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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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10-8-1.黒い靄



キタルと別れた龍人は街立魔法学院の教員校舎訓練室にいた。キタルに伝えた通り…ラルフとの特訓をする為だ。今回は単純に実力向上をねらったものではなく、龍人にとって1番の課題である黒い靄の制御が目的である。

敵を倒す為に龍人は力を求め、それに応じる様にして現れた謎の声。そして、その声が力を貸すことを了承することで現れたのが黒い靄だ。


黒い靄が体の周りに出現した時の能力向上は途轍もない。恐らく数値で表すとなると平常時の2倍近くの数値が叩き出されるはずだ。だが、そうであるが故の代償も大きい。黒い靄を使って能力向上を行うと体への負担が激しいのだ。現に龍人は魔法教会の地下で黒い靄を使った後に、数度動く事が出来なくなっていた。


この話を龍人がラルフにした所、このまま制御出来なければ力に負けて倒れる事があるかも知れないという事で、特訓を行う事になったのだった。


「よし。じゃぁまずは黒い靄を出してみてくれ。」


「今すぐか?…出せるかな。どうしたら出るのかイマイチ分かんないんだよね。」


「おいおい…まじかよ。ん~とにかくチャレンジしてみないと始まんねぇだろ。やってみ。」


「ま、そうか。やってみないと分かんないか。」


龍人は内側から響いていた声に向けて語りかけてみる。


(おーい。この前の声さん。ちっとだけ黒い靄を出したいんだけどさ、力を貸してくれないかな?)


《……》


(おーい?名前も分かんないからあれだけど…ってからそもそも聞こえてんのかな?…ん~分からん。)


「ラルフ駄目だ。黒い靄が出る気配ゼロ。」


「そうか…。そうなると何も対策が出来ないな。ん~黒い靄が出てる時って何か変化あるのか?」


「ん~と、まず意識が飛びそうになんだよな。後は…魔力の流れが分かるかな。」


「はぁ?魔力の流れが分かるってなんだよそれ。見えるのか?」


どうやらラルフは全く信じていないようで、疑いの目を龍人に向けている。


「見えるってよりも、観えるってのが表現は正しいかもな。まぁ、しっかりと認識出来る訳じゃなくて漠然と分かるっていう感じかな。教会地下で何回か黒い靄の力に頼ったけど、魔力の流れが分かったのは一番最後にロジェスと戦っていた時だけだったから、確実とは言い難いんだけどね。」


「…魔力の流れねぇ。魔獣とかが魔力の流れを察知して先読みしてくるって話は聞いた事はあるが…。その魔獣も上位種の一部って聞いた事があるしな。あれだな…お前の真極属性【龍】が関係してんだろーな。だが、そうだったとしてもお前の属性については全然何も分かってないからな…諦めるか。」


あっさり諦めようとするラルフに対して龍人は脱力してしまう。


「ラルフ…まじか?」


「あぁ、大マジだ。だって黒い靄出せないんだろ?そんなんだったらここでボケっと立ってても時間が無駄になるだけだろ?」


「ん~、まぁそうなんだけどさ、普通こういう時ってどうやったら黒い靄を意図的に出す事が出来るようになるかを模索する。なんて展開にならないか?」


「残念ながら俺はそんなに心優しい教師じゃないんだな。この後もあなたと私の萌え心に行かなきゃいけないし。俺も暇じゃないんだよ。」


「メイド喫茶に行くのがそんなに大事な用事なのか?マジで引くわ。」


「おう引け引け。お前にはまだまだ分からない世界があるんだよ。」


ラルフは部屋から出て行こうとしてピタリと動きを止めた。何かを閃いたのかいつものニヤリを浮かべている。


「なぁ、確かお前が黒い靄を出せた時ってピンチに襲われた時だよな?って事はよ、俺が全力で攻撃魔法を放てば黒い靄出せそうじゃないか?多分お前の実力じゃ俺の全力は受けきれないだろ。黒い靄を出さなきゃ死ぬ状況なら出さざるを得ないもんな。」


