11-3-2.魔法学院1年生対抗試合
グラウンドに到着すると、火乃花が龍人の方を向いた。腰に手を当てて真っ直ぐ龍人の目を見据えている。
「じゃ、そろそろ説明して貰おうかしら?」
「ん?」
「ん?じゃないわよ。クラスの皆があなたの魔法について聞きたがってるの分かってるでしょ?」
「あぁ~成る程ね。なんも聞かれないから、そんなに興味無いのかと思ってたわ。」
龍人は大して悪びれた様子もなくカラカラと笑う。
「ホント龍人君って自由ね。別に隠してるわけじゃ無いんでしょ?」
「もちろん。じゃあ何から説明するかな…。んー。」
少し考えた後に龍人は構築型魔法陣について話し始めた。
「俺がプレ対抗試合の乱闘で使ったのは構築型魔法陣だ。通常の展開した魔法陣を分解して新しい魔法陣を構築する魔法だな。」
「それは見てて分かったわ。いつから使えるようになったのよ。」
「あー、それは魔法街に来る前からだ。気づいたら使えてたっていうか、使えるのが普通だったんだよね。」
「…生まれつきの才能って訳ね。」
「私も聞きたいんだけどいい?」
申し訳なさそうな顔をしながら聞くレイラ。もちろん龍人が断るはずもない。
「いいよー。なに?」
「えっと…構築型魔法陣はレベルの高い魔法陣を構築するのに使うの?」
(おぉ。中々鋭い質問をしてくんね。)
龍人は内心で驚きながらも回答を続ける。
「基本的にはそうだな。通常展開する魔法陣は下位魔法陣か良くて中位魔法陣だ。上位魔法陣の展開は出来ないんだよね。」
「あら?前に見た時は下位魔法陣から下位魔法陣もやってたわよね?」
すかさず突っ込んでくる辺りは流石は火乃花と言った所か。龍人としては続けて説明するつもりだったのだが、まぁそれはそれで良しとしよう。
「あぁ。まず、前提として展開型魔法陣はストック出来る数に限りがあるんだ。だから、とっさの事態に対応できない可能性が高いんだよね。その穴を埋めるのが構築型魔法陣って訳かな。ストックした魔法陣を展開、分解した状態で周りに浮かせておいて、状況に合わせて様々な魔法陣を構築するってのが基本になってくるんだ。」
「成る程ね…。かなり反則級の魔法じゃない。」
火乃花はブスッとした顔で言い放った。
「イヤイヤ。一応言うけど、全然そんな事無いぞ?ストックしてる魔法陣が無くなったら何も出来ないもん。」
「…どういうこと?」
「んーと、そうだなぁ。実際に見せた方が早いか。」
龍人はグラウンドの木に右手を向けると魔法陣を展開、発動。火の玉が発射された。その間僅か1秒程。
「…それが何よ?いつもの展開型魔法陣ってやつでしょ?」
「そうだよ。じゃあこれはどうだ?」
龍人が再び右手を木に向けると光の線が魔法陣を描き始め、完成をした所で火の玉が発射される。こちらに要した時間は5秒程だろうか。
「これが展開する魔法陣をストックする時の速度だ。段違いっしょ?」
火乃花は難しい顔をしていた。
「つまり…魔法陣のストックが切れると戦闘スピードが1/5程度に落ちるって訳ね。」
「まぁそうなるな。一応そんな事態にならない様に手が空いた時に魔法陣のストックをしながら戦う様にはしてるけど、剣での打ち合いとかをしてる時に魔法陣のストックは出来ないし、魔法を使ってる時もストックは出来ない。そう考えるとそんなに万能じゃないんだよ。」
「そういうことね。ま、それでも龍人君の爆発的な攻撃力はかなり優秀だから、どっちにしろ反則級なのは間違いないわ。」
「はは。そりゃどうも。他に聞きたいことはあるか?」
龍人はそう言って火乃花、遼、レイラの顔を見る。とは言っても火乃花は聞きたいことは聞いただろうし、遼に関しては殆ど知っている事実。実際の所はレイラに向けて言ったに等しい。
「あ…じゃあ私聞いてもいい?」
案の定レイラが小さく手を上げた。
「どぞー。」
レイラは周りをチラチラと見た後に火乃花と遼を見てから龍人の顔を見る。
「えっと、魔法協会の地下で龍人君が使ってた黒い靄は…今はどうなってるの?」
