11-1-8.プレ対抗試合
蔓に巻き付けられて身動きが取れないが雷を撃ちまくる黄。デイジーの攻撃を回避し続ける赤。気を失って倒れている青。誰がどう見てもダーク学生Aチームの勝利だった。そう、あくまでも過去形だ。状況は変わった…黒が動いた事によって。
黒は高く飛び上がると両手を左右に広げる。その手を包むように闇が広がり、翼の形を成した。
「はは…こりゃぁ思わぬ強敵かもしれないねぇ。」
文隆は黒が発動した魔法から発せられる圧力に危機感を感じ、額から一筋の汗を垂らした。
博樹とデイジーも黒が形成した闇の翼に気づいてはいるが、目の前にいる相手の対応を疎かにする事が出来ず、文隆のフォローに入れそうもない。
闇の翼が蠢き、震え、リングを破壊せんと闇の羽を降らせ始める。
闇の羽がユラユラと舞う。
それをみた観客の誰かが小さく呟いた。
「綺麗…。」
闇の羽は不思議と幻想的な雰囲気を演出する。まるで、天使が堕天する時にその迎えが来るかのような…。
「ははっ。まずいねぇ。クロウリー!全力で闇の羽を掻き消すんだねぇ!」
文隆が声を掛けると、ボケっと羽を眺めていたクロウリーは慌てて魔法を発動させる。
「文隆。一応やるけどさ、この量を全部消すのは難しく無い?」
クロウリーの言うことは最もであった。闇の羽は更に量を増やし、今では空一面を覆う程になっていた。
文隆は引きつった笑みを浮かべるのみだ。
「いやぁやばいねぇ。想像以上だねぇ。これを防ぎ切らないと俺達は負けるよぉ。クロウリーはいつも通り線の魔法を中心に俺の撃ち漏らしを頼んだよぉ。俺は面の魔法で一気に消すからねぇ。」
「わかった。なんで…こーゆー大変な事になっちゃうんだよー。」
クロウリーが嘆くが文隆は取り合わない。そんな余裕なんて無かったのだ。両手に闇の塊を出現させた文隆は一言叫ぶ。
「いくよぉ!」
クロウリーが慌てて闇の刃を周りに出現させるのを横目で確認しながら文隆は両手を合わせた。闇の塊が合わさり、膨張し、3倍ほどの大きさに膨れ上がる。
上空から降り注ぐ闇の羽が1枚地面に触れ、漆黒の爆発が起きて地面を消滅させた。恐るべき威力と評価する事が出来る程の破壊力だ。この羽が振り続ければ…結果は容易に想像する事が出来る。
闇の羽の爆発を合図に文隆が動く。文隆は闇の塊をそのまま放つのではなく、前面全てを覆うように放射状に闇のエネルギーを放った。
闇の羽が次々と呑み込まれ掻き消されていく。文隆の攻撃が届かない闇の羽は、クロウリーが飛ばす闇の刃が切り裂いていく。約30秒程の間、攻防が続くと文隆の闇魔法が次第に薄れていった。
黒の腕の周りに羽は残っていない。そして、文隆も魔力を大分消費したのか荒い息を吐きながら黒を見上げていた。
(やばいねぇ。魔力がからっからなんだねぇ。)
魔力の使い過ぎで視界がクラクラして来た所で、文隆の肩に手が置かれた。
「文隆お疲れ!後は僕達に任せて。」
博樹だ。文隆と黒が闇魔法のぶつけ合いをしている間に黄を倒したらしい。リング上の端には蔓がグルグル巻き付いた人型が落ちていた。
そして、デイジーが戦っていた相手の赤も服がボロっボロに溶けた状態で横たわっている。さて、デイジーはというと…。
ここで急に黒の体がグラッと横に傾く。腰を少し後ろに引く不思議な態勢を取りながら…その原因は黒の股の間から出ている足。さてさて、その足は誰のかというと…。
「これで終わりです。全く手をかけさせるんですから。」
(けっ!なんでワタシがこんな男の股間を蹴らなきゃいけねえってんだよ。)
犯人はデイジーだった。闇の羽を限界まで使い切った事で集中力が欠けた黒の隙をついて後ろから強打を打ち込んだのだ。
観客からクスクスと笑い声が起きる。
観客に混じる街立魔法学院の生徒達の脳裏にはある女性の姿が浮かんでいたりもする。
黒は可哀想な態勢のままリングに落ちていった。
「試合終了です!勝利チームはダーク学生A!」
係員のアナウンスが入るのと同時に観客からは歓声が上がる。珍しい属性のオンパレードに加え、中々見ることの出来ない闇属性同士の魔法対決が見れたのだ。テンションは否が応でも上がるというものだ。4色の人々は担架に乗せられて退場していく。
ダーク学生Aチームは、フラフラになった文隆を支えながら博樹とクロウリーが歩き、その前を我が物顔でデイジーが歩いていた。その様子を見ながら龍人はウキウキした気持ちになっていた。
(やべぇ。ダーク魔法学院ってめっちゃレベルが高いじゃん。技術力が高くない魔法ばっかだったけど、魔法に込められた魔力の質は相当高かったよな。…こりゃあ対抗試合が楽しみだわ。)
龍人はいきなり立ち上がると歩き出した。それを見た遼が龍人に声を掛ける。
「あれ?龍人どこに行くの?」
すると、龍人は手をヒラヒラ振りながら答えた。
「ダーク魔法学院の奴らに労いの言葉でも掛けて来るわ。」
龍人はそのまま試合会場の外に向けてのんびりと歩き出した。




