11-2-7.筋肉襲来
魔法陣が光り輝き圧倒的な存在感を示す。魔力が溜まり、文字の羅列に過ぎない魔法陣は秘めたる力を発揮する。
(うぇ…さすがにこれだけの規模の魔法陣になると魔力消費も激しいし、制御も難しいな。だけど、これを成功させたら勝機が見える!)
龍人は地面に向ける右手に力を込めると叫んだ。叫ぶ必要は無いが叫んだ。気合いである。
「行くぜ!」
ブォン!
低く激しい音と共に巨大な岩の塊が発射される。それは炎と竜巻を纏い、岩自体も高速で回転することで攻撃力を高めていた。
まず1発。
それはバーフェンス像の周りに集まっていたムキムキ集団のど真ん中に直撃した。
ドッガァーン!
と形容するしかない地響きの様な音が響き、ムキムキ男達が宙に舞う。
その威力にリング上にいたムキムキ男と参加者達…そして上空の観客席にいた誰しもが息を飲み、動きを止めた。
その魔法は…隕石。そう表現するのが1番妥当であろう。
龍人は隕石を1つずつムキムキ男達に向けて発射していく。その度にムキムキ男達は吹き飛び、体力の低下を感知したブレスレットによって観客席へ転送されていく。時々参加者チームのメンバーが巻き込まれるのには目を瞑ろう。
「ほっほっほっ。やはりの。この魔法を見るのは久しぶりじゃ。古代魔法【メテオストライク】に限りなく酷似しているのじゃ。」
古代魔法という秘匿された魔法。それに酷似した魔法を龍人が使っていても、ヘヴィーは特に危機感を表す事なくのほほんと笑っていた。
むしろ、隣に座るラルフの顔の方が引きつっていると言えよう。
「ヘヴィー校長…。古代魔法って魔法街でも最重要の秘匿事項ですよね?それに似た魔法を使う事の意味は計り知れないですよ?しかも【メテオストライク】とか…。【メテオストーム】の下位魔法だからまだいいかもですが…そんなに悠長に笑っている場合じゃないと思いますよ?」
「ほほほ。ラルフよ…いいか?【メテオストライク】という魔法が秘匿事項である事を知っている者が殆ど居ないのじゃ。つまり、この魔法を見て古代魔法に酷似していると気づく者はほとんどおらん。それなら問題が無いのじゃ。古代魔法について知っておる者はこの魔法があくまでも酷似しているだけである事も気づいているはずじゃ。【メテオストライク】の威力は龍人が使った魔法の比にならないレベルじゃからの。つまり、似た魔法を使った程度にしか思われないのじゃよ。気になる点があるとしたら、龍人が構築型魔法陣を使うという位じゃの。闇組織が戦力として欲する可能性はあるかの。じゃが、ラルフ…お主が居るから下手に手は出してこんじゃろ。」
ラルフは両手を頭の後ろで組むと、面倒くさそうに口を尖らせた。
「俺、あいつの子守りじゃないですよ?」
「そんなの分かっておるわい。じゃがの、お主はあやつの教師じゃ。生徒を守るのは当然の事じゃろう?」
「う…そうですね。あーマジか。俺って常に何かしらの厄介事に巻き込まれるんですよね。」
「ほっほっほ。それもまた運命じゃな。」
ラルフとヘヴィーの様な会話をしている者が観客席にも何人かいる。大体の者が魔法街における重要な役職に就いている者だったり、もしくは魔法街の外から来た連中だったりするのだが…。彼らについては近い内に明らかになるかも知れない。
リング上で隕石を放っている龍人は使用する魔力の大きさにフラフラとし始めていた。
(まじいな…。1発隕石撃つのに必要な魔力が半端ねぇ。このままだと俺が先に倒れんな。)
そんなことを考えながらも隕石を放ち、着弾地点のムキムキ男たちが吹き飛んでいく。
(あと数発が限界だな。それでムキムキ男達を全員倒さねぇと。)
もう1発の隕石を放とうとした時に魔力が枯渇しつつある龍人はクラッとしてしまう。
それによって狙いがそれた隕石はバーフェンス像に向かって真っ直ぐ飛んでいった。
龍人の魔法から逃げる為に右往左往していたムキムキ男達に防ぐ術もなく、参加者チームのメンバーも龍人の魔法がバーフェンス像に向かって放たれるとは思っておらず、対応が遅れてしまう。
結果…バーフェンス像は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「やべ…。やっちまったな。」
「高嶺龍人…貴方、流石にそれはないのですわ。」
龍人の後ろにいたマーガレットが呆れたように首を振る。
龍人は苦笑いを浮かべながらマーガレットの方を向く。
「ホントだよな。またデバフ効果が発動するか厳しいわな。あ、それと俺の事は下の名前を呼び捨てでいいぞ。いちいちフルネームで言ってたら面倒くさいだろ?」
「え…。えっと、り、龍人…で良いのですか?」
マーガレットは一瞬硬直し、しどろもどろになりながらも龍人の名前を呼ぶ。対する龍人はマーガレットが何故そんな反応をするのかサッパリ分からない。
「…?あぁ、普通に龍人でいいよ。」
「わ、分かりましたわ。そ、そう呼んであげるのですわ。別にそう呼びたいとかではなくて、貴方がそう言ったから…。」
マーガレットの言い訳タイムが始まるかと思ったが、バーフェンス像が壊れた事による事態の変化がそれを遮ってしまった。
ブゥンという音がすると、リングを球状に覆うようにして魔法陣が現れたのだ。
マーガレットはまだ何かゴニョゴニョ言っていたが、龍人は瞬時に思考を切り替えた。
(立体魔法陣…いや、空間魔法陣か。立体ならもっと複雑な魔法陣になるはずだ。となると、この魔法陣内に何かしらの魔法効果…もしくは魔法が発動すんな。何が起きるかわかんねぇ以上、ボケっとしてるわけにはいかねぇか。)
空間魔法陣が光り始める。それと同時に魔法陣内の空間の数か所に高密度の魔力が生まれ始めた。
(これ…まずい!)
