11-3-4.魔法学院1年生対抗試合
対抗試合まであと1週間。
街立魔法学院では連日チーム戦が行われていた。その中で龍人達のチームは好調をキープし続けている。それまでの龍人の勝率と比較すると、その好調具合には目を見張るものがあった。
理由は幾つかある。
まず、龍人が構築型魔法陣をプレ対抗試合で使った事が大きな要因の1つとなっている。展開型魔法陣で使える魔法陣の限界が中位だったのに対し、構築型魔法陣を使う事で上位もしくはそれに準ずる魔法陣を使えるようになったのだ。
これにより今までの龍人の戦い方が、複数の魔法を組み合わせて無理矢理火力を上げた攻撃を使っていたのに対し、単発高火力の魔法を放てるようになった事で攻撃のバリエーションが増えていた。今までの火力不足が解消されたことで龍人の戦闘における存在感は今まで以上のものとなっていた。
また、火乃花やレイラ、遼の存在も忘れてはいけない。何年も一緒にいる遼と龍人のコンビネーションは抜群で、遠距離と近中距離のスイッチを含む攻撃は相手をほぼ寄せ付けなかった。
そして火乃花。彼女も1年生後期に入ってから更に実力を上げている。彼女は今まで主として使う武器が決まっていなかった。焔を武器の形に変化させて使う焔剣、焔槍、焔鞭等を状況に合わせて使っていた。こうする事で多様な状況に対応できるという判断によるものだ。しかし、複数の武器を使うことによる対応力は1つの武器を極めた者に対して遅れを取ることが多い。複数の武器を極めていれば話は別だが…火乃花が戦闘における天性の才能を持っているからといって、そこまでの才能を持っている訳ではなかった。
火乃花は高火力の魔法を使うことが出来る。だが、それ故に直線的な魔法が多いことが否めない。つまり、トリッキーな動きをしてくる相手に対しては相性が悪いのだ。それは夏合宿の最終日に龍人と戦い敗北したことからもうかがえる。
もっと強くなる為に火乃花が選んだのは、今のスタイルを変えずに少しだけ変則的な攻撃方法を取り入れる事だった。彼女がメインで使う武器に選んだのが焔鞭剣だ。焔の刃が連なり剣の形を成し、刃の中心は1本のしなるワイヤーの様なもので繋がっている。剣として使うのが基本になるが、刃の連結を解除する事で刃付きの鞭としても使う事が出来る。
この武器を使う様になって火乃花の攻撃に変則的な動きが追加された。しかも従来の攻撃力は健在のままだ。彼女が焔の破壊者と呼ばれる日も近いかも知れない。なんてね。
そしてレイラも努力を重ねていた。
彼女が自分の弱点と感じたのが攻撃に関わることが出来ない現状だ。レイラの属性は極属性【癒】…属性【治】の上位属性である。この属性の特徴は回復系を得意とするところにある。傷の治癒、解毒、呪いの解除等々…。それ自体に問題は何もない。だが、問題なのは極属性であるということだ。それであるが故に他の属性を持つことが出来ず、属性付きの攻撃魔法を使う事が出来ないのだ。使えたとして無属性衝撃波である。
プレ対抗試合では結界魔法で仲間を守り活躍はした。魔聖の像があれだけ持ち堪えたのもレイラのおかげと言える。それはレイラ自身も自覚はしているのだが…それでも仲間が戦っている時にひたすら守るしか出来ないというのは歯痒いのが正直な気持ちだった。
極属性【癒】であることで、レイラは結界魔法の遮断壁で多数の属性を指定することが出来る。一般的な魔法使いは自身の持つ属性に準じた属性指定しかできない。つまり、反射障壁でも遮断壁と同じ程度の属性指定が出来るはずなのだ。今までは敵の攻撃を防ぐことしか重点にしていなかったが、少しでも攻撃に参加したいという気持ちが反射障壁の使用可能属性を増やすきっかけになった。
こうしてレイラは相手の攻撃を利用して攻撃をする手法を身につけていく。
他のメンバーも短い時間を有効に使うべく時間の許す限り特訓を続けていた。
ルーチェは光魔法中心だったのを幻魔法も多用するようになり、更にはその2属性の複合魔法も使い始めていた。それを見たラルフが「複合魔法は2年生からなんだけどなぁ。」とぼやいていたのは秘密である。
バルクは肉弾戦を主体をするスタイルは変わらず、属性【地】に関しても大した成長はしていなかった。基本的に体術を中心にトレーニングをしているので、当然といえば当然である。魔法は相変わらず腕の周りに岩や土を固めるロックアーム敵なものや、相手に向けて岩を飛ばす等の初級魔法しか使う事が出来ない。とは言えバルクは戦闘に関してのセンスは人より優れている為、今のところそこまで不自由していないのが現実でもある。
