10-5-3.チーム戦
午後の授業に現れたラルフは何故かテンションが高かった。
「いよっし!さーやるぞそれやるぞ!」
初めて見るレベルの高テンションに上位クラスの面々はひそひそと声を交わす。
「何あれ。」
「めっちゃテンション高いじゃん。」
「嫌な予感しかしないんだけど。」
「え…キモいわ。」
「俺、帰ろうかな。」
ざわつき始めた学院生達。ラルフはルンルンなままそれらの声をしっかりと聞いていた。
「なんで俺がテンション高いかって?ふっふっふっふっふっ…。」
突然ラルフは笑い始め、その奇妙な行動に生徒達は一気に静かになった。笑い声に合わせて揺れる下顎の肉が不気味さを更に増している。
一頻り笑うとラルフはビシイッっと生徒達に向けて指を指す。
「いいか!チーム戦で楽しいのは2対2でも3対3でもない!ましてや5対5以上なんか論外だ!真のチーム戦は4対4にあり!分かったかぁ!」
…ラルフが4対4のチーム戦を楽しみにしていたことは十分に伝わった。しかし、余りにもテンションが高すぎるために、逆に生徒達のテンションは一気に冷え込んでしまう。
ヒュルルルルー
冷たい風がラルフと生徒達の間を過ぎ去って行く。
「お前ら…つまんねぇのな。ちぇーめっちゃ楽しみにしてたのによ。まぁいいや、じゃーやるぞー。」
ラルフは一気にいつも通りのテンションに戻って授業を開始した。この間も生徒達がノーリアクションだったのは言うまでもない。
それでもラルフは気にせずに授業の説明にはいる。…こんな展開にも慣れているのだろう。悲しいのやら逞しいのやら。
「さっきも言った通り今日から4対4の授業をする。でだ、ただ試合をこなすだけじゃ状況判断力が劇的に伸びることは無いから、少し面倒ではあるが各試合毎に全員で検証を行う。どうやって検証を行うかだが、その試合の中で1番のターニングポイントになったシチュエーションを再現して、その場面でどう動くかを意見を出し合うんだ。そうする事で自分とは違う考え方を知って取り入れて行くことが出来る。更に、自分の考え方の間違いに気付くことも出来るって訳だ。戦闘ってのは癖が出るからな。その癖が負けとか勝ちとかを引き寄せるんだ。どうやって癖を知り、コントロールしていくのかを学ぶのが大きな目的になる。」
ラルフは一通り説明を終えるとクジを取り出した。
「チームはこれで適当に決める。バランスが偏ったチームで戦う方が面白いシチュエーションが生まれるからな。ほれ、引け。」
生徒達は面倒臭そうにノロノロとラルフの手元からクジを引いていく。
龍人の引いた番号は2番だった。
(同じ番号のやつは…と。)
2番チームの札が浮いている場所に行くが、まだ誰もいない。
「あれ?龍人さん俺と同じチームじゃないっすか。よろしくっす。」
いつの間にか横にいたタムが龍人に向かって頭を下げていた。
「おいおい、そんな丁寧にしなくていいって。逆に気まずいわ。」
「あれ、そうっすか?じゃあ遠慮なく普通に話させて貰うっすね。」
「あぁ、よろしく。で、後の2人は誰だろうな。」
「お、あの子じゃないっすか?」
タムの見る方向からチョコチョコと駆けて来たのはレイラだった。
「龍人君とタム君よろしくねっ。」
「おう!よろしくな!」
「よろしくっす!」
元気に挨拶を交わす3人。気になるのは最後の1人だ。攻撃タイプの人が来るのか、それとも守備タイプの人が来るか。3人はそわそわしながら周りを見渡すが…既に各番号札の下には生徒が集まっており、はぐれている生徒は見当たらない。まさかの3人…?という嫌な予感が頭を過る。
「あの…。」
いきなり真後ろから掛けられた声に龍人は驚いて飛び退く。そこに立っていたのはサーシャ=メルファだった。タム=スロットル、クラウン=ボムと共に上位クラスに編入してきた生徒だ。前髪から後ろ髪まで真っ直ぐに切り揃えられた黒髪のせいで、日本人形みたいな印象が強い女の子である。クラスで話している姿を見ることも殆ど無く、非常に目立たない存在であったりもする。
「うおービビった!」
「お、サーシャが同じチームっすね!よろしくっす。」
「サーシャさんよろしくね。」
「ふふふふ。私…傍に居たのに気づいて貰えなかったのね。…どうせ私なんて…そんな程度よ。ふふふふ。」
サーシャの気味が悪い笑い方に3人は硬直する。かなりのマイナス思考の持ち主という事は伝わったのだが、対処法方がさっぱり分からない。硬直から1番最初に抜け出たのはレイラだった。
「あ、えっと…サーシャさん!気づいてなかったんじゃなくて、龍人君の真後ろにいたから見えなかっただけだよ?そんなに気にしないで。ね?」
「そ、そうだよ。気にしないのが1番!」
「そうっすね。これからチームとして戦うんすから、協力し合わないとっすもんね!」
龍人とタムはテンションを上げてなんとか場の雰囲気を和ませようとする。が、内気&マイナス思考のサーシャの心を溶かすのは難しかった。
「ふふふ。いいの。私、自分の事ちゃんと分かってるから。…それに、私戦う時は…ちゃんと戦うから安心して。」
俯き加減で薄ら笑いを浮かべながらポツリと紡ぐ言葉は、何故か恐怖を感じる程に気味が悪かった。
(はは…マジで大変なチーム戦授業になりそうだわ。)
色々な意味で龍人の予感は的中する事となる。




