10-2-20.日常と現実
街立魔法学院のグラウンドに落雷が降り注ぐ。轟音と共に女性3人の叫び声が響く。
「きゃぁですの!」
「きゃっ!」
「きゃん!」
叫び声の主はルーチェ、火乃花、レイラだ。キャサリンの操る雷に彼女達は翻弄されていた。
「ちょっとそんな程度なのかしら…ねっ!?」
キャサリンは気合いの入った声を出すと同時に、雷で象った槍を複数本生み出す。
「ちょっと…幾ら何でも威力が高すぎるわよ!」
「…2人共、私が防ぐね!」
レイラは前に手を翳すと遮断壁を展開する。そこに突き刺さる雷槍。
バチバチバチという音が響き渡り、遮断壁に拒まれた雷が周りに分散するようにして飛び散った。
「あら。遮断壁が使えるなんてやるじゃない。しかも、属性【電】じゃなくて属性【雷】を防ぐなんて。レイラの属性はなんだったかしら?」
「…属性【癒】です。」
答えるレイラの目は、光の屈折を使ってキャサリンの後ろに回り込むルーチェを捉える。
「成る程ね。中々やるじゃないの。」
ルーチェの光球を軽々と避けたキャサリンはレイラを褒める。完全に不意を突いた筈の攻撃だが、まるで見ていたかの様に攻撃魔法が放たれた瞬間にはその場を動いていた。
ルーチェは火乃花とレイラの近くに戻ると呟く。
「…強敵ですの。」
「ふふっ。いい攻撃だったけど、気配がダダ漏れだったわよ?姿だけじゃなくて気配もちゃんと隠さなきゃ。」
キャサリンの両手に雷の苦無が出現する。その数合計8本。
「私の攻撃を掻い潜ってみなさい?」
キャサリンはニコッと笑うと両手に持った雷の苦無を投擲した。
「レイラ、防御は任せたわよ!」
火乃花の体の周りに焔が這い回る。プロメテウスをエンチャントした経験を活かし、それを焔に置き換えた応用魔法だ。
「火乃花さん、ちょっと待ってなのですわ!」
「危ない!」
ルーチェとレイラが同時に叫ぶ。8つの苦無は火乃花達の前まで来ると異変を起こす。其々が多数の小さい苦無に分かれて火乃花達の周囲を覆うように広がった。
レイラは咄嗟に遮断壁【雷】で周囲を覆って全方向からの攻撃に備える。
「ちょっと…これはマズいわね。」
火乃花は周囲を覆った無数の苦無を見て苦い顔をする。
「おい、アレはヤバくね?」
観客として見ていた龍人も横にいる遼に漏らした。その表情は驚きに染まっている。
「え?なんで?レイラが遮断壁を周りに張ってるから、防げるんじゃない?」
「いや、あの場合は遮断壁の張り方が違うんだよ。あの魔法陣は…」
龍人の言葉を遮るように電気が弾ける音が辺りを貫いた。
火乃花達を包むように展開された魔法陣…立体型魔法陣の内部に雷が発生したのだ。視界を奪う程の光量と、聴覚を狂わす程の爆音が周囲に居る人々までにも襲いかかる。
しかし、それもほんの数秒の事。雷が収まると立体型魔法陣はパラパラと分解して消えていった。
そして…倒れた火乃花とルーチェが姿を現し、その横にレイラが荒い息を吐きながら両膝を付いてへたり込んでいた。
「あら。あの攻撃を初見で防ぐとは大したものじゃない。もう少し早く気づいてたら火乃花とレイラも守れたんでしょうけどね。」
キャサリンは腰に手を当てながら笑みを零す。腰の突き出し方がエロいのはお約束。
「え、龍人どういうこと?遮断壁で防いでたのに。」
「…あの立体型魔法陣は対象空間…魔法陣で覆っている内部の空間に直接雷を発生させるやつだったんだよ。つまり、遮断壁で周りを覆っててもその内部の空間まで対象になってるから意味が無いんだ。」
「…そんな反則的な魔法あり?」
「まぁ、反則的って程凄い訳でも無いんだよ。あーゆー場合の対処法は…」
「ちょっとあなた達聞いてる?」
何事かと前を向くと、呆れた顔をしたキャサリンが眼鏡を上げている所だった。
「えっと…すいません。もう1回お願いします。」
「授業中に私語ばっかしてたらダメでしょ?次の3人は龍人、遼、スイよ。今度は男3人衆ね。」
(マジか…。)
龍人は立ち上がると中央へ向かう。後ろに続く遼と既に準備万端でグラウンドの中央に佇むスイ。
(キャサリンは多分正統派な戦い方をするはずだ。ってなると、正面からぶつかったら火力で押し切られる可能性が高いかな。…ただ、変則的な戦い方をしても正統派一直線の相手には無意味な可能性もあるよなぁ。んー…正々堂々と相手の虚を突く…かな?)
色々と分析を続ける龍人は無言のままキャサリンと対峙する。
「さて、準備はいいかしら?」
「もちろん。」
「はい。」
「言わずもがなだ。」
龍人、遼、スイによるキャサリンへの挑戦が始まる。