「あぁあれね。」
ここで龍人は返答に困ってしまう。答え方によっては周囲に【全】と偽っている自身の属性が【龍】である事を話さなければならないからだ。
「…えっと、一応聞くけど遼と火乃花も黒い靄は見てて、それでも敢えて俺に聞かないでくれてるってことだよな?」
龍人の今更感が否めない確認に火乃花と遼は真顔で頷く。
「もちろんよ。」
「うん、そだね。」
「やっぱそうだよな…。」
再び思考タイムに入る龍人。
(参ったな…。ユウコ=シャッテンみたいに俺を狙う奴がいた時に、俺の事を知ってると利用される可能性がある。だけど…誰かが狙ってきた時に俺を助けてくれる人が近くにいたら嬉しいし…。……いや、違うか。そもそも俺が今目の前にいる3人を信じる事が出来るかどうかか…。)
火乃花、遼、レイラを信じる事が出来るか否か。そこに至った瞬間に龍人の心は決まっていた。
「分かった。全部じゃ無いけど話せる所までは話すよ。」
龍人の決心が意外だったのだろう。3人は驚いた表情を浮かべていた。龍人はそれには気づかないフリをして話を続ける。
「あの黒い靄なんだけど、あれを体の周りに出すと魔力が一気に強化されるんだ。ただ、使いすぎると反動で体がボロボロになっちまうんだけどな。」
「龍人…それだけ?」
もっと深刻な話でも出てくるのかと思っていた遼はやや拍子抜けした感じだ。
「うん、それだけだな。」
「あれだけ溜めておいてそれだけって…。一応聞くけど、その黒い靄って何なの?あとプレ対抗試合で使わなかったのは何か理由があるの?」
「んー、黒い靄が何なのかは俺にも良く分からないんだよ。プレ対抗試合で使わなかったのは反動が大き過ぎるってのと、ラルフに人の前で使うなって言われてるんだ。理由は分かんないんだけどね。」
「成る程ね。」
遼は少し難しい顔をして頷く。隣にいる火乃花は腕を組んで怖い顔をしていた。
「ちょっと、成る程ねじゃないでしょ。1番重要な部分について何も分かってないのよ?遼君は龍人君とずっと一緒にいて、それでも黒い靄の事は知らなかったのよね?って事は、龍人君はずっと隠してたって事になるわ。そうするとラルフに会う前から隠してた事になるのに説明が付かないわ。」
「それは誤解だよ。俺が黒い靄の存在に気付いたのは魔法街に来てからだもんさ。」
「あ、そうなのね。それならまぁ…納得かしら。」
龍人と火乃花の会話を聞いていた遼は内心で首を傾げた。
(あれ?俺が夏合宿でキタルにやられそうになった時に見た奴だと、森林街が破壊されてる時にレフナンティで龍人の体から靄が出てた気がしたんだけど…。まぁ、あれが事実とは異なる可能性もあるのかな。それか…あの時の事を龍人が覚えていない?)
遼が龍人目線に取り込まれた時に感じた感情、そして龍人の内側から荒れ狂う様に出てきた力を考えれば忘れるということ自体が疑問になるのだが…。聞いてみたい気持ちは山々だが、今この場面で聞くことでは無いと思い、遼は口を開くのを思いとどまった。
「こんなもんでいいか?そろそろ作戦立てないと…もうすぐ午後の授業になっちまうよ?」
龍人に言われて時計を見ると、授業開始まで30分を切っていた。
「そうね。じゃあ私が考えた戦い方なんだけど…。」
パパッと切り替えた火乃花が自身の組み立てた戦術を話し始めた。
日付は12/2。魔法学院1年生対抗試合が行われるのが12/24~12/25。残された時間はあと3週間。
各魔法学院の1年生達は大舞台に向けて特訓を開始していた。大舞台の果てに彼らが得るものが其々の道を決めるだろう。だが、彼らの魔法使いとしての道はまだ始まったばかりでもある。だからこそ選ぶ権利があり、選ばせる義務があるのだ。
ヘヴィー=グラム学院長は学院長室の窓から切磋琢磨する学院生を眺めながら笑う。
「ほっほっほっ。お主らにも彼らと同じ時期があったよのう。」
ヘヴィーが話し掛けた人物達は向かいのソファーに緊張感なく座っていた。
ルフト=レーレとミラージュ=スターだ。




