10-5-10.チーム戦
アクリスと男子生徒。2人の動きは対照的なものだった。アクリスは無詠唱魔法で身体能力を強化して接近を試みる。対する男子生徒は一定距離を保とうとしてアクリスから離れる。2人の魔法使いはまるで追いかけっこのように追いかけ、追われていた。
男子生徒はアクリスに近寄られたら負けるのが分かっているのか、光魔法を駆使してアクリスの接近をギリギリで防ぎ続けている。
(くそっ。このままじゃさっきと同じだ。)
アクリスの顔に苦い表情が広がり始める。
「あのさ…ん~、アクリス全然ダメだと思うわ。」
マリアは飽きれた顔でマーガレットに話し掛けた。
「…そうですわね。私の予想だと遠当ての要領で中距離で魔法を相手に当てられると思ったんですが、見当違いだったかしら。」
「遠当てね。ん~アクリスなら出来そうだけど…今のままじゃね?」
マリアは顎を前に出しながら(マリアの癖)後ろにいるミータを見る。
「ねぇミータ。何かアドバイスしてあげたら?」
「えっ。俺?そんなまともなアドバイスは出来ないよ。俺がアドバイス出来るとしたら、この滑らかな動きをしたい時かなっ。」
ミータは手を前に差し出す。まるでお嬢様の手を取る王子様の様に。その手首から先の動きは、異常なほど滑らかだった。
(ん~相変わらず気持ち悪い動きね。)
マリアは軽蔑の眼差しをミータに向ける。
(相変わらず手首から先の動きだけは抜群ですわね。何でこーゆートコにだけ力を入れて他の部分を頑張ろうとしないのかが分かりませんわ。)
その動きを見たマーガレットは溜息をつく。12月の魔法学院1年生対抗試合で優勝する為には、クリアしなければならない課題が余りにも多すぎる。
そんな事を考えている内に戦闘の方に動きがあった。
男子生徒の放つ連続光球がアクリスに直撃したのだ。
「?っ…!」
アクリスは吹き飛び地面を転がった。すぐに体勢を直して起き上がるべきだったのだが…彼はそうしなかった。そう出来なかった。体のダメージから考えれば出来た筈だ。しかし、彼の心がそれを妨げてしまったのだ。
(やっぱ俺には無理な気がする…。)
そうしている間に光球による追撃が命中し、アクリスは意識を手放した。
こうして、マーガレットによるアクリスの為の説教タイムが確定する。
(アクリスは心が弱過ぎますわね…。諦めない心を覚えさせる必要がありますの。)
マーガレットはふつふつと沸き上がる怒りの感情を抑え、アクリスを倒した男子生徒の撃破へと向かったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
街立魔法学院、ダーク魔法学院、シャイン魔法学院。そして、行政区。これらの責任者を務める者達は魔法街でも指折りの実力者である。
街立魔法学院学院長、ヘヴィー=グラム。
ダーク魔法学院学院長、バースェンス=ダーク。
シャイン魔法学院学院長、セラフ=シャイン。
行政区最高責任者、レイン=ディメンション。
幻創武器をもって魔法街戦争を終結に導いたとされるレイン=ディメンションは、魔法街のトップである行政区最高責任者としての地位を与えられている。レインは指導者としての能力も高く、それまでいがみ合っていた3学院が現在では協力し合う程にまで歩み寄っていた。…協力し合うというのは誇張が過ぎるかもしれないが。
彼等4人が集まることは殆ど…全くと言っていい程にあり得ない。幾ら強調関係にあるとは言え、彼等の心の奥底に他学院…延いては各学院長へのライバル心が潜んでいることには間違いがないのだから。
しかし、ここ魔法街行政区のとある場所に彼等4人は集まっていた。集まるだけの理由があったのだ。
ある1つの事について意見を交換するために。




