11-3-7.魔法学院1年生対抗試合
「いよっと。」
淡い光を放つ魔法陣からルフトがヒョイと飛び出る。
「ちょっと!店主ちゃんからこの魔法陣の事聞き出したの私なのに何で先に行くんだろ!?」
後から転送されてきたミラージュは魔法陣から出てくるなりルフトに詰め寄る。
「いやいや聞き出したって言うけど、ミラージュが魔法陣を出しなさいよって言っただけだもんね。それにレディーを危険かもしれないところに先に転送させる訳にはいかないでしょっ?」
ルフトは爽やかに言いながら周りを見渡している。
「…むー。ルフトちゃんと言い合うとなんか勝てない。むー。」
ミラージュも頬を膨らませながら周囲の状況を確認した。
ルフトとミラージュがいる場所は巨大な倉庫みたいな場所だった。至る所に段ボールやコンテナが積み上げられている。映画とかで銃撃戦の舞台になりそうな所…といった感じか。倉庫の中は薄暗く、非常灯のような豆電球がポツポツと点灯しているのみだ。
「あの店主の話だと、倉庫の中に普通の荷物と混ぜて大量のクリスタルを隠してるって話だったよね?」
「うん。因みに聞くけど、ルフトちゃんはどの辺りにあるとか…分かる?」
「ははっ…やっぱそうなるよね。」
大量の荷物は見つけられるなら見つけてみろと言わんばかり鎮座している。効果音が付くならトドォーン。
大捜索が始まる。
…………
………
……
…
「だぁぁぁ!無い!」
かれこれ探し始めて2時間。ルフトとミラージュはクリスタルを見つけられずにいた。今は二手に分かれて捜索中だ。敵地で個別に動くのは危険が伴うが、それ以上にクリスタルを早く見つけることの方が重要なのだ。しかし、倉庫の中が広すぎる上に大量の荷物はほぼ全てが梱包された状態だ。倉庫の警備員に潜入していることがばれないように見つけるためには、地道に1つずつ箱を開けて確認していくしか方法がない。
梱包された荷物は数十個毎にまとまって置いてある。恐らく同じ荷物毎にまとめてあると踏んで、まとまりの1つを開封して確認しているのだが…出てくるのは食料品やらよく分からない人形ばかりである。
ルフトは箱の向こう側でゴソゴソと何かしているミラージュに声を掛ける。
「ミラージュ、どう?」
「…えっ?」
一瞬間が空いた反応にルフトのレーダーが反応する。
「ちょいとミラージュさん。今何やってる?」
「なにもしてないよ?頑張って探してるよー。」
「そっか。早く見つけような。」
「もちろんだよ!」
こういう捜索系の面倒くさい事が大嫌いミラージュが、ヤケに積極的な返事をする事に違和感しか感じない。ルフトは足音を忍ばせてミラージュがゴソゴソしている所に近付く。
そのミラージュは梱包された段ボールを開いて中身を漁っていた。
(あれ、俺の勘違いか?思ったより真面目に探してそうじゃん。)
そんな事を考えながらこっそり箱の中を覗いたルフトの動きが止まった。
ゆっくり息を吸い、ゆっくり息を吐いて意図的に自分を落ち着いけたルフトはもの凄い速さで手を伸ばし、ミラージュの首根っこを掴んで持ち上げた。
「ミラージュ、なーにサボってるん?」
「へっ?へっ?へっ?…あ。」
最初は何が何だか分からない様子で周りをキョロキョロしていたミラージュだが、自分が宙吊りになっているのがルフトによるものだと気付くとフリーズする。
「口の周りにポテチが一杯ついてるけど、まさか食べてないよね?」
「う、うん!私がそんな事するわけないでしょっ?」
「ふーん。じゃあその右手に持ってるのは何さ?」
「え?こ、これは…そう、そうそう!開いてたの!」
慌てたミラージュはポテチの袋を隠そうとして落としてしまう。開いた口が下向きに落ちるが…中から出てきたのは2枚のポテチだけだった。
