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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-4-2.対抗試合予選



ルフトとミラージュが転送魔法陣から出ると、中央区はいつも以上に人でごった返していた。基本的にカップルが多いのは気のせいでは無いだろう。


「おぉ、やっぱし対抗試合がある日は凄いね。」


「ホントだねっ。私もクリスマスイブにラルフちゃんと一緒にいたいっ!甘いトキメキの1日になるんだよっ。」


「いやいや!ラルフは結婚してるから無理だって。」


不倫相手希望?みたいな発言にルフトは思わず突っ込んでしまう。その現実的な突っ込みにミラージュは口をとんがらせてプーっと膨れた。


「分かってるよ!ただ言っただけじゃん!ルフトちゃんってホント女心分かってないよね!ていっ!」


ミラージュのスネ蹴りが炸裂する。


「いてっ!……つーー!」


スネの中央に走る激痛にルフトはピョンピョンと飛び上がる。ミラージュは人差し指をビシッとルフトに向ける。反対側の手は腰に当てて半身。所謂「犯人はお前だ!」のポーズである。


「女を怒らせると怖いんだからねっ!」


「だからってスネを蹴る事無いでしょっ!」


「ふんっ!」


プンプン怒ったミラージュはルフトを置いて歩き出してしまう。


「ホントに痛いってのに…。しかも俺達が行くのそっちじゃないんだよなぁ。」


まずはミラージュの怒りを落ち着かせるという「任務?」が増えた事で、ルフトは空を見上げて溜息をつくのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


何とかミラージュをなだめたルフトは魔法協会中央区支部の前に来ていた。ここに来る事になった経緯は下記の通りである。


1週間前にネネから情報を得たルフトとミラージュは翌日に魔法協会南区支部を訪問し、クリスタルの流通に関わっていそうな人から話を聞いて回った。その結果、浮上してきたのが2人の人物だ。

1人は流通課に所属し、中央区支部とクリスタルの流通関係のやり取りを担当する男だ。この男が頻繁に中央区支部を訪れているのを周りの職員から聞き出したのだ。何故かと聞いてみても流通課の男は「特に何かがある訳じゃない」と言っているそうだが…。話を聞いてみる価値はあると考えられた。


そしてもう1人が行政課に所属する女だ。この女は中央区支部の流通課から頻繁に連絡が入っていたらしい。だが、この女も周りには「大したことではない」とその内容を話さなかった。こちらも…何かを隠していると推測をする事が出来た。


ルフトとミラージュは其々本人への聞き込みを実行した。ルフトは行政課の女へ。ミラージュは流通課の男へ。異性の所に行ったのはもちろんワザとである。


その結果判明したのは、以下の通り。


☆流通課の男による証言

彼は南区におけるクリスタルの流通を管理し、その数が足りなくならないように各小売業者への納品数、南区支部の在庫、そして小売業者から使用者への販売数をまとめている。そこから計算した必要数を中央区支部の流通課に注文する仕事を行っていた。だが、ここ1年程、注文数に対して1割減程度の量で納品されるようになっていたのだ。最初は一時的なものと思っていたのだが、それが長期にわたって続くとなると話は変わってくる。

そこで彼は何故注文数の納品が行われないのかを中央区支部へ問いただしに何度も訪問したのだ。

そして、そこで驚愕の事実が発覚する。なんと…中央区で処理されていた内容を確認するとしっかりと男が注文した数のクリスタルが南区に納品されていた事になっていたのだ。

男はこの事実も合わせて何度も中央区支部の担当者を問いただした。しかし、当然の如く相手方はシラを切るばかり。ついには「南区が数を誤魔化してるのではないか」と、逆に嫌疑をかけられる始末だったという。


男は正義感が強かったので、中央区支部が何かしらの事実を隠していると感じた翌日から担当者の行動を監視し始めた。だが、監視し始めてから1週間程で帰り道に襲撃を受ける。魔法を使う事は出来てもエキスパートではない男は抵抗も虚しく追い詰められた。首筋にナイフを突きつけながら襲撃者は男に「これ以上詮索したら命を落とす」と脅したらしい。

いくら正義感が強いとしても、ここまで脅されても気丈に調べる勇気は無かった。「何も知らなかったフリをして仕事を行わなければならない」と、諦めていたところで魔導師団の2人が来たという事らしい。


