10-2-25.日常と現実
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
龍人とレイラは魔法協会ギルドの受付で依頼書の束を捲る。
「なんか、いまいちパッとしないのばっかだな。なんか興味ある依頼あったか?」
「んー…。」
依頼書と真剣ににらめっこしていたレイラは1枚の紙を見た所で手を止めた。
「これとか気になるかなぁ。」
その依頼書に書いてあったのは、極々簡単な依頼内容だった。
保育園で子供達と一緒にお留守番。
初めてのお買い物レベルで簡単な依頼である。
依頼の詳細には、南区にある保育園の先生達が一同に介する食事会に参加するため、その間子供達の世話をする。と、書いてあった。
「うん。これなら余裕でイケるんじゃない?」
「だよね。子供と遊ぶの得意だから出来ると思うんだ。」
レイラが子供達と遊ぶ姿を想像してしまった龍人。
(いや、絶対可愛いだろ。余裕があったら見に行こうかな。)
なんて考えたりしてしまう。龍人が幸せな妄想をしている間にレイラはギルド受付の男に声を掛けていた。
「すいません。この依頼を受けたいんですけど…危ない事とかないですよね?」
「…あぁ。基本的にEランクの依頼に危険なものはない。ほとんど全ての依頼が戦闘などの危険行為が無いと認定されたものばかりだ。」
相変わらず受付の男は淡々と答える。もう少し人間味があってもいいのではないかと思う龍人だったりもする。
レイラは受付の男の言葉を聞くと、安心したように頷いた。
「じゃあこれでお願いします。」
「分かった。では…依頼日は本日の午後5時からだ。遅れないように。」
「はい。ありがとうございます。」
ペコッとお辞儀をすると、龍人を見る。
「なんか緊張するなぁ。」
「ま、大丈夫っしょ。いつも通りのレイラでいけば問題ないよ。」
「うん。私、頑張るね!」
龍人に大丈夫と言われたレイラは本当に嬉しそうな、幸せそうな表情で頷いた。
そこにクラッとする龍人はいつも通りのお約束。その恥ずかしさを紛らわすために龍人は受付の男にDランクの依頼書を頼んだ。
「…。高嶺龍人か。少し待ってろ。」
龍人のギルドカードを見た受付の男は手元の資料をパラパラと捲る。
「……なるほど。高嶺龍人。お前をご指名の依頼があるが、見るか?別に強制的に受けなければいけない訳ではないが。」
「…俺を指名?」
ギルドで特に大きな功績を残しわけでもなく、週に2~3回の割合でギルドの依頼をしていた龍人に指名で依頼が入るというのは、普通に考えればおかしな話である。
「やったね!龍人君って凄いなぁ。」
詳しい事情を知らないレイラは横で嬉しそうにしているが…。
「サンキューレイラ。…一先ず依頼内容を見せてもらえるか?あと依頼主が誰かも知りたいな。」
「それは無理だ。」
「へ?」
指名なのに依頼書を見れないという返事。意味が分からない。
「この依頼は機密保持の関係で依頼主を明かすことが出来ない。そして、依頼書を見たら必ず依頼を受諾する事という条件がつけられている。つまりだ、一先ずという選択肢を選ぶ事は出来ない。やるか、やらないかの決断をするんだな。」
「マジか。」
「マジだ。」
受付の男はニッと口を歪めた。
「…龍人君、どうするの?」
「んー、どうすっかな。別に今は何が何でも依頼をしなきゃいけない訳でもないし。」
「…つまらん男だ。」
受付の男が無表情で龍人を評価する。ニッとしたのは何だったのか。そして、その言葉に龍人はムッとしてしまう。
「なんかムカつくから依頼受けるわ。」
「…龍人君、そんな決め方でいいの?」
レイラは心配そうだ。しかし、1度決めた龍人の決意は固い。
「大丈夫だ。言ってもDランクのの依頼だから、そんなに危険な内容でもないっしょ。」
「そうだと良いんだけど…。」
受付の男は立ち上がると、受付の横にあるドアを開ける。
「高嶺龍人。こっちの個室に入れ。」
「そーゆー感じか。分かった。レイラ、依頼が始まるまでもう時間がないから先に行ってていいよ。頑張ってね。」
「うん。ありがと。龍人君も…気をつけてね。」
龍人はレイラに向けて笑みを送ると個室に入る。ドアが閉まる最後まで不安そうな表情で龍人を見つめる姿は、何か悪い事をしている気にさせる力があった。
案内された個室の中は至ってシンプルなレイアウトだ。机が1つに椅子が幾つか置かれている。
「そこに座れ。」
龍人が言われる通りに椅子に座ると、受付の男は1枚の紙を差し出した。
「これが依頼書だ。」
いつもの依頼受諾の流れと違うので、ちょっとドキドキしながら龍人は依頼書に目を通す。




