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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-1-16.プレ対抗試合



マーガレットが龍人に興味を持ったのは参加者控室で対戦表の発表があった時だ。マーガレットは元々街立魔法学院に対して殆ど興味を持っていなかった。魔法街戦争の英雄の1人が教師に居たとしても、要はシャイン魔法学院やダーク魔法学院に入る事の出来なかった魔法使いが居る学院だと認識していたのだ。言わば格下の他学院…その程度だとしか思っていなかった。

だが、発表の時に1人だけ違う雰囲気を発していたのが龍人だった。色々な人と話していながらも控室内の参加者1人1人をしっかりと観察していたのだ。最初はレベルの高い社会人かとも思ったのだが、様子を伺っているとどうも若い連中とばかりつるんでいる。そして、チーム発表の時の様子を見てマーガレットは龍人が街立魔法学院の学生だと確信したのだ。

何故なら、そこにはマーガレットのライバルであるルーチェ=ブラウニーが居たのだ。


(あのルーチェの近くに居るってことは、街立魔法学院の上位クラスに間違いないのですわ。…あの女が敢えて選んだ街立魔法学院の実力、たっぷりと観させてもらうのですわ。)


どうやらルーチェとマーガレットには何かしらの関係がありそうだが…。


(それに、彼が強いのであれば今度の対抗試合でぶつかる可能性が高いのですわ。その時の為に分析をする事も必要ですわ。)


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


さて、マーガレットにそんな風にマークされているとは全く思っていない龍人は観客席でポップコーンを食べていた。

試合は全30試合中27試合目だ。

横でタムが呆れ声を出す。


「龍人さん…もうすぐ試合なのに良く食べれますね。俺、緊張してきちゃったっすよ。」


「ん?別に命が掛かってる訳でもないんだから緊張したってしょうがないだろ。」


ケロっとした様子で答える龍人にタムは思わず溜息を付いてしまう。


「その精神…俺には真似出来ないっす。」


「無理に真似しようと思っても真似出来ないから気にすんなって。」


何故か少しズレた返事を返しながらも、割と真剣な目で試合の様子を観察する龍人。真面目なのかそうで無いのか良く分からなくなってきたタムは話すのを諦めて試合を見ることにする。


「ちょっといいかしら?」


突然上から掛けられる声。龍人がポップコーンを咥えながら上を見ると、そこには巨乳…いや、魅力的な山…いや、亜麻色のロングヘアーをサラサラと靡かせるヤケにスタイルが良い女性が龍人を見下ろしていた。その顔立ちはとても綺麗で、二重瞼に長いまつ毛が美しい顔だちを更に引き立たせていた。


「んあ?えっと…なんだ?」


龍人は何で話しかけられたのか分からずに惚けた顔をしている。


「貴方、高嶺龍人ですわね?」


「ん、そうだけど?」


どうやら自分の事を知っているらしいので、龍人はクルッと回転してその女性の方に向き直った。


「えっと…ん?あ…。」


龍人が変な反応を見せると、その人物の眉がピクリと動く。


「なんですの?」


「さっき試合に出てたよな?シャイン学生Aでリーダーっぽかった人じゃん。どしたんよ?」


「あらあら。試合を見ただけで私の事を覚えてくれてたのですわね。ありがとうございます。」


女は少しだけ頬を緩めると、とても丁寧なお辞儀を披露する。そんなのに慣れていない龍人は焦ってしまう。


「いやいや!そんなんでいちいち頭下げないでいいって。別に顔を覚えてたとか大した事じゃないしさ。えっと…俺は高嶺龍人だ。よろしくな。」


「案外丁寧なのですわね。私はマーガレット=レルハですわ。よろしくね。」


龍人とマーガレットは互いに手を差し出し、握手を交わす。マーガレットは握手をしながら龍人の目を真っ直ぐに見つめていた。美人のマーガレットに見つめられて、何となく気恥ずかしくなった龍人。


「え~っと、そんで俺に何の用だ?」


「あら。そうでしたわ。」


マーガレットは龍人の手を放すと右手を口元に持っていく。わざとらしいと言えばわざとらしい忘れてましたポーズだが、それでもお嬢様らしい気品を漂わせているのは本当に育ちが良いからだろう。


