11-1-13.プレ対抗試合
龍人達が観客席に戻るとレイラが驚いた顔で火乃花とスイを見た。
「あれ…火乃花さん来たんだね。それにスイ君も。人の多いとこ苦手そうな気がしてたけど…大丈夫なの?」
「試合に出て、手の内をバラすのは嫌だけど…他の人の試合を観て技術を盗むのはしないとね。」
火乃花は当然と言わんばかりの澄まし顔でレイラの隣に座る。
「む…人混みは苦手だが…我も……強くなるためには努力は惜しまない。」
人混みが苦手と言う話をしたことが無いのに見抜かれていた事に驚きながらも、スイは平然を装いながらタムの隣に座った。
レイラはスイの言葉を聞くとキョトンとし、少しするとクスクス笑い出した。
「ん?何か今の面白いトコあったか?」
レイラは龍人の方を向くと小さく囁いた。
「あのね、スイ君って学院に入って来た時は全然自分の事を話さなかったんだよ。それなのに…今、自分の事を話したの。それがなんか嬉しくて。」
「ふーん。そんなもんかねぇ。」
レイラがスイの事で笑っているのを見て、龍人の中で複雑な感情が渦巻く。
(なんだろこの感じ。モヤモヤっとするってかなんていうか…。…………もしかして、俺…嫉妬したんかな?だとしたら、相当レイラの事好きって事か?)
火乃花とレイラを挟む形で座っていた龍人は、思わぬ発見に何故か気まずくなる。…というより、単に隣に座るのが恥ずかしくなっただけなのだが。
そうこうしている内に街立学生Bのメンバーが観客席に戻って来た。クラウンは龍人を見つけるとビシィッと指を差す。
「どうだ!俺様の華麗なる爆撃を見た感想を言ってみろ!」
龍人はキョトンとし、続けて目を泳がせた。
「え~とだな…わりぃ、見てないんだよな。」
気まずそうにしながら言った龍人の台詞を聞いたクラウンは硬直する。
「な、な、な、な、………なななななななな…なんだぁとぉぅ!?お前…俺様の勇姿を見なかったというのか!何故だ!何故なんだぁー!?」
「いや、それが色々と事情があってさ。」
龍人は話しながら火乃花をチラ見するが…火乃花は面倒臭い事に関わりたく無いのか、完全に素知らぬ振りを決め込んでいる。
(マジか…いや、そりゃそうか。)
クラウンが面倒臭くなった時は、本当に面倒臭い。餓鬼の様に喚き、叫ぶ。そして勝負しろと言う。毎回同じ様なパターンが続いているのだから、そろそろ対応策を練れてもいいのだが中々上手くいかないのが現状だ。そして、クラウンはいつも通り喚き始めた。
「事情だとぉ!?俺様の勇姿を見る以上の事情があるわけないだろ!この馬鹿チンが!許さん……俺様は許さんぞ龍人ぉ!……決闘だ。決闘で俺様がコテンパンにしてその腐った性根を叩き直してくれるわ!」
ビシイイイィ!!!
っとクラウンが龍人を指差す。人を指差しちゃいけません。って習わなかったのだろうか。
「はは。悪かったって。別にクラウンの勇姿を見たく無かった訳じゃないんだよ。」
クラウンは龍人を指していた人差し指を立てるとチッチッチッと横に振る。
「甘いぞ。甘い!俺様がそんな適当な嘘に誤魔化されると思うのか!?いいから決闘だ決闘!さっさと表に出やがれ!」
「げ…マジか?」
「おぉう!マジだとも!そうさマジだ!」
これ以上ここで喚き続かれても他の観客の迷惑になるのは必至だ。既に周りの観客達は奇異な目をクラウンに向けていた。
(しゃーねーか。俺が原因みたいなもんだし、ちゃちゃっとクラウンの怒りを収めっかな。)
龍人がしょうがなく立ち上がろうとした所で、爆弾が投下された。
投下主は…まさかのサーシャ。
「クラウン君…五月蝿い…。龍人君と…戦っても負けるの分かってるでしょ?」
そして、空気が静まり返った。まるで何かが起きる前兆の様に。火山が噴火する直前に一瞬静まり返る様に。普段大人しいサーシャが言ったことが驚きであるのに、更にその内容がどストレートだった事もある。言われたクラウン本人も状況を飲み込むのに時間がかかっていた。
やがて止まっていた時間が動き出す。
「お…おのれサーシャ。貴様…俺様の事をコケにしたな?」
「ぷっ…!」
クラウンがサーシャに詰め寄ろうとした時に、笑い声が漏れる。声の主は火乃花だ。
「ふふふ。ふふ。サーシャ、よく言ったわね。多分皆が思っていた事よ。それでも誰も言えなかったことを言えるなんて凄いじゃない!」
サーシャは火乃花に褒められると恥ずかしそうに目線を落とした。
「私ね…五月蝿い人が嫌いなの。だから…我慢出来なくて言っちゃった…。ふふふふふ。でも….スッキリしたわ。」
「くっ。どいつもこいつも俺を馬鹿に…」
「いやぁ!サーシャさんって結構言えるんすね!いつもあんまし話さないから心配してたんすよー。なんか安心したっす!」
タムが嬉しそうに声を上げた。
「だから俺様の話を遮るなと何回…」
「本当ですわ。私、そうやってしっかりと言うことが出来るサーシャさんを見習わなきゃですわね。」
ルーチェは感心しながら何度も頷いている。




