2-4-1.クラス分け試験
たっぷり寝まくって元気一杯になった3日目の朝。
流石に1500ptでは一番上のクラスに入れるか心配になった龍人は、重い腰を上げると敵を求めて動き出した。
2日間ほぼ寝ていたので体調は万全。積極的に戦ってポイントを稼ぐ予定である。
「うしっ。やるか。」
昨日とは打って変わってやる気に満ちた表情をした龍人は、戦う相手を求めて走り出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さて、龍人の親友である藤崎遼はというと…全力で逃げ回っていた。
遼は1日目、2日目共に4人ずつ、合わせて8人を倒し1800ポイントを会得している。遭遇した相手が大した実力の持ち主では無かったのがこの快勝劇の真実ではあるのだが、連勝した事で気を大きくした遼は島の中央へと向かった。
理由は単純。強い敵と戦う為だ。
では何故島の中央に強い敵がいると考えたのか。
それは、弱い奴は敵との遭遇を減らす為に島の外側へ移動をして余計な戦闘を避け、隙を見て敵を倒す戦法を取る。
強い奴はある程度の敵では負けない自信があるはずだから、敵の不意打ちに合いやすいというデメリットがあったとしても、誰かしらと遭遇しやすい島の中央付近に集まるはず。
…という推測に基づく考えである。
遼自身も魔法はある程度のレベルで使える為、島の中央へ向かうという選択は間違ってはいなかったと言えよう。
但し、油断をしていなかったなら…だ。
島の中央部分はジャングルの中に不自然で綺麗な平原が広がっていた。愚かにもその不自然さを大して気にしないで平原に足を踏み入れた遼は、違和感に気づく。
平原の中は異質な空気に包まれていた。外と隔離されている様な、閉ざされた感覚。その正体に気付いた遼はすぐに平原から出ようとして顔面をモロに強打した。
「いった…!」
顔を押さえてうずくまる遼。
平原とジャングルの境目には目には見えにくい壁…つまり結界が張られていたのだ。遼が平原に足を踏み入れてから結界が張られたのではない。
入る事は出来ても出る事が出来ない罠型の結界だ。
つまり、遼は敵の罠に自ら足を踏み入れてしまったのだ。
そして、その結界の主が堂々と現れた。
結界の主の名前はクラウン=ボム。クラウンはは恐るべき?破壊力の魔法を操る男だ。名前から分かる通り、爆発を主体とした魔法を使う。
そして現在…
「はははー!燃えろ!吹き飛べ!逃げ惑え!」
楽しそうに笑うクラウンの手元からは大量の爆弾が発射され、遼はひたすら逃げ惑っていた。
なぜ応戦しないのか。実は、結界に捕まった事を悟った遼は、すぐに武器である双銃を取り出して平原から出ようとした。…のだが、顔面強打をして頭に蹲っている所に上から降ってきた大量の爆弾に吹き飛ばされ、双銃を手放してしまったのだ。
お茶目…と評するにはやや悲しい現実である。油断が招いた悲劇。泣きっ面に蜂。慎重に行動すれば回避できた筈の不幸な現実が遼を苦しめる。
武器が無い遼は逃げる。逃げる。全力で逃げるしか無い。肝心の武器はクラウンの足下にあり、近づく事が出来ないのだ。
30分以上もの時間逃げ回っていた遼は、肩で息をしながら目の前の男に向かって叫んだ。
「はぁ、はぁ。ちょっともう勘弁だわ。キツイって!」
「だったら俺様の爆弾に吹き飛ばされて、ポイントを貢げー!」
何を言ってもクラウンから返ってくるのは、爆弾と俺様な言葉の数々。遼はそろそろ体力的に逃げるのも限界だった。むしろここまでノーダメージで避け続けていた事を賞賛されるべきだろう。
容赦なく放たれた爆弾を避けようとして足をもつれさせた遼は、爆弾の直撃を受けて吹き飛ばされ、無様に地面へ転がった。
足は棒のように重く、息も上がりきっている。これ以上逃げ続けるのは難しいと判断してしまう。
もう負けだと諦めた遼に向けてヤケにカッコイイ雰囲気で決めゼリフが吐かれた。
「俺様に出会ったのが貴様の運の尽きだ!くたばるがいい!」
クラウンから放たれる爆弾。遼をバカにしているのか、綺麗なアーチ状に連なりながら飛んでくる。
「ションベン小僧のションベン爆弾だ!はーはっはっはっ!屈辱に泣き喚け!」
もはや謎のセリフを吐くボム。良くみれば、右手がクラウンの股間の位置に添えられ、そこから爆弾が発射されていた。
(俺ってこんなふざけた奴に負けちゃうのか…。)
クラウンの言葉通りに果てしない屈辱を感じながら向かってくる爆弾を見る。どうにかして逃げたいが、疲労と先程の爆弾の衝撃で体は思うように動かなかった。
被弾を覚悟した遼は目を閉じる。そして、爆弾が遼にて着弾する寸前、遼の脇腹を抉るような衝撃が襲った。
「がはっ!」
体をくの字に折り曲げた遼は吹っ飛び…地面を転がり結界の壁にぶつかった。