11-1-21.プレ対抗試合
赤タイツ女は龍人が向かってくるのを確認すると、すぐに迎撃体勢を整えた。右足を後ろに引き半身になり右足の拳を引く。カウンターを狙った構えだ。そこに向かって突き出される龍人の剣。赤タイツ女は上体をぐにゃりとしならせて突きを躱し、そのままバク転をするようにして龍人の頭に蹴りを上から叩き込んだ。
赤タイツ女はそこで気付く。龍人が突き出した夢幻の周りに魔法陣が幾つか展開しているのを。そして、その魔法陣はすぐに発動し、夢幻を中心にして風の渦が発生する。
「くっ…!」
夢幻をギリギリで避けてカウンターを放っていた赤タイツ女は既に体が宙に浮いている状態だ。風の渦を避ける手段は無く、吹き飛ばされてしまう。
「うしっ!」
龍人は着地するとすぐに吹き飛ばした赤タイツ女に向けて疾走し、相手が空中で体勢を直し着地したのに合わせて雷撃を放つ。女は体を思い切り捻る事によって生まれる遠心力を使って雷撃を躱す。更にその動作の最中に両足の爪先に炎を精製、回避行動に蹴りの動きを織り交ぜる事で炎の刃を龍人に向けて飛ばした。
(…この程度なら避けるまでもないな。)
冷静に相手が放った炎刃の威力を判断した龍人は夢幻に炎を付与し、赤タイツ女が放った炎の刃をを切り捨てた。すぐに攻撃を仕掛けて来るかと思って魔法陣を幾つか展開したのだが、女は軽く肩で息をしながら動きを止めていた。
(…このままやり合ってても埒が明かない気がすんな。一気に攻めてみるか。)
近接戦闘ではイマイチ攻め切れないと判断した龍人は、得意の距離で戦うことを選択する。剣を使って戦ってはいるが、元々近距離専門ではない。かと言って絶対的に得意な距離がある訳でも無かった。近距離から遠距離までオールレンジに対応が可能で、それらを上手く切り換えて戦う事が出来るのが龍人の強みだ。その強みを発揮して戦う為には…今まで隠してきた技術を使う必要がある。
(よし。やりますか!)
龍人の周りに20個前後の魔法陣が展開する。赤タイツ女は展開された魔法陣の多さに警戒して身構える。龍人はニヤリと笑みを浮かべると、右手を赤タイツ女に向ける。そして、炎の矢、水の矢、風の矢、岩の矢を連続で放った。
赤タイツはその攻撃をみて眉を顰める。魔法陣を見て龍人が戦闘スタイルを変えてきたことに気付いたのだ。
(大量の魔法陣は…中の模様を見る限り全て遠距離魔法用……遠距離魔法で私の動きを牽制し、一気に攻撃を当てて来るつもりだな!)
