11-1-3.プレ対抗試合
参加者控室の中で龍人は周りにいる人達の様子を観察しながら歩いていた。ムキムキの男が喧嘩祭りと言った所から、ガラの悪い連中が多数参加しているのかと思っていたのだが、そうでもない。むしろ良識のありそうな人しか控室には居なかった。
(学生だけじゃなくて社会人もいるっぽいけど、まぁ普通の人達ばっかだよな。これでどうやって喧嘩祭りになるんだ?試合のルールが特殊だったりするのかな。ん?…あいつらって確かダーク魔法学院の2人だっけ?)
龍人が見つけたのは、控室の中央辺りで何やら話し込んでいる森博樹と浅野文隆だ。以前助けてもらった2人の顔は覚えていたのだが…名前がサッパリ思い出せない。必死に名前は何だったかと2人の顔を見ながら思い出そうとしてると、向こうもこちらに気付いたらしく2人で駆け寄って来てしまった。龍人的にピンチ。因みに名前を思い出せる気配は全く無い。
「やぁ!久しぶりだね。覚えてる?…えっと、高嶺だったかな?ダーク魔法学院の森博樹だよ。」
そう言ったのはゴリラっぽい方だ。続いてもう1人のオタクっぽいガリガリの男も片手を上げて挨拶をする。
「俺の事も覚えてるかなぁ?浅野文隆だよ。中央区で影みたいなのを操る奴と戦ってた時に助太刀したんだよねぇ。」
(おぉ、向こうから名乗ってくれたじゃん、ラッキー。)
正直なところ、このまま名前については触れずにやり過ごそうと決めていた龍人。名前を聞いても「その名前だった!」みたいな雰囲気は全く出さない。むしろ、当然覚えてるスタンスを貫く。
「おう!覚えてるよ。名前覚えてくれててありがとな!それに、あの時は助けてくれて本当にありがとな。あの時の事件…確か調べてくれるって言ってたと思うけど、一先ず解決したよ。」
「あ、そうなんだ。…実はちょっとは調べたんだけど、全然何の手がかりも掴めなくてさ。全然役に立てなくてごめんね。
森は申し訳なさそうな顔で龍人に頭を下げた。
「いやいや!俺が勝手に頭を突っ込んでただけだから、そんなに気にしないでいいって。」
森は龍人の言葉を聞くと頭を上げる。
「そう言ってくれると救われるよ。どうなったのか気になっては…」
「あのさぁ、そんな事よりも君はどうなんだい?今回のプレ対抗試合は自信あるのかなぁ?」
浅野は事件の話には全く興味が無いらしく、強引に話題転換を図ってきた。龍人としてもそんなに事件についてあれこれと話すつもりは無かったので、素直に新しい話題に乗ることにした。
「まぁボチボチかな。イマイチ連携が上手く取れなかったりすんだよな。連携が取れる筈なのに微妙に差異が出てくるって言うかなんていうか。」
「あ、それ僕達と一緒だね。うちは連携どころか意識がバラバラでさ。全然だよ。」
そう言うと博樹は参加者控室の端に目をやった。龍人もその視線の先を追うと、紫の髪をした細い女性と、黒髪パーマの男性が座っていた。2人ともやる気があるのか無いのかよく分からないが、ほぼ無表情で周りを眺めている。
「あの2人がチームメンバーなんか?」
森は視線を戻すと溜息を付きながら頷いた。
「そうなんだよね。協力して戦う事の難しさを最近は痛感してばかりなんだ。僕にもう少しリーダーシップがあれば良いんだけど。」
「なぁーに言ってんのさぁ。森は頑張ってるよぉ?ただ、その熱意が空回りしてるだけだってばぁ。」
文隆が一応慰めのような事を言うが、結果的に慰めてはいない。そして更に落ち込む博樹。
「ま、まぁまぁ、何事も頑張って続けてればその想いは伝わるって!」
博樹が余りにも可哀想な感じになってきたので、龍人にしては珍しく臭い台詞でフォローを入れる。
「龍人さん、なんでそんな臭いセリフ言ってるんすか。作戦会議するから来てくださいっす。」
何故か直ぐ後ろに来ていたタムが呆れ声を出した。
「げ…。いつの間に後ろに来たんだよ。」
「いつの間にって今っす。あ、どもこんにちわ。俺はタム=スロットルっす。龍人さんの友達っすか?」
タムは博樹と文隆に軽く挨拶をした。
「こんにちわ、僕は森博樹。で、こっちのが浅野文隆だよ。」
森に紹介された文隆は軽く頭を下げると、タムの頭を凝視する。
「ふぅん、面白い髪形をしてるね。なんで真ん中だけ立たせてるのかなぁ?」