「…へ?」


ラルフを中心にして一気に強力な魔力が渦巻き始めた。空間の歪みがラルフの右手へ収束してく。やがて歪みは一本の槍の形に変化した。


「ちょっと待て!そんなの喰らったら俺マジで死ぬって!」


「だから頑張って黒い靄を出せって。頑張れよ龍人!」


ラルフの右手に在る槍は圧倒的なプレッシャーを龍人に向けて放つ。そのエネルギーは 空間を震わせ、教員校舎訓練室の壁にヒビを入れ始めた。


(おいおいマジかよ。この訓練室って簡単な事じゃ壊れないようにかなり強い結界が張られてるんだよな…。その部屋にヒビが入るって…しかもまだ攻撃として放ってないし。こりゃぁ…マジで黒い靄が出せなかったら死ぬかも。)


《…………。》


槍の矛先が龍人に向けられる。それだけで貫かれて殺されるイメージが脳裏に浮かんでしまう。


「はは…マジで洒落になんねぇわ。」


《……。》


(考えろ俺。このまま黒い靄が出なかったからって何もしないであの槍に貫かれるってのはマズイだろ。ラルフが右手に集めたのは空間の歪み…そんであいつは属性【次元】の持ち主だから…そこに賭けるしか方法がないか。)


龍人は魔法壁の魔法陣を複数展開する。いつもなら展開型魔法陣として目的の魔法陣を展開する必要があるが、今はラルフしかいないので龍人は普段隠しているもう1つの能力を存分に発揮する事が出来る。 展開した魔法陣はバラバラと崩れ一箇所に集まり始める。そして、魔法陣の断片は1つの魔法陣へと構築されていった。龍人がその本領を発揮する他に持つ者が居ない唯一の能力、構築型魔法陣だ。これを行う事でレベルの高い魔法陣を少ない魔力で構築する事も出来る。更には状況に応じて魔法陣の性質を変える事も出来るのだ。…例えば、斬撃の風を起こす魔法陣を発動する直前で、打撃の風を起こす魔法陣に変化させる事が出来るのだ。

この構築型魔法陣を使って龍人が発動するのは遮断壁【次元】だ。遮断壁は対象となる属性を1つだけ指定し、その属性を完全にシャットアウトする魔法壁だ。但し、遮断壁とて万能ではない。遮断壁の許容量を超える魔法がぶつかった場合、防ぎきる事が出来ないというのもまた事実。だからこそ龍人は 遮断壁【次元】を複数展開する。


ラルフは龍人が遮断壁を展開したのを見ると次元の槍を放つべく構えた。


(あいつ…黒い靄出てないよな。ってなると、本当にこの槍を防げるか微妙だよな。まっ、本当にやばかったら槍を投げた後に上手く転移魔法で助けてやるか。迷うべからず、突き進めってな。)


ラルフは迷いをポイっと捨てて、龍人に向けて次元の槍を放った。通り道の先にある空間は次元の槍の力によって押し分けられ、通り過ぎた後は斬り裂かれた空間が戻る力で爆発が引き起こされる。


(…耐えられるか?)


龍人は目の前に迫る槍を見て自信を持てずにいた。まぁ、そう思うのも仕方がない。格上の魔導師であるラルフがほぼ全力に近い攻撃魔法を放っているのだから。


《…。》


(今の遮断壁の数じゃあっという間に貫かれる気がすんな。あと…10は遮断壁が無いと足んないかな?いや、それでも足りるか分からないか。)


キィィィン


時間の流れが急速に遅くなった。


《…本当にお主は面倒を掛ける。こんな形で我の力を使っていては、お主自信が力に呑まれて死ぬぞ? 》


(やっと出てきたな。だけどよ、ピンチの時だけ力を借りていたらいつまでも制御出来ないだろ?)


《分かっていないな。この力は体への負担が大きい。使えば使うほどその身を滅ぼす可能性が高くなる。…制御する前に体が壊れるだろう。》


(それでも、この力は俺の中にある力なんだろ?それだったら向き合わなきゃ駄目なんだ。)


《…。我が主は我儘だ。だが、だからこそ選ばれた者といえるのか。………いいだろう。今後はお主が望めばいつでも我が力を貸し与えよう。》


(…サンキュー。絶対に使いこなしてやっからよ。)


《1つだけ忘れるな。我が力の鍵を開けるという事は、その力が漏れやすくなる事も意味する。負なる感情によって我の力が解放されれば、お主は確実に力に呑まれ…消え去るだろう。強くあれ…高嶺龍人よ。》


キィィィン


遅くなっていた時間が戻る

そして、龍人の体から黒い靄が噴出し始めた。


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