10-2-24.日常と現実
クレーターだらけのグラウンドで、キャサリンと1年生上位クラスの面々はボロボロの姿で立っていた。
「えっと…そうね。ちょっとやり過ぎたかしら。」
後悔した態度は全く取っていないたが、生徒達から目を逸らして言ったとこを見ると多少なりとも反省していることは伺える。
「まぁ、まずは教訓として女性の扱い方に気を付けることね。それと、今回ので分かったと思うけど、圧倒的な力量の差を持った相手との戦い方がなってないわ。…まぁ、私自身を圧倒的な力量の差を持った相手でって言うのも抵抗あるけど。」
キャサリンは自分が怒り、やや本気を出してしまったことをそのまま授業内容に組み込み始めた。
「火乃花、ルーチェ、レイラの3人に関しては攻撃を上手く捌く事を考えすぎね。全ての攻撃が後手に回っていたわよ。それでは格上の相手と戦って勝つ可能性は限りなく低いわ。」
火乃花が悔しそうな顔をする。確かに、相手が教師であり格上であることを警戒して様子見から入ったのだが、それがそのまま防戦一方に追い込まれたのは事実である。
「次は龍人、遼、変態スイだけど…。」
スイが反応して立ち上がろうとするが、龍人と遼が両脇で腕をガッチリ掴んで動かさなかった。
「スイ。頼むから今は動くな。またボコボコにされるから。」
「うん。そうだね。俺はもうキャサリンとは戦いたくないから、お願いだから動かないで。」
スイは龍人と遼を見て「変態スイ」と言われたことに対する異議を唱えるのを諦める。それ程までに2人は必死な形相をしていた。
(くっ…こんな恥晒しを受けて何も言い返すことが出来ないとは…!)
スイは気づいていない。もし、今ここに居るのが以前のスイ=ヒョウだったのならば、彼は仲間の制止を振り切ってでもキャサリンに日本刀を突き付けていただろう。しかし、彼はそうしなかった。そして、その理由が「仲間が止めたから」なのだ。これが意味する事は大きく、スイの人生に影響を与えるほどの大きな変化でもある。
「あなた達3人の攻撃をする姿勢は良かったわ。ただ、攻撃方法が良くなかったわね。連携を取ろうとして各々の攻撃のタイミングをズラしていたのはいい判断なんだけど、ここで決めるって時に全員で協力して攻撃しても良かったわ。同時攻撃は単純に考えて攻撃力が3倍って事を覚えておいてね。」
キャサリンは全員を見回すとニッコリ笑う。
「じゃ、今の点を踏まえて残りの人達も私と戦うわよ。」
全員が耳を疑う。てっきり今の話で午後の授業が終わりだと思っていたからだ。
そもそも、先程のバトルを見せられて喜んで戦いたい生徒は居ないだろう。
「じゃあ、次は…。」
まだまだ続く。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
更衣室から出た龍人は大きく伸びをする。キャサリンにボコボコにされた上、クラスメイトが蹂躙される姿を長々と見ていたので身体中が凝り固まっていた。
「あ~あっと。」
伸ばした手を後ろに回しながら戻していると、向こう側から茶髪でミニマムな女の子が走ってくる。
「お、レイラじゃん。どったの?」
「龍人君、お願いがあるんだけど、この後時間ある?」
「ん?あるっていったらあるよ。」
(自主トレしようかなって思ってたけど…どうすっかな。)
何と言っても仄かな恋心を抱く相手であるレイラがワザワザ自分の所に来てくれたのだ。何も聞かない内から断る事が出来るわけがない。
「あのね…さっき通達が来て、私ギルド試験合格したんだ。」
「お、マジか!やったじゃんよ!」
手を叩く勢いで喜ぶ。そんな龍人の反応が嬉しかったのか、レイラは頬をほんのり染め、手を胸の前で組み、上目線気味で龍人を見た。
「それでね、これからギルドの依頼を受けに行こうかなって思ってるんだけど…初めてで不安だし、一緒に来てくれないかな?」
「そりゃーもちろん行くよ!俺も丁度何も依頼受けてないから、ついでに何か受けよっかな。」
「龍人君…ありがとう!じゃあ今から荷物持って来るね!」
「おう。正門前で待ってるね。」
「うん。」
レイラは満面の笑みで頷くと小走りで駆けていった。
(最近レイラと2人って事多いな。)
諸々の背景を考えると複雑な心境ではあるが嬉しいことに代わりはなく、龍人の頬は緩んでいた。