「…ミラージュ、何か言うことは?」
「………ごめんなさい。」
ルフトは溜息を吐くと持ち上げていた手を離した。地面に着地したミラージュはクルッと振り向くと両手に手を当てて偉そうな態度を取った。
「でもでもね、ルフトちゃん聞いて!私あっちの倉庫の隅で怪しい荷物の塊を見つけたの。それで報告に来たら偶然空いてた段ボールの中にポテチを見つけただけなんだもんね!」
「ミラージュ…食べちゃダメだよ。」
飽きれたルフトが素のトーンで返すとミラージュは眼を泳がせる。
「えっと…でも今日お昼食べてないでしょ?さすがに私もお腹が空いてて、そこにポテチが…ほら?食べるでしょ?」
ルフトは前髪を描き上げてもう1度溜息を吐いた。
「分かったよ。ポテチの事は忘れるから、早くその荷物の所に行こう。いつ警備員が倉庫の中の見回りに来るか分かんないし。」
「…にしし。こっちだよー!」
最後の「にしし」でミラージュが全然反省してないのは明らかだが、これ以上追求しても無駄だと知っているルフトは何も言わない。
トコトコ走っていたミラージュはルフトを見ると小さい声で叫ぶ。
「ルフトちゃーん早くー!」
(あぁもう!警備員に見つかったらめっちゃ面倒くさいのに!)
ルフトは右手をあげて返事を返すとミラージュを追って走り出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はい!試合そこまで!チーム火乃花の勝ち!」
ラルフの元気な声が試合の終了を知らせる。
「ふぅ…。勝ったわね。」
火乃花は額に浮いた汗を拭きながら龍人、遼、レイラに笑顔を向ける。
「うん!私、今回少しは攻撃側で役に立てた?」
レイラが心配そうな顔で見てくる。火乃花は腕を組んで試合内容を思い出すと、レイラの顔を見て微笑んだ。
「そうね。昨日よりは全然いいわよ。相手の使った魔法を上手く反射させてくれてるから、こっちの攻撃魔法が実質4つカウントになってるわ。気になるとしたら…反射障壁を展開するのが基本的にレイラの目の前限定ってとこかしら。反射障壁の属性指定とかがあるから展開速度がどうしても遅くなるのは分かるからしょうがないとは思うけどね。相手が属性魔法を放った目の前に反射障壁を展開出来たら凄いと思うけど…ま、理想論かしらね。」
レイラは顎に人差し指を当てると口を尖らせて考え始める。
「確かにそうだね。でも…反射障壁は相手が使う属性が分かってないと事前に準備できないのも難しいんだ。それに、複合魔法を撃たれると全然意味なくなっちゃうし。私ね、反射障壁に複数属性の指定が出来ないか色々試してるんだけど、どうしても属性同士の反発が起きちゃって上手く行かなくて…。」
「複数指定?それ面白いわね。」
火乃花とレイラが話し込み始めた横で龍人と遼は目を見合わせて苦笑いを浮かべていた。最近の火乃花とレイラの上昇志向には眼を見張るものがある。試合後にお互いのの気になった点を指摘し合い、改善に努め続けている。もちろん同じチームの龍人と遼もそれに加わっているが、試合後に行う技術アップの為の練習は何時間に及ぶ事もあった。
火乃花とレイラが今話しているのはいつもより具体的且つ技術的な話である為、今日帰る時間がかなり遅くなるのは間違いないと言えよう。そんな事を想像していたからこそ、龍人と遼は苦笑いを浮かべていたのだ。
「で、遼君なんだけど…。」
レイラとの話が落ち着いた火乃花が遼の方を向いた。遼は素直な態度で返事をする。
「はい。」
「遼君は殆ど言うこと無いわね。遠距離と中距離から効果的な種類の魔弾を撃ってるし、相手に近付かれても散弾で効果的な反撃が出来るし。強いて言うなら…重力以外の属性が開花したら更に対応力が上がるってとこ位かしら。」