「私、あなたに興味が有りますの。」


「…はい?」


マーガレットの言っている意味を理解しきれない龍人は思わず聞き返してしまう。後ろでは、チラチラと龍人とマーガレットの様子をレイラが伺っており、マーガレットの言葉にピクリと反応していたりもする。


「あら?私何か変なこと言いましたかしら?もう一度言いますわね。私は貴方の…」


「あら!マーガレットじゃないですか。どうしたんですの?」


マーガレットが一番重要な部分を言おうとした所で後ろから声を掛けてきたのはルーチェだった。龍人の食べているポップコーンを見て食べたくなったと買い出しに出ていたのだ。もちろん、その手には…というか両腕には特大のポップコーンが抱えられていた。


「ルーチェ…。貴女はここに何をしに来ましたの?」


「ここは私の所属する街立魔法学院のチームの場所ですわ。私がここに来ることは何も不思議な事がないのですわ。」


「…そうでしたわね。高嶺龍人、今回はここで失礼させて頂きますわ。」


そう言い残すとマーガレットは踵を返してカツカツと歩き去ってしまう。

結局マーガレットが何を言いたかったのか全然分からなかった龍人は首を捻ることしか出来ない。


「なぁルーチェ、知り合いなのか?」


龍人の質問にルーチェはニコッと微笑む。


「えぇ。私のブラウニー家とマーガレットのレルハ家は色々な所で競い合ってますの。」


「競い合ってるって?」


「そうですわね…。」


ルーチェは顎に人差し指を当てる。


「まず、ブラウニー家は行政区税務庁の長官を務めていますわ。レルハ家は法務庁の長官を勤めていますの。その税務庁と法務庁で利権争いもありますの。その為なのかは分からないのですが、ブラウニー家とレルハ家は子供の成績でも競い合ってるのですわ。でも、私が街立魔法学院に進学したので最近は落ち着いていますの。」


「なるほど。あのマーガレットって奴もお嬢様なんだな。…ん?って事は、ルーチェはシャイン魔法学院に入る予定だったのか?」


「そうですわ。ただ、数多くいる魔法使いの中で一握りの人しか入れない魔法学院より、門戸が広く開け放たれている魔法学院の方が自由に色々出来ると思ったのですわ。」


「…んー、そんなもんかねぇ。一握りの人しか入れないエリート学院ってのもそれはそれでメリットはあると思うけど。」


龍人の意見を聞いたルーチェは「ん~」と目線を上に向けて何かを考える。そして、指をピンと顔の横に立てた。


「正直に言うと、私はレルハ家との競い合いが嫌だったのですわ。ストレスなのですわ。それに、私は街立魔法学院に入学して大切な仲間に逢えたので満足していますの。」


ルーチェはそう言うとニッコリと微笑む。傾げた首に合せてショートカットの金髪が揺れる。龍人は気付く…ルーチェに対して失礼な事を言ってしまったという事を…。なんて言おうかと目線を泳がせ、下に落とし、心を決めてルーチェを真っ直ぐ見る。


「えっとだな…。わりい。俺、ナンセンスな事言っちまったな。」


しかし、ルーチェは目をパチクリすると首を傾げた。


「ん?何か龍人くんは失礼な事言いましたの?全部正論だと思いますわ。」


「……はは。さすがはルーチェって感じだな。」


ルーチェの心の広さに龍人は言葉には出さずに礼をする。


「あのーお話中悪いんすけど…、そろそろ参加者控室に行きたいっす。」


龍人とルーチェの話がほぼ一区切りついた所で、タムが申し訳なさそうに会話に割り込んできた。気づけば28試合目が始まっていて、既に龍人達の街立学生Aチームが参加者控室に入れる時間になっていた。


「あ、マジか。わりいわりい。じゃ、行くか。」


「勿論行くっすよ!少しでも作戦会議したいんすから!」


サーシャとレイラも立ち上がり移動する準備を始める。そして、全員の準備が整った所で龍人達は移動を開始した。


「龍人くん。」


その龍人の背中に掛けられる声。ルーチェだ。龍人が振り向くと、ニコニコしながら手を振っていた。


「龍人君の本気でマーガレットの度肝を抜いてあげて下さいね。」


「おうよ。任せとけ!」


龍人はルーチェに向けてグッと親指を立てると背を向けて歩き出した。



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