相手が遠距離で来るのなら、如何に近距離戦に持ち込めるかが鍵となる。赤タイツ女は足裏に炎の塊を精製、凝縮し、地面を蹴るのと同時にそれを爆発させて一気に加速した。各属性の矢をすり抜けるようにして龍人へ肉迫する。
矢の隙間を縫っての急接近に龍人は一瞬驚くが、すぐにニヤリと笑い転移魔法陣を展開して姿を消す。赤タイツ女は急停止して周りに視線を巡らせる。
龍人が転移した先は赤タイツ女の真上20M程の上空だ。周りに魔法陣が次々と展開され、属性矢が大量に放たれた。
「…。」
雨の様に降り注ぐ大量の属性矢。赤タイツ女はそれでもたじろぐ事無く攻撃を避けながら手と足に灯した炎を刃として龍人に飛ばしていく。
その女の行動に龍人は内心で舌を巻いていた。
(遠距離中心で攻められてて不利な筈なのに、それでも攻撃を止めないか…。勝ちへの執念ってやつか?俺も見習わなきゃかもな。)
龍人の放つ属性矢が当たる気配はサッパリ無い。そして、赤タイツ女が放つ炎刃も龍人には直撃しない。膠着状態…に思えるが、魔力の消費量では明らかに龍人の方が上だ。それは、この攻防が長引けば長引く程不利になっていく…という事を表している。
その事を踏まえた上で、龍人は次の行動を開始する。
属性矢を放つ魔法陣はその場に固定したまま転移魔法陣で転移。地上の赤タイツ女から少し離れたところに現れると鎌鼬を発生させる。
「よしっ!これで…!」
龍人は鎌鼬を一斉に女に向けて放つ。荒れ狂う鎌鼬が空気を切り裂き、甲高い音を立てながら女に襲いかかる。
女は一瞬止まると全身から炎を噴き出し、鎌鼬に向けて正拳突きを放った。その拳に合わせて炎が巨大な拳を形成。鎌鼬を飲み込み、今度は龍人に襲い掛かる。
「マジか!?」
龍人は慌てて前面に魔法壁を展開。炎の拳を受け止める。
カッ
炎の拳の着弾と同時に後ろで微かに聞こえた足音に龍人は咄嗟に反応した。何があるのか確認もしないままに振り向きざまに体勢を低くし、夢幻を水平に一閃。
その龍人の視界に映ったのは、赤タイツ女の股だった。
(はい?)
エロい考えが過る間も無く龍人の腹部に渾身の後ろ回し蹴りが突き刺さる。
「ぐ…!」
龍人はその勢いに飛ばされ、地面を擦る様にして転がった。その龍人に向かって赤タイツ女は追撃を掛けるべく顔面に向けて拳を叩き込んだ。ここで彼女は不可解なモノを目にする。龍人は笑みを浮かべていたのだ。追い込まれている筈の人間が笑みを浮かべるという事はほぼ有り得ない。
何かがある
そう考えたのも束の間、女は自身の上に強大な圧力を感じて顔を上げた。そこに迫っていたのは…巨大な光の柱だった。
ズドォォォォン
深い地響きと共に光の柱がリングに突き刺さった。たっぷり10秒、光の柱は地面を抉ると次第に細くなって消えていった。抉れた地面に残るのは赤タイツが所々破れ、この状況でなければ確実に男が興奮するであろう姿で倒れる女だった。
「よし!あと3人!」
光の柱の直撃範囲外に転移した龍人は小さくガッツポーズをすると残りの赤タイツに向けて走り出した。
この時、観客席では一瞬の沈黙の後にどよめきが起きていた。
マーガレットはダンッと立ち上がるとリング上の龍人を睨み付ける。
「どういう事ですの!?今のは…説明が付かないですの!」
近くに座るミータ、マリア、アクリスも其々何かを考え込んでいる。
博樹、文隆、クロウリー、デイジーは顔を見合わせ…再び龍人に視線を戻す。
「意味が分からないねぇ。あんな魔法…聞いたこと無いんだねぇ。」
文隆は何故か楽しそうな声を出し…。
「確かに見たことも聞いたことも無いね。あれは…脅威だよ。」
博樹は強力なライバルの出現に闘志を燃やしていた。
ミラージュは目をパチクリした後にルフトの頭をポカポカと殴る。
「何なのあれ!?何で隠してたんだしっ!」
「痛えって!」
殴られながらもルフトはヘラヘラと笑っている。
「何笑ってるんだしっ!」
「へへっ。まさかあんな隠し球を持ってるとは思わなくてさ。ありゃあ強くなるぞ。楽しみだねっ。」
「そんな呑気に言ってる場合じゃないよっ?あのユニークスキルは…危険なんだよ!?絶対悪者に狙われるんだから!」
「そんなん今言ってもしょうがないっしょ?もうこれだけの観客の前で使っちゃったんだしさ。これからどうするのかだよ。」
「ルフトちゃん…呑気なのっ!」
ミラージュのポカポカはまだまだ続く。