☆行政課の女による証言

2週間程前から中央区支部の流通課から文句の電話がかかってきたらしい。そして、そこで言われたのが流通課の男がありもしない事例を挙げて文句を言ってくる。という内容だった。行政課の女は流通課の男とは同期に当たり、時々飲みに行ったりもする気の合う同僚だった。それ故に、流通課の男が有りもしない事例をでっちあげて他区の支部に文句を言うことは考えられず、その電話の内容を誰にも言わないで隠していたらしい。

因みに、電話で言われる内容は日に日に過激になっていったという。

最初は「いい加減にしてくれ」

次は「中央区と南区の親交が崩れかねない」

そして遂には「このまま続くようなら南区にとって良くないことが起きる」

という明らかに脅しのような事も言われたらしい。だが、女がそれでも上司に報告しなかったのは、その電話相手が中央区支部流通課のクリスタル関連の流通を担当する者だったという事だ。もし、支部長などの上役が電話をしてきたのならすぐさま上司に報告したのだが、中央区支部の1社員に中央区と南区の親交を崩す程の権限がある筈もないと判断したらしい。むしろ、文句の電話を頻繁に掛けてくる事自体を怪しく思い、同僚である流通課の男が悪事を暴いてしまえればと思っていたという。


この2つの話を聞き出したルフトとミラージュは1週間掛けて中央区支部流通課のクリスタル担当者を調べあげた。

だが、不思議な事に怪しい点は何も見つからなかったのだ。平時の仕事ぶりは至って真面目。仕事のスピードも早く、頭の回転も良く、上司にも後輩にも頼られる、将来を期待される社員だと言う。

南区支部で聞いた話と中央区支部での話が食い違い過ぎていた。


このまま周りから話を聞いていては埒が明かないと判断したルフトとミラージュは、直接話を聞くことにしたのだ。最初は警戒されて話を聞くことすら難しいのでは…と思っていたのだが、案外簡単にアポの予約が取れたのだった。


そして、これからルフトとミラージュはその男に話を聞くために中央区支部に乗り込む所だ。ルフトは中に入る前にミラージュに目線を送る。


「ミラージュ。今回はおふざけ無しだよ?何かしらのトラップがある可能性もあるしねっ。」


「分かってるよ。私も真面目な時は真面目だもん。」


(その真面目な時を殆ど見た事無いから不安なんじゃん。)


きっと何かしらのハプニングが起きるんだろう。と、心に覚悟を決めてルフトは魔法協会中央区支部に入るのだった。後ろを歩くミラージュはキョロキョロと周りを眺めながら後ろをついてくる。


(…上手くいきますように!)


普段神頼みをする事が無いルフトだったが、今回ばかしは頼りたくなってしまう心境なのである。


その後、受付で名前を告げると


「既にお部屋でお待ちとの事です。」


と言われ、案内係に連れられてすぐに中央区支部流通課の男の部屋に到着したのだった。長い廊下を進み、とある扉の前で止まる。案内係の人が


コンコン


と、ノックをすると


「どうぞ。」


と、随分落ち着いた雰囲気の声が中から聞こえてくる。その声を聞いた案内係はドアを開けるとルフトとミラージュを部屋の中に促し、パタンとドアを閉じた。


部屋の中ではいかにも育ちが良さそうな男が立って待っていた。短髪の黒髪、前髪を下ろしているので御曹子的な雰囲気を感じさせる。眼鏡を掛けていて、左目の下にホクロがあるのが特徴か。スマートな体型にオーダーメイドであろう体のラインピッタリのスーツをビシッと着こなした姿は、仕事が出来そうで、人当たりも良さそうで、とても悪事を働く人物には見えない。


「お待ちしておりました。僕は流通課でクリスタルの流通の管理を担当しているテング=イームズと申します。今日は南区からわざわざお越し頂いて有難うございます。クリスマスイブに対抗試合があるので、中央区は混雑していたでしょう。さ、お茶もご用意しています。まずはひと息付いて、それからお話を伺いましょう。」


そう言うと人懐っこい笑みを浮かべる。



これが、ルフト=レーレとテング=イームズの初めての出会いだった。



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