龍人とマーガレットから少し離れた地点にも魔力が集中し始める。龍人は咄嗟に後ろにいたマーガレットを抱き寄せて魔法壁を最高出力で展開した。
「きゃ!何をしますの!こんな…こんな公衆の面前でセクハラなんて許しませんのよ!」
「ちっと黙ってろ。この魔法壁じゃ耐え切れるか分かんねぇ。」
「う…。」
龍人の真剣な目つきにマーガレットは思わず黙ってしまう。勿論、セクハラをするために抱き寄せられた訳ではないのは分かっているのだが…それでもそう言ってしまう彼女の気持ちも分からなくはない。
高密度の魔力は更に密度を上げると、爆発を引き起こした。
ボンッ
という短い音と共に爆発によって発生した爆風が龍人達を襲う。更に爆発の熱波も襲いかかり、龍人が展開していた魔法壁を軋ませる。10mは離れている地点からの爆発の余波でこれまでの威力だ。もし、それが至近距離で起きた場合は一気に上空の観客席に飛ばされるのは間違いがないだろう。むしろ、ブレスレットを着けていなければ即死するレベルの魔法かもしれない。少なくとも一発で戦闘不能になるのは間違いないと言い切れる程の威力だった。
高密度の魔法による爆発は1回だけではなく、空間魔法陣内に次々と現れ始めた。
(マジか。このままだとどっちのチームが先に全滅するかはほぼ賭けみたいなもんじゃねぇか。ってか、レイン像は大丈夫なのか?この爆発が近くで起きたら一発で壊れねぇか?)
龍人は心配になってレイン像を見る。
同じ疑問を持っていたのか、龍人に抱き寄せられたままのマーガレットが喋る。
「あのレイン像の周りだけ爆発が起きてませんわね。恐らく、空間魔法陣にそういう設定がされているのかも知れませんわ。このリング上で唯一安全な場所かも知れませんわね。」
「そうだな。だけどよ…あの状況だぜ。安全っていっても全然安全な状態じゃねぇよな。」
「…もう、カオスですわ。私、こんなハチャメチャな戦い望んでいなかったのですわ。」
「それは俺も同じだよ。何が楽しくてムキムキ男と乱闘騒ぎしなきゃなんないんだかな。」
「同感ですわ。」
周りで爆発が発生し魔法壁はミシミシと軋んでいるのだが、龍人とマーガレットは呑気に揃って溜息をついた。
「よし、ここにいても始まらねぇか。もうレイン像が壊されるか、俺達が倒れるかムキムキ男達が倒れるかだろ。後は全力で突っ込むだけだな。」
「その潔さ良いですわね。最後は作戦とかではなく純粋な実力勝負って事ですわね。」
龍人は周りに魔法陣を幾つか展開してストックを始める。
「魔力があんま残ってねぇから、どんだけ役に立てるかは分かんねぇけどな。」
「あれ?さっきの隕石の魔法陣はどうしましたの?」
「ん?あれは魔法壁を張るときに維持できなくて消えちまったよ。流石に俺の実力じゃまだ扱い切れねぇわ。」
「そうですの…。あの魔法あそこらへんのムキムキにぶちかませばいいかと思ったのですが。しょうがないですわね。」
「悪いな。」
「気にする事ないですわ。それでは行きましょう。」
「おうよ。全力でぶっ飛ばしてやる。」
何かの事件のクライマックスで起きそうな会話をした後に、龍人とマーガレットは目を合わせると頷き、レイン像近くの戦闘地点に向けて急降下した。
最初は印象の悪い出会いをした龍人とマーガレットだが、意外に気が合うのかもしれない。