「他の属性ねぇ。俺も色々試してるんだけど、さっぱり使える気配が無いんだよね。」
属性【重力】以外の属性が使えない事で、立ち回りに一定の制限が掛かってしまっているのは遼も実感しており、実際に他の属性が使えないか試してはいる。しかし、遼の言う通りさっぱりなのだ。練習に付き合っているキタルは双銃が何かしら関係しているのではないかとの事だが…魔具が属性魔法を使う弊害になるという話は聞いたことが無い。
手がかりがあるとしたら…
(街魔通りで魔法を使う熊と戦った時に使ったあの魔法だよね。でも…自分でも何の属性だったのか分からない。リヴァイアサンが光ったのが関係してるのは間違いないと思うんだけどなぁ。)
口を結んで悩み始めた遼を見て火乃花は眉根を寄せた。火乃花は遼の実力は認めているのだが、イマイチ思い切りが足りない所が多いと感じていた。何かにつけて考え込むような、溜め込んでいるような。そんな印象がどうしても拭えないのだ。遼は戦闘では冷静に立ち回るタイプだ。だが、不利な立場になると途端にその実力を発揮出来なくなる傾向にあった。
上手く立ち回れない自分を責めているのか、状況を改善しようとして考え込んでいるのか、はたまた思考が停止してしまうのか。どちらにせよ、遼は追い詰められた時ほどその場から心が離れているようにみえるのだ。
(龍人君みたいに前向きで適当な感じになれたらいいと思うんだけど…、そんな簡単にはいかないわよね。)
ひと先ず遼がこれ以上悩まないに声を掛けておく。
「ま、そんなに気にすることないわよ。遼君の遠距離での活躍は多分上位クラスで1番だから。」
「うーん。そうなのかなぁ?」
「そうだって。遼はもっと自信持たなきゃ!」
そう言って遼の背中を叩くのは龍人だ。龍人も遼が悩み始めそうな事に気付いてフォローに入ったのだ。そして龍人が入ってきた事で、話題を移すきっかけとばかりに火乃花が龍人に攻撃を始めた。
「龍人君は自信持ちすぎじゃないかしら?」
「……へ?」
「まず、オールラウンダーで動けるのは良いんだけど基本的に遠距離では戦わないわよね。あと、構築型魔法陣を使うようになってから攻撃力と適応力が上がったと思うんだけど、状況によっては下位の魔法陣を組み合わせた複合魔法で十分な時もあるわよ。状況に合わせた適切な魔法の選択が龍人君の課題かしらね。」
「うげ…。それってさ、相手が使ってくる魔法とか攻撃をある程度読んだ上で、ミスチョイスにならない様に魔法を使わなきゃいけないんだよな?それってかなり高等テクじゃない?」
いきなり言われた高難易度な課題に龍人の頬はピクピクしている。しかし、それを言った火乃花は「当然」の表情だ。
「何言ってるのよ。龍人君の魔法発動速度なら先手を放たれても後手で何とか対応出来るはずよ?もっと自分の魔法の凄さを自覚しないと駄目よ。」
「むむー。そうなのか?全然そんな感じがしないから実感も無いしなぁ。ま、次の試合で意識してみるわ。」
「はい、よろしくね。じゃ、あと30分位したら次の試合だと思うから頑張りましょ。」
「おうよ!」
「うん!」
「うん、頑張ろう!」
龍人、火乃花、遼、レイラはさらなる高みを目指し努力を続けている。全ては対抗試合で優勝するため。もちろん、個人其々に別の思惑はあるだろうが今現在それを問う状況ではない。まずは強くなる事。それがメンバー全員に共通して求められる事であるのは間違いが無かった。
もちろん、努力をしているのは街立魔法学院の学院生だけではない。
次はダーク魔法学院、シャイン魔法学院の様子を見てみよう。




