10-4-8.禁じられた区域
「龍人~、外に連れてってくれるって。」
「へぇ。…って、連れてってくれんの?普通だったら立ち入り禁止区域内は学生を連れて歩かないんじゃないの?」
「いいんだいいんだ。どうせ禁区は俺の管理下にあるんだから、俺が何しても誰も文句は言ってこないからね。」
「…ラスターが禁区を管理してるのか。となると、何が禁区にあるのか全部知ってるんだよな?」
「それは勿論だ。但し、何があるかを君達に教えることは出来ない。」
龍人には聞きたい事があったのだが、ラスターに先手を打たれてしまった。それでも、龍人はダメ元で聞くことを選択した。
「そうっすよねぇ。一応聞くんだけど、幻創武器について詳しく記した文献って無いよな?」
龍人の質問に対してラスターは手を顎に当てて思案する。眉間に皺が寄っているところを見ると、何かを思い出そうとしているのか。
「……そうだな。あるとは言わないが、無いとも言わないかな。龍人君が幻創武器について何を知りたいのかは分からないが、恐らくそれを知るには君の心を折るほどの困難が待ち受けてると思うよ。」
「んー…聞こうとした俺が悪いか。忘れてくれ。」
まともに答えてくれない事を察知した龍人が潔く白旗を上げたことで、この問答は終了となった。このタイミングで会話を見守っていた遼が口を開く。
「そろそろいいかな?早く外を見に行こうよ。こんなチャンス滅多に無いって。」
どうやら遼は禁区を見る事を凄く楽しみにしているらしい。そわそわした様子にラルフ、ルスター、龍人は苦笑を漏らす。
「それでは行こうか。我が禁区をご案内しよう。」
ラスターは芝居掛かった口調で話し、大袈裟な身振りで遼達を部屋の外へ案内する。
図書館の中を通り正面入口から前室廊下に出ると、ラスターはエレベーターに乗り込んだ。
「今いる場所は地下だからね。禁区が一望出来る上階まで行こう。」
という事らしい。
魔法式のエレベーターはこの禁区でも同じらしく、殆ど駆動音が聞こえない。
エレベーターを降りて幾つかのドアを通ると、いきなり視界が開けた。
そこには…禁区の世界が広がっていた。
「すごいね…。」
「はっはっは。予想していたのとは大分違うだろ?」
ラスターは遼の隣まで来ると腕を組む。
禁区の光景は同じ魔法街とは思えない程に違うものだった。
近代的な高層ビルが立ち並び、空には黒い雲がどこまでも伸びている。
そして、何よりも違う点。それは人がいる気配が全く無い事だ。ビル群は窓が全て割れていたり、半壊していたり。捨てられた都市という表現がしっくりとくるものだった。
ひと通り見回した遼は素朴で当たり前な疑問を口にする。
「ここって…昔は人が住んでいたんですよね?」
それに対してラスターは首を横に振った。
「それは俺にも分からない。俺が管理者になった時から、既にこの状態だったからな。」
「そうなんですね…。」
因みに、現在遼達がいる場所は禁区の中央に建てられた管理塔の展望台らしい。
遼とは反対側の方を見に行っていた龍人が戻って来る。
「なぁ、向こうの方で魔法の光っぽいのが見えるんだけど、誰かいるんじゃないか?」
ラルフは「あぁ。」といった表情でラスターが小さく頷くのを確認すると、頭をポリポリ掻きながら答える。
「多分その光はギルドから派遣された魔法使いの魔法だろ。大方激しく戦闘でもしてんじゃねーか?」
「もしかして戦ってる相手は魔獣か?」
「あぁ。まだお前のギルドランクだと受注出来ないけど、大体Cランク位から低級の魔獣退治の依頼が受けられるぞ。」
「へぇ。ってか魔獣ってそんなに頻繁に出没してんのか?」
「んー、まぁボチボチだな。魔獣退治を通して魔法使いの育成を図るって意図もあったりするから、一概には言えないけどな。」
「その魔獣退治って、禁区での依頼が中心になるのか?」
ラスターが指をパチンと鳴らす。
「ご名答!正確に言うと、魔獣退治の9割5分が禁区における依頼だな。残りの5分は他の区に何故か行ってしまった魔獣退治だ。こういうのは滅多に無いイレギュラーだけどな。何故かは分からないんだが、禁区には魔獣がどこからかやって来るんだよ。転移魔法陣でもあるのかと思って調査した事もあるんだが、何も見つからなくてね。未だに原因は不明なんだ。だから魔獣退治の依頼がコンスタントにギルドにいくってわけだ。」
「なるほど。」
龍人が取り敢えず納得した所で爆発音と共に管理塔が揺れた。




