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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-3-8.魔法学院1年生対抗試合



魔法街北区に在するダーク魔法学院。

ここは特殊な属性を持つ者のみが入学する事を許された魔法学院だ。故に生徒の数はそこまで多くはない。だが、選ばれた者が入学できるとあって、個々のメンバーの実力は街立魔法学院の同学年上位クラスに十分匹敵するレベルを誇っている。いや、もしかしたら個々の力だけで見れば上回っている可能性すらある。


そんなダーク魔法学院の1年生でトップクラスの実力を持つ森博樹、浅野文隆、デイジー=フィリップス、クロウリー=ラムフィズは同じチームを組んでいた。…正確に表現すれば組まされていた。元々仲が良いわけでもなかったこの面々がチームを組まされている理由。それは、大袈裟に言えば魔法学院の今後を左右する可能性がある対抗試合があるからだ。トップクラスの実力者を1つのチームにするのは当然である。


だが、問題があった。実力が高い=チーム戦に向いているとは限らないのだ。

博樹と文隆は比較的やる気がある方だ。元々仲が良かったこともあり、2人のコンビネーション等は特に問題がなかった。問題はデイジーとクロウリーだ。この2人は基本的にやる気が全く感じられない。デイジーは面倒くさいと言って全然戦闘に参加する気配を見せない。相手に攻撃をされた時に反撃をする程度である。


「ねぇフィリップス。もう少しチーム戦頑張らない?」


現在、博樹とデイジーは2者面談中である。


「え?でもワタシが動かなくても勝ってますよね?」


「いや…まぁそうなんだけどさ、もし僕達より強い相手が現れた時に勝てなくなっちゃうと思うんだ。」


「大丈夫よ。その時はワタシも手伝いますので。」


「それってデイジーが戦闘に参加すれば僕達よりも強い相手にも勝てるって事?」


「そーですそーですぅ。ワタシ、基本的に負けた事無いんで安心して下さい。」


自信満々に言われてしまい返す言葉が無い博樹は、不満そうな表情を浮かべながらデイジーの目をじっと見る。


(なんだよこの男。マジで面倒くさいんだけどぉ?そもそもワタシがダーク魔法学院で1番強いんだから、信じなさいよ。それにやばくなった時はちゃんと助太刀してチームを勝利に導いてるじゃないの。)


博樹の態度にムカついてきたデイジー。


「そもそも聞きますけど博樹さんはワタシの何が不満なのですか?確かに試合の最初は殆ど動かないで相手の動きを観察してます。そして、チームが負けそうな雰囲気になったら必ず参加して勝利に導いてますよ?それは、ワタシがそれまで試合の様子を見て相手の攻撃パターンを分析した上で、最良の選択を行って攻撃しているからです。つまり、ワタシが最初攻撃に参加しないで見ている事が勝利につながっているんです。それに、最初からワタシが戦いに参加したらあっという間に終わっちゃってつまらないですよね?」


無茶苦茶な言い分である。つらつらと最もな事を言ってはいるが、デイジーの本音は「面倒くさいから動かない。負けるのは癪だからその時は手伝う」って事だ。まぁしかし、動いてない時に相手の動きを分析しているのは本当なので、今言ったことが嘘か本当かの2択であるなら本当に傾くだろう。


「いやぁ、そんなんに森は騙せても俺は騙せないよぉ?」


文隆はそう言いながら、言いくるめられそうになりつつあった博樹の横に座った。思わずデイジーは苦い顔をする。文隆はなんだかんだまともな事を言ってくるので苦手なのだ。


(また来たわね。毎回毎回うるさいのよ。)


「騙すって何の事ですか?私は本当の事しか言ってませんよ?」


文隆は伏し目がちな目を真っ直ぐデイジーに向けた。


「君の言ってることは間違ってないよぉ。でもさぁ、さっきの言い方だと勝つ為に観察してるみたいな言い方だよねぇ。ただ俺には、負けるのは嫌だから負けそうな時は手伝うけど、そうじゃない限り面倒くさいから動かない。一応相手の観察だけはしておく。みたいに見えるんだなぁ。実際はそんなとこでしょぉ?」


