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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-3-3.魔法学院1年生対抗試合



ルフトはへへっと笑うと足を組んで伸びをした。実に気持ち良さそうに伸びをする。


「ヘヴィー校長酷くないっすか?俺は今でも常に上を目指してるもんねっ。」


「そうだよ!私達が向上心ないみたいじゃんかー!」


ミラージュも頬っぺたをプウウゥっと膨らませて反論に参加した。


「ほほほ。違うわい。お主らにも仲間と協力して戦うためにはどうすれば良いのかを模索していた時があったなってことじゃ。」


「はーい!それ違う!私がどれだけ苦労してるかヘヴィーちゃん分かってない!私のいる第7魔導師団の状況を知らないと見たよ!」


「そんなに苦労しとるのか?中々に良い結果を残していると思うんじゃが。」


「ちがーう!ルフトちゃんは自由気ままに好きな事やるし、残りの2人も言うこと聞かないし!私がいなかったら7師団は壊滅なんだもんっ!」


一気にまくし立てると頬を膨らませてプイッとそっぽを向くミラージュ。横に座るルフトは「しょうがないなぁ」といった顔をしている。


「ミラージュ、流石に言い過ぎだぜっ。俺達がミラージュのワガママに付き合って全滅し掛けたことだって…」


「あー!しっしーしーしーっ!それは秘密なの!」


「やーだねっ!へへっ。ここでミラージュの悪事の数々をバラしちゃうもんねっ。焼き鳥が食べたいからって追跡相手を無傷で捕まえなきゃなんないのにボコボコにしたりとか~、潜入中なのに可愛い猫ちゃんに目を奪われてバレたりとか~、後は…お腹が空いたから…」


「だめー!!秘密なんだからーラルフちゃんに嫌われちゃうじゃん!」


ミラージュは両手をクルクル回してルフトを叩こうとするが、ルフトの右手が頭を押さえているためにリーチの問題で空振りを続けている。漫画とかでたまに見る光景である。


「ほっほっほっ。仲が良いのは良いことじゃのう。じゃが、そろそろ本題に入ってもいいかのう?」


穏やかに見守っていたヘヴィーの声質が少しだけ変化した。それを敏感に感じ取ったラルフとミラージュは騒ぐのを止めてソファーにキチッと座り直した。幾らタメ語で話していたとしても、礼儀というものをある程度は忘れていないらしい。


ヘヴィーは1枚の紙を取り出した。


「これを見て欲しいのじゃ。」


受け取った紙を見たルフトの表情が真剣味を帯びる。


「これって…。」


「私も見るー!」


パシッとルフトの手から紙を抜き取ったミラージュはふんふんと紙に書かれている情報を読み込み始めた。


「これ…特ダネだねっ。」


ミラージュはそう言うと足を組んで踏ん反り返った。そんな態度を見てもヘヴィーは微笑むのみだ。信頼の証か、ただの諦めか。


「そうじゃろ。この情報が正しければただならぬ事態じゃ。裏で暗躍している組織を確実に潰さねばならん。…クリスタルの悪用は許せんでの。」


「…ふーん。そっすか。」


頭の後ろで手を組んだルフトは何やら納得がいかない顔でヘヴィーを見ている。


「なんじゃ?」


「それだけっすか?」


「じゃから、クリスタルを悪用する組織を潰す必要があるのじゃ。」


何を言っているか分からないという表情をしたヘヴィーを見るルフトの目が細められる。明らかに不満げだ。


「そこまでとぼけるならちゃんと聞きますけど、その組織の名前はなんすかね?」


「それはお主らに調べてもらうつもりなのじゃが?」


「へへっ。そんなのに騙されないですよ?確証が無くても大体の当たりはついてるんすよね?」


「…それはどう言うことじゃ?」


「まだとぼけるんすか。」


ルフトは反動をつけてソファーから立ち上がると部屋の中を歩き始めた。


「まず、この紙に書いてあるクリスタルの裏流通ですけど、街魔通りに設置してある街灯の魔力蓄積機爆発があった時期の前後から急増してますよね。そしてその流通量が1度落ち着いた時期に発生したのが街魔通りに魔獣…いや、魔法を使う獣…魔造獣が連続で出現した事件です。んで、その少し後に魔法協会の地下でロジェスという男が魔物みたいになって自爆。この少し前にもクリスタルの流通量が多くなって、事件の時には減ってます。これらから見ると、関係しているのは魔法協会の地下に居たサタナス=フェアズーフとセフ=スロイ、ユウコ=シャッテンですよね。で…、この3人が所属しているとされる組織の名前は当然…知ってますよね?」


