10-7-1.特訓
「ひっひっひっひっ。」
怪しい笑い声が部屋に響く。声の主はキタル=ディゾル。彼の正面には怯えた表情をした男が1人…藤崎遼だ。休みの日にいきなり呼ばれた遼は不機嫌なのかムスッとした顔をしている。
「…今日は何の用ですか?俺の銃について何か分かったとか?」
「ひっひっひっ。残念ながら新しい事実は何も分かってないよ。幾ら僕と言えどもそこまで万能じゃ無いんだよ。」
「あ、ごめんなさい。」
キタルの逆鱗に触れかけた気がした遼は素直に謝罪する。
「さて、今日呼んだ理由だけど…君の双銃を返そうかと思ってね。これ以上預かってても、現状で新しい何かが分かる可能性も低いんだ。それに刻印とかはもう写してあるから、現物が無くても大丈夫なのさ。それでだよ、これから君には魔弾形成のテストをしてもらう。その結果が良好なら返す予定だよ。そうじゃ無かったら…例え対抗試合があったとしても君には今使ってる銃を使ってもらう。」
いきなりの試験宣言に遼は戸惑ってしまう。
(マジか…。魔弾形成の練習は毎日してきたけど、キタルからOKもらえるレベルか自信無いなぁ。)
今回のキタルによる突然の呼び出しからの試験宣言。魔法学院1年生対抗試合の1ヶ月前にこれを行うのは、タイミング的に丁度良いと言える…のだが。
(ひひひ。実際はこの前、藤崎遼に双銃を返し忘れただけなんだけどね。)
なんて事情から、偶然今回のタイミングになったに過ぎなかったりもする。まぁ、そんな事情は遼にとって特に関係は無いし、知る由もない。
キタルはヒヒヒッと笑うと遼に着いて来る様に合図した。
「さてと、早速試験といこうじゃないか。訓練室に行くよ?」
試験にややビビり気味の遼は大人しくキタルに着いて移動を開始した。
教員校舎訓練室に着くとキタルはすぐに双銃を出す様に命じた。遼が双銃を取り出すと、部屋の中央に現れる的。…何故かラルフの等身大ボードだった。恐らくキタルが個人的に恨みがあるのか、ただ単に面白がっているかのどちらかだろう。
「さて…じゃあまずは貫通弾を撃ってもらおうか。ノルマは…そうだねぇ、ラルフボードを20枚貫通にするよ。ラルフボードの強度は大体1枚あたり魔法壁の1/10位の強度だよ。まぁ、僕の教えを受けた君なら簡単にいけるでしょ。」
(はい来たー。いきなりハードル上げてきたよ。)
遼は焦る。貫通弾の練習は嫌という程やってきてのだが、その威力がどれほど迄高められるかを挑戦した事が無かったのだ。要は魔弾を貫通弾に形成する事で精一杯だったのである。しかし、こうなった以上やらない訳にはいかない。
(…取り敢えずやってみようかな。)
遼は両手に持った銃に魔力を込める。魔力は遼の掌を通じて銃に流れ込み、銃は内部に溜まった魔力を銃弾として形成していく。遼はその形成された銃弾に魔力を加える事で、貫通弾の能力を発揮する銃弾へ変化させた。
「よし!」
遼は双銃を構え、ラルフボードに向けて各銃から1発ずつ…合計2発の貫通弾を放った。
貫通弾は通常の銃弾に対して弾先が更に鋭く尖っている。更に貫通力を高める為に高速の回転を掛けて放つ。要はドリルのイメージだ。
貫通弾は一直線に突き進み、ラルフボードに命中した。
ボボボボ!!
