10-5-6.チーム戦
龍人とサーシャが場の空気をどよよんと暗く重くしているのを必死に何とかしようとするレイラとタム。あれこれと声を掛け、結局2人のテンションが戻ったのは1時間程経ってからの事だった。
それまで落ち込んでいたのが嘘のようにすっかりいつものテンションに戻った龍人。レイラが手を握って「戦っている時の龍人君カッコいいよ」と言ったのがきっかけである。…男とは悲しいものである。
「よし!明日は勝てるようにイメトレしとくわ!な、サーシャ!」
自殺しそうな勢いで落ち込んでいたサーシャだったが、レイラの必死の説得でいつも通りの大人しい女の子に戻っていた。
「うん。そうだね…私、闇魔法をもっと上手く使えるように頑張ってみる。」
つまり、タムは2人のテンション回復にほとんど貢献できていなかったりもする。賞賛すべきはレイラだ。
「そうっすよ!俺も頑張るっすから!」
タムは元気良く声を出すと右手をテーブルの中央に出した。
「いっちょコレで気合入れるっすよ!」
「そうだね!恥ずかしいけど、やろう!」
レイラもニッコリ笑うとタムの右手に右手を重ねる。そして、龍人とサーシャも右手を重ねた。サーシャの頬がほんのり赤く染まっているところを見ると、恥ずかしいのだろう。しかし、それでも手を重ねた事に意味がある。
タムが元気良く掛け声をする。
「いよっし!勝つぞ俺たち!」
「「「「おー!!」」」」
学食に龍人達の声がこだまする。
周りの生徒達は何事かと動きを止めて振り返ったりしているが、そんなの関係ない。テンションが一気に上がった龍人達は意気揚々と学食を出て行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「いきなり呼び出してなんだいよ?俺、これから女の子にデートに誘われてるんだよね。」
魔法協会南区支部の小会議室に入って来くるなりそう切り出したのはルフト=レーレだ。
「出た出たルフトちゃんの自由発言!」
呆れた様子でそんな反応を示したのは、会議室の椅子に座り、組んだ足を机の上に乗っけている女だ。
「おー!魔法少女~久々じゃん!へへっ。元気してたか?」
「元気してたか?じゃないわよ!こっちはあんたが行きたくないってこの前駄々こねたから、1人で片付けてきたんだからねっ。」
「ははっ。わりぃわりぃ。興味ある奴がいたから、近くで観察したかったんだ。」
「ホント自由な奴っ。私も少しは自由にしちゃおっかな。」
「いやいや!そしたら俺が仕事しなきゃじゃん!それだけは勘弁!」
「ニシシ。どーしよっかなー。」
魔法少女と呼ばれた女は机の上から足を下ろすとクルンっと回って立つ。回転の遠心力で頭に乗った帽子が揺れる。因みに、普通の帽子ではなくとんがり帽子だ。そして、服はタキシードのような服を女の子風にアレンジしたものだ。所謂、コテコテの魔法少女の格好である。ルフトが魔法少女と言わなくても、誰もが魔法少女と思わざるを得ない格好。そして幼児体型なのも加わり、コアなファンが多かったりもする。
彼女の名前はミラージュ=スター。
ミラージュはとんがり帽子から出ている肩に乗った髪を後ろに払うと、仁王立ちのポーズを取った。
「大人しく今回の仕事をするか、今回もやらないで今後の仕事を全部するかの2択だからね!」
「うげっ。」
ルフトはわざとらしくショックを受けたリアクションをする。良くあるいつも通りのやり取り。
「そろそろ本題に入りたいんじゃが、良いかの?」
ルフトとミラージュの2人に声を掛けたのは、ヘヴィー=グラム…街立魔法学院学院長だ。つい最近まで肩書きは校長だったのだが、魔法学校ではなく魔法学院だからという理由で勝手に肩書きを学院長に変えてしまうお茶目な所があったりもするおじいちゃんである。