ルフトはヘヴィーの横に立つと腕を組んで見下ろした。対するヘヴィーは感心したようにホクホクと微笑んでいる。


「ほっほっほっほっほっ。流石は魔導師団に選ばれるだけの事はあるの。中々の観察力じゃ。」


「へへっ。これでもある程度の情報網はあるんですよ。…って違う!組織の名前ですよ。」


上手く話題逸らしに乗りそうになったルフトは慌てて元の話題に戻す。…とは言っても、ヘヴィーは単に褒めただけであって話題を逸らすつもりは無かったのだが。


「その組織の名前は基本的にタブーなのは知っておるよの?」


ヘヴィーの問いかけにルフトとミラージュは「当たり前」といった顔で頷く。


「…ならいいのかのう。その組織の名は天地じゃの。その活動目的は不明じゃ。現在分かっているのは何かしらの実験を行っていることのみじゃ。そして、その実験は生物を対象としているんじゃ。今までは動物以外は確認されなかったのじゃが、ロジェスの件で人間も実験の対象になっている可能性が出てきておる。魔法街としても全力で叩き潰したいのじゃが、なんせ天地の組織としての規模も目的も本拠地も分からんのじゃ。…だからこそ、お主らが選ばれたのじゃ。」


このヘヴィーの説明でやっと今回の任務の意味が分かったルフトとミラージュは表情を引き締める。


「つまり…またクリスタルの流通量が増えている以上、何かしらの実験が進んでる可能性があるって事ですね。」


「それでそれで、その実験してる場所を見つけてぶっ壊しちゃえばいいんだね!」


ミラージュがニシシと笑う。


「ほほ。ミラージュよ、ぶっ壊す必要がある場合のみで頼むでの。前みたいに無関係の施設を破壊すると、私が怒られるのじゃ。」


「う…。わ、私はそんな事しないもんね!」


「いやー、ミラージュは一直線だからなっ。多分思い込んだら南区を破壊し尽くすこともあるかも…なんてねっ。」


ルフトの冗談にミラージュの顔が膨れ上がる。


「みんながそんなに虐めるなら、私…全力で暴れちゃうもん。」


「おいおい、私は虐めておらんぞ?」


ちょっと慌てた感じでヘヴィーが弁解っぽい事を始める。暴れたミラージュら手がつけららないのを知っているからこそ…だ。


「むー。私、いつも一生懸命なのに!…もう!ヘヴィーちゃん、早く任務内容を説明してなの!」


ミラージュが珍しく話を先に進めるように促した事を意外に感じたヘヴィーとルフトは思わず目を見合わせる。

ルフトの中に更に突っ込むかという悪戯心がうまれるが、それを察したヘヴィーが先手を打った。


「ふむ。そうじゃな。ここで無駄に長々と話しててもしょうがないかの。任務内容は以前に話した闇の組織の調査及び魔法外における本拠地の確認じゃ。まぁ、つまり天地の関連組織の潜伏先を見つけて叩き潰すという事になるでの。更にクリスタルをこの組織に横流ししている組織の特定もお願いしたいのじゃ。」


「…ヘヴィーちゃん。それって私達2人だけで本当にするの?」


ミラージュは感情が読めない表情でヘヴィーに問いかける。目を細めている辺りから想像するに、「また面倒くさい事を押し付けられている」とか思っているのだろうか。

ヘヴィーはチラリとルフトに目線を送ってみるが、ルフトは先程渡した紙を難しい顔で眺めていた。いかにもわざとらしい事この上ない。


(むむ。これは私が答える意外に選択肢がないじゃないか。)


変な回答をすればミラージュが暴れるかもしれない状況に、ヘヴィーの額を一筋の冷や汗が流れる。無難な返事をしたところで結局のところ結果が変わらないことを鑑みて、ヘヴィーは素直に話す決断をする。


「…そうじゃ。他に当てが無いのじゃ。今回この資料を入手したのは基本的には私達南区のみじゃ。魔導師団で現在手が空いてるのはお主ら2人のみ。更にこの任務は非常に秘匿性が高い。ラルフとも相談した上でお主ら2人に託すことにしたのじゃ。」


「…そっか!じゃあ私、本気で頑張るね!期待しててよ~。にししっ!」


ミラージュはいきなりニコニコのご機嫌になるとクルクル回り始めたのだった。


(…なるほどじゃ。ラルフの名前を出すと機嫌が良くなるのを忘れていたのじゃ。…次回からもこの手を使うしかないでの。ほほっ。)


クルクル回るミラージュの隣に座るルフトはガックシと頭を下げていた。


(この任務…嫌な予感しかしないね。やだわぁ。)


暗い気持ちしか湧いてこないルフトであった。


「よーし!私が悪者はぶっとばすんだもん!」


ミラージュのご機嫌な声が学院長室に響くのだった。



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