っとラルフボードが撃ち抜かれる音が連続する。
「おお。藤崎遼…やるねぇ。予想以上に仕上がってるじゃないか。」
キタルが賞賛の声を上げる。それもそのはず…貫通弾はラルフボード20枚を難なく突き抜けていた。しかもボードに空いた穴は綺麗に一直線だ。それは貫通弾の威力が途中で低下しなかったことを意味する。
「…良かったー。」
「ん?もしかして君…自信無かったのかい?」
キタルは不審な表情を顕にする。
「い、いや!自信はありましたよ!ただ、ちょっと不安だっただけです。こういう形で威力をテストするの初めてですから。」
キタルの機嫌を損ねた時の怖さを知っている遼は慌てて弁解する。
「ふーん。だったらいいんだけどさ。あんまし弱気発言ばかりしてたら…溶かすからね。」
溶かすの部分から声が一気に低くなる。恐らく本気なのだろう。遼の背筋を寒いものが通り抜けた。
キタルはそんな遼の様子を見るとニンマリ笑う。
「ひひ。じゃあ次は斬撃弾だね。」
「は、はい!」
再びラルフボードが現れる。今回は先程よりもかなり分厚い。
斬撃弾。斬撃を飛ばすという考えなら比較的簡単な部類に入るかも知れない。しかし、キタルが遼に教えた斬撃弾はもっと高度なものだった。銃弾が発射された瞬間に斬撃弾と相手に判断されてしまっては実践向きではないというキタルの主張から、通常の銃弾で発射して着弾と同時に斬撃を発生させるという銃弾を遼は求められた。これを実現する為には、魔弾を2層にするという高度なテクニックが必要となる。まず、外側には通常の銃弾と同じ膜を形成。そして、その内側に斬撃効果を発生させる銃弾を仕込むのだ。これにより、着弾した瞬間に外側の膜が割れて斬撃が発生する。
(これ、難しいんだよなぁ。きっとあの分厚いラルフボードを切断出来ないといけないんだよね。)
キタルに視線を送ると、彼は早くしろと言わんばかりの表情で遼を睨んでいた。
(うー怖い。)
遼は恐怖に駆られながら斬撃弾を形成する。いつもよりも内側の斬撃威力を上げてラルフボードに向けて放つ。
バシュッ!
着弾と共にラルフボードが真っ二つに切り裂かれた。
(危なかった…。もう少し斬撃が弱かったら切断出来なかったかも。でも、あれ以上斬撃の威力を強くすると通常弾の膜が耐えられないんだよなぁ。)
「うんうん。やるじゃないか。じゃ次は…。」
その後、遼が試験をされた銃弾は以下の通り。
☆散弾
所謂、ショットガンと同じ銃弾。複数の銃弾を前方広範囲に撒き散らす。距離が近ければ近い程威力が上がる。
…ラルフボードは木っ端微塵に吹き飛んだ。
☆拡散弾
目標に向かって飛ぶ間は通常弾。着弾直前で散弾に変化する弾。
…ラルフボードは木っ端微塵に吹き飛んだ。
☆爆烈弾
着弾と同時に爆発を引き起こす弾。破壊力が高い。
…ラルフボードは木っ端微塵に吹き飛んだ。
☆飛旋弾
弧を描きながら目標へ飛んでいく銃弾。目標との間に遮蔽物があっても、回り込む形で射撃することが出来る。また、通常弾と織り交ぜて使う事で相手を撹乱出来る。
…ラルフボードは着弾地点に綺麗な穴が空いた。
☆螺旋弾
螺旋回転で目標に向かって飛ぶ。破壊力抜群。着弾と同時に螺旋状の衝撃波を放つ。
…ラルフボードは着弾地点を中心に削り取られた。
キタルから教わった全ての魔弾をうち終える。殆どの魔弾が威力の点においては問題が無いレベルにまで上達していた。しかし、キタルは小難しい顔をしたままだった。
「んー。威力はイイと思うよ。ただ、螺旋弾に関してはまだまだだね。螺旋弾を作る時の魔弾に入力するシステムがまだまだあまいね。」
(やばい。これ、返してもらえないパターンだよね。)
遼は双銃を諦めるが、キタルは予想外の言葉を放った。
「まぁ、これだけ出来れば格段に力も上がってるでしょ。じゃあ双銃を返すね。」
「へ?あ、ありがとうございます。」
「…なんだい。不満かな?」
「いや…螺旋弾の出来が悪かったので失格かなって思ってたんで。」
「あぁそんな事か。まぁ、確かに威力はまだまだ上げられるね。ただ、螺旋弾に関してはかなり難しいから今回は勘弁してやるよ。後は魔弾形成のスピードをもっと上げないと、対人戦で有効的に使えないからね。」
「あ…はい!ありがとうございます。」
キタルは遼を目線で促してユラユラと歩き出した。そのままキタルは自分の部屋に向けて進む。
遼は嬉しいような嬉しく無いような複雑な気持ちでキタルの後を追いかけた。