スイは相変わらず寡黙に修行をしていた。以前と違うのはチームで戦う時は周りを意識して動いているという事か。彼も街立魔法学院に入学してから変わったのだろう。また、時々火乃花の方をチラチラ見ているのも本人だけの秘密である。
1年生上位クラスの面々は少しでも実力を上げ、優勝に近づこうとしていた。
因みに龍人が構築型魔法陣を使うという話はすぐに南区に広まった。新しい魔法のスタイルが現れた事で魔法学者が龍人に研究の協力を申し込んできたが、当然断っている。また、上位クラスのメンバー達は最初は驚いていたらしいが、すぐに「龍人ならあり得るか」的な発想になったらしく…龍人が思っていたよりも騒がれることは無かった。まぁ、構築型魔法陣を見せてくれと色々な生徒に言われまくり、龍人が面倒臭くなって逃げる光景が良く見られはしたが。
こうして魔法学院1年生対抗試合に向けての準備は着々と進んでいた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
カツカツカツ カツ
足音がドアの前で止まり、ノック無しにドアが開かれた。
「ふむ。君は礼儀をしらないのかな?中で私がいけない事をしていたらどうするつもりなんだね?」
「ふん。俺はそんなくだらない話をしに来たんではない。大体俺を呼んだのはお前だろう。早く用件を話せ。」
部屋の中に居たサタナスは腕を組んで睨みつけてくるセフを一瞥すると肩を竦めた。
「ふむ。君は変わらんな。君を呼んだのは何てことは無い。南区が動き出したぞ。ここでの研究を妨害されたとしても、全体視点で研究に対する遅れは無い。だが、長年を掛けて研究したこいつがどうなるのかは見てみたい。奴らがここに来るのを出来る限り引き延ばして貰いたい。そうだな…予定では12/25に完成するはずだ。ふふふふふふふ。今年は最高のクリスマスプレゼントが出来そうだな。」
「…貴様の下らん趣味に興味はない。」
「そうか。この実験は非常に面白みがあると思うんだがな。…そう言えば聞いたこと無かったな。君はなんで我々の組織に入ったんだ?僕には君の目的がサッパリ見えないんだが。」
「…貴様には関係の無い話だ。俺はお前が言った通りに南区の連中がここに辿り着くのを遅くしてやる。」
セフはそう言うと踵を返してドアに向かう。その背中を無言で見送るサタナスの顔には君の悪い笑みが浮かんでいた。
部屋から出たセフはドアの近くに控えていたユウコに一瞥もくれずに歩き出した。
「セフ様!このままあいつの言いなりになるつもりですか!?私は…私には我慢が出来ません!」
ユウコは何かを訴える目でセフの背中を見つめながら後を追って歩き出す。
「五月蝿い。俺の目的がどうであれ、組織の目的の為にはサタナスの実験が必要だ。組織に入っている以上…俺はその目的に沿った動きをする事を義務付けられている。」
「では…では、あの方はどうなるのですか?フィ……?っ。」
気付けばセフの拳がユウコの襟元を捻り上げるようにして掴んでいた。セフの冷たい眼光がユウコを射抜く。
「ユウコ…余計なことを言うな。組織内で弱みを握られたら終わりだ。」
「…申し訳ありません。」
「分かればいい。…お前は勘違いしている。俺は諦めていない。だからここにいる。」
セフはパッと掴んでいた襟を放すと再び歩き始めた。
「ケホッケホッ。」
ユウコはむせて気道を確保すると、すぐにセフに続いて歩き出す。その表情は先程よりも少し明るくなっていた。
(セフ様はまだ諦めていない。それなら私はどこまでも付いて行くわ。)
前を歩くセフの表情は…無い。例え仲間であっても弱みを握られる訳にはいかない。だからこそ、普段から感情を表に出さない様に心掛けているのだ。
(俺は俺の目的の為に生きている。それ以上でも以下でもない。…その為ならなんだって利用してやる。)
「くくくくく。やはり何か隠していたか。僕の予想通りだね。」
ズルズルズルと腕から伸びていたゼリー状の物を元に戻したサタナスは1人で笑っていた。
「セフの秘密か…彼が僕の駒になったらかなり強いな。…ふむ。調べるだけ調べてみるか。彼は目的の為に手段を選ばないのかな?だけど、僕だって同じだ。悲願達成の為なら…仲間だって喰らってやるさ。くくく。」
サタナスの低い笑い声に呼応するかのように、上下に沢山のチューブが接続されたガラス筒の中でとある生物が身じろぎする。
ゴポ
それに気づいたサタナスは邪悪な笑みを更に強くした。
「そうか。君もそう思うか。目覚める日が楽しみだなぁ?」
ゴポ
ゴポゴポ
意識は無いはずだがサタナスの言葉に反応するかのように口から泡が漏れる。
平穏な日常の中でそれをぶち壊さんとする者は着実に力を付けていた。




