10-2-18.日常と現実
龍人が火乃花に連れられて来たのは、午後に授業を行うグラウンドの端だった。
ここまで無言で歩いてきた火乃花は立ち止まると、龍人の方を向く。
(…なんだ?俺なんかしたか?)
火乃花の顔は怒っている…とまではいかないにしても、至極真剣な表情そのものだった。
「こんな事を聞くのも変だとは思うんだけど…。」
火乃花は1度言葉を区切ると、悩む素振りを見せる。
(なんだ?まさか…俺、告白されんのか?それかもっと違う何か重要な話題か?)
龍人は口を挟まずに、真っ直ぐ火乃花を見ながら待つ。やがて、火乃花は意を決したのか真っ直ぐに龍人の瞳を見た。
「こんな事聞くのは変だって思うかもしれないけど、龍人君って世界の構造について元々知ってた?」
予想とは全く違う問いかけに龍人は狼狽えてしまう。
「え…どゆ事?」
「キャサリン先生が世界の構造について話していた時、表情が全く変わらなかったのが龍人君と遼君だけなのよ。他のクラスの人達は全員反応していたわ。あのスイ君でも何時もより目が大きく開かれてたし。そもそも、この魔法街で育った人達は魔法街が唯一の世界だって教わってるし。私はお父様から聞いたり、貴方達が別の星から来たっていうのを聞いてるから知ってるけど。貴方達が前に居た星では世界の構造については既知の事実だったの?」
「いや、そんな事ないよ。ただ、この星に来た時から他にも星がある可能性については考えてたんだよね。だからそんなに驚かなかっただけだよ。」
「…。」
龍人の言っている事は筋が通っていて、特に疑う余地のないものだった。しかし、火乃花の龍人に対する疑念は晴れない。
「それはそうだとして…じゃあ幻創武器の話の時に遼君と視線を交わしたのは何だったのかしら?もしかして幻創武器についても知ってたの?」
「…幻創武器って魔法街戦争の時にレイン=ディメンションって人が使って終結に導いたんだろ?って事は魔法街の人達は幻創武器の存在を知ってたんだろ?そこに何か問題があるのか?」
「いや、そうじゃなくて…えっと、何て言ったらいいのかしら。…単刀直入に言うわね。龍人君って何か隠してない?魔法街に昔から居なかった龍人君と遼君が幻創武器の存在を知ってるのはおかしくないかしら?」
(やべ…まずったな。)
火乃花から思いもよらぬ質問を言われたために龍人は答え方を間違ってしまう。幻創武器の存在を知らなかったと言うべきだったのだが、知っているのは何かおかしいのかと言ってしまったのだ。
このまま正直に話す事も出来るが、そうすると龍人自身の本当の属性やや森林街でおきた惨劇を話す事になる可能性もある。
そして、それを話すと火乃花をも巻き込んでしまう可能性があるのだ。
(そんな事は…出来ないよな。)
「それは前に魔法の台所でシェフズに聞いたんだよ。そういう激レアな武器も存在するが俺の店には流石にねぇっ!って豪快な感じで言われたから名前だけは知ってたんだよ。」
「…成る程ね。」
火乃花はじぃーっと龍人を見る。果たして今の説明で納得したのだろうか。
(てか、火乃花が本当に聞きたいことって今のなんかな?なんか…回りくどく探られてる気がすんだよなぁ。)
「まぁいいわ。そういう事にしとくわね。」
「ん、サンキュー。」
火乃花の冷たい態度にカチンときた龍人は素っ気なく返事をしてしまう。その龍人の態度にカチンとくる火乃花。…悪循環である。
「じゃ、俺は飯食いに行くよ。」
「うん。時間取ってくれてありがと。」
龍人と火乃花は互いに背を向けると別々の方向に歩き出した。
(龍人君やっぱし何か隠してるわね。そもそも、なんで街立魔法学院に入学するのに他の星からくるんだろ。その星の魔法学院に入ればいいのに。…その星で何かがあったって考えるのが妥当ね。ちょっと調べてみようかな。)
秋の澄んだ風が火乃花の髪を靡かせる。心地良いはずの風をそう感じる事は出来なかった。
(地球と狭球…そして未来を担う…か。お父様の文字で書かれていたあの意味を絶対に突き止めてやるわ。)
火乃花はある1つの事を追い求めて学院生活を送っている。入学当初から目を付けていた龍人と遼が、それを知る鍵であると今では思っていた。何かの根拠に基づく訳ではなく、ほぼ直感であるというのが難点ではある。しかし、他に手がかりがないのも事実だ。何が彼女をそこまで突き動かすのか。それを知る者は居ない。
一方、龍人は周囲の環境が少しずつ変わり始めていることを勘付いていた。
(森林街の事件、俺の属性…いつまでも隠し続けられなさそうだな。ちゃんと考えないと。それに、森林街の事件については口止めをされてるだけで、俺自身よく分かってないんだよな…。)
疑う者。真実を追い求める者。隠すもの。全てを知る者。
それぞれの目的の為に彼らは動き出す。
それらが導く結果は…。