ルフトは本当に嫌そうな顔をした。
「えー、俺面倒臭いのヤダ。」
「私も嫌!毎回毎回メンバーの私ばっかこき使われるしっ!」
「ほっほっほっ。一応言っておくが、ミラージュか仕事をしてる間はルフトも別の仕事をしてたのじゃぞ?こう見えて…意外にの?」
ヘヴィーはルフトにウインクをする。しかし、ルフトとしてはその情報をミラージュに知られてしまった事でヒクヒクと頬が引きつっている。
ルフトがミラージュに知られたくなかった理由…それは、彼女は彼女自信が知らない所で仲間が仕事をしているのを知ると、激怒するからだ。そして、勿論今回も。
「ルフトちゃん…また私の知らない所で仕事してたの!?ズルイ!ズルイズルイズルイ!どーせ私に面倒くさい仕事を押し付けて、楽しい仕事をしてやるって考えてたんでしょ。もー怒っちゃったからね!」
ミラージュの周りの景色がボヤけ始める。
(おいおい。きちゃったぞミラージュの幻魔法…。俺…全力で逃げようかな。)
焦るルフト。
「ミラージュ違うんだって!仕事しないつもりだったのに、俺しか空いてなかったから俺に連絡がきたんだよ。それに、相手がメッチャ強いし最後には自爆みたいな感じでやばかったんだから!下手したらこの魔法協会が吹っ飛んでたしねっ。ラルフが最後に来てくれなかったらヤバかったレベルだったんだから、楽しいどころかメッチャ大変だったんだし!」
幸いな事にラルフの単語が出た瞬間にミラージュの怒りのオーラが急速に縮んでいった。
「あ、ラルフちゃんが出てくる位大変だったんだねっ。いいな~私もラルフちゃんに久々に会いたいな~。」
ミラージュは嬉しそうにクルクルと回り始める。
「ほっほっほ。ミラージュは相変わらずラルフが大好きなんじゃの。」
「うんっ!だって私の人生の先輩だもんねっ。あ、ヘヴィーちゃん仕事の内容教えてよ~。私バリバリやっちゃうよ。」
「ありがとうの。では2人共そこの椅子に座りなさい。」
ルフトとミラージュが指し示された椅子に座ると、ヘヴィーは真面目な顔をする。
「今回の仕事は中々大変な仕事じゃ。ラルフに頼もうかと思ったんだが、生憎あやつは魔法学院1年生対抗試合で手が離せないんじゃ。本来ならこっちの仕事が優先なんじゃなが、今回ばかりは私達の仲間が選ばれる可能性もあるからの。その指導自体が仕事みたいなもんなのじゃ。あと、お主ら以外の2人に関しては現在魔法街におらん。よって2人で仕事をしてもらうことになるでの。」
ミラージュはバチンとウインクをする。
「ラルフちゃんの代わりに仕事が出来るなら、喜んでするよっ。」
語尾が毎回上がり気味になっている所からすると、ラルフの代わりに仕事をするのが相当嬉しいのだろう。
(あの変態教師のどこがいいんだかねぇ。言いよっても「幼児体系に興味はないぞ?」とか言われまくってるのに。)
そんな全く関係ないことを考えてルフトは首を捻る。
「こほん。ルフト…聞いておるかの?」
どうやら違う事を考えているのがばれていたらしい。ルフトは慌てて居住まいを正す。
「はい。勿論しっかりと聞いてますよ?」
「全く…本当にお主は自由よの。じゃあ、今回の仕事について説明するでの。これはお主ら魔道師団を指名してでの依頼じゃ。依頼主は個人ではなく、行政区じゃ。街立魔法学院の魔道師団として全力であたるのじゃ。」
魔道師団。この言葉が出た瞬間にダラけ切っていたルフトとミラージュの態度がピリっとしたものに変わる。
その後、ヘヴィーから受けた仕事内容は驚愕に値するものだった。




