11-1-20.プレ対抗試合
プレ対抗試合に参加をすると決めた時、龍人は悩んでいた。既に何度も触れているが龍人のチーム戦における勝率はかなり低い。彼の中には無意識の内にチーム戦での決まりが出来ていた。
チームで連携が取れるように。
仲間が危なかったら助ける。
つまり、龍人は無意識で完璧な勝利を求めていたのだ。しかし、時には犠牲も必要なのだ。…それは仲間の死とか大袈裟なものでは無く、例えば仲間の怪我などの小さなものでも良い。この犠牲を払えるかで勝負というものは大きく勝敗を分ける場面があるのだ。そして、これまで龍人が負けてきた場面もそれに準ずるものが多かった。
例え小さなものであったとしても仲間の犠牲を龍人が許容する事が出来ないのには、過去の事件が関係していた。
それは森林街での事件。遼の姉である藤崎茜が命を奪われ、森林街唯一の街であるレフナンティが壊滅した事件だ。街を護る為に向かって行った護衛団も全員殺され、森林街に住む人々も1人残らず殺されていた。その惨劇の中、生き残ったのが龍人と遼だ。しかし、龍人の中では「生き残る事が出来た」ではなく、「生き残ってしまった」という感情の方が大きかった。
この事件が龍人に及ぼしたもの…それは、仲間を失いたくないという気持ちだ。この感情は本人も気づかない内に「仲間を傷つけさせない」という無意識の決心へと変わっていた。更にはこの無意識の決心がチーム戦に於ける危ない場面でのフォローに全て龍人が回るという行動を導き出していたのだ。
龍人はそれで良いと思っていた。臨機応変に動くことの出来る自分が全てのフォローに回れば良いと。
そうする事で、無駄な犠牲を払わず勝利に近付けると。勝てないのは自分自身の力量が足りないのだと思っていた。
相手の熱を操る魔法によって引き起こされた爆発を転移魔法で避けた龍人はリングの上空にいた。体の周りには風が纏わり付く様に動き、龍人の体を宙に浮かせている。
その龍人の両腕にはレイラが抱えられていた。
「り、龍人君…ちょっと恥ずかしいかも。」
「いや、レイラが宙に浮く場合は無詠唱魔法だろ?魔力消費が激しいから使わないに越したことは無いよ。」
そうは言うものの、レイラは相当恥ずかしいらしく顔を赤く染めている。龍人はそんなレイラを見て可愛いと思いながら口を開く。
「レイラ、ありがとな。俺に足りなかったもの…分かったよ。」
レイラは一瞬目を丸くするが、すぐに理解したらしく優しい微笑みを浮かべた。
「ずっと…気になってたんだ。龍人君が私達の事を気にし過ぎてて、本気を出せてないんじゃ無いかって。」
「あぁ…実際そうだったみたいだな。俺さ、仲間が傷付くのが嫌なんだよ。だから、全部俺が何とかすればイイって思ってたんだ。目の前の敵を倒す事よりも、仲間を守ることを優先してたんだ。だけど…それだと、仲間を信用して無いって事になる…。レイラがさっき信じてるって言ってくれなかったら気づかなかったよ。」
「そっか…。良かった。」
龍人の言葉を聞いたレイラは微笑みを満面の笑みに変える。
「レイラ、先に下に降りててもらっていいかな?」
「ん?分かった。待ってるね。」
そう言うとレイラは龍人の腕の中から飛び出ると下に降りて行った。その一瞬に目が合う。レイラは少しだけ不安そうな感情をその目に浮かべていた。しかし、そんな様子を見せようとしない所を見ると龍人に気づかせないようにしているのだろう。それならば、気付かない振りをするべきだと判断した。
「さて…と。」
龍人は顔を左に向ける。その先に居るのは…。
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熱による爆発が起きた後、上空にいる龍人とレイラを見てラルフは面倒臭そうな声を出した。
「いやぁ、駄目ですね。全然腑抜けてるわ。」
頭の後ろで手を組んで天井を見上げる。龍人の動きが予想以上に鈍っていたのだ。
「ほっほっほっ。ラルフよ、その腑抜けがお主を見ておるぞい?」
「ん?」
ラルフが龍人の方を見ると視線が合った。その視線に込められた想い…ラルフは即座にそれを悟る。
「おいおい。ここでか。…ヘヴィー校長、あいつ本気で戦う決心がついたみたいですよ。ってか、本気で戦おうとしてますね。幻創武器の龍劔は使わないにしても、構築型魔法陣は使うかもですが…OK出していいですかね?」
「ほっほっほっ。龍人はその構築型魔法陣を使う事で、今まで周りに言っていた属性【全】では無い事を暴露することになるのは分かっておるかの?そして、じゃあ本当の属性は何なんだという声が上がる事も分かっておるかの?」
「えぇ、まぁ前にその話はしましたから。属性【全】は過去に数人しか居ないって事も知ってます。そんで、展開型魔法陣は属性【全】だからって理由で誤魔化せても、構築型魔法陣は誤魔化せないってのは本人も分かってます。まぁ、その構築型魔法陣を使った時に属性をなんて言うつもりなのか…ちっと不安ですけどね。」
「ふむ…。」
ヘヴィーは顎に手を当てて龍人を眺める。そして…ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「良いじゃろ。いつかはバレるものが早まるだけじゃ。私も何かあった時に自分の学院の生徒を守る覚悟くらい出来とるぞぃ。」
「流石はヘヴィー校長ですね。じゃ、合図出しますよ。」
そう言うとラルフは龍人を真っ直ぐ見て1回だけ頷いた。
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龍人は窓の向こうにいるラルフを見ていた。これから全力で戦うという意思を伝えてそちらを見たのだが、ラルフは隣に座るヘヴィーと何かを話している。
下のリングではタムがなんとか起き上がって遠距離魔法を放つ赤タイツ3人組と炎魔法の応酬を繰り広げている。赤タイツ女はサーシャに襲い掛かり次第に追い詰めていく。サーシャは闇魔法で何とか凌いでいるが、元々前線に出て戦うスタイルでは無い為、苦戦を強いられている。
先に下に降りたレイラは赤タイツ3人組の遠距離魔法を悉く防ぎ、龍人が動き出すまでの時間稼ぎをしてくれている。
少しすると、ラルフが龍人と目線を合わせて頷いた。
それを見た龍人は自然と口元が綻んでいた。力を制御せずに、自分の戦いたいように全力で戦う。これが出来るという事だけで、龍人は開放感を感じていた。
(これだけの人の前で構築型魔法陣を使ったら…後が大変なんだろうな。ま、だけどそれでもいい。)
龍人は展開した魔法陣に手を突っ込み夢幻を引き抜いた。今は黒い靄が出ていないので色は通常の銀色だ。いくら全力で戦えるといっても、黒い靄の力を使う訳にはいかない。
だが…。
「そんなん無くても十分に戦える!」
龍人は夢幻の切先をスッと持ち上げる。その先に居るのは…赤タイツ女だ。龍人は不敵な笑みを浮かべると高速で降下した。