「う…。」


デイジーは胸中を見事に当てられて口を噤んでしまった。それを見た博樹が衝撃を受けた顔をする。


「フィリップス…。俺、信じようとしてたのにそうだったんだね。ちょっと幻滅だよ。」


「ちょっと待って下さい!例えそうだとしてもチームの勝利に貢献しているのはまちがいないでしょ?」


デイジーの言い訳を文隆が鼻で笑う。


「ふん。よく言うよねぇ。いいかい?まず、フィリップスは自分に対して自信を持ちすぎだよぉ?普通に考えて君より強い奴なんて沢山いるんだ。そんな奴が敵として現れた時に君はどうするんだい?」


「…なによ。その時は周りにいる人と協力するしかないんじゃないですか?」


「だよねぇ。それなのにフィリップスは周りと協力する事を放棄してるよねぇ。いざという時だけ協力するのと、普段から協力してるのではどっちがいいんだろうねぇ?もしかしてフィリップスはそんな事も分からないのかなぁ?」


デイジーはしまったと硬直する。完全に文隆の誘導に引っかかった形だ。これでは協力しないと言うことが出来ない。いや、実際には分かってはいるのだが。


(見事にやられたわ。文隆さん…すっげームカつくぅ。だけど…文隆さんが言うことも最もね。最悪のケースに遭遇した時に後悔したく無かったら今頑張れってことね。やってやろうじゃないの。)


文隆の回りくどく嫌らしい責め方にムカつきはしたものの、納得をしたデイジーは心を決めた。


「…分かったわ。やるわ。最初から全力で戦うわ。」


「ふふん。ありがとねぇ。後は、ラムフィズだねぇ。」


横で素知らぬふりをしてアニソンをジャカジャカ聞いていたクロウリーは、3人の視線が自分に集中しているのに気付くと引き攣った笑いを浮かべてイヤホンを外した。


「なに?皆して俺の事見て。マジこわいわー。」


「クロウリーさん。あなたが真面目にチーム戦で戦わない理由…聞かせてもらいますね。」


「えっ?」


いつの間にかやる気なし側にいたデイジーが、やる気がある側にまわっている事態にクロウリーは冷や汗を垂らし始める。細い目がキョロキョロと博樹、文隆、デイジーを見はじめた。


「なに?なにがどうなって俺が責められる流れになってるの?」


クロウリーは短髪パーマを掻き上げて抑えるようにして何とか逃れられないか頭をフル回転させるが…、すぐに諦めてグッタリと手を両脇に垂らした。3対1の口論で勝てる自信がクロウリーには無い。

まず口を開いたのが博樹だ。


「ラムフィズ。僕達とチーム戦で真面目に戦わない?やっぱりダーク魔法学院として負けるわけにはいかないと思うんだ。」


優しく話し掛ける博樹。


「っていうかさぁ、このチームで一番弱いかも知れないけど1年生の中では4番目に強いんだから、その自覚を持って欲しいよねぇ。そうじゃないと俺たちがチームを組んでいる意味が無いんだよねぇ。その俺たちが対抗試合の序盤で負けたらダーク魔法学院の評判ガタ落ちだよぉ?」


社会的立場の観点から攻撃を仕掛ける文隆。クロウリーの自尊心が高いのを知っていて、わざと4番目に強いという辺りが憎らしいところか。


「というよりもですね、つべこべ言わずに真面目に戦いなさい。むしろ、私が真面目に戦う事を決めたんだからクロウリーさんもそうして下さい。」


(ぜってぇ、クロウリーさんだけ戦わないとか許さないわ!)


といった感じで、心の内で過激な事を思いながらも口では大分マイルドに言うデイジー。

そして、その副音声にちゃっかり気付くクロウリー。


(これって、俺が何で真面目に戦わないかの理由すら聞いてもらえない感じ?…まぁ、アニメとかアニソンとかそっちの事が気になり過ぎて集中出来ないだけだから大した理由じゃないのは分かってるけど…。もう逃げられないよな。まじ怖えこのチーム。)


「あぁもういいっすよ。やりゃあいいんでしょ。やりゃぁ。」


「いったね?」

「いったねぇ?」

「言いましたね?」


「う…。」


クロウリーは完全に逃げられないことを悟り、頭をグッタリと下げた。首から下げたイヤホンからアニソンが聞こえるが、今のクロウリーには悲しきBGM以外の何でも無かった。


こうしてダーク魔法学院1年生の実力者TOP4によるチームは、チーム結成後初めて本気で特訓に臨むこととなる。


さて、次はシャイン魔法学院に視点を移してみよう。



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