10-4-7.禁じられた区域
ラルフは本を開くとラスターに渡し、スクリーンに投影する様に伝える。
「何で俺がラルフの小間使いみたいに魔法を使わなきゃいけないんだかね。」
なんていう冗談の様な本気の様な事を言いながらラスターがスクリーンに映し出したのは、魔法街の概略図だった。
ラルフが教師らしく(教師だが)説明を始めた。
「まず、街立魔法学院があるのが南区だよな。北区にはダーク魔法学院。東区にはシャイン魔法学院がある。でだ、東西南北4つの区に挟まれてるのが中央区で、北区の上に行政区がある。では、西区には何があるか聞いたことがあるか?」
「そりゃーありますって。禁区ですよね?」
「あれ?遼って俺に敬語使ってたっけ?」
「あ~…年上を敵に回すのは怖いんで、目上の人には敬語を使うことにしたんです。」
「ははっ!さてはラルフに何かされたか?」
ラスターが興味津々の顔で割り込んでくる。
「それがさ…。」
「わーわー!それは言っちゃダメだって!!」
遼は全力で止めに行く。ラルフに飛びついて口を塞ごうとしたのを見ると、相当バラされるのが嫌なんだろう。
「あー、あれか。執事をやってるってやつか?」
しかし、そんな抵抗も虚しく何故かラスターには知られていた。
「知ってるんじゃないですか…!」
「知らないとは言ってないぞ?」
いい大人2人に振り回される遼。そろそろ精神疲労は限界が近い。
「ラスター、いい加減にしろって。遼って案外打たれ弱いんだからよ。」
そして何故か遼のフォローに回るラルフ。もはや意味がわからない。
(マジでふざけた大人2人だな。こんなんなのにラルフはめっちゃ強いし、ラスターも強そうだし。ホント強い奴程変な気がするわ。)
巻き込まれたくないので傍観を決め込んでいた龍人は、そんな事を思いながら話が次に進むのを待つ。
少しすると遼をいじるのに飽きたのか、ラルフが授業っぽい事を再開した。
「よし、じゃあ遼。西区が禁区ってゆー名前になってる理由は知ってるか?」
「え…。それは授業で西区は立ち入りが禁止されていて禁区って呼ばれているって感じでならったから、そうだと思ってましたけど。」
「うんうん。まぁそれで間違っては無いんだけどよ。じゃあ、なんで立ち入りが禁止されてるか知ってるか?」
「…?」
特に立ち入り禁止の理由について考えた事が無かった遼は、首を傾げて龍人を見てみる。龍人なら何か考えてそうだと思ったのだ。
黙りを決め込んでいた龍人は、真面目な話になったので、まぁ話しても大丈夫だろうと判断する。
「…そうだな。一般の人を立ち寄らせてはいけない理由があるんだろ。危険な魔獣が棲息してるとか、ここの図書館みたいに一般常識を覆すような資料が保管されてるって感じじゃない?」
ラスターの目付きが一瞬だけ鋭くなる。
「龍人君の読みは恐ろしいほどに当たるね。いかにも。禁区は魔獣が住んでいて、ここの様な色々な意味での重要文献を保管している。まぁ、他にも立ち入り禁止の理由はあるが…。」
「ラスター。そこはカットカット。つまりだ、俺達が今いるのは禁区って事だな。」
「げ、マジで当たってんのか。」
何となくで言った龍人としては、当たっている事自体が驚きであるし、そうであるからこそ面倒くさいじたいに足を突っ込みかけて…いや、突っ込んでいる気がしてならなかった。
遼は部屋の閉められた窓に目線を送る。
「せっかくなので外の様子を見てから帰りたいんですけど、いいですか?」
何故か外の様子に興味津々らしい遼の様子にラスターがまた笑い始めた。
「ふっふっふっ。龍人君も面白いが、遼君も中々面白いな。さっきの話から禁区にいるって知ったら、普通は厄介事に巻き込まれたとか思うはずだが。」
「普通はそうかも知れないですけど、やっぱ現実から逃げててもしょうがないじゃないですか。それだったら今いる状況に貪欲になってみようかなって思ったんです。」
遼は困った笑顔を浮かべながらラスターがスクリーンに映し出した魔法街の概略図に視線を向ける。
「前から疑問だったんですけど、魔法街って6つの区がそれぞれ浮島の様にな形を取ってるじゃないですか。それらの浮島は独立していながらも1つの星として纏まってますけど、なんで陸続きじゃないんですかね。」
「そこについては俺も調べた事がある。ただ、文献らしい文献は1つも見つからなかったな。」
「そうですか…。この世界って謎だらけなんですね。」
「あぁ。だからこそ俺は全てを知る為に、今の地位にまでのし上がったんだけどな。」
遼とラスターはそこから雑談へ移っていく。
龍人は改めて魔法街の概略図に目をやっていた。遼の言う通り、魔法街は浮島が集まった様な形をしている。もう少し正確に言うと、球状の星を象る様にして集まっているのだ。まるで1つの星から各区を分断するように陸地と、星の中心部分が消え去ったというと伝わり易いか。
(改めて見ると不思議度な形だよな…。実は元々1つの星で、何かが原因で国の境界線辺りが消滅したとかだったりして。)
そんな事をぼんやりと考えていると、遼に声をかけられた。




