11-1-10.プレ対抗試合
男の動きを観察する火乃花の視線は真剣だ。
「でもね龍人君。…これで私があの男を見逃して、その結果何かが起きたら…私は後悔するわ。それだったらまだ追跡して何かあった方がいいわ。」
真っ直ぐな火乃花の瞳を見た龍人は説得する事を諦める。恐らく、このまま説得しようとしても平行線のままだということ…そして、もし龍人が火乃花の立場だったら同じ事を言うと思ったからだ。ただ、それでも何かに巻き込まれたら…という心配は残る。そこを解決するには…
「よし。分かった。火乃花の言う通りだな。ただし、俺も一緒に追跡するぞ。」
龍人の言葉を聞いた火乃花は、ムキムキの男から一瞬視線を外して龍人を見てしまう。
「…龍人君本気?この後プレ対抗試合があるのよね?」
「あるけど1番最後の試合だから、まだまだ時間はあるよ。」
「でも、これが原因で試合に負けたとかあっても困るわよ?」
「そんなダサい言い訳はしないって。」
「そうじゃなくて…。んー。じゃぁこういうのはどうかしら。一緒に追跡するのはいいけど、絶対に試合には参加すること。」
火乃花の提示した条件を龍人は考察する。これでもし、何か厄介な事態になった場合…試合に参加する事が出来なくなる可能性は十分にあり得る。また、危険な事態が進行し始めた時に火乃花を置いて試合会場に引き返すという選択肢も龍人にとってはあり得ない。
(…うん。深く考えてもしょうがないか。何もなければ試合には出られる訳だし。)
…という、ザックリしたまとめ方をした龍人は首を縦に振った。
「分かった。試合には絶対に出るよ。」
「うん。それだったら協力しましょ。正直1人よりも2人の方が見落としは少ないしね。」
「おう。任せとけ。」
龍人と火乃花は視線を合わせるとニヤリと笑ってムキムキ男の追跡を再開したのだった。
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「龍人君…遅いね。」
第8試合が終わった所でレイラが周りを見渡しながらルーチェに話し掛けた。
「本当ですわね。ダーク魔法学院の学生さん達に挨拶しに行ったにしては遅いですわね。」
「何かに巻き込まれたとか無いかな?ちょっと心配だな…。」
ルーチェは人差し指を顎に当てて考える。
(龍人くんは色々と厄介事にに巻き込まれる事が多いですわよね。だからレイラさんも心配しているのでしょう。ここで巻き込まれてるかもと言ったら…レイラさん心配して行っちゃいそうですわ。)
レイラの事を思ってルーチェは少しだけ嘘を付く選択をする。
「そうですわね。龍人君、ダーク魔法学院の魔法を見て目を輝かせてましたので、色々と闇魔法について聞いてるのではないでしょうか?元々4人の内2人と面識はあったみたいですし。お話が弾んでいるんだと思いますわ。」
ルーチェとレイラの会話を聞いていた遼が参加してくる。
「俺もそう思うな。龍人って何故か人と仲良くなるのうまいからね。」
「そっかぁ。じゃぁ…もう少ししたら戻って来るかな。」
レイラはちょっとだけ安心した表情を浮かべると微笑む。
「ルーチェさんと遼君ありがとね。」
「いえいえなのですわ。あ、そろそろ次の試合が始まりますわよ?」
ルーチェの言葉でレイラはリング上に視線を移す。遼も視線をリング上に向けるが、その一瞬前に意味ありげな視線をルーチェに送ってきた。
(やっぱり遼くんも何かありそうだと思っていますのね。…とは言っても、今はまだ何か出来ることがあるわけではございませんわ。もう少しだけ様子見をすべきですわね。)
そう結論づけるとルーチェも次の試合の観戦に戻ったのだった。
因みに、今回のコスプレは…
メイドの格好をした男4人。
猫耳と尻尾を付けた女4人。
観客が応援するのは…勿論女チーム。ただ、女チームの衣装が破ける所を期待するマイナーな観客も勿論いる。
試合が開始され、微妙に変な熱気のある歓声が飛び始めた。
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龍人と火乃花が会場の外で偶然会う少し前、スイ=ヒョウもプレ対抗試合を見る為に中央区に来ていた。
(むむぅ。人が多い。)
人混みが苦手なスイとしては中央区に来たくなかったのだが…。チーム戦の授業で中々チームメンバーの動きに合わせられないと悩んでいたのだ。スイは元々一匹狼生きてきた。その為、剣術で近距離、魔法では中距離までは対抗出来る様に技を磨いてきた。遠距離相手ではいかに接近するかにスイの意識は集約される。しかし、ここにスイがチーム戦を苦手とする理由があった。「敵との距離をいかに詰めるか」ここに意識が集中し過ぎてしまうのだ。故に、仲間の動きとの噛み合わせが悪くなり、結果的に被弾するというパターンが続いていた。
(他の奴らの動きを見て少しでも動き方の知識を身に付けねば。)
中央区の人混みの中を進んで行くが、その人の多さにスイは気が滅入っていた。元々多人数での行動を好まない上に、静かな環境が好きなスイとって今いる場所は苦痛しか感じない。
(むむぅ。家にある鹿威しの音が懐かしい。)
それでも、強くなる為来たのだから引き返すわけにはいかない。
少し歩くとプレ対抗試合の会場が見えて来た。
「ここか…。」
試合会場の周りは更に人混みが凄い。周りに屋台や出店が並んでいる影響もあるのだろう。外でこの人密度…中は…と想像すると帰りたくなってしまうスイであった。
(入るか…ん?)
会場に入ろうとしたスイは視界の隅に入った人影を見て動きを止める。
(火乃花と…龍人?何をしてるんだ?)
スイの視線の先では龍人と火乃花が何かを真剣に話しながら歩いていた。そして、2人は視線を合わせてニヤリと笑う。
(………?)
龍人は試合に出る予定のはず。火乃花は試合に出ないと言っていた。その2人が会場の外で一緒に歩いている理由がスイにはさっぱり分からなかった。更に最近何かと仲が良くなかった筈の2人がニヤリと笑みを交わす理由…。
「何かあるな…。」
そう呟くとスイは歩き出した。会場の入り口に背を向けて、龍人と火乃花の後を追い掛けて。