「あ、この髪っすか?実は俺って超剛毛なんすよ。これ以外の髪形にならないっす。それ言ったら文隆さんはなんでそんなに髪伸ばしてるっすか?邪魔にならないんすかね?」
タムに髪の長さを指摘された文隆は薄笑いを浮かべる。
「ふふふ。髪なんて俺にとってはなんでもいいのさ。特に気にしないでやっているから、こういう髪形になっているのも偶然なんだよねぇ。」
「へぇえ。ま、人それぞれ考え方は違うっすからね。…って違うっす!龍人さん、向こうでレイラさんとサーシャさんが待ってるっす。しかももう少ししたら対戦表が発表なんですから、早く行きますよ!」
セルフツッコミをしたタムは龍人の肩を掴むと引っ張って歩き出した。
「そんな引っ張んなって!じゃ、博樹と文隆また後でな!」
ズルズル引っ張られながら龍人は手を振って去って行った。
手を振って見送った森はボソッと呟いた。
「なんか、 高嶺のいる街立魔法学院って面白そうだね。」
「そうだねぇ。ま、それでも俺たちダーク魔法学院は精鋭が集まってるから負ける訳にはいかないけどねぇ。」
文隆にしては珍しく強気な発言をする。博樹は意外に思って文隆の顔を見るが、特にいつもの文隆と変わらない表情をしている。しかし、文隆のやる気は燃えていた。まず、以前に中央区で会った時と比べて龍人から感じる魔力が随分強いものになっていたのだ。それによって文隆の中で龍人の位置づけが「助けた人」から「ライバルになり得る人物」にまで上がっていたのだ。
(今日、このプレ対抗試合に来て良かったかもね。他の学院の実力を知ることが出来そうだねぇ。)
「博樹、俺達も作戦会議するよぉ。あの2人を焚きつける方法思いついたんだねぇ。」
「え、マジで?」
「うん。任せといてぇ。多分上手くいくよぉ。」
文隆と博樹はクロウリーとデイジーの所に行き、作戦会議を開始する。 そして10分後…。
「そんなの嫌ですぅ。いいわよ。ワタシ、全力で戦うわね。」
「俺、負けてらんねぇや。アニソンを馬鹿にするなんて許せねぇ。」
といった具合にクロウリーとデイジーはやる気満々になっていた。まぁ、気になる所は確実に誰かが悪者になっていそうな点か。文隆が何を言ったのかは想像にお任せしよう。
さて、そのやる気を漲らせ始めたダーク魔法学院のメンバー横を通り過ぎたのがマーガレット率いるシャイン魔法学院のメンバー達だった。妙な熱気を放つダーク魔法学院の4人を見たマーガレットが鬱陶しそうに顔を歪める。
「なんなんですの。あの4人組…。やる気ムンムンで気持ち悪いのですわ。」
「ん~…俺にはちょっと分からないなぁ。だけど、あのやる気がある感じは良いんじゃないかな。」
アクリスの返事にマーガレットがイラっとしてしまう。
「アクリス。その言い方ですと、私達がやる気がないみたいに感じるわ。勿論…ただの誤解ですわよね?」
「え…ごめん、そんなつもりは無かったんだけど。」
「だったら言葉の使い方に注意して欲しいのですわ。」
プンっとアクリスから顔を背けるとマーガレットはズカズカと歩いて行ってしまった。
「あ、ちょっと待って…!」
アクリスは慌ててマーガレットの後を追いかける。
因みに…そんな2人のやり取りを全く気にせずに、後ろを歩くマリアとミータは未だにバチバチと口喧嘩を続けていた。
ちなみに喧嘩の理由は単純だ。マリアがミータに「真面目に戦う気があるの?」と責め、ミータが「俺はいつでも真面目だ」と逆切れをし、以降は同じような事をひたすら言い合っているのだ。そんなつまらない事で喧嘩が延々と続く辺り、実は気が合うのでは?というのがマーガレットの読みなのだが…。
そして、本人達は気付いていないが、ダーク魔法学院の面々と同じくらいシャイン魔法学院の面々も参加者控室の中で目立つ存在になっていたりもする。とは言っても、プレ対抗試合に参加するのだから、やる気があったり、バチバチしているのはそこまでおかしいことでは無い。ただ社会人の参加が多い以上、若者が目立つのはしょうがないことである。
ピンポンパンポーン
「はい、みなさんお待たせしました。対戦表が完成しましたので、発表しますね。」
係員が指をパチンと鳴らすと、壁に対戦表が浮かび上がった。




