは怖い…。ふふ。」


相変わらず穏やかな雰囲気を携えてはいるが、テングの纏う空気は狂気的なものに変わっていた。




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