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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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10-2-23.日常と現実


「あんたねぇ、言い方ってもんがあるんじゃないの?」


キャサリンは怒りを堪える様に目を閉じているが…眉が時折ピクッと動いている。


「何を言っている?我がおばさんに興味がない事をオブラートに包む必要があるのか?」


「おい、スイ。…待て。」


龍人はスイの肩を掴む。


「なんだ?我は何か間違ったことを言っているか?余計な誤解が無駄な恋愛感情を生み出すとなれば、それははた迷惑なだけであろう?」


「いや、だから論点がズレてんだって。」


「…?」


「龍人…スイ…ヤバイって。」


スイは眉を潜める。どうやら本当に分かっていないらしい。焦る龍人と遼。

観戦中の火乃花が隣に座るレイラに小さく囁く。


「スイって女心が全然分かってないわよね。あれ…相当怒ってるわよ。」


「うん…。私、この後どうなっちゃうのか想像するだけで怖いよ。」


キャサリンは金縁メガネを上げると口には笑みを浮かべて、目もニッコリ笑い、額に怒りマークを浮かべて、左手を腰に当て、右手に…雷鞭を召喚した。


「あなた達3人共…世の中を上手く生きていくために必要な事を無視すると、どうなるかを教えてあげるわね。」


キャサリンは鞭を地面に向けて一振り。


ドンバチン!バリバリバリ!


地面が抉れ、雷が跳ね回る。


「おい…スイ。謝れ。謝んないと俺達死ぬぞ。」


「うん。スイ、謝った方がいいと思うな。」


龍人と遼が説得をするのも虚しく、スイは地獄への蓋を開ける一言を放った。


「お主ら…あのおばさんの何を恐れている?」


…惨劇が始まる。

雷鞭が振るわれ男達が弾け飛ぶ。雷鳴と雷光が引っ切り無しに発現し、グラウンドには小規模のクレーターが次々と形成されていく。


「ちょっ…待っ…がはっ!」


龍人の制止する声も虚しく雷鞭が迫り全身を殴打する。

打撃によるダメージと雷によるダメージが龍人の全身を震わせ、遂に地面に倒れこんでしまう。

そして、その横に遼が放り投げられた。


「この強さ反則だよね…。」


雷の縄に縛られて動けない遼は、激怒するキャサリンの雷鞭によってここまで投げ飛ばされてきたのだ。とばっちりもいいトコである。


さて、龍人と遼が戦闘不能となったところで、本日のメインイベントが開催される。


「うむ…。キャサリンよ、お主は何故そこまで怒っているのだ?」


「その質問自体が既にアウトよ。」


キャサリンは雷鞭を地面に打ち鳴らす。激しい効果音と共に大きく窪む地面。

それを見たスイの額に冷汗が伝う。


(先程より威力が上がっているではないか…。我が何をしたというのだ?)


「ふふふ。女の怖さってのをタップリと思い知らせてあげるわね。」


キャサリンが動く。


横薙ぎに振るわれる雷鞭。まずトング(鞭の本体となる部分)がスイの胴体に襲いかかる。


(この程度の攻撃…!)


スイは身を屈めるようにしてトングによる被打を避け、その態勢をバネのように利用して前方へ一気に加速する。視界の端に映るキャサリンの口に笑みが生まれる。鞭を持つ手が複雑に動き、その軌道を変化させていく。スイは何かしらの攻撃を予測するが、敢えて突進することを選んだ。


(我の方が早い!)


足に力を込め、更に加速する。鞘に収めた日本刀の柄に手を掛け、居合切りを見舞うべく一気に腕を振るう。


「がっ…!」


しかし、スイの居合切りは放たれない。突如背中に襲い掛かる衝撃、全身を痺れさせる電撃。

キャサリンは鞭の動きを複雑に変化させることで、クラッカー(鞭の先端部分)をスイに命中させていた。


「ぐ…。」


この攻撃で勝負が決したとその場にいる全員が思った。もちろんキャサリンも含めてだ。…但し、1人を除いて。ここで油断する事が無ければ、後の悲劇は起きなかっただろう。

スイは諦めていなかった。痺れる体に鞭をうち(決してギャグではない)途中で止まった居合切りの手を一気に振り抜いた。

油断してしまったキャサリンに対しては不意打ち。決定打となり得る一撃ではあるが、街立魔法学院教師の肩書きは伊達ではなかった。キャサリンは冷静に体を後方にズラし剣先スレスレで攻撃を避ける。


「まだ!」


スイは叫ぶと斜め上方に振り抜いた日本刀を全身の力を込めて返し、もう1歩踏み込みつつ斬り下ろした。言わば逆燕返し。しかし、この攻撃も避けられてしまう。キャサリンはヒラリと体を動かして剣の軌道を掻い潜る。


「やるじゃない。案外根性あるのね。」


余裕の表情を崩さないキャサリン。しかし、ここで予想外の事態が起きていた。ヒラリとしたのはキャサリンだけでは無かったのだ。ヒラリと落ちる服。スイの剣閃によって服が綺麗に切られていた…。

露わになる豊満な胸。を包み込む豪華な下着がその場にいる人々に晒される。

キャサリンは動きを止める。そして手に持つ雷鞭を消すと、素敵な胸元を隠すことなく詠唱を始めた。


「我に従う雷の精霊達よ、彼の敵を打ち滅ぼす怒りの洗礼を天より落としたまえ。我が求むは1つにあらず。容赦無き洗礼により魂すらも焼き尽くせ!」


空に暗雲が立ち込める。


「いや、待て…我が悪かった!」


「遅いわよ。セクハラってね…普通はしないの。」


パリ


バリ


バチ


辺りを包む真っ白な閃光。吹き飛ぶ学生達。抉れる大地。


こうして、キャサリンによる実戦授業は幕引きとなった